不死身のバンパイアになった俺は、廃墟と化したこの世界で好きに生きようと思います

珈琲党

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55 ハメルンの街

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 次の日の昼頃。

 俺はハメルンの街の城門の前にいた。
 街は高さ三メートルほどの、しっかりとした石組みの城壁で囲まれており、出入りできるのはこの城門しかない。俺なら城壁を飛び越えることもできるが、さすがにトラブルになるだけなのでそんなことはしない。
 城門はピッタリと閉じていて、中からかんぬきがかけられている。城門の上はやぐらのようになっていて、そこから誰かが俺の様子をうかがっているようだ。

「お~い! そこに誰かいるんだろ?」

「お、お前は誰だ! 何しに来た!」

 櫓からピリピリした雰囲気の声が返ってきた。

「俺は向こうの街で領主をしている、ブラド・ドラキュラというものだ。
 ここの責任者がいるのなら、話をしたいのだが」

「なにぃ、領主だと⁉ そんなホラ話、誰が信じるものか!
 だいたい、何で領主様がたった一人でこんな所まで歩いて来るんだ?」

 確かにもっともな話だ。俺もそんな奴が来たらおかしいと思うだろうな。

「この街から逃げてきたハンス・ツィマーマンは、
 今は俺の領地にある村で村長をしている」

 俺は他の村長の名前や、知っている者の名前を出してみる。

「なに! ハンスたちは生きているのか?」

「もちろん生きている。
 皆で畑仕事などをがんばっているぞ」

 途中でハンスたちと別れた者たちについては知らないが、少なくとも俺の領に来た者たちは皆、見つけたときよりもずっと元気になっている。

「そっ、それでアイツらとは会わなかったのか?」

「アイツらというのは、無法者たちのことか?」

「そうだ! この街を滅茶滅茶にした連中だ!」

「大丈夫。始末したから」

「ほんとうか⁉ 千人以上はいたんだぞ?」

「俺の領には腕の立つ者たちがいるんだ」

 ここで本当の話をしても信じてもらえないだろうから適当なことを言った。
 まぁ、ジャンヌと魔狼たちがいれば千人力といっても間違いではないし。

「……少し待て」

 しばらくすると、ガタガタと音がして、城門がギギィと開いた。
 男が一人顔をのぞかせる。どうやら彼は片足が義足のようだ。

「武器を持っているのか?」

「これだけだ」

 俺はマチェットを取り出して男に渡した。
 マチェットというのは、草木を刈り払うために使う刃物のことだが、武器として使うことも出来なくはない。

「よし、入れ!」

 街の中に入ると、城門はすぐに閉じられ閂がかけられた。
 城門前の広場には街の住民たちが集まっていた。

「これがこの街の全員だ」

 俺は彼らを見回して、唖然とした。
 手や足が不自由な者が多い。五体満足の者はヨボヨボの年寄りばかりだ。
 ざっと見たところ、二百人程度しかいない。

「なるほど。お前たちは見捨てられたってことだな?」

 男は顔をしかめながらもうなずく。

「そういうことだ。
 若い娘も大勢いたんだが、アイツらに酷いめにあってな。もう誰も生きてない」

 一種の事故みたいなものだったが、連中を殲滅せんめつしておいて正解だったな。
 しかし、困った。人手を求めてここまで来たが、彼らでは農作業は難しい。下手に連れて帰れば、逆にもっと人手が足りなくなる。
 冷徹に合理的に考えるなら、彼らを放っておいて立ち去るべきだろうな。

「それで、領主様としては俺たちをどうしてくれるんだい?」

 俺の心情を見透かして男は苦笑いをしている。

「そうだな……。
 少しの間、この街で待っていてもらいたい。
 とりあえず必要なものがあったら言ってくれ」


 井戸から水が出なくなったという。
 おそらく転移してきたときに水脈のあった地盤と分れたのだろう。
 井戸掘りは俺の得意業だ。ヤツメウナギがないのが悔やまれるとこだが、適当な鉄の棒ならその辺で見つかった。
 俺の超感覚で水脈を見つける。

「ふぅむ……。水脈はここだ! せえぃ!!」

 全力で鉄の棒を地面に打ち込むと、ドゴォンという音とともに深い穴が開いた。
 すぐに穴からこんこんと水が湧き出してきた。

「「「おぉぉぉぉぉ!」」」

 俺の作業を見ていた住民たちから驚きの声が上がる。

「とりあえず、水は確保できた。
 食料や日用品もいるな」

 俺は最寄りのスーパーやホームセンターを物色する。
 意外にもほとんど手つかずの状況だった。街の者たちが言うには狂暴な魔物がねぐらにしていて、全く手出しできなかったらしい。

 彼らの言う狂暴な魔物というのは、野良の魔狼たちだった。
 幸い俺には魔狼たちをしもべにする能力があるのだ。俺はそこにいた魔狼たちを束ねて、ハメルンの街を防衛するように命令した。

「まさか、ここまでしてもらえるとは……」

「魔狼の縄張り内なら、だいたい安全だ。もちろん過信はダメだがな。
 犬用のおやつが大好きだから、時々食わせてやってくれ」

「ありがとうございます、領主様」


 彼らも当面の間は自力で生きていけるはずだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 自領に帰った俺は村長たちに話をした。

「そうですか、彼らは生きていたんですね。
 もう殺されたものかと思っていました。
 いろいろと、ありがとうございました。しかし……」

 ハンスは言いにくそうに口ごもる。

「分かっている。
 今すぐどうにかしろとは言わないよ。
 ここも大変だし、あそこまで行くのも命がけだしな。
 俺が時々様子を見に行ってやるよ」

「申し訳ございません、領主様」



 ジャンヌたちにも顛末を話したが、おおむね肯定的な意見だった。

「なるほど、私もブラドを支持する。
 人を束ねる者には時に、冷徹な判断が求められるものなのだ」

「そうですね。
 彼らもきっと大丈夫ですよ。魔狼たちもついているんだし」

「たぶんな。
 たまに俺も様子を見に行くしな」

「ブラド、その時は私も付いていくぞ!」

「……わかった。頼むよ」

「承知!」


 大事なことを忘れていた。
 人手不足が全然解消していないのだ。




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