2 / 20
第一次恋愛大戦「春風」
第二話「幻想前夜、夢の中」
しおりを挟む
電話のことが頭から離れなかったが、修二はその日の残りの時間を平静を装って過ごした。カフェを出た後、二人は駅まで歩き、そこで別れた。
修二「今日は本当にありがとう。また連絡する」
晴海「ええ、私も。気をつけて帰ってね、修二くん」
「修二くん」と名前で呼ばれたことに、修二は少しだけ気分が持ち直した。
家路に就きながら、修二はもう一度あの電話番号を確認する。非通知ではなかったが、見知らぬ市外局番だった。一体誰が、何のために? 「彼女は……」と言いかけて切れた言葉が頭の中を巡る。
二階堂晴海。幼馴染で、たった今自分の恋人になったばかりの彼女。愛らしい笑顔、時折見せるいたずらっぽい表情、そして捉えどころのない雰囲気。修二は、自分が見知らぬ誰かの言葉と、長年想い続けた彼女への信頼の間で激しく揺れ動いた。
その夜、修二が自室で明日のデートプランを考えていると、インターホンが鳴った。ドアを開けると、そこには思いがけない人物が立っていた。
「久しぶり、修二」
そこにいたのは、中学時代に転校して以来会っていなかった幼馴染、氷室怜奈だった。彼女は落ち着いた雰囲気で、まっすぐに修二を見つめている。
修二「怜奈!? どうしてここに?」
怜奈「あなたの家の近くに引っ越してきたの。偶然、買い物帰りに見かけたから寄ってみた」
少しぎこちないながらも、二人はリビングでお茶を飲みながら近況を話し合った。話が一段落したところで、怜奈はふと真剣な表情になった。
怜奈「修二、単刀直入に聞くけど……二階堂晴海とは、今どういう関係なの?」
修二は驚いた。なぜ怜奈が晴海のことを知っているのだろう。
修二「えっと、実は昨日から付き合い始めたんだ」
怜奈の表情が曇る。
怜奈「そう……やっぱり」
修二「どうしたんだよ、怜奈。何か知ってるのか?」
怜奈は少し躊躇した後、意を決したように話し始めた。
怜奈「修二、あのね、私が転校した理由……実は晴海が関係してるの」
修二「えっ!?」
怜奈「彼女、昔から修二に異常なほど執着してたでしょ? 私が修二と仲良くしてるのが気に食わなかったみたいで、私の周りの友達を巧みに操って孤立させたり、私物を隠したり…陰湿な嫌がらせを受けてたの。両親が心配して、転校することになったんだ」
修二は耳を疑った。自分が知る愛らしい晴海の姿と、怜奈が語る陰湿な加害者の姿が結びつかない。
修二「そんな…信じられない」
怜奈「信じられないかもしれないけど、あれは全部晴海が仕組んだことだった。彼女は表向きは完璧な優等生を演じているけど、裏の顔があるの。あなたには、彼女の本当の顔が見えていないだけ」
その時、修二の頭に昨日かかってきた謎の電話の声が甦った。「二階堂晴海には気をつけた方がいいわよ」。あの電話は、怜奈からのものだったのだろうか。
修二「昨日、知らない番号から電話がかかってきて……」
怜奈「私よ。あなたが彼女と付き合い始めたって聞いて、どうしても伝えなきゃと思って」
修二は混乱していた。長年の親友の言葉と、恋人への疑念。どちらを信じるべきか分からなかった。
怜奈は修二の腕を捉え、真剣な眼差しで見つめた。
怜奈「修二、あなたのために言ってるの。彼女はきっと、あなたを破滅させるわ。彼女の目的は、あなたを手に入れることじゃない。あなたを支配することよ」
修二は言葉を失った。幼馴染たちによって語られる二つの異なる「二階堂晴海」像。戦いの火蓋は、確かに切られていた。
「計画通り」
その瞬間、修二は背筋が凍りつくのを感じた。怜奈の言っていたことは全て真実だったのだ。この女は、自分が心底欲しかった男を手に入れるためなら、どんな嘘でもつく人間だった。
晴海は修二の方を向き直り、血色の悪い赤い瞳(今はカラコンではない、本物の狂気を宿した瞳だ)で見つめた。
晴海「さあ、修二くん。どちらを信じるの?」
二人が背を向け、玄関に向かおうとしたその時、背後から感情の籠っていない、乾いた声が響いた。
晴海「逃がさないわよ」
修二と怜奈が振り返ると、晴海はすでに玄関のドアの前に立ちはだかっていた。いつの間に移動したのか、全く気付かなかった。そのスピードと静けさに、修二は恐怖を感じる。
修二「ど、どうするんだよ、怜奈」
怜奈は冷静に修二を庇うように前に出た。
怜奈「修二、落ち着いて。隙を見て逃げるしかない」
晴海はゆっくりと二人に近づいてくる。その足音はほとんどせず、まるで幽霊のようだった。彼女は完全に理性を失い、修二への異常な執着心だけが剥き出しになっていた。
逃げ場のない廊下で、修二と怜奈は、狂気に満ちた元・恋人と対峙していた。
修二と怜奈は、晴海の異常な雰囲気に圧倒されながらも、互いに背中を預けるようにして後ずさりした。しかし、そこは狭い廊下だ。すぐに壁にぶつかり、逃げ場は塞がれてしまった。
晴海は一歩、また一歩と間合いを詰めてくる。その顔には一切の感情が消え失せ、人形のような無表情が張り付いていた。血のような赤い瞳だけが、暗い廊下で異様に輝いている。
「ねえ、修二くん」
晴海の声は、どこか遠くから聞こえてくるように抑揚がなかった。
「どうして逃げるの? 私たちは恋人になったばかりでしょ? 昨日一緒にいたあの時間は、修二くんにとってはそんなに価値のないものだった?」
修二は晴海の言葉に混乱した。彼女の言っていることが理解できない。昨日一緒に過ごした時間は、彼にとって大切な時間だったはずだ。それなのに、なぜ晴海はこんなにも怒っているのだろうか。
「価値のないものなんかじゃない!」修二は必死に晴海に訴えた。「昨日のことは、俺にとって……」
「だったらどうして怜奈といるのよ!」晴海は修二の言葉を遮った。その声には悲痛な響きが混じっていた。「私がずっとそばにいたのに! ずっと修二くんのことだけを見ていたのに!」
怜奈は修二の前に一歩出た。
「晴海。修二くんはあなたの所有物じゃない。誰と一緒にいるかは、修二くん自身が決めることよ」
「黙ってて!」晴海は怜奈を睨みつけた。「あなたが現れてから、全部おかしくなったのよ! あなたさえいなければ、修二くんは私のものだったのに!」
晴海の目には涙が浮かんでいた。しかし、その涙は悲しみではなく、憎しみに満ちているように見えた。
修二は晴海のただならぬ様子に、ただならぬ危険を感じた。これはただの三角関係のもつれではない。何か、もっと深く、暗い感情が晴海を突き動かしている。
「晴海、落ち着いてくれ!」修二は晴海に駆け寄ろうとした。
しかし、その瞬間、晴海は弾かれたように後ずさりし、廊下の壁に飾られていた花瓶を掴んだ。
「来ないで! 近づかないでよ!」
晴海の震える声に、修二と怜奈は立ちすくんだ。花瓶を振りかざす晴海の姿は、まるで追い詰められた獣のようだった。
「晴海、その花瓶を置いて」怜奈が低い、落ち着いた声で促した。「話せばわかる。私たちはあなたを傷つけたいわけじゃない」
「嘘つき!」晴海は叫んだ。その声は泣きじゃくっており、もう感情のない人形のようではなかった。「みんな嘘つき! 修二くんも、怜奈も! 私から修二くんを奪おうとしている!」
花瓶を握る手は震えていたが、放す様子はない。修二は壁に背中をつけたまま、晴海を見つめた。彼女の目から涙がとめどなく溢れている。
修二は「奪うなんて、そんなことない。俺はただ、晴海のことが…」
「私のことが好きなら、どうして昨日、怜奈と二人きりで話を聞いてたのよ! どうして私がいる場所に戻ってこなかったの!」
修二は言葉に詰まった。自分は確かに、怜奈の話を聞くことに集中しすぎて、晴海を置き去りにしてしまった。その事実に、言い訳の余地はなかった。
「あれは…」修二が口を開きかけた時、晴海は突然、手にしていた花瓶を床に叩きつけた。
ガシャーン!
陶器が砕け散る激しい音とともに、水と破片が廊下に飛び散った。修二と怜奈は思わず身をすくめた。
音に驚いた家の人が駆け寄ってくる気配がした。
「うるさいっ!」晴海は叫びながら、割れた花瓶の破片を拾い上げた。その鋭利な切断面が、廊下の照明を反射して鈍く光る。
「私の邪魔をするなら、みんな…」
その狂気に満ちた眼差しに、修二は悟った。もう言葉で説得できる段階ではない。
「怜奈、逃げるぞ!」
修二は怜奈の手を掴み、割れた花瓶の破片を避けながら、晴海の横を駆け抜けた。家の人が驚いて「どうしたの!?」と声を上げるのを無視し、二人は一目散に玄関から外へ飛び出した。
外はもう真っ暗だった。冷たい夜の空気が肺を満たす。二人は止まることなく走り続けた。背後からは、晴海の泣き叫ぶ声と、追いかけてくる足音が聞こえていた。
「どうしよう、このままじゃ本当に刺されるかもしれない!」怜奈が息を切らしながら言った。
修二は周りを見回し、近くの交番の明かりを見つけた。
「あそこだ! 警察に助けを求めよう!」
二人は最後の力を振り絞り、交番へ駆け込んだ。ドアを開け、中にいた警察官に助けを求める。
「助けてください! 襲われそうになりました!」
警察官は驚いて二人を見た。その時、後ろから追いかけてきた晴海が、交番の入り口で立ち止まった。手にはまだ、割れた花瓶の破片を握りしめている。
交番の明るい光の下、血のような赤い瞳から涙を流す晴海の姿は、あまりにも痛ましかった。修二は、自分が幼い頃から好きだった少女が、こんなにも狂ってしまっていた事実に、深い絶望を感じた。
これは、もう止められない「戦争」なのだ。
私の人生はもう取りかえすことは出来ない。
修二「今日は本当にありがとう。また連絡する」
晴海「ええ、私も。気をつけて帰ってね、修二くん」
「修二くん」と名前で呼ばれたことに、修二は少しだけ気分が持ち直した。
家路に就きながら、修二はもう一度あの電話番号を確認する。非通知ではなかったが、見知らぬ市外局番だった。一体誰が、何のために? 「彼女は……」と言いかけて切れた言葉が頭の中を巡る。
二階堂晴海。幼馴染で、たった今自分の恋人になったばかりの彼女。愛らしい笑顔、時折見せるいたずらっぽい表情、そして捉えどころのない雰囲気。修二は、自分が見知らぬ誰かの言葉と、長年想い続けた彼女への信頼の間で激しく揺れ動いた。
その夜、修二が自室で明日のデートプランを考えていると、インターホンが鳴った。ドアを開けると、そこには思いがけない人物が立っていた。
「久しぶり、修二」
そこにいたのは、中学時代に転校して以来会っていなかった幼馴染、氷室怜奈だった。彼女は落ち着いた雰囲気で、まっすぐに修二を見つめている。
修二「怜奈!? どうしてここに?」
怜奈「あなたの家の近くに引っ越してきたの。偶然、買い物帰りに見かけたから寄ってみた」
少しぎこちないながらも、二人はリビングでお茶を飲みながら近況を話し合った。話が一段落したところで、怜奈はふと真剣な表情になった。
怜奈「修二、単刀直入に聞くけど……二階堂晴海とは、今どういう関係なの?」
修二は驚いた。なぜ怜奈が晴海のことを知っているのだろう。
修二「えっと、実は昨日から付き合い始めたんだ」
怜奈の表情が曇る。
怜奈「そう……やっぱり」
修二「どうしたんだよ、怜奈。何か知ってるのか?」
怜奈は少し躊躇した後、意を決したように話し始めた。
怜奈「修二、あのね、私が転校した理由……実は晴海が関係してるの」
修二「えっ!?」
怜奈「彼女、昔から修二に異常なほど執着してたでしょ? 私が修二と仲良くしてるのが気に食わなかったみたいで、私の周りの友達を巧みに操って孤立させたり、私物を隠したり…陰湿な嫌がらせを受けてたの。両親が心配して、転校することになったんだ」
修二は耳を疑った。自分が知る愛らしい晴海の姿と、怜奈が語る陰湿な加害者の姿が結びつかない。
修二「そんな…信じられない」
怜奈「信じられないかもしれないけど、あれは全部晴海が仕組んだことだった。彼女は表向きは完璧な優等生を演じているけど、裏の顔があるの。あなたには、彼女の本当の顔が見えていないだけ」
その時、修二の頭に昨日かかってきた謎の電話の声が甦った。「二階堂晴海には気をつけた方がいいわよ」。あの電話は、怜奈からのものだったのだろうか。
修二「昨日、知らない番号から電話がかかってきて……」
怜奈「私よ。あなたが彼女と付き合い始めたって聞いて、どうしても伝えなきゃと思って」
修二は混乱していた。長年の親友の言葉と、恋人への疑念。どちらを信じるべきか分からなかった。
怜奈は修二の腕を捉え、真剣な眼差しで見つめた。
怜奈「修二、あなたのために言ってるの。彼女はきっと、あなたを破滅させるわ。彼女の目的は、あなたを手に入れることじゃない。あなたを支配することよ」
修二は言葉を失った。幼馴染たちによって語られる二つの異なる「二階堂晴海」像。戦いの火蓋は、確かに切られていた。
「計画通り」
その瞬間、修二は背筋が凍りつくのを感じた。怜奈の言っていたことは全て真実だったのだ。この女は、自分が心底欲しかった男を手に入れるためなら、どんな嘘でもつく人間だった。
晴海は修二の方を向き直り、血色の悪い赤い瞳(今はカラコンではない、本物の狂気を宿した瞳だ)で見つめた。
晴海「さあ、修二くん。どちらを信じるの?」
二人が背を向け、玄関に向かおうとしたその時、背後から感情の籠っていない、乾いた声が響いた。
晴海「逃がさないわよ」
修二と怜奈が振り返ると、晴海はすでに玄関のドアの前に立ちはだかっていた。いつの間に移動したのか、全く気付かなかった。そのスピードと静けさに、修二は恐怖を感じる。
修二「ど、どうするんだよ、怜奈」
怜奈は冷静に修二を庇うように前に出た。
怜奈「修二、落ち着いて。隙を見て逃げるしかない」
晴海はゆっくりと二人に近づいてくる。その足音はほとんどせず、まるで幽霊のようだった。彼女は完全に理性を失い、修二への異常な執着心だけが剥き出しになっていた。
逃げ場のない廊下で、修二と怜奈は、狂気に満ちた元・恋人と対峙していた。
修二と怜奈は、晴海の異常な雰囲気に圧倒されながらも、互いに背中を預けるようにして後ずさりした。しかし、そこは狭い廊下だ。すぐに壁にぶつかり、逃げ場は塞がれてしまった。
晴海は一歩、また一歩と間合いを詰めてくる。その顔には一切の感情が消え失せ、人形のような無表情が張り付いていた。血のような赤い瞳だけが、暗い廊下で異様に輝いている。
「ねえ、修二くん」
晴海の声は、どこか遠くから聞こえてくるように抑揚がなかった。
「どうして逃げるの? 私たちは恋人になったばかりでしょ? 昨日一緒にいたあの時間は、修二くんにとってはそんなに価値のないものだった?」
修二は晴海の言葉に混乱した。彼女の言っていることが理解できない。昨日一緒に過ごした時間は、彼にとって大切な時間だったはずだ。それなのに、なぜ晴海はこんなにも怒っているのだろうか。
「価値のないものなんかじゃない!」修二は必死に晴海に訴えた。「昨日のことは、俺にとって……」
「だったらどうして怜奈といるのよ!」晴海は修二の言葉を遮った。その声には悲痛な響きが混じっていた。「私がずっとそばにいたのに! ずっと修二くんのことだけを見ていたのに!」
怜奈は修二の前に一歩出た。
「晴海。修二くんはあなたの所有物じゃない。誰と一緒にいるかは、修二くん自身が決めることよ」
「黙ってて!」晴海は怜奈を睨みつけた。「あなたが現れてから、全部おかしくなったのよ! あなたさえいなければ、修二くんは私のものだったのに!」
晴海の目には涙が浮かんでいた。しかし、その涙は悲しみではなく、憎しみに満ちているように見えた。
修二は晴海のただならぬ様子に、ただならぬ危険を感じた。これはただの三角関係のもつれではない。何か、もっと深く、暗い感情が晴海を突き動かしている。
「晴海、落ち着いてくれ!」修二は晴海に駆け寄ろうとした。
しかし、その瞬間、晴海は弾かれたように後ずさりし、廊下の壁に飾られていた花瓶を掴んだ。
「来ないで! 近づかないでよ!」
晴海の震える声に、修二と怜奈は立ちすくんだ。花瓶を振りかざす晴海の姿は、まるで追い詰められた獣のようだった。
「晴海、その花瓶を置いて」怜奈が低い、落ち着いた声で促した。「話せばわかる。私たちはあなたを傷つけたいわけじゃない」
「嘘つき!」晴海は叫んだ。その声は泣きじゃくっており、もう感情のない人形のようではなかった。「みんな嘘つき! 修二くんも、怜奈も! 私から修二くんを奪おうとしている!」
花瓶を握る手は震えていたが、放す様子はない。修二は壁に背中をつけたまま、晴海を見つめた。彼女の目から涙がとめどなく溢れている。
修二は「奪うなんて、そんなことない。俺はただ、晴海のことが…」
「私のことが好きなら、どうして昨日、怜奈と二人きりで話を聞いてたのよ! どうして私がいる場所に戻ってこなかったの!」
修二は言葉に詰まった。自分は確かに、怜奈の話を聞くことに集中しすぎて、晴海を置き去りにしてしまった。その事実に、言い訳の余地はなかった。
「あれは…」修二が口を開きかけた時、晴海は突然、手にしていた花瓶を床に叩きつけた。
ガシャーン!
陶器が砕け散る激しい音とともに、水と破片が廊下に飛び散った。修二と怜奈は思わず身をすくめた。
音に驚いた家の人が駆け寄ってくる気配がした。
「うるさいっ!」晴海は叫びながら、割れた花瓶の破片を拾い上げた。その鋭利な切断面が、廊下の照明を反射して鈍く光る。
「私の邪魔をするなら、みんな…」
その狂気に満ちた眼差しに、修二は悟った。もう言葉で説得できる段階ではない。
「怜奈、逃げるぞ!」
修二は怜奈の手を掴み、割れた花瓶の破片を避けながら、晴海の横を駆け抜けた。家の人が驚いて「どうしたの!?」と声を上げるのを無視し、二人は一目散に玄関から外へ飛び出した。
外はもう真っ暗だった。冷たい夜の空気が肺を満たす。二人は止まることなく走り続けた。背後からは、晴海の泣き叫ぶ声と、追いかけてくる足音が聞こえていた。
「どうしよう、このままじゃ本当に刺されるかもしれない!」怜奈が息を切らしながら言った。
修二は周りを見回し、近くの交番の明かりを見つけた。
「あそこだ! 警察に助けを求めよう!」
二人は最後の力を振り絞り、交番へ駆け込んだ。ドアを開け、中にいた警察官に助けを求める。
「助けてください! 襲われそうになりました!」
警察官は驚いて二人を見た。その時、後ろから追いかけてきた晴海が、交番の入り口で立ち止まった。手にはまだ、割れた花瓶の破片を握りしめている。
交番の明るい光の下、血のような赤い瞳から涙を流す晴海の姿は、あまりにも痛ましかった。修二は、自分が幼い頃から好きだった少女が、こんなにも狂ってしまっていた事実に、深い絶望を感じた。
これは、もう止められない「戦争」なのだ。
私の人生はもう取りかえすことは出来ない。
10
あなたにおすすめの小説
マチ恋 ―君に捧げるLove song― 一夜の相手はスーパースター。誰にも言えない秘密の恋。【完結】
remo
恋愛
あなたにとっては遊びでも、私にとっては、…奇跡の夜だった。
地味で平凡で取り柄のない私に起きた一夜のキセキ。
水村ゆい、23歳、シングルマザー。
誰にも言えないけど、愛息子の父親は、
今人気絶頂バンドのボーカルなんです。
初めての恋。奇跡の恋。離れ離れの恋。不倫の恋。一途な恋。最後の恋。
待っている…
人生で、一度だけの恋。
【完結】ありがとうございました‼︎
「幼馴染は、安心できる人で――独占する人でした」
だって、これも愛なの。
恋愛
幼い頃の無邪気な一言。
「お兄様みたいな人が好き」――その言葉を信じ続け、彼はずっと優しく隣にいてくれた。
エリナにとってレオンは、安心できる幼馴染。
いつも柔らかく笑い、困ったときには「無理しなくていい」と支えてくれる存在だった。
けれど、他の誰かの影が差し込んだ瞬間、彼の奥に潜む本音が溢れ出す。
「俺は譲らないよ。誰にも渡さない」
優しいだけじゃない。
安心と独占欲――その落差に揺さぶられて、エリナの胸は恋に気づいていく。
安心できる人が、唯一の人になるまで。
甘く切ない幼馴染ラブストーリー。
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
どんなあなたでも愛してる。
piyo
恋愛
遠征から戻った夫の姿が変わっていたーー
騎士である夫ディーノが、半年以上の遠征を終えて帰宅した。心躍らせて迎えたシエラだったが、そのあまりの外見の変わりように失神してしまう。
どうやら魔女の呪いでこうなったらしく、努力しなければ元には戻らないらしい。果たして、シエラはそんな夫を再び愛することができるのか?
※全四話+後日談一話。
※毎日夜9時頃更新(予約投稿済)&日曜日完結です。
※なろうにも投稿しています。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された皇后を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
ニュクスの眠りに野花を添えて
獅子座文庫
恋愛
過去のトラウマで人前で声が出せなくなった伯爵令嬢ラニエラ・アンシルヴィアは辺境の男爵、オルテガ・ルファンフォーレとの政略結婚が決まってしまった。
「ーーあなたの幸せが此処にない事を、俺は知っています」
初めて会った美しい教会で、自身の為に一番美しく着飾った妻になる女の、真っ白なヴェールを捲る男は言う。
「それでもあなたには此処にいてもらうしかない」
誓いの口づけを拒んだその口で、そんな残酷なことを囁くオルテガ。
そしてラニエラの憂鬱な結婚生活が始まったーーーー。
悪女の最後の手紙
新川 さとし
恋愛
王国を揺るがす地震が続く中、王子の隣に立っていたのは、婚約者ではなかった。
人々から「悪女」と呼ばれた、ひとりの少女。
彼女は笑い、奪い、好き勝手に振る舞っているように見えた。
婚約者である令嬢は、ただ黙って、その光景を見つめるしかなかった。
理由も知らされないまま、少しずつ立場を奪われ、周囲の視線と噂に耐えながら。
やがて地震は収まり、王国には安堵が訪れる。
――その直後、一通の手紙が届く。
それは、世界の見え方を、静かに反転させる手紙だった。
悪女と呼ばれた少女が、誰にも知られぬまま選び取った「最後の選択」を描いた物語。
表紙の作成と、文章の校正にAIを利用しています。
【完結済】春を迎えに~番という絆に導かれて~
廻野 久彩
恋愛
辺境の村から王都の星環教会へやってきた研修生アナベル・ウィンダーミア。
門で出会った王族直属騎士団副団長ルシアン・ヴァルセインと握手を交わした瞬間、二人の手首に金色の光が浮かび上がる。
それは"番"——神が定めた魂の半身の証。
物語の中でしか聞いたことのない奇跡的な出会いに胸を躍らせるアナベルだったが、ルシアンの口から告げられたのは冷酷な現実だった。
「俺には……すでに婚約者がいる」
その婚約者こそ、名門ルヴェリエ家の令嬢セレナ。国境の緊張が高まる中、彼女との政略結婚は王国の命運を左右する重要な政治的意味を持っていた。
番の衝動に身を焼かれながらも、決して越えてはならない一線を守ろうとするルシアン。
想い人を諦めきれずにいながら、彼の立場を理解しようと努めるアナベル。
そして、すべてを知りながらも優雅に微笑み続けるセレナ。
三人の心は複雑に絡み合い、それぞれが異なる痛みを抱えながら日々を過ごしていく。
政略と恋情、義務と本心、誠実さと衝動——
揺れ動く想いの果てに、それぞれが下す選択とは。
番という絆に翻弄されながらも、最後に自分自身の意志で道を選び取る三人の物語。
愛とは選ぶこと。
幸せとは、選んだ道を自分の足で歩くこと。
番の絆を軸に描かれる、大人のファンタジーロマンス。
全20話完結。
**【キーワード】**
番・運命の相手・政略結婚・三角関係・騎士・王都・ファンタジー・恋愛・完結済み・ハッピーエンド
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる