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50 閑話
しおりを挟むドルフの提案で、各村に車を貸し出すことにしたのだが、これは思ったよりも良い効果があった。手付かずだった領地外縁部の道路が、村民たちによってきれいに整備されるようになったのだ。村民によっては、魔狼の縄張りを超えてかなり遠くまで出張っている様子だ。
まぁ、あまり無茶をされても困るが、村周辺のことは彼ら自身に任せてあるので、細かく口出しはしない。俺としては、手間いらずで領地がきれいになるわけだから文句はない。
村民は村民で、より耕作しやすい土地を増やしたり、廃墟から色々と掘り出したりして生活を豊かに出来るわけだ。なるべく早く自立して欲しいと言ったのは俺だし、その通りに努力しているわけだから何も問題はないのだった。
それで各村の村長やドワーフたちとも話し合って、貸し与える車を増やすことにした。それぞれ十台ずつ、という数についてはドルフの意見が尊重された。
「だいたいガソリンの供給量と、消費量が釣り合うんじゃ。
ガソリンは傷みやすいし、危ないからのぉ。
あまりたくさんは貯めておきたくないんじゃよ」
「なるほどなぁ」
確かにガソリンなどは一種の生ものだから、だぶつくと困るわけか。となると灯油や重油なんかも、何かで消費しないといけないんだな。軽油も今のところは俺のディーゼル車でしか使ってないし……。まぁ、今俺が考えても解決はしないか。
「それで、あれは?」
以前は自動車が並べられていた鉱山前の広場には、こんどはバイクがズラリと並べられている。排気量も種別も様々なバイクがたぶん百台以上、まさに中古バイクの展示場の様になっていた。
「あれはあれで面白いからのぉ、ガッハッハ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ニシシシシシ……」
「ちょっと! 待って!」
クロエが大事にしている杖を、サラが持ち逃げしている現場に遭遇した。
「待てコラ!」
俺は脇をすり抜けようとしたサラの首根っこを摑まえる。
今度という今度は思い切り締め上げてやる。
涙目になっているクロエに杖を返し、俺は低い声でサラに言う。
「そろそろ、自分の物と他人の物の区別ぐらいつけてくれや」
「僕の物は僕のもの、他人の物も――ぴぎゃ!」
言い終わる前に、脳天に空手チョップをお見舞いしてやった。
クロエとジェンヌが呆れ顔でサラを見ている。
「もういい! 超音速尻叩き確定だな」
俺はサラを脇に抱え上げる。
「ギャァ! ウソウソうそです。もうしないから……」
サラはうなだれて、反省しているような顔をする。
「ほぉ、殊勝なことだな……、ムムッ!
おい、これは何だ?」
サラのポケットから、俺のサングラスやらUSBメモリやらデジカメやら何か色々と出てきた。背中にはなんとクロエの辞書のように分厚いノートを隠していた。
「お、おまえ……。何か他に言い残すことはありゅか?」
あまりのことに口がプルプルと震えて、語尾を噛んでしまう。
クロエが大事なノートを胸に抱きかかえて、キッとサラを睨んだ。
「ヒィィ……。ほんとにもうしないから、やめてぇ!」
サラが有名女優も真っ青の迫真の演技で絶叫する。ホビットたちは彼女の言葉にコロッと騙されてしまう。彼女の声には精神に作用する何かしらの特殊効果が付与されているのだ。ポチ達魔狼も彼女の言葉には弱い。
しかし残念ながら、バンパイアの俺には三文芝居は通用しないのだ。
問答無用で尻叩きを開始しようとしたところ、
「ブラドさん、待ってください」
クロエが俺をとめる。
「いや、しかしなぁ……」
「クロエ。この女は反省しないぞ」
ジャンヌもサラの性悪さを知っているので、俺のやり方には反対しない。騎士として精神を鍛えられているジャンヌにもサラの術は通用しないのだった。
クロエはどうなのだろう。まさかサラの術中にハマったのではないか。
「いいえ、彼女に約束をしてもらいます」
「約束なんて――」
クロエは俺の反論を手で制して、サラにやさしくたずねた。
「サラさん、もう盗みはしないですね?」
「……もう、ぬすみはしない」
クロエはサラの言葉を聞いて頷くと、半目になって精神を集中する。口の中で呪文を唱えることしばし、カッと目を見開いて、杖でサラの体を軽く突いた。その瞬間、サラの体に赤く光る紋様が浮き出し、そして消えた。
「ギャァァァァ!!」
サラはよほど痛かったのか、身をよじって絶叫した。
「ふぅぅぅぅぅぅ。サラさんには約束の魔法をかけました。
約束を破ると、そのたびにさっきの苦痛を味わうことになります」
それを聞いたサラは、今までに見せたことがない顔をした。
「まさかこの子って、魔術師なのかい?」
「そうだ。見習いだが、魔法の腕は確かだ」
「なぁぁぁぁぁぁ!」
サラがあごが外れる勢いで絶叫しながら逃げて行った。
「まったく……。これで平穏になれば良いけどな」
「大丈夫です。あの魔法は簡単には解けませんから」
それからも時々サラの絶叫が聞こえるが、それは空耳に違いない。
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