異世界トリップして霊獣さまを食べちゃった

木漏れ日

文字の大きさ
29 / 32

草原に煌く夢

しおりを挟む
 世界和平会議開催を翌日に控え、プレスペル皇国、ウィンディ王国、そして砂漠の民の軍勢の天幕が、広大なゴルトレス帝国の草原地帯に煌びやかな花々のように散らばっている。

 対するゴルトレス帝国も、軍勢を草原に集めているのは、全ての国の軍勢は帝都に入らないとの約束を果たすためである。

 現在帝都は要人を守るための近衛と治安部隊が中心に街を守っている状態なのだ。

 なんだか世界中から軍隊が平原に集まったみたいだけれども、さすがにそんなことはなく、国元を守るための軍は、どこの国だって残している。

 どこまでいっても結局今は、戦国時代なので、鬼の居ぬ間に王都や皇都を奪おうとする国があってもおかしくはないからだ。

 すでに要人たちは、帝国の城内に入っていて、明日の和平会議に向けて最後の準備をしているはずなのですが……。

 お父様もレイも、私に久しぶりに会えたのが嬉しいらしく、砂漠の国でどんな風に過ごしていたかを、とても聞きたがっている。

 明日の準備は万端で、あとはのんびりするだけなのでしょう。

 いつも思いますが、お父様もレイもオンとオフの切り替えがとても上手です。緊張と弛緩が上手いんです。

 私は砂漠の国で見た、美しい大河や、恐ろしい迷宮のことを、話して聞かせました。

 私では迷宮を超えられないので、ノリスの次元倉庫に私のお家があることや、その家が失礼なことに鳥かごに似ていると話したところで、保護者様たちに冷気がやどり、ノリスを呼びに行かせました。

 ノリスは砂漠の長と打ち合わせの最中だったはずなんですが、なぜだかセンと一緒にやってきました。

 最近この2人よくつるんでいますね。お互い婚約者を持つ者同士話が合うのかもしれません。

 ノリスはやってくる早々、保護者さまたちのブリザードに気づき固まっています。

「ノリス、私の娘が移動に使うという家をここに出しなさい。」

 お父様が厳しい声で命じますと、一瞬だけ抗おうという姿勢を見せたノリスが、しぶしぶ家を部屋にだしてみせました。

 「家が見たいんだ、悪いけど家具だのタペストリーだの、特に家をかこっている覆いは全て倉庫に収納してくれ。嫌なら私がするが。」
レイもとっても冷たい声でいいました。

 そしてにっこりと私の方を見ると
「ナナ、今回もこのお家でここまで来たのかな?」
と、たずねました。

 なんだか答えてはいけない気がしましたが、しぶしぶ
「はい、外に出る時はそのお家で移動します。」と答えました。

 センがなんだかブルブルしながら
「ノリス兄貴さすがだぜ。男のロマンだ。しかしホントにやるとは半端ねぇ」と呟いています。

 ノリスによって装飾が全て取り払われた家は、金色の鳥かごでした。いつもなんか似ているなぁとは思っていたのですが、砂漠の民がつかう天幕みたいに、沢山の布で覆われていたので、わからなかったのです。

 金色の鳥かごには、見事な装飾が施され、止まり木に模したブランコも揺れています。なんで部屋にブランコがあるのか不思議でしたが、鳥かごなら止まり木がいりますものね。

 すでにノリスは絶望的な顔色になっていましたが、お父様とレイによって、引っ立てられていきました。ちなみに鳥かごはレイの倉庫に強制収容されてしまいました。

「レイったら、お家がないと砂漠の国には帰れなくなっちゃうのに、どうしたのかしら?」
と、わたしが言うとセンは

「多分、もう二度どあれを見ることはないと思うぜ。っていうかしばらくノリスは出入り禁止だろうなぁ。ナナもこれが終わればウィンディア王国に帰るんだしな。」

 そっかぁ、ノリスと結婚するのはあと3年後ですものね。実はあの第1回世界霊獣会議の日が、私の13歳の誕生日でした。霊獣さまたちから、加護を付与したプレゼンとを貰って、とてもハッピーなお誕生日だったんです。

 「そーいえば、センから貰った髪飾りってどんな加護があるの?」

「あー、ちゃんとつけてるな。いつも付けとけよ。それは警報機だ。ナナがもしも動けなくなるようなことがおきたら、その髪飾りが霊獣に助けを呼ぶ。霊獣以外には聞こえねぇから、外されたり、壊されたりすることもないはずだ。」

「まぁ、どーせ真っ先に駆けつけるのはノリスの兄貴だと思うけどな。」

「センってノリスのこと兄貴って呼ぶようになったね。なんで?」

「そりゃ、まぁいろいろとね。オレ一人っ子だったから、兄貴が欲しかったんだ。ノリスはいい奴だぜ。」

 どうもノリスとセンが組むとろくなことにならないような気がするのは、何故でしょうか。いちどセーラとゆっくり話せるといいのですがねぇ。

 「セーラとセンはいつ結婚するの?」何気なく聞いただけなのにセンは真っ赤になって

「オレはすぐにも結婚したいんだけど、プレスペル皇国では男は18歳まで結婚出来ないんだって。オレ今16歳だから、あと2年だな。その2年間オレ、公爵領で統治の勉強するんだ、セーラにも会えなくなる。」

「そっかぁ、お互いまだまだこれからだねぇ。早く大人になりたいなぁ」

「そーだなぁ、オレやっぱりアイオロス王みたいな、あんなカッコイイ男になりたいなぁ。いつもはダレてるけど、決める時は決めるもんな。」

「そーだね。じゃあ私の目標はお母様かなぁ。あのお父様が頭が上がらないんだよ。普段はとても上品でおしとやかなのに、いざとなったらとても強いの。」

そーして2人して大きなため息をつくと、

「お互い目標には遠いねぇ~。」
と、言いました。

 でも目標は大きいほうが、がんばれるからね。
 明日はいよいよ、そのカッコイイ大人たちが、いい仕事をしてくれるはずです。

 「ねぇ、セン。このお城で一番高くて、そして外が見える場所に連れていって。」

「いいけど、どーしたんだ?」

「無性に祈りを込めてフルートが吹きたいの。」

 その夜、塔の上から地上に向けて、私はフルートを奏でました。今この場にきているすべての人の安穏と、そして明日の成功を祈りながら……。

 フルートから流れ落ちる金色の粒子は、風にのって遠く遠くへと流れていきます。

 その夜、人々は、美しい夢をみました。

 誰もがお互いに、手をつなぎ、その人々の輪が果てしない宇宙にまで、届く夢でした。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

追放後に拾った猫が実は竜王で、溺愛プロポーズが止まらない

タマ マコト
ファンタジー
追放された元聖女候補リラは、雨の森で血まみれの白銀の猫を拾い、辺境の村で慎ましく生き始める。 猫と過ごす穏やかな日々の中で、彼女の治癒魔法が“弱いはずなのに妙に強い”という違和感が生まれる。 満月の夜、その猫が蒼い瞳を持つ青年へと変化し、自らを竜王アゼルと名乗る。 彼はリラの魔力が“人間では測れない”ほど竜と相性が良いこと、追放は誤解と嫉妬の産物だったことを告げる。 アゼルの優しさと村の温かさに触れ、リラは初めて「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。 そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来? エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

処理中です...