異世界トリップして霊獣さまを食べちゃった

木漏れ日

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ヤマアラシのジレンマ

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 セーラ皇女殿下から、プライベートなお茶会のお誘いが来た。
 というより、念願のピンクの人参をたっぷり受け取ったサクラが、上機嫌で呼び出したというのが本当のところだろう。

「せっかくレイに会えるのに~」
「まぁ、行って来いよ。レイならこれからいつだって会えるんだからな」

「センはどうするの?お茶会に来る?」
「おれはやめとく。あのピンクの顔を見るとイラッとするんだ。久しぶりにレイの顔でも拝んでくるよ」

 という訳で皇女殿下のお部屋に来てみたら、いやぁ~圧巻ですね。
 ピンクでしかもハート型の人参が、まるでシャンパンタワーみたいに、積みあがってますよ。

 その前ではこれまたピンクのうさぎが、でれっとしまらない顔をして鎮座しているのですから、なんだか目がチカチカしてしまいます。

 これが平気なのですから、ある意味セーラ皇女は大物ですね。

「レティ、待ってましたわ」
 そういうなりセーラさまが抱き着いてきました。

 少し力を緩めてくれないと息ができません。
 セーラさまと私は、恥ずかしながら親友になりました。

 だってセーラさまは、とっても素直で可愛いらしい人なんですもの。
 しょっちゅう抱き着いてくるのは、困りますが、こんなに愛らしい人に慕われたら悪い気はしませんよね。

 言い忘れてましたが、セーラさまはピンクの巻き毛にバイオレットの瞳という、とても華やかな美人さんです。

「サクラ、良かったね!」と、声をかけると
「フン!もともとあの陰険な狐が悪さをしたのが悪いんだから、僕に貢物を持ってくるのは当たり前だ。」

 ふんぞり返ってますが、顔がにやついているので、効果はありません。

 「サクラさまは、このモバで作った塔を全部食べてしまわれたんですの。さっきあわてて積み上げさせたんですのよ。」

「じゃあ、もうお腹いっぱいでしょ。ちょっと頼まれてくれないかなぁ。レイの様子をみたいの」

 レイの様子を知りたいという気持ちもありますが、一度サクラの能力を確認しておきたかったのです。
 
 気分がよかったのでしょう。
 サクラはすぐにレイの部屋を見せてくれました。

 唖然としました。
 今目の前にレイがいるみたいに、レイの姿が浮かび上がってきたのです。

 地球でいうところの3Dホログラムですね。
 ちゃんと声も聞こえてきます。

 レイはセンとソファーで話しこんでいるというより、ほとんどセンが話してます。

「大体ナナは僕らの気持ちをまるでわかっちゃいないんだ。最初に地上に降りる時だってそうじゃないか。レイと僕がなんとか合流できるように智慧を絞ってるときに、あいつはひとりで生きる気満々だっただろ」

「ハイハイ、ナナはあれで気を使ったつもりなんですよ。ナナはね。とても繊細で臆病なこどもなんです。だからカナリアと引き合ったんですから」

「臆病だから、オレたちから離れようとしたっていうのかよ。意味わかんねぇよ。」
センはソファに身体を投げ出して言いました。

「お行儀がわるいですねセン。臆病なこどもは自分が傷つくのが怖いのですよ。だから最初から諦めてしまおうとするのです。望まなければ失望することはありませんからね。」

「そうですね。ナナは鎧をまとうことで、自分を悪意から守ろうとしているんです。けれどその鎧のせいで、人の温かい心を受け止められなくなってしまったんですよ。」

「どういう事だ?鎧があると自分が守れるんだろ?それでなんで人の好意を受け取れなくなるんだ?」

 センは意味が分からないようでしたが、私にもさっぱりわかりません。

「セン想像してごらんなさい。鎧姿で草原に立っているところを。風が頬を撫でたり、温かなぬくもりを感じることができますか?鎧を脱いだらどうでしょう?穏やかな自然をその体で感じることができますよね」

う~ん、なんとなく言いたいことは、わかった。私って自分の殻に閉じこもってたんだなぁ。他人を気遣う振りをしていい子ぶって、ただ自分が大事だったのかな?

「ヤマアラシのジレンマという言葉があります。ヤマアラシはそのトゲのせいで近づくとケガをしてしまいます。けれども離れ離れは寂しい。ですからヤマアラシは近づくことも離れることもできないのですよ」

そういうとレイはセンの頭をポンポンと叩きながら

「セン、君は強い子だ。百獣の王だ。常に真っすぐに嵐の中でも自分をさらして生きている。そんな君ならいつかナナの鎧を脱がせてあげることができるよ。忘れないであげてね。ナナは臆病なカナリアなんだということを。」
 
センは真っ赤な顔をして、レイの手を振り払った。
「レイの方が強いくせに!」

「私は、ずるがしこい狐なんですよ。」
そうぽつりと呟いたレイの顔は、胸が締め付けられそうなほど寂し気に見えた。

 気が付くとホログラムが消えていたから、その後レイが

「しかし、黒というのはね、善悪のどちらにも傾くことができるんですよ。その部分でいえば、センは危なっかしすぎるのですよ。」
と、詠嘆したことは、知らないままだった。

 ホログラムが消えた時、私は知らないうちに涙をボロボロとこぼしていた。
 セーラとサクラが両側からしっかりと抱きしめてくれている、そのぬくもりを感じながら、ただ黙って涙を流し続けた。


「あー!サクラ、もう金輪際、絶対、私の部屋を覗くの厳禁ね」
 たっぷり泣いたらと~ってもスッキリしたので、大事なことを思い出しました。

 サクラの能力って、透視なんてレベルじゃない。

 私室での私のあんな姿やこんな姿を見られていたなんて、いくら女の子同士だといっても許せない!

 「え~~。」
 サクラは不満そうだが、こればっかりは譲歩しませんからね。

 クスクスと笑いながら
「私も、レティの姿が見れなくなるのは残念ですわ。せっかく親友になれたのに」
 と、セーラがシレっと言ってのけた。

 そーですか。セーラは私やセンやレイのこと地上におりた時から知ってたんだ。
 つまりは皇国も、と言う事だろう。
 
 サクラの能力もチートだよね。
 霊獣の力って、どれもこれも半端ない。

 これ王様やレイに報告しなきゃいけないけど、レイの部屋を盗み見たなんて知られたくない。

「ねぇ、サクラ。ダンの様子見れる?」
「いいけど、どこにいるの?場所がわからないと見れないよ」

 なんとサクラの能力は、指定した場所をみる力でした。
 ということは、サクラはきっと王様の執務室を見てたんだろうなぁ。

 この分なら帝国の執務室も見てるだろうし、皇国との同盟はメリットが大きい。
 王様には早急に、秘密の場所を探してもらわないと機密情報がダダ漏れになってしまう。

 この部屋にも、諜報担当の侍女が張り付いているだろうから、私が知ったことは、今頃は皇帝の耳に入ってるだろう。

 急がなくっちゃ。情報は鮮度が大事。
「サクラ、私をレイの部屋に転移させて!すぐに。セーラさま、失礼します」

 いきなり部屋に転がりこんだ私をみても、レイは眉ひとつあげなかった。
 黙って私の報告を聞くと、魔石を操作している。
 王様に報告したのだろう。

 それがすむと、にっこり笑って
「ありがとう、助かったよ」って、言ってくれた。

 センは「あのウサギ、いつか焼いて喰ってやる!」って言ってるけど、よしなさい、聞こえてるから。
 
 「レイ、皇国も無茶ぶりしてきたけれど、レイたちが皇国で暴れまわったことは皇国のプライドを傷つけたでしょう?」

 そうなんです。多分、今回の人参騒動はダンたち傭兵団とレイの共同戦線だと思う。

 たかが人参、されど人参。皇国としては他国人に簡単に出し抜かれたことになってしまうから、表だって非難することは無いはずだけど、面白くはない筈なんですよね。

 できればサクラの能力は、対帝国を考えると味方につけておきたい。
 だったらこちらも霊獣の力を貸すしかないでしょう。

 「ナナには、困難な道を歩ませることになるが、すまないな。王も落としどころはそのあたりだと考えている。」

 このまま皇国に取り込まれる訳にもいかないし、最初の3日間は皇都の神殿で癒しを行い、帰国は皇国をぐるりと巡回しながら癒し行脚を行うことになる。

 皇帝はしぶい顔だったけど、皇后さまは幼い息子が無事に帰ってきて大喜びだったし、皇国としても王国との同盟により、聖なる姫の力を味方につけたと近隣国に示すことができる。

 代償は頭痛がするくらい大きかったけど、それでも帰国が許されて安心した。
 「聖なる姫君」ですよ。
 恥ずかしくて穴を掘りたくなりますよね。
 自分が原因じゃなきゃ、絶対納得しませんでしたけど、しかたないですよね。

 帰国前にやらなきゃならないことがある。
 セーラさまとの親友デートですよ。

 明日、セーラさまと街で買い物するの。
 もう町娘の衣装も、そろえたし、皇帝陛下とレイの許可ももぎ取った。
 こちらにはサクラという強い味方が付いてますからね。

 ナナとサクラにコンビを組ませるとろくなことはない!と双方の首脳陣がため息をついてたけど、し~らないっと。

 2人でお揃いのアクセサリーを買うつもりなんです。
 地球にいた時はわからなかったけど、親友とお揃いなんてワクワクしますね。
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