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54 領外探索
しおりを挟む俺たちの悪名がゴブリンたちの間で広まったのか、妖魔の組織的な侵攻はほぼなくなった。それにより村民たちの農地拡大が進み、数カ月もすると、郊外の元々農地だった広大な平野までもが俺の支配下に収まった。
それは良いのだが、魔狼の縄張りと領地の形がちぐはぐになってしまった。このままではせっかくの魔狼の力が活かせない。
仕方がないので、魔狼の群を五つの村ごとに分けることした。
魔狼たちの犬舎もそれぞれの村の中に移した。これにより、それぞれの村をそれぞれの魔狼の群がカバーする形になった。
ポチは俺のもとで遊撃魔狼部隊を率いることになった。基本的には庁舎の周辺をぐるりと警戒している。
ある時、オギ村の村長をしているハンスが俺に言った。
「問題は村内の人手が圧倒的に不足していることです。
他の村も同様の問題を抱えております」
安全で食料も十分なら、そのうち人口も増えていくだろう。とはいえ、赤ん坊が働ける歳まで育つには相応の時間がかかる。今すぐ人手が必要ということなら、他所から持って来るしかないだろうな。
「ハメルンの街に、まだ人が残ってるんじゃないかな」
「確かに、その可能性はありますね……」
俺はハンスから街のだいたいの位置を聞きだし、街へ行ってみることにした。
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「ブラド、私も連れて行ってくれ」
ジャンヌがやはり行きたがるが、今回は留守番をしてもらうことにした。
「出かけている間に領内の警備が手薄になってしまうだろ。
侵入してくる妖魔は少なくなったが、ゼロではないからな。
それに、今回はちょっと見てくるだけだから。
なるべく戦闘はしないつもりだ」
「しっ、しかしだな……」
「俺一人の方が速く動けるというのもあるんだよ。
不測の事態になったら素早く逃げたいんだ。すまんな」
ジャンヌは戦闘においては超人級だが、それでも人間なのは確かだ。俺のように常人をはるかに超越した非常識な存在ではないのだ。
「う……。分かった、しかたない」
ジャンヌがガクッと肩を落とす。
「ブラドさん、守りの魔法をかけます」
「おぅ。でもそれってそもそも、どれくらいもつんだ?」
せいぜい半日くらいかと思っていたが、違うのだろうか。
「守りの魔法は、数日は効果を発揮します」
「お! そうなのか。ぜひ頼む」
俺はかなり久しぶりに、単独の小旅行をすることになった。
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領内は空き地が目立つが、瓦礫などが完全に撤去されて、以前よりもずっときれいになっている。道路の状態も、元の世界の状況と遜色ないレベルだ。村民たちがかなり頑張ってくれたんだろう。
しかし、領の外に出ると光景は一変した。
人工物と自然物が混然一体となった、ちょっとしたジャングルになっていたのだ。草木が道を覆い隠して、どこがどこやら分からない。道に残っている標識などを頼りに現在位置を推測する。なんとなく予想はしていたが、ここまでとは思っていなかった。自然に還る勢いが加速しているようだ。
ともかく、俺は持って来たマチェットで草木を刈り払い、周りに注意をしながら歩く。ちなみに今回の武器はそのマチェットだけだ。
ドラゴンスレイヤーもヤツメウナギも携帯性が最悪だし、偵察に持って来るには大げさすぎる。一応、戦闘服は着ているが、なるべく戦闘はしたくない。
妖魔の気配はそれなりに感じる。こちらの力量が分かるのか、連中の方から襲い掛かってくる感じはない。楽に進めるので助かる。
タワーマンションを見つけたので登ってみることにした。
一階ロビーの玄関は意外にもピッタリと閉じ、ガラスのドアにヒビ一つない。ぶち割って中に入ることもできたが、そうはせず、外階段の二階部分から侵入した。
二階程度なら軽くジャンプするだけで手間もいらないのだ。俺もさすがにDⅠ〇様みたいなことはできないが、これくらいなら簡単なことだ。
何十階か忘れたが、あっという間に屋上に到着。マンションの周りを見回してみる。俺の領地もここからだと良く見えた。それから、ハンスに聞いていた場所に城塞都市らしきものを発見した。ここから今のペースで一日といったところだな。
「確かにあれは現代の建物じゃない。あれがハメルンの街に違いないな。
それにしても……、この辺りって、こんなに緑が多かったっけ?」
元々このマンションの周辺は、郊外の住宅地だったはずだが、今はどこもかしこも見渡す限り緑色だ。もちろん背の高いビルなどは顔を出しているが、それすらも半ばツタなどに覆われてしまっている。遠くに見える大都市だった辺りも、今は緑の海に沈んでいるのだった。
南米のアステカ文明だったか、マヤ文明だったか、あんな感じになってしまうのだろうか。今さらになって一抹の寂しさを覚えた。
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