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天空の飛行
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あの世界和平会議が終了した日、ムラサキさまがいきなり、私の自室をたずねてきました。
「悪かったわね、カナリア」
ムラサキさまは、ちょっとぶっきらぼうにそう言いました。まるで怒ってでもいるみたいに見えてしまいますよ。
相変わらずのツン属性は健在のようですね。
「気にしてないわ、ムラサキさま。それより聞きましたわ。婚約おめでとうございます。ミドリさまとお幸せにね。」
「まぁ、ミドリがどうしてもって言うからさ。正式に婚約することにした訳さ。」
ムラサキさまは相変わらず素直ではありません。けれどもうっすらと頬が赤くなったのは誤魔化すことはできませんよ、ムラサキさま。
そんなムラサキさまが私には、とてもとても可愛らしく見えました。
「なぁ、カナリア、夕べ癒しのフルートを吹いてたろう。私はいつも人を治療するばかりで、自分が癒されたことなんてなかったからな。なんかさ、お前のフルートを聞いているとさ、夕べは少し自分の力もいいもんだなぁって、思っちまったんだよ。」
少し遠い目をしてムラサキさまは言いました。ずっと戦争ばかりしていたこの国で、ムラサキさまは、少し疲れていたのかもしれません。
ムラサキさまは私と違って、いつも戦争の最前線に立っていたに違いないのです。だってムラサキさまには、防御の力があるからです。
敵兵から自国の兵を守るために戦ったムラサキさまには、聖女ごっこをしている私は、あまりにも甘ったれた娘に見えていたことでしょう。
それなのに、そんなことは一言だって、喋らないムラサキさまは、やっぱりいい女だと思います。
ミドリさまが惚れる訳ですよね。
そんな方だからこそ、ちょっと意地悪なことを言っても、私はムラサキさまを信用できるんですよ。
「ムラサキさま、明日はもう私たちはこの国を出発します。」
そうなんです。国際連盟が発足したことで、各国ともにやるべきことが山積みになっています。まして後手に回ったゴルトレス帝国は、招待客などにかまう余裕がなくなってしまいました。
予定されていた式典は全てキャンセルとなり、私たち他国の者は、明日にはゴルトレス帝国を離れるように要請されていたのです。
「だからねムラサキさま、提案なんですけど今夜、私たち2人で一緒に演奏しませんか。2人で癒しの唄を奏でましょうよ。次にいつムラサキさまにお会いできるかわからないでしょう?だから私は、ムラサキさまと一緒に癒しを行ってみたいんです。」
「お前。」
ムラサキさまは絶句しましたが、やがて面白そうな顔をして、
「変わったやつだなぁ、カナリア。よしその座興乗ってやろうじゃないか。霊獣2人の合同演奏か。どうなるか見ものだな。」
心なしかムラサキさまが嬉しそうに見えたのは、私の気のせいじゃないと信じたいです。
その夜、私とムラサキさまの姿は、お城の一番高い塔の上にありました。
「お前は飛べねぇんだろう。カナリア。安心しろ。もし落っこちたら私が助けてやるよ。一応お前も客だからな。」
そう言ってムラサキさまは笑っていますが、ここは塔の屋根の上、それこそてっぺんなのです。下を向いたら足ががくがく震えてしまいます。
「さぁ、始めろカナリア。」
ムラサキさまの合図で、私は緩やかな曲を奏で始めました。ムラサキさまは、静かに曲に耳を傾けていましたが、やがて即興の唄を歌いはじめます。
凄い声量です。全く打ち合わせしていなかったのに、ムラサキさまは私の曲に綺麗に自分の声をあわせていきました。
ムラサキさまの霊力と私の霊力が綺麗に重なって、夜空にオーロラのような薄紫の帯が漂よいはじめました。
綺麗だなぁ、私はフルートに命を吹き込みながら、天空に広がる神秘のオーロラを見つめていました。
ふっと気づくをムラサキさまが、いたずらっ子みたいな目をこちらに向けています。
フルートを手放して、「ムラサキさま?」と声をかけると、ムラサキさまが突然私を塔から突き落としました。
「夜空の旅を楽しんでおいで、じゃあねカナリア!」
ムラサキさまの楽しそうな声が聞こえました。
私の身体はぐんぐんと地面に吸い込まれていきます。
ムラサキさま、いったいどうして!私は落下の恐怖でもう少しでパニックになるところでした。
ところがその時、ふわっと私の身体が浮き上がり、私は青い竜の背中に乗っていました。
「ノリス!」私が叫ぶと、
「君の保護者殿から面会禁止を言い渡されてね。しばらく会えなくなる。最後の夜だ。夜空の散歩としゃれこもう。」ノリスはとても愉快そうにそう言いました。
ああ、だからムラサキさまは楽しんでって言ったんだ。
私とノリスはゴルトレスにどこまでも広がる草原を、のびのびと飛び回っていました。
天幕を守る兵士たちが、夜空を染めたオーロラと天を飛ぶ竜に大騒ぎしていたことなんて少しもしりませんでした。
濃紺の空、柔らかな金の月、穏やかな風、ゴルトレスの夜空の旅は、気が付かないうちに溜まっていた、私の澱をすべて溶かしていくようでした。
私たちはまるで夢の世界で遊んでいるかのように、天空の飛行をたっぷりと満喫していたのです。
うっかりしていましたね。ここのお城にはお父様とレイも一緒にいたんでした。
額にピキピキと筋を浮かべながら、レイがねちねちと嫌味を連発します。
「なるほどね、わざわざ敵性国で、ナナはあろうことかゴルトレスの霊獣と組んで夜空にオーロラを浮かべるという奇跡をおこし、その上各国の兵が集合している天幕の上を竜に乗って呑気に飛び回って遊んだと、そう言うんだな。」
なんか、そーいう言い方だと、すごく馬鹿みたいに聞こえるんですけど……。
「馬鹿者!」
お父様が、叫びました。
正座させられているのは、私とノリスです。
ノリスは顔が赤くなったり青くなったりしていますが、正座に慣れていないので、すでに足が惨いことになっているのでしょう。
ひとりでも大変なのに、2人がかりのお説教です。
メリーベルが、姫さまはそろそろ出立のお仕度がございます。と、呼びにきました。
グッジョブ!メリーベル。
「わかった、このバカ娘の馬車に、私も同乗する。私とレイの馬は兵に引かせろ。レイお前も言い足りぬだろうから同乗しろ、続きは馬車の中でじっくりしてやる。」
助けはきませんでした。
最後にお父様は、ノリスに向かって
「うちのお子様の守護者になる気なら、少しは大人になれ。今日のことは砂漠の長に厳重に抗議しておくからな!」
と、きっぱり宣言したのでノリスは、回復不能までダメージを受けていました。
きっと砂漠の長さまと爺とのダブル説教コースが待っていますよ。ノリスもご愁傷さま。
こうして煌びやかなウィンディア王国の軍と共に、粛々と進むレティシア王女の馬車の中で、王とレイが頭を抱ええながら王女に説教していたとは、きっと誰も思わなかったでしょうね。
「悪かったわね、カナリア」
ムラサキさまは、ちょっとぶっきらぼうにそう言いました。まるで怒ってでもいるみたいに見えてしまいますよ。
相変わらずのツン属性は健在のようですね。
「気にしてないわ、ムラサキさま。それより聞きましたわ。婚約おめでとうございます。ミドリさまとお幸せにね。」
「まぁ、ミドリがどうしてもって言うからさ。正式に婚約することにした訳さ。」
ムラサキさまは相変わらず素直ではありません。けれどもうっすらと頬が赤くなったのは誤魔化すことはできませんよ、ムラサキさま。
そんなムラサキさまが私には、とてもとても可愛らしく見えました。
「なぁ、カナリア、夕べ癒しのフルートを吹いてたろう。私はいつも人を治療するばかりで、自分が癒されたことなんてなかったからな。なんかさ、お前のフルートを聞いているとさ、夕べは少し自分の力もいいもんだなぁって、思っちまったんだよ。」
少し遠い目をしてムラサキさまは言いました。ずっと戦争ばかりしていたこの国で、ムラサキさまは、少し疲れていたのかもしれません。
ムラサキさまは私と違って、いつも戦争の最前線に立っていたに違いないのです。だってムラサキさまには、防御の力があるからです。
敵兵から自国の兵を守るために戦ったムラサキさまには、聖女ごっこをしている私は、あまりにも甘ったれた娘に見えていたことでしょう。
それなのに、そんなことは一言だって、喋らないムラサキさまは、やっぱりいい女だと思います。
ミドリさまが惚れる訳ですよね。
そんな方だからこそ、ちょっと意地悪なことを言っても、私はムラサキさまを信用できるんですよ。
「ムラサキさま、明日はもう私たちはこの国を出発します。」
そうなんです。国際連盟が発足したことで、各国ともにやるべきことが山積みになっています。まして後手に回ったゴルトレス帝国は、招待客などにかまう余裕がなくなってしまいました。
予定されていた式典は全てキャンセルとなり、私たち他国の者は、明日にはゴルトレス帝国を離れるように要請されていたのです。
「だからねムラサキさま、提案なんですけど今夜、私たち2人で一緒に演奏しませんか。2人で癒しの唄を奏でましょうよ。次にいつムラサキさまにお会いできるかわからないでしょう?だから私は、ムラサキさまと一緒に癒しを行ってみたいんです。」
「お前。」
ムラサキさまは絶句しましたが、やがて面白そうな顔をして、
「変わったやつだなぁ、カナリア。よしその座興乗ってやろうじゃないか。霊獣2人の合同演奏か。どうなるか見ものだな。」
心なしかムラサキさまが嬉しそうに見えたのは、私の気のせいじゃないと信じたいです。
その夜、私とムラサキさまの姿は、お城の一番高い塔の上にありました。
「お前は飛べねぇんだろう。カナリア。安心しろ。もし落っこちたら私が助けてやるよ。一応お前も客だからな。」
そう言ってムラサキさまは笑っていますが、ここは塔の屋根の上、それこそてっぺんなのです。下を向いたら足ががくがく震えてしまいます。
「さぁ、始めろカナリア。」
ムラサキさまの合図で、私は緩やかな曲を奏で始めました。ムラサキさまは、静かに曲に耳を傾けていましたが、やがて即興の唄を歌いはじめます。
凄い声量です。全く打ち合わせしていなかったのに、ムラサキさまは私の曲に綺麗に自分の声をあわせていきました。
ムラサキさまの霊力と私の霊力が綺麗に重なって、夜空にオーロラのような薄紫の帯が漂よいはじめました。
綺麗だなぁ、私はフルートに命を吹き込みながら、天空に広がる神秘のオーロラを見つめていました。
ふっと気づくをムラサキさまが、いたずらっ子みたいな目をこちらに向けています。
フルートを手放して、「ムラサキさま?」と声をかけると、ムラサキさまが突然私を塔から突き落としました。
「夜空の旅を楽しんでおいで、じゃあねカナリア!」
ムラサキさまの楽しそうな声が聞こえました。
私の身体はぐんぐんと地面に吸い込まれていきます。
ムラサキさま、いったいどうして!私は落下の恐怖でもう少しでパニックになるところでした。
ところがその時、ふわっと私の身体が浮き上がり、私は青い竜の背中に乗っていました。
「ノリス!」私が叫ぶと、
「君の保護者殿から面会禁止を言い渡されてね。しばらく会えなくなる。最後の夜だ。夜空の散歩としゃれこもう。」ノリスはとても愉快そうにそう言いました。
ああ、だからムラサキさまは楽しんでって言ったんだ。
私とノリスはゴルトレスにどこまでも広がる草原を、のびのびと飛び回っていました。
天幕を守る兵士たちが、夜空を染めたオーロラと天を飛ぶ竜に大騒ぎしていたことなんて少しもしりませんでした。
濃紺の空、柔らかな金の月、穏やかな風、ゴルトレスの夜空の旅は、気が付かないうちに溜まっていた、私の澱をすべて溶かしていくようでした。
私たちはまるで夢の世界で遊んでいるかのように、天空の飛行をたっぷりと満喫していたのです。
うっかりしていましたね。ここのお城にはお父様とレイも一緒にいたんでした。
額にピキピキと筋を浮かべながら、レイがねちねちと嫌味を連発します。
「なるほどね、わざわざ敵性国で、ナナはあろうことかゴルトレスの霊獣と組んで夜空にオーロラを浮かべるという奇跡をおこし、その上各国の兵が集合している天幕の上を竜に乗って呑気に飛び回って遊んだと、そう言うんだな。」
なんか、そーいう言い方だと、すごく馬鹿みたいに聞こえるんですけど……。
「馬鹿者!」
お父様が、叫びました。
正座させられているのは、私とノリスです。
ノリスは顔が赤くなったり青くなったりしていますが、正座に慣れていないので、すでに足が惨いことになっているのでしょう。
ひとりでも大変なのに、2人がかりのお説教です。
メリーベルが、姫さまはそろそろ出立のお仕度がございます。と、呼びにきました。
グッジョブ!メリーベル。
「わかった、このバカ娘の馬車に、私も同乗する。私とレイの馬は兵に引かせろ。レイお前も言い足りぬだろうから同乗しろ、続きは馬車の中でじっくりしてやる。」
助けはきませんでした。
最後にお父様は、ノリスに向かって
「うちのお子様の守護者になる気なら、少しは大人になれ。今日のことは砂漠の長に厳重に抗議しておくからな!」
と、きっぱり宣言したのでノリスは、回復不能までダメージを受けていました。
きっと砂漠の長さまと爺とのダブル説教コースが待っていますよ。ノリスもご愁傷さま。
こうして煌びやかなウィンディア王国の軍と共に、粛々と進むレティシア王女の馬車の中で、王とレイが頭を抱ええながら王女に説教していたとは、きっと誰も思わなかったでしょうね。
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