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第2章 センパイと過ごす学校生活
第14話 センパイ、私の趣味をあばかないで
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夜8時。
夕飯を食べ終えた私は美幽センパイと並んでリビングのソファに座り、一緒にテレビを眺めていた。
ちょうど歌番組の時間で、画面にはかわいらしいアイドルグループが歌い踊っている姿が映し出されている。
「きゃあーっ! 見て、旭ちゃん、かわいいーっ!」
どこから取り出したのか、両手にペンライトを握り黄色い声援を送る美幽センパイ。
私はソファに深くもたれかかり、呆れた声を返した。
「センパイって、ほんとうにアイドルがお好きなんですね」
「だってかわいいじゃない。歌も上手だし、ダンスもキレキレで、魅了されちゃうわ」
「そりゃ、まあ、たしかにかわいいとは思いますけど」
歌い終えたアイドルたちの顔が画面に大写しになる。
パフォーマンスを無事に終えてホッとしたのか、はにかんだ柔らかい笑みをこぼしている。
私は興奮ぎみに瞳をきらきらと輝かせている美幽センパイの横顔をながめ、ぽつりと声をもらした。
「センパイが幽霊じゃなかったら、アイドルになれたかもしれませんね」
「あら、なんでそう思うの?」
「だってセンパイ、ダンスもお上手ですし、スタイルもいいし、美人ですもん。きっとモテたんだろうなー」
「エヘヘ。そんなぁ。私なんてたいしたことないわよ~」
美幽センパイは赤らんだ頬に両手を当て、もじもじと照れ出した。
明らかに嬉しそうだ。
「実はね、私なんかより花子ちゃんのほうがずっと美人なの」
「花子ちゃんって、あの『トイレの花子さん』ですか?」
花子さんって、たしか駅前にできた進学塾のトイレに引っ越したんだよね。
なんでも脱臭機能がついた最新型のシャワートイレがお気に入りなんだとか。
「いつか旭ちゃんにも花子ちゃんを紹介するね」
「うーん。これ以上幽霊の知り合いが増えるのはどうなんだろう?」
私は困ったように眉根を寄せて笑う。
美幽センパイみたいな優しい幽霊ばかりならいいけれど、人に害を与えるような悪い幽霊だってきっといるにちがいない。
これ以上深みにはまると、いつか災いが訪れそうで怖くもなる。
「そう言えば、センパイが教室で感じた妙な視線って、いったいなんだったんですかね?」
「分からないわ。でも、たしかに視線を感じたのよね。私の勘ちがいならいいんだけど」
「もしかして、私以外にも美幽センパイの姿が見える人がいるのでしょうか?」
「かもしれないわね。他の生徒にまぎれて、素知らぬ顔で私たちのことを注意深く観察しているのかも」
美幽センパイが真剣な目で告げる。
あの教室に、私と同じような能力を持つ人がいる。
そして、誰にも悟られないように息を殺し、獣のような鋭い目でじっと私たちを注視している。
そんな不気味な想像がふいに大きく膨れ上がると、思わず背筋が寒くなった。
「……なんだか私、緊張してきました。明日からちゃんと教室に通えるかな」
「大丈夫よ。私がついているんだもの。もしなにかあったら、私が旭ちゃんを守ってあげるわ」
美幽センパイはどんとこいっ! と言わんばかりに胸を叩き、はつらつとした笑みを私に向けてくれた。
あまりに頼もしくて、心の不安がすっと和らいでいく。
「それより、旭ちゃんに友だちが早くできるといいわね。旭ちゃんって、なにか好きなものはあるの?」
「好きなもの、ですか?」
「うん。例えば、私だったらアイドル好きな子と友だちになりやすいでしょう?」
「なるほど。共通の趣味の子を探すんですね」
たしかに、美幽センパイの言うことには一理ある。
共通の趣味を持つ人となら、あっという間に打ち解けて、すぐに友だちになれるかもしれない。
美幽センパイはきれいな瞳に好奇の光を宿し、私に迫ってくる。
「旭ちゃん、なにかないの? 好きなもの」
「なくはないですけど……。言わないとだめですか?」
「知りたい、知りたーい!」
「はいはい」
美幽センパイの圧に負け、私は小さく息を吐いた。
それから、ローテーブルの上に置かれたテレビのリモコンに手を伸ばし、番組を変えた。
映し出されたのはアニメだった。
タイトルは『ときめきハーモニー』。
作曲家志望の女の子が、学園で出会うさまざまなイケメン男子と心を通わせ合いながら、極上の音楽を奏でていくというラブストーリーだ。
原作の少女漫画が面白くて、アニメも見はじめたのだけれど、映像はきれいだし声優さんの声もイメージとぴったりで、ひそかに毎週楽しみにしていた。
「実は私、今この作品にハマっていて」
「へえ、旭ちゃんってアニメが好きだったのね。わあ、イケメンの男の子がいっぱい! 旭ちゃんはどのキャラが好きなの?」
「べ、別にそういうのはいませんけど。ストーリーが好きなだけで」
「あら、恥ずかしがらなくてもいいじゃない。初恋の相手がアニメキャラだっていう女の子も意外と多いらしいわよ」
「初恋ぃっ!?」
「そう言えば、この前旭ちゃんのお部屋で同じものを見かけたような」
美幽センパイはなにかを思い出し、ふらりと宙を浮遊する。
そしてリビングからすいっと移動すると、まもなく戻って来た。
「旭ちゃんのお部屋にたくさんあったキャラクターグッズ、これもそうなの?」
「きゃああ~っ!?」
なんと、美幽センパイが私の部屋から持ち出したのは、『ときめきハーモニー』の缶バッチやラバーストラップの数々だった。
夕飯を食べ終えた私は美幽センパイと並んでリビングのソファに座り、一緒にテレビを眺めていた。
ちょうど歌番組の時間で、画面にはかわいらしいアイドルグループが歌い踊っている姿が映し出されている。
「きゃあーっ! 見て、旭ちゃん、かわいいーっ!」
どこから取り出したのか、両手にペンライトを握り黄色い声援を送る美幽センパイ。
私はソファに深くもたれかかり、呆れた声を返した。
「センパイって、ほんとうにアイドルがお好きなんですね」
「だってかわいいじゃない。歌も上手だし、ダンスもキレキレで、魅了されちゃうわ」
「そりゃ、まあ、たしかにかわいいとは思いますけど」
歌い終えたアイドルたちの顔が画面に大写しになる。
パフォーマンスを無事に終えてホッとしたのか、はにかんだ柔らかい笑みをこぼしている。
私は興奮ぎみに瞳をきらきらと輝かせている美幽センパイの横顔をながめ、ぽつりと声をもらした。
「センパイが幽霊じゃなかったら、アイドルになれたかもしれませんね」
「あら、なんでそう思うの?」
「だってセンパイ、ダンスもお上手ですし、スタイルもいいし、美人ですもん。きっとモテたんだろうなー」
「エヘヘ。そんなぁ。私なんてたいしたことないわよ~」
美幽センパイは赤らんだ頬に両手を当て、もじもじと照れ出した。
明らかに嬉しそうだ。
「実はね、私なんかより花子ちゃんのほうがずっと美人なの」
「花子ちゃんって、あの『トイレの花子さん』ですか?」
花子さんって、たしか駅前にできた進学塾のトイレに引っ越したんだよね。
なんでも脱臭機能がついた最新型のシャワートイレがお気に入りなんだとか。
「いつか旭ちゃんにも花子ちゃんを紹介するね」
「うーん。これ以上幽霊の知り合いが増えるのはどうなんだろう?」
私は困ったように眉根を寄せて笑う。
美幽センパイみたいな優しい幽霊ばかりならいいけれど、人に害を与えるような悪い幽霊だってきっといるにちがいない。
これ以上深みにはまると、いつか災いが訪れそうで怖くもなる。
「そう言えば、センパイが教室で感じた妙な視線って、いったいなんだったんですかね?」
「分からないわ。でも、たしかに視線を感じたのよね。私の勘ちがいならいいんだけど」
「もしかして、私以外にも美幽センパイの姿が見える人がいるのでしょうか?」
「かもしれないわね。他の生徒にまぎれて、素知らぬ顔で私たちのことを注意深く観察しているのかも」
美幽センパイが真剣な目で告げる。
あの教室に、私と同じような能力を持つ人がいる。
そして、誰にも悟られないように息を殺し、獣のような鋭い目でじっと私たちを注視している。
そんな不気味な想像がふいに大きく膨れ上がると、思わず背筋が寒くなった。
「……なんだか私、緊張してきました。明日からちゃんと教室に通えるかな」
「大丈夫よ。私がついているんだもの。もしなにかあったら、私が旭ちゃんを守ってあげるわ」
美幽センパイはどんとこいっ! と言わんばかりに胸を叩き、はつらつとした笑みを私に向けてくれた。
あまりに頼もしくて、心の不安がすっと和らいでいく。
「それより、旭ちゃんに友だちが早くできるといいわね。旭ちゃんって、なにか好きなものはあるの?」
「好きなもの、ですか?」
「うん。例えば、私だったらアイドル好きな子と友だちになりやすいでしょう?」
「なるほど。共通の趣味の子を探すんですね」
たしかに、美幽センパイの言うことには一理ある。
共通の趣味を持つ人となら、あっという間に打ち解けて、すぐに友だちになれるかもしれない。
美幽センパイはきれいな瞳に好奇の光を宿し、私に迫ってくる。
「旭ちゃん、なにかないの? 好きなもの」
「なくはないですけど……。言わないとだめですか?」
「知りたい、知りたーい!」
「はいはい」
美幽センパイの圧に負け、私は小さく息を吐いた。
それから、ローテーブルの上に置かれたテレビのリモコンに手を伸ばし、番組を変えた。
映し出されたのはアニメだった。
タイトルは『ときめきハーモニー』。
作曲家志望の女の子が、学園で出会うさまざまなイケメン男子と心を通わせ合いながら、極上の音楽を奏でていくというラブストーリーだ。
原作の少女漫画が面白くて、アニメも見はじめたのだけれど、映像はきれいだし声優さんの声もイメージとぴったりで、ひそかに毎週楽しみにしていた。
「実は私、今この作品にハマっていて」
「へえ、旭ちゃんってアニメが好きだったのね。わあ、イケメンの男の子がいっぱい! 旭ちゃんはどのキャラが好きなの?」
「べ、別にそういうのはいませんけど。ストーリーが好きなだけで」
「あら、恥ずかしがらなくてもいいじゃない。初恋の相手がアニメキャラだっていう女の子も意外と多いらしいわよ」
「初恋ぃっ!?」
「そう言えば、この前旭ちゃんのお部屋で同じものを見かけたような」
美幽センパイはなにかを思い出し、ふらりと宙を浮遊する。
そしてリビングからすいっと移動すると、まもなく戻って来た。
「旭ちゃんのお部屋にたくさんあったキャラクターグッズ、これもそうなの?」
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