異世界トリップして霊獣さまを食べちゃった

木漏れ日

文字の大きさ
9 / 32

学園とピンクのうさぎ

しおりを挟む
  朝からドキドキして落ち着かない。
 学校生活は久しぶりだし、貴族社会の子供たちとどんな話をしていいかもわからないし、昨日のテスト結果も教えて貰ってないし……。

「姫さま、お食事が進みませんか?」
「メリーベル、なんかすごく緊張して食事が喉を通らないの」

 「いったいどうしたんだよ。正式なレセプションだって、見事な猫かぶりを披露していたじゃないか?」

 横合いからセンが口を挟んでくる。
 失礼な奴め!ほら、さっそくメリーベルに叱られてる。

「それでは姫さま、こちらのジュースだけでもお召し上がりください。」
メリーベルはセンを無視してジュースを、渡してくれた。

「おいしい」

 王国の果物よりも皇国の果物は、味がギュッと濃縮されている感じがする。好みの問題だけど、どちらもおいしい。

 私は朝食はフルーツとお茶だけで十分なんだけど、そうするとセンがそれっぽっちじゃ大きくなれないと、うるさいんだよね。

 学校は苦手。
 特に女子の、トイレも一緒にいくとか、お揃いの物を身に着けるとか、そういうのがよくわからない。

 私の学校生活は、「だってナナちゃんだから」という良く判らない理由によってなんとかクリアできた。
 
 不思議ちゃん認定されていたんじゃないかと、今では思っている。

 けれど今は、一応王女だからね。
 不思議ちゃん認定される王女なんて、如何なものでしょうか?

 「姫さま、お迎えのイスト先生がいらしてますが」
 
 「こちらへお通ししてください。」
  
 おひげがとても見事な長身の先生です。

 「今日から姫さまと、セントレア君は第3学年に転入することになりました。担任は引き続き、私が担当いたします。よろしいですかな?」

 セントレアって言うのは、センがゴードンさん家に養子に入る時、センだけではあんまりだろうって、付けられた名前なの。

 「それじゃ、私もセンと同級生になるのですね?」
 「姫さまは、かなり学業が進んでおいでのようですので、1学年と2学年はスキップして頂くことになりました。」

 王様の側仕えをしている時、きっと無意識のうちに、多くのことを学んでたのが今回は役にたったみたい。

 それにしても初回だけとはいえ、わざわざ先生が迎えにきてくれるなんて、王族ってすごい!

 それでもドナドナ気分で、先生の後をついていくと、センが
「心配すんな。困ったら助けてやるから」
 って小さく耳元で呟いた。

 びっくりして、ちょっと顔が赤くなってしまったけど、あんなにドキドキしていたのが、急に落ち着いて楽に呼吸できるようになった。

 学園は皇宮を模しているだけあって、とても荘厳で贅沢なつくりだ。
 田舎から出てきた子どもなら、それだけで委縮するかもしれない威圧感がある。

 1階は受付と事務室、そしていわゆる購買部門がある。
 忘れ物したら、この1階でほとんど購入できる。

 2階は1年と2年のクラスと、担当教師の方々のお部屋。
 3階が3年と4年。4階が5年と6年の生徒の教室になる。

 各階ごとにティールームや食事室が完備しているし、教室の後ろには、それぞれホテルのシングルルームのような個室が用意されている。

 まずは先生が入室して、続いて私とセンが入る。
 先生が紹介してくださってから、

「レティシア・ウィンディアです。よろしくお願いします。」
「セントレア・バルトです。よろしくお願いします」

 そう言って教室を見回してみると、興味津々の26の瞳が迎えてくれた。
 このクラスは私たちをいれて、全部で15人になる。

 そのうち要注意なのが、皇族のひとりであるアラムだ。
 彼は皇帝の甥にあたり王子の称号を持っている。

 皇国では皇帝の子どもは皇子、皇帝の兄妹の子どもは王子の称号を与えられる。

 王国では王の兄弟の子どもは、プリンス・プリンス。
 王子の子供という称号があたえられているのと、同じことだ。

 プレスベル皇国の動きは、きな臭いなんてレベルではない。

 王国と争っても、帝国に漁夫の利を与えることは知っているはずなのに、しきりに王国にちょっかいをかけてくる。

 アラム王子は位階でいえば、プリンセスの称号を持つ私よりも下、けれどひとりだけ私より上の位階をもつ人がいる。

 セーラ第1皇女、王国に遊学してきたあの皇子の姉姫だ。

 位階でいえば同等とはいえ、養女と実子の立場の違いは大きい。
 注意するのは、この2人だろう。
 この2人がいるから、私たちをこの学年に編入させたんだろうしね。

 授業は午前・午後それぞれ2時間行われる。
 2時間の授業がすむと、お昼休憩が3時間。そして午後の授業が2時間という時間割りになってます。

 お昼休憩が長いのは、この国にはお昼寝の習慣があるからで、暑い昼間は仕事や勉強に向かないという理由からですね。

 お昼休憩は、自宅に帰ってもよいし、個室でお昼寝してもいい。
 そのために個室が準備されている訳だしね。

 最初のお昼休憩に、真っ先にやってきたのは、セーラ皇女。
「レティシアさま、お昼、よろしければ私の部屋にいらっしゃらない?5階に私室がありますの。」

さすがは皇女殿下、学園に私室を持ってました。

そこへアラム王子が、口をだします。
「セーラ、レティシアさまの私室も用意されてるだろう、先にご案内した方がいいよ。初日で疲れているかもしれないだろ。僕はセントレア君を案内するよ」

「セントレア君、我々男性の私室は6階なんだ、案内するからついてきたまえ」

「センにも部屋を用意して下さったんですの?」
 だってセンは従者なので私はびっくりしました。

「当然だろう、ウィンディア王国の大事なお客さまだからね」
 そういうとセンを促して出ていきました。

 王族というのは、どこでも押しが強いんですかね。
 私やセンは、皇国にとっては霊獣という扱いなんでしょうね。

 そうなると私としてもセーラさまと、同行するしかない訳です

「ごめんなさい、私レティシアさまと仲良くしたくて、気が利きませんでしたわ。お部屋にご案内させてくださいませ。」

「ありがとうどざいます。セーラさま、どうぞレティとお呼び下さい」
「ありがとうレティ、私もセーラと呼んでね」

 女の子らしくウフフ、キャキャキャと話ながら私たちは5階を目指します。
 でも絶対わざと私室の事には触れませんでしたね、セーラさま。
 自室に連れ込む気満々でしたもの。

 やはり侮れないなぁと考えていると
「こちらのお部屋です。部屋付きの侍女がおりますから、何でもおっしゃってね。食事だけでもご一緒致しましょうよ」

 「喜んで伺いますわ。セーラ。ではいったん部屋で休みますから、食事の支度が出来たらお呼びくださいませ」
 
 ふぅ、お嬢様ブリッコは疲れます。
 部屋は皇宮の私室と全く同じ作りなので、自分の部屋と同じように違和感なくつかえます。

 侍女に、簡単に着替えさせてもらうと、準備が整ったのを見計らったかにようにお迎えがきました。

 皇女殿下とのランチとなると、着替えが必要になります。
 ちゃんと侍女が服を用意して待ち構えていましたからね。

 完全に手の平の上ですね。

 皇女殿下の私室は、なんといったらよいか、とても乙女チックなお部屋でした。
 私はナチュラルティストの部屋が好みなので、皇女殿下の私室は、すこし色彩が多すぎるような気がします。

 そう考えると、皇国に来てから与えられて部屋は、私の趣味にぴったりでした。
 少しぞくりとしてしまいます。

 まるでストーカーにあったような気分がしますが、これもおもてなしなんですよね。

 食事室に案内されると、アラム王子とセンがいました。

「やっときたか、セーラといいレティシアといい、女というのは着替えが遅くてかなわない」

「お洒落してきたのに、憎まれ口を叩くものじゃありませんわ。レティ、とてもお似合いよ」

「セーラさまも、お可愛らしくて素敵ですわ」
 もう間違いない、セーラさまはロリータ趣味だ。
 基本ピンク一色だ。

 それに部屋に大きなピンクのうさぎのぬいぐるみが……。

 あれ?ぬいぐるみが動いてますけど。
 えっ、こっちにやってきますよ。

 この学園では、ぬいぐるみが動くんですか?

 「やぁ金色さん、初めましてだよね。前の金糸雀とは、喧嘩ばかりしてたんだ。今度はこんなに可愛らしいお嬢さんで、うれしいなぁ。君に逢いたくてずっと皇帝をせっついてたのさ」

 犯人が自白しやがりましたよ。
 皇国の不可思議な行動の原因は、ピンクのうさぎの霊獣のせいだったんですね。

 霊獣は、基本我が儘で、人間の事情などそんたくしませんから、皇国も必死だったんでしょう。
 
 それにしても、「うちのピンクのうさぎが、金色のカナリアに会いたがってるから、ちょっと来てくれませんかね。」なんて正直に言えませんよね。

 だからわずか10歳の皇子を人質に出してまで、私を追い込んだんですね。
 
 理由がわかったら、脱力してしまいました。
 どうしてくれましょうかね、このうさぎ。
 
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

追放後に拾った猫が実は竜王で、溺愛プロポーズが止まらない

タマ マコト
ファンタジー
追放された元聖女候補リラは、雨の森で血まみれの白銀の猫を拾い、辺境の村で慎ましく生き始める。 猫と過ごす穏やかな日々の中で、彼女の治癒魔法が“弱いはずなのに妙に強い”という違和感が生まれる。 満月の夜、その猫が蒼い瞳を持つ青年へと変化し、自らを竜王アゼルと名乗る。 彼はリラの魔力が“人間では測れない”ほど竜と相性が良いこと、追放は誤解と嫉妬の産物だったことを告げる。 アゼルの優しさと村の温かさに触れ、リラは初めて「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

処理中です...