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21 迷惑なエルフと女騎士
しおりを挟むある日の夕方。
庁舎前の駐車場の片隅。
ジャンヌが手製の木刀で素振りをしている。
ホビットの子供たちが皆庁舎に入ったので、辺りは静かだ。
木刀を振り下ろすたびに、ビュンッと歯切れの良い音だけが響く。
「さすがに騎士だけあって、様になってるなぁ」
ビュンッ!
「私は戦うくらいしか能がないからな。
普段から練習はしておかないと」
ビュンッ!
「なるほどなぁ」
ビュンッ!
「ブラド、折り入って頼みがある」
「たのみ?」
ジャンヌは素振りをやめて俺の方を向いた。
「一度手合わせをしてもらえないだろうか?」
「えぇ!? やぶからぼうに、なんだよ。
手合わせっていわれても、俺は剣術なんて何も知らないぞ」
「しかし、ブラドはワイバーンを単独で倒したのだろ?
並の剣士程度では、絶対にそんな芸当はできない」
「槍を投げて、それがたまたま急所に当たっただけだから」
「いや、どんなに運が良くても、無理なものは無理なのだ。
アリがどんなに運が良くてもゾウには勝てない。
ゾウに勝つということはそれ相応の実力があるということだ。
手合わせをすれば、実力の一端くらいは分かる。
いち戦士として、ブラドの実力がどの程度か知りたいのだ。
だめだろうか?」
金髪碧眼の美少女に真剣な目で迫られれば、いくら俺でも断りにくい。
「うぅぅん……。分かった、良いだろう」
ジャンヌはパッと笑顔になり、予備の木刀を放ってよこした。
俺は靴と上着を脱いで、邪魔にならない所へ置く。
「うん? 上着は分かるが、なぜ靴を脱ぐのだ?」
「この方が動きやすいんだよ。俺は」
ジャンヌと向き合って、俺は木刀を構える。
「なるほど。確かに剣は素人だな」
俺の構えを見てジャンヌはニッと笑う。
「では、いくぞ!」
そういうと、ジャンヌはダッと間合いを詰めて、鋭い突きを放ってきた。
速い! 人間時代の俺だったら、絶対にこれを食らって昏倒しただろうな。
俺は木刀の軌道をじっくりと見定めて、最小限の動きでこれをかわす。
「おぉぉ!」
俺の動きに驚きつつも、ジャンヌは素早く木刀を引き、俺から距離を取った。
俺はすかさずその場で、音速を超えない程度の不規則な反復横跳びを開始する。
自分では良く分からないのだが、はたから見ると俺の姿が分裂して見えると思う。
「なにぃ!?」
ジャンヌの目がまん丸になって、動きが一瞬固まる。
その隙に、俺はスッと踏み出して、ジャンヌの首筋に木刀を当てがった。
「……負けた」
「すまんなジャンヌ。
俺のはまっとうな剣術でも格闘術でもないんだ。
超絶的な身体能力にまかせて、無茶苦茶やってるだけだから」
「ありがとう、ブラド。
剣術の参考にはならなかったが、良い経験ができたと思う……」
ジャンヌはしばらく落ち込んでいたが、ホビット特製ワイバーンのカツカレーを食べたら、すぐさま持ち直した。
「はむはむはむはむ……むぐむぐむぐ……。美味い!
何だこれは! いくらでも入るぞ!
飲み物か? カレーは飲み物なのか?」
翌日の朝。
さぁ一寝入りしようかと布団に潜り込んだところ、外がなんだか騒々しい。
誰かが言い争っているような感じだ。
なんとなく予想しながら、外に出てみる。
「やはりお前か……」
エルフのサラと女騎士ジャンヌがにらみ合っていた。
サラがサファイア号を無断で連れ去ろうとしていたのを、ジャンヌがとがめたということらしい。議論の余地なし。
「とりあえず、サラ。お前の負けだ、帰れ!」
「君はいつも妙なことを言うよね。
ずいぶんと物覚えが悪いようだから、もう一度言うよ。
この世の全てのモノは僕達のモノなんだ。僕たちを中心にこの世は回っている。
なぜなら、僕たちは神に選ばれし森の民なのだから。
そこの君も分かったかい? この馬は僕のだよ、その汚い手を離したまえ」
「何を言うか! サファイア号は私の馬に決まっているだろうが!
盗人猛々しいとはこのことだ!」
騎士としての訓練を積んだジャンヌには、サラの催眠術は通用しないらしい。
普通に言い返している。偉い。
「盗人だって?
何を言うんだい、この世の全てのモノは僕達のモノなんだよ。
君たちは僕たちの下僕なんだ。神がそう言っているんだから間違いない。
そして、下僕のモノは主人のモノに決まっているだろう?」
「お前たちの神など知らん!」
俺はサファイア号にそっと耳打ちする。
「そのエルフの尻は甘いぞ。噛め噛め、遠慮なくガブっといけ」
「ブルルル」
バクッ、モシャモシャモシャ……
「ぎゃぁぁぁぁ! 何をする!」
ズボンが破け、半ケツになったサラがわめくが、完全に無視する。
半狂乱になったサラからサファイア号の手綱を奪い取って、ジャンヌに返す。
「はい終わり。もう帰った帰った」
「無礼にも程がある!
こんな仕打ちをして、神が許すと思うのか?」
「物覚えの悪いお前に何回でも言ってやるよ。
お前たちの神なんて知らん!
それよりも、こないだ乗って行った自転車を返せ」
「何を言ってるの? あれはもともと僕のだよ。
君らが僕から盗んだんじゃないか!
そう僕の日記に書いてあったから間違いない」
「…………もういい、帰れ」
「せっかくご主人様が下僕たちの汚い小屋に訪ねてきたんじゃないか。
お茶の一杯くらい出すのが礼儀じゃないの?
ねぇ、ホビットの諸君もそう思うだろう?」
「かえれ」
サラの術中にはまったホビットたちが、うっかりサラをもてなしてしまい、結局その後一時間以上も居座り、散々菓子を食い散らかして帰って行った。
「あれがエルフなのか?」
「そうだ。向こうの森に住んでる」
「私はもっと上品な種族だと想像していた」
「ドワーフが言うには、全体的にあんな感じらしい。
あのドワーフたちが困るくらいだから、相当なものだろうな。
どうだ、会わない方が良かっただろ?」
「確かに……」
ジャンヌは苦笑いをしながらうなずいた。
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