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アンバー公子の結婚式
王都の館に入ってから、ナオはロビンと食事を共にするどころか、姿を見ることすらなくなってしまいました。
ロビンがきたるべきアトラス王国からの侵攻に備えて、どれだけ忙しいのかはよくわかります。
それでもナオは広いベッドの片側に、寝た形跡すらない日々が続くと少し寂しくなってしまうのです。
そうしてあのプレシュス城での1日を捻出するのに、どれだけロビンが気を使ってくれたかがわかって、密かに感謝するのでした。
いよいよアンバー公子の結婚式当日の朝、今日も空っぽのベッドを見て、ナオの不安は高まります。
まさかいくら何でも、今日はロビンはエスコートしてくれるはずなのですが……。
「若奥様、そんなに心配なさらなくても、殿方のお仕度は、女とは比べ物にならないくらい手早く済みますからね。今日は社交界デビューなのですから、気合を入れてお仕度をいたしましょう」
相変わらずアンジェはとても元気です。
ナオは慌てて注意をしました。
「今日の主役は花嫁なのだから、万事控えめにお仕度してくださいね。私はデビュッタントの娘ではないのですから」
それを聞くとアンジェはとても残念そうでしたが、最初に用意した華やかなピンクのガウンではなく、ブルーを基調としたガウンを持ってきました。
娘らしい華やかさはありませんが、既婚者らしい落ち着きのあるドレスです。
まだ若いナオの少女めいた美しさは影をひそめ、清楚で落ち着いた少し大人びた印象を与えます。
「確かに、こちらの方が、女性受けはしそうですね。ロッテさまもこれなら安心して受け入れてくれるでしょう」
リムはそう言って褒めてくれますが、言葉の端々にリムが王都の社交界の事情に明るいことが透けて見えます。
「リム、どうしても今日の結婚式には付き添ってくれないの?」
「今日のような華やかな場所では、アンジェの付き添いの方が場が華やいでよろしいのですよ。私は見ての通りおばあさんですからね。私は気難し屋の年配の夫人のお茶会だったら付き添わせていただきますよ」
リムはそんな冗談を言いましたが、きっと今日集まる人々の中に、リムの知り合いがいるのでしょう。
ナオは大人しくアンジェに付き添ってもらうことにしました。
「ほう、私の奥方さまは、立派な貴婦人になったようだな。ナオ、とても美しいよ」
そう言いながら入って来たロビンは、既に第一礼装をぴしりと着こなしていました。
正装姿のロビンを久々に見て、ナオは思わずロビンに抱き着いてしまいました。
「あぁロビン。やっと会えたのね。もし今日も会えなければどうしようかと思ったわ」
「大げさだね、ナオは。今日は僕がエスコートするに決まっているじゃないか。ナオの社交界デビューなんだからね。それにしても随分と地味なガウンを選んだんだね」
「だって今日の花嫁は、メラニー・ロレイン・ソン伯爵令嬢ですもの。私が出しゃばってはいけませんわ」
「確かにメラニーと言えば赤毛とそばかすの元気なお嬢さんだったなぁ。生き生きとした愛らしいお嬢さんだが、美人とはいいがたい。確かにそのくらいがちょどよいだろうね」
なんだか随分な言いようのロビンに、思わずナオはメラニーをかばいました。
「私が聞くところによると、とてもお美しいお方みたいですわよ。それに歯に衣きせぬ率直なご令嬢だと伺っていますから、私と気が合うかもしれませんわよ」
それを聞いてロビンはにやっとしました。
「確かにね。アンバーの好みはどうやら元気で活発なお嬢様らしいからね。君とメラニーはある意味そっくりさ。特にお転婆なところがさ」
ロビンの軽口にナオが言い返そうとしたところで、ちょうど馬車の前についてしまいました。
ロビンはうやうやしく、ナオを馬車へとエスコートしたので、その態度に免じてナオはロビンの暴言を許すことにしたのです。
王都の大神殿での厳かな挙式のあと、華やかな結婚披露パーティがマクギネス公爵邸で開催されました。
この結婚披露パーティには、有力な貴族は全員招待されています。
ロビンは溢れかえった人並みの中から、セディことセドリック・エルグラント・ウィンテスター伯爵とその婚約者のシャルロット・ローゼ・シンクレイヤ侯爵令嬢の姿を見つけだしました。
「セディ、ロッテ。久しぶりだな。結婚祝いを届けてくれてありがとう。さすがに魔道具はセディのが一番だからなぁ。ありがたいよ」
ロビンはさっそくセディに話しかけました。
「やぁ、ロビン。結婚おめでとう。君たちの結婚式に出席できなくて残念だったよ。父上から良い式だったと聞いているよ。ナオもおめでとう」
セディは屈託なく、ロビンの挨拶を受け入れて楽し気に談笑をしています。
セディの菫色の髪や青銀色の瞳と、ロビンの水色の髪と紫の瞳は、どこか似ているように見えます。
やはり元をただせば同じ一族なのでしょう。
ナオは黙って大人しく控えていましたが、頃合いを見計らって、ロビンがロッテにお願いをしました。
「ロッテ、ナオは社交界は初めてで少し疲れているようでな。 マクギネス家の美しい庭園ですこし休息させてやってくれないか?」
「はい、ロビン先生」
ロッテは素直に頷いて ナオを、つるバラに囲われた綺麗な東屋に案内します。
東屋にも給仕の人が控えているので、ロッテはコーヒーをお願いしてナオと2人でテーブルに着きました。
テーブルについてすぐにナオはロッテに謝罪しました。
「ロッテ、私、あなたに意地悪をしたわ。ごめんなさい。てっきりロッテが私を排除しようとしていると思い込んでしまったの」
「いいのよ。ナオを見ていると、今とても満ち足りているのがわかるわ。あの頃のナオは、見知らぬ場所に落とされて、その犯人がセディみたいな能天気な奴で、恨むのも理解できるわ。私たち、ちゃんと本音で話すべきだった。正直に言うわね。私、ナオに嫉妬していたのよ」
「ロッテが私に嫉妬? なんの冗談よ。あの頃ロッテは全部持っていたわ。恋人も地位も友人も。私には何もなかった。私の側にいるのは、私を利用してうまい汁を吸おうとする人たちだけ。私こそあなたに嫉妬して、あなたの評判をズタズタにしてやりたかったわ」
「そうねぇ。そうかもしれないけれどねナオ。ナオには天性の明るさと、一目で人を魅了する魅力があったわ。私は平凡で地味で、だからあなたに憧れたし嫉妬したのよ」
「おかしなものねぇ。ロッテ。二人ともない物ねだりをしていたのね」
「そうね、ナオ。ロビン先生が私たちのことで面白い表現をしていたわ。陰陽の姫ってね。私たちってお互いに全然似ていないけれど、共に異界から呼ばれたのよ。きっと2人は似ているのよ」
「似ているとわ思えないけれどもね。ロッテはお人よしで、私は猜疑心が強い。私がロッテを信じなかったのは、無償で人を援助する訳ないと思ったからよ」
「でも、ナオは今、私を信頼してくれているのでしょう。ナオはロビン先生を信頼しているから、ロビン先生が信用している私のことも信じてくれるつもり」
「ロッテ、人の気持ちを読むのはやめてよ。そういうところはやっぱりおばさんだわ」
「はぁー。しかたないよ。ナオに比べれば私はおばさんだもんね。でもそれを言ったらミリーをみたらびっくりするわよ」
ナオとロッテはすっかり打ち解けて話し込んでしまっていましたが、やがてロッテが言いました。
「ナオ、いいえ、アイリーン・ナオ・プレシュス辺境伯夫人。そろそろパーティ会場に戻りましょう。ディやリリーに紹介するわ」
「ええ、シャルロット・ローゼ・シンクレイヤ侯爵令嬢。よろしくお願いします」
「まぁ、ナオ。今ではあなたの方がずっと身分が上なのよ。何といってもプレシュス家と言えば王家に匹敵する名家なんですからね」
「はぁーん。いいことロッテ。私はずっと底辺を這いずっていたナオさまなのよ。身分なんてくそくらえよ」
「はい、はい。今の発言はロビンには内緒にしておいてあげるわよ」
「まったく。なんで私はロッテに逆らおうと思ったんだろうなぁ。昔に戻れたら自分の頭を殴ってでもとめたのに」
ナオは心底ロッテにはかなわないなぁと思うのでした。
パーティ会場に戻ってみると、人々にもみくちゃにされるのに疲れ切ったらしい主役のメラニーは、とうとう休憩室に逃げ込んでしまったようです。
休憩室に行ってみると、『お話の学び舎』ソサエティーのメンバーが勢ぞろいしていました。
メラニーは結婚衣装のベールを外していますが、ベール代わりのティアラが赤毛をより美しく見せています
「メラニー。結婚おめでとう! うっとりするぐらいきれいだわ。こちらアイリーン・ナオ・プレシュス辺境伯夫人よ。同じ高位貴族同士。仲良くして差し上げてね」
「ナオ。こちらが今回の主役、メラニー・ロレイン・シンノット侯爵夫人。次代のマクギネス公爵夫人よ」
ロッテが紹介役を買ってでてくれました。
「はじめまして! ロッテの友達なら私にも友達よ。メラニーと呼んでね」
「結婚おめでとう。メラニー。私のことはナオと呼んで下さい」
「私はディよ」
「エンジェルよ」
「シャナと呼んでください」
『お話の学び舎』ソサエティーのメンバーとナオはすぐに打ち解けました。
特にメラニーとナオは、お互いに意気投合していましたが、高位貴族の奥方が2人揃って元気系というのも面白いものです。
どうやらロビン先生の策略は、ここでも狙い通りにうまく成功したようです。
『お話の学び舎』ソサエティーのメンバーを取り込んだナオは、社交界デビューに成功しました。
「私、リリーに挨拶してくるけれどナオはどうする?」
ロッテは色々と忙しいようです。
「義妹への紹介なら私がするわ。ロッテは先に挨拶してらっしゃいな」
すっかりナオが気に入ったらしいメラニーがそう言ってくれたので、ナオは後でメラニーにリリーを紹介してもらうことにしました。
ロッテとディは一緒にリリーのところに行ってしまいました。
なんでもディーもリリーのサロンのメンバーなんですって。
社交界ってどのサロンのメンバーであるとか、どこのソサエティーに入会しているかで、その地位が決まるので、 貴族令嬢や貴族夫人たちも、安閑とはしていられないのです。
「ねぇ、ナオ。あなたも『お放しの学び舎』ソサエティーに入会しなさいよ。私が推薦者になってあげるわ」
メラニーはいきなりそんな事を言い出しました。
「そうなさいな。私たちも推薦するから」
エンジェルやシャナも喜んで賛同します。
「ありがとう。試験に受かるかどうかわからねいけれど、私も皆さんの仲間に入りたいわ」
ナオがそう言えば、メラニーたちも大喜びしてくれました。
「さぁ、じゃぁそろそろ私の義妹になったリリアナに紹介するわ。未来の王太子妃には、きちんと挨拶をしておかないとね」
メラニーに連れられてリリーの所にいけば、リリーは大勢の取りまきに囲まれています。
メラニーとナオの姿を見つけた、ロッテとディが席を譲ってくれたので、ナオはゆっくりとリリーに紹介してもらうことができました。
「リリアナ、こちらアイリーン・ナオ・プレシュス辺境伯夫人です。ナオ、こちらが未来の王太子妃であり、私の義妹のリリアナ・メンドーサ・マクギネス公爵令嬢よ」
「久しぶりねナオ。こうしてみると立派な貴婦人だわ。見違えたわよ」
「リリアナさま。無礼な振る舞いの数々、どうぞお許し下さい」
ナオは冷や汗を垂らしていました。
貴族夫人として教育を受けた今では、過去の自分の言動はあまりにも不作法だったからです。
リリアナはそんなナオの様子を見ると、にっこりとしました。
「成長する人は、私も好きだわ。これからよろしくねナオ」
「はい。ありがとうございます」
ナオはロッテやリリーに謝罪することができ、無事に社交界に受け入れて貰えたのです。
ナオはほっとすると、ロビンに首尾を報告したくなり、早々にリリーの元をおいとましました。
ナオがひとりになるとすぐにアンジェが側にやってきました。
ロビンさまは、まだ御用がおありのようです。
馬車を待たせているので、先に帰るようにとのことです。
その伝言を聞いてがっかりしましたが、ナオは主催者であるアンバー公子とメラニーに辞去の挨拶をして、アンジェと2人で邸に帰っていきます。
ナオが目に見えてしょんぼりしているので、アンジェは慰める言葉がありませんでした。
バルザック将軍はどうやら既に近隣諸国をいくつか併合してしまったのです。
この状況下では、ナオはしばらく寂しい思いをすることでしょう。
ロビンがきたるべきアトラス王国からの侵攻に備えて、どれだけ忙しいのかはよくわかります。
それでもナオは広いベッドの片側に、寝た形跡すらない日々が続くと少し寂しくなってしまうのです。
そうしてあのプレシュス城での1日を捻出するのに、どれだけロビンが気を使ってくれたかがわかって、密かに感謝するのでした。
いよいよアンバー公子の結婚式当日の朝、今日も空っぽのベッドを見て、ナオの不安は高まります。
まさかいくら何でも、今日はロビンはエスコートしてくれるはずなのですが……。
「若奥様、そんなに心配なさらなくても、殿方のお仕度は、女とは比べ物にならないくらい手早く済みますからね。今日は社交界デビューなのですから、気合を入れてお仕度をいたしましょう」
相変わらずアンジェはとても元気です。
ナオは慌てて注意をしました。
「今日の主役は花嫁なのだから、万事控えめにお仕度してくださいね。私はデビュッタントの娘ではないのですから」
それを聞くとアンジェはとても残念そうでしたが、最初に用意した華やかなピンクのガウンではなく、ブルーを基調としたガウンを持ってきました。
娘らしい華やかさはありませんが、既婚者らしい落ち着きのあるドレスです。
まだ若いナオの少女めいた美しさは影をひそめ、清楚で落ち着いた少し大人びた印象を与えます。
「確かに、こちらの方が、女性受けはしそうですね。ロッテさまもこれなら安心して受け入れてくれるでしょう」
リムはそう言って褒めてくれますが、言葉の端々にリムが王都の社交界の事情に明るいことが透けて見えます。
「リム、どうしても今日の結婚式には付き添ってくれないの?」
「今日のような華やかな場所では、アンジェの付き添いの方が場が華やいでよろしいのですよ。私は見ての通りおばあさんですからね。私は気難し屋の年配の夫人のお茶会だったら付き添わせていただきますよ」
リムはそんな冗談を言いましたが、きっと今日集まる人々の中に、リムの知り合いがいるのでしょう。
ナオは大人しくアンジェに付き添ってもらうことにしました。
「ほう、私の奥方さまは、立派な貴婦人になったようだな。ナオ、とても美しいよ」
そう言いながら入って来たロビンは、既に第一礼装をぴしりと着こなしていました。
正装姿のロビンを久々に見て、ナオは思わずロビンに抱き着いてしまいました。
「あぁロビン。やっと会えたのね。もし今日も会えなければどうしようかと思ったわ」
「大げさだね、ナオは。今日は僕がエスコートするに決まっているじゃないか。ナオの社交界デビューなんだからね。それにしても随分と地味なガウンを選んだんだね」
「だって今日の花嫁は、メラニー・ロレイン・ソン伯爵令嬢ですもの。私が出しゃばってはいけませんわ」
「確かにメラニーと言えば赤毛とそばかすの元気なお嬢さんだったなぁ。生き生きとした愛らしいお嬢さんだが、美人とはいいがたい。確かにそのくらいがちょどよいだろうね」
なんだか随分な言いようのロビンに、思わずナオはメラニーをかばいました。
「私が聞くところによると、とてもお美しいお方みたいですわよ。それに歯に衣きせぬ率直なご令嬢だと伺っていますから、私と気が合うかもしれませんわよ」
それを聞いてロビンはにやっとしました。
「確かにね。アンバーの好みはどうやら元気で活発なお嬢様らしいからね。君とメラニーはある意味そっくりさ。特にお転婆なところがさ」
ロビンの軽口にナオが言い返そうとしたところで、ちょうど馬車の前についてしまいました。
ロビンはうやうやしく、ナオを馬車へとエスコートしたので、その態度に免じてナオはロビンの暴言を許すことにしたのです。
王都の大神殿での厳かな挙式のあと、華やかな結婚披露パーティがマクギネス公爵邸で開催されました。
この結婚披露パーティには、有力な貴族は全員招待されています。
ロビンは溢れかえった人並みの中から、セディことセドリック・エルグラント・ウィンテスター伯爵とその婚約者のシャルロット・ローゼ・シンクレイヤ侯爵令嬢の姿を見つけだしました。
「セディ、ロッテ。久しぶりだな。結婚祝いを届けてくれてありがとう。さすがに魔道具はセディのが一番だからなぁ。ありがたいよ」
ロビンはさっそくセディに話しかけました。
「やぁ、ロビン。結婚おめでとう。君たちの結婚式に出席できなくて残念だったよ。父上から良い式だったと聞いているよ。ナオもおめでとう」
セディは屈託なく、ロビンの挨拶を受け入れて楽し気に談笑をしています。
セディの菫色の髪や青銀色の瞳と、ロビンの水色の髪と紫の瞳は、どこか似ているように見えます。
やはり元をただせば同じ一族なのでしょう。
ナオは黙って大人しく控えていましたが、頃合いを見計らって、ロビンがロッテにお願いをしました。
「ロッテ、ナオは社交界は初めてで少し疲れているようでな。 マクギネス家の美しい庭園ですこし休息させてやってくれないか?」
「はい、ロビン先生」
ロッテは素直に頷いて ナオを、つるバラに囲われた綺麗な東屋に案内します。
東屋にも給仕の人が控えているので、ロッテはコーヒーをお願いしてナオと2人でテーブルに着きました。
テーブルについてすぐにナオはロッテに謝罪しました。
「ロッテ、私、あなたに意地悪をしたわ。ごめんなさい。てっきりロッテが私を排除しようとしていると思い込んでしまったの」
「いいのよ。ナオを見ていると、今とても満ち足りているのがわかるわ。あの頃のナオは、見知らぬ場所に落とされて、その犯人がセディみたいな能天気な奴で、恨むのも理解できるわ。私たち、ちゃんと本音で話すべきだった。正直に言うわね。私、ナオに嫉妬していたのよ」
「ロッテが私に嫉妬? なんの冗談よ。あの頃ロッテは全部持っていたわ。恋人も地位も友人も。私には何もなかった。私の側にいるのは、私を利用してうまい汁を吸おうとする人たちだけ。私こそあなたに嫉妬して、あなたの評判をズタズタにしてやりたかったわ」
「そうねぇ。そうかもしれないけれどねナオ。ナオには天性の明るさと、一目で人を魅了する魅力があったわ。私は平凡で地味で、だからあなたに憧れたし嫉妬したのよ」
「おかしなものねぇ。ロッテ。二人ともない物ねだりをしていたのね」
「そうね、ナオ。ロビン先生が私たちのことで面白い表現をしていたわ。陰陽の姫ってね。私たちってお互いに全然似ていないけれど、共に異界から呼ばれたのよ。きっと2人は似ているのよ」
「似ているとわ思えないけれどもね。ロッテはお人よしで、私は猜疑心が強い。私がロッテを信じなかったのは、無償で人を援助する訳ないと思ったからよ」
「でも、ナオは今、私を信頼してくれているのでしょう。ナオはロビン先生を信頼しているから、ロビン先生が信用している私のことも信じてくれるつもり」
「ロッテ、人の気持ちを読むのはやめてよ。そういうところはやっぱりおばさんだわ」
「はぁー。しかたないよ。ナオに比べれば私はおばさんだもんね。でもそれを言ったらミリーをみたらびっくりするわよ」
ナオとロッテはすっかり打ち解けて話し込んでしまっていましたが、やがてロッテが言いました。
「ナオ、いいえ、アイリーン・ナオ・プレシュス辺境伯夫人。そろそろパーティ会場に戻りましょう。ディやリリーに紹介するわ」
「ええ、シャルロット・ローゼ・シンクレイヤ侯爵令嬢。よろしくお願いします」
「まぁ、ナオ。今ではあなたの方がずっと身分が上なのよ。何といってもプレシュス家と言えば王家に匹敵する名家なんですからね」
「はぁーん。いいことロッテ。私はずっと底辺を這いずっていたナオさまなのよ。身分なんてくそくらえよ」
「はい、はい。今の発言はロビンには内緒にしておいてあげるわよ」
「まったく。なんで私はロッテに逆らおうと思ったんだろうなぁ。昔に戻れたら自分の頭を殴ってでもとめたのに」
ナオは心底ロッテにはかなわないなぁと思うのでした。
パーティ会場に戻ってみると、人々にもみくちゃにされるのに疲れ切ったらしい主役のメラニーは、とうとう休憩室に逃げ込んでしまったようです。
休憩室に行ってみると、『お話の学び舎』ソサエティーのメンバーが勢ぞろいしていました。
メラニーは結婚衣装のベールを外していますが、ベール代わりのティアラが赤毛をより美しく見せています
「メラニー。結婚おめでとう! うっとりするぐらいきれいだわ。こちらアイリーン・ナオ・プレシュス辺境伯夫人よ。同じ高位貴族同士。仲良くして差し上げてね」
「ナオ。こちらが今回の主役、メラニー・ロレイン・シンノット侯爵夫人。次代のマクギネス公爵夫人よ」
ロッテが紹介役を買ってでてくれました。
「はじめまして! ロッテの友達なら私にも友達よ。メラニーと呼んでね」
「結婚おめでとう。メラニー。私のことはナオと呼んで下さい」
「私はディよ」
「エンジェルよ」
「シャナと呼んでください」
『お話の学び舎』ソサエティーのメンバーとナオはすぐに打ち解けました。
特にメラニーとナオは、お互いに意気投合していましたが、高位貴族の奥方が2人揃って元気系というのも面白いものです。
どうやらロビン先生の策略は、ここでも狙い通りにうまく成功したようです。
『お話の学び舎』ソサエティーのメンバーを取り込んだナオは、社交界デビューに成功しました。
「私、リリーに挨拶してくるけれどナオはどうする?」
ロッテは色々と忙しいようです。
「義妹への紹介なら私がするわ。ロッテは先に挨拶してらっしゃいな」
すっかりナオが気に入ったらしいメラニーがそう言ってくれたので、ナオは後でメラニーにリリーを紹介してもらうことにしました。
ロッテとディは一緒にリリーのところに行ってしまいました。
なんでもディーもリリーのサロンのメンバーなんですって。
社交界ってどのサロンのメンバーであるとか、どこのソサエティーに入会しているかで、その地位が決まるので、 貴族令嬢や貴族夫人たちも、安閑とはしていられないのです。
「ねぇ、ナオ。あなたも『お放しの学び舎』ソサエティーに入会しなさいよ。私が推薦者になってあげるわ」
メラニーはいきなりそんな事を言い出しました。
「そうなさいな。私たちも推薦するから」
エンジェルやシャナも喜んで賛同します。
「ありがとう。試験に受かるかどうかわからねいけれど、私も皆さんの仲間に入りたいわ」
ナオがそう言えば、メラニーたちも大喜びしてくれました。
「さぁ、じゃぁそろそろ私の義妹になったリリアナに紹介するわ。未来の王太子妃には、きちんと挨拶をしておかないとね」
メラニーに連れられてリリーの所にいけば、リリーは大勢の取りまきに囲まれています。
メラニーとナオの姿を見つけた、ロッテとディが席を譲ってくれたので、ナオはゆっくりとリリーに紹介してもらうことができました。
「リリアナ、こちらアイリーン・ナオ・プレシュス辺境伯夫人です。ナオ、こちらが未来の王太子妃であり、私の義妹のリリアナ・メンドーサ・マクギネス公爵令嬢よ」
「久しぶりねナオ。こうしてみると立派な貴婦人だわ。見違えたわよ」
「リリアナさま。無礼な振る舞いの数々、どうぞお許し下さい」
ナオは冷や汗を垂らしていました。
貴族夫人として教育を受けた今では、過去の自分の言動はあまりにも不作法だったからです。
リリアナはそんなナオの様子を見ると、にっこりとしました。
「成長する人は、私も好きだわ。これからよろしくねナオ」
「はい。ありがとうございます」
ナオはロッテやリリーに謝罪することができ、無事に社交界に受け入れて貰えたのです。
ナオはほっとすると、ロビンに首尾を報告したくなり、早々にリリーの元をおいとましました。
ナオがひとりになるとすぐにアンジェが側にやってきました。
ロビンさまは、まだ御用がおありのようです。
馬車を待たせているので、先に帰るようにとのことです。
その伝言を聞いてがっかりしましたが、ナオは主催者であるアンバー公子とメラニーに辞去の挨拶をして、アンジェと2人で邸に帰っていきます。
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※小説家になろうにも掲載中です。