異世界トリップして霊獣さまを食べちゃった

木漏れ日

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平和への歩み

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 世界和平会議当日がやってきました。ゴルトレスの草原に柔らかな日差しが落ち、草原の草花をさやさやと風が吹き抜ける、そんな朝です。

 今日は出席者全員が、自国の第一礼装を纏っているので、誰もがとても凛々しく秀麗に見えました。

 テーブルは円形になっていて、私は伝説の円卓を思い浮かべていました。円卓に並ぶのは騎士さまではなく、この天球で最も権力を持つ覇王さま方です。

 私たち霊獣には、それぞれの王の後方に席が与えられていて、自国の王が許せば発言することが出来ます。

 司会進行役は、大陸との利害関係がなく霊獣として最古参の灰色の狼が勤めることになっています。

 灰色の狼を辺境の離島から呼び寄せたのはゴルトレス帝国ですが、既に霊山に帰る日も間近である霊獣さまですから、完全に公平に進行されることでしょう。
 
「さて、人間の王たちよ。ワシはこの大陸に和平をもたらすために、ゴルトレス帝国の要請によりこの場におる。ここに列席の王諸兄は、既に和平を結ぶことに同意しているとみるが、相違ないか?」

 思いっきり、ゴルトレス帝国よりの発言が来ました!

 もとはといえば、ゴルトレス帝国が、近隣諸国を容赦なく切り取っていたのに、平和を望んで努力してきたのはアイオロス王なのに、まるでゴルトレスの女帝の提案みたいです。

 私がむっとした顔をしてしまったのに、レイは表情ひとつ変えません。ここからはお父様の顔はみえませんが、きっとお父様もそうなのでしょう。

「ウィンディア王国は、同意する。」

「プレスペル皇国も、同意致す。」

「砂漠の民も、この和平を支持する。」

「ゴルトレス帝国は、和平の提唱者として諸王に感謝の意を表す。ゴルトレス帝国も、同意しましょう。」

 凄い、この女帝さらっと和平の提唱者の立場を確立してしまいましたよ。女の口は達者なものですが、お父様は大丈夫なのでしょうか?

 「うむ、ワシが遠方からわざわざ足を運んだかいがあったというもの。ではここに全会一致で、和平条約を結ぶこととする。もしもこの条約を破り同盟国を襲う国があれば、我ら霊獣すべてを敵にすると心得よ。」

 灰色の狼さまは満足気に言いました。心なしかゴルトレス女帝の口が、まるでしてやったりというように、吊り上がるのが見えます。

「灰色の狼さま、ウィンディア王国より提案があります。この場において天球国際連盟発足を提唱致します。」

 女帝がアイオロス王を凄い目で睨みつけ
「灰色の霊獣さま、この場は和平条約締結の場であるはず。アイオロス王の発言は条約とば別のもの。却下されますように。」

「灰色の霊獣さま、霊獣さまの願いは民の安寧のはず。そのためには和平条約だけでは片手落ちでございまする。」
 お父様が、灰色の霊獣さまの目をしっかりと捉えて、断言しました。

「もとより我ら霊獣の願いは、人間が安穏に暮らせる世界じゃ。ウィンディア国王よ、発言を許可する。」

「ありがとうございます。霊獣さま、この国際連盟は、ここに集いし国だけではなく、天球におけるいかなる小国の安寧をも、確立するものでございます。詳しくは発案者である銀の狐の霊獣を宿し者より説明いたします。レイ頼むぞ!」

「レイが進みでると、国際連盟の概要を説明しました。全ての国が1票の投票権を持ち、紛争がおきれば、連盟内で裁定を行うこと。連盟の許可なく軍を動かすことができないこと。等々。

「それでは、お主たち大国に利はあるまい。どれほどな小国にも同等の権利を与えるというか?」

「さようでございます灰色の賢者よ。どれほど小さな国にも固有の文化、文明がございましょう。無理にひとつの国に統合しようとすれば、いわれなき差別や搾取による憎悪や反乱の原因になりましょう。」

 これは近隣諸国を自国に併合しているゴルトレス帝国への、強烈な皮肉でした。

 ゴルトレス帝国では占領地の民は帝国民とは劣る民族として差別され、一見盤石に見える帝国は、つねに反乱の火種がくすぶり続けているのです。

 「我がプレスペル皇国におきましては、12地域がプレスペル皇国より分離し、国際連盟の庇護のもと、自主独立することを願い出ております。」

「我らウィンディア王国におきましても、すでに10地域において、独立の方向に向かっております。これら小国の安寧を担保するのが、国際連盟の骨子でございます。」

「なるほどのう、さすがは賢王の異名をとるだけのことがあるの。アイオロス王よ。確かに和平条約だけでは、小さき者共の息吹を吹き消すところであったわ。ゴルトレス帝よ、帝国にも依存はないか?」

「帝国とて依存はございませぬ。灰色の霊獣さま。我が国においても、国際連盟の発足後には、自ら国を建てる者どもも続きましょう。ただ1つだけ条件がございます。」

「さて、条件とは?」

「その条件とは、ここに集いし3ヵ国1地域におきましては国際連盟発足の提唱国として、拒否権を持つものとすることでございます。」

 さすがは女帝さま、自国に不利とみるやすぐさま話に乗ってきました。それに1ヵ国1票のカラクリにも気づいたようです。

 このままではプレスペル皇国は14票、ウィンディア王国11票に対し、ゴルトレス帝国は1票しか持たないことになります。

 それに拒否権を行使すればゴルトレス帝国に不利な裁定や条約を潰すことも可能です。

「なるほど、拒否権か?どうじゃ諸国の王よ。」

 灰色の狼さまの問いかけに対し全ての国の代表者が同意しました。

 たぶんお父様のことですから、ゴルトレス帝国を落とす切り札として拒否権については考えていたことでしょう。

 それを提案する前に、自ら提唱してくるとはさすがにゴルトレス帝国を統べ、世界への覇権を狙う女帝だけのことはあります。

 しかしここからはきっと表にはでない冷たい戦争が始まる事でしょう。

 今回の件でゴルトレス帝国のウィンディア王国憎しとの気持ちは、高まるでしょうし、どれだけ多くの国を自分の派閥に付けるかの戦争がはじまります。

 でもきっとレイはそういうことが得意です。発展途上国に資金援助しながら、援助金以上の利益還元を受け取るのは、お手の物でしょうから。
 
 国際連盟発足と、併合国が再び独立国となる可能性が伝わると、特に圧制に泣いていた民は狂喜乱舞しましたし。大国の民は和平は喜んだものの、騎士さまがたには不満がでてきました。

 命をかけて切り取った国を、ただでくれてやるのですから、不満にならない筈はありません。

 しかしその不満も新たに独立する国々にたいして、独立の支援を目的とした進駐軍派遣の勅命がでると、潮がひくようにおさまりました。

 だって自国にいるよりも、2階級特進できるうえに自国ではもてない権力が振るえるのです。
 騎士さま方はうって代わってお父様を褒めたたえました。

 しかしお父様を侮ってはいけません。人を選別するのは権力を持たせてみることです。
 赴任地での振る舞いが、騎士さまがたの今後に大きく影響を与える事でしょう。

 それに密かに視察員を派遣しないお父様ではありませんよ。
 進駐軍の不人気はそのままウィンディア王国の不満となってしまうのですから。
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