31 / 38
先読みの巫女の災難
しおりを挟む
さすがに軍師ロビンと言うべきか、確かに先読みの巫女には異変が起きていました。
けれどそれはロビンが思っていたのとは、全く違う方向だったのです。
占星術師たちは通称『星巡りの塔』と呼ばれる占星術師の塔の中に、私室を与えられて生活しています。
結婚を機に街に部屋を借りる者がいない訳ではありませんが、占星術師は夜に仕事をして朝日が昇ると眠るという生活をしているので、塔で暮らすほうが便利なのでした。
占星術師になりたいと思う若者は『星巡りの塔』にやってくると、それぞれに師匠について学びながら一人前になっていきます。
そんな占星術師にとっては、9階に暮らすアイザック一族は特別な存在です。
占星術師の長は代々アイザック家が占有していて、誰もそれをおかしいとは思いません。
なぜならアイザック一族は古き王家に仕える一族であり、この一族から稀に『先読み』と言われる未来を視る力を持つ者が生まれるからです。
不思議と先読みの力を持つのは女児に限られているので、そのように未来視の力を持つ娘は先読みの巫女と呼ばれて大事に守護されてきました。
さやさやと風がカーテンを揺らせ、柔らかな朝日がちらちらとベッドの中にも侵入してきたので、ローズマリーは、ふわぁとあくびを洩らしながら起き上がりました。
先読みの巫女であるローズマリーは、夜はぐっすりと眠り朝日と共に目覚めるという一般の人にとっては当たり前でも、星巡りの塔の住人には異端な生活をしています。
それはローズマリーの先読みは、星々が天を彩る真夜中に夢という形で預言されるからでした。
だからローズマリーは朝食の席で長である父親に昨夜の夢見を報告したら、家人の安息を妨げないようにさっさと2階にある先読みの巫女の部屋に降りていくのが常なのです。
「おはよう、ローズマリー。昨夜は良く眠れたかな?」
「おはようございます。お父さま。ぐっすり眠って夢は見ませんでした」
「おはよう、ローズ。あまりふらふらと街を歩きまわらないでね。まぁ治安の良い街だけれども、ローズはおちょこちょいだから心配だわ」
「お母さまったら、心配性ねぇ。私はもう子供じゃないんですからね。昼間の間にしておくことはありますか?」
「そうねぇ。衛士のルッツのお母さまが具合が悪いそうだから、スープでも持ってお見舞いにいっておいてくれるかしら?」
「はい、お母さま。今年の冬は冷えましたからね。年よりには厳しかったのかもしれませね」
星巡りの塔の長は、いかにも大人ぶった返事をする娘を、愛おしそうに見つめました。
ローズマリーは、今年8歳になります。
真っすぐな亜麻色の髪がまだ幼さの残る顔を柔らかに縁取っていますし、そのブルーの瞳も穏やかです。
娘らしくしなやかな肢体を見ると、そろそろこの娘にも似合いの相手を探さなければならないなぁと思って、長は少し辛くなりました。
全くどうして子供というのは、親を置いて大きくなってしまうのでしょうか。
そんな両親におやすみのキスをすると、ローズマリーは、さっさと階段を駆け下りていきます。
3階が観光客用に星巡りのスライドショーを行う場所で、ここには土産物屋や簡易カフエだってあります。
1階から3階までは、街の人々がお勤めしている場所なんです。
だから4階から上のどこか重苦しく陰鬱な占星術師たちの住まいと違って、お日様の光を浴びる人々の世界は明るくて生き生きしていて、ローズマリーは階下に降りるとほっとするのでした。
ローズマリーは真っすぐに自分の部屋に飛び込んでいきました。
占星術師である両親の住む豪華な10階の住まいより、質素でも明るいこの部屋をローズマリーはとても気に入っているのです。
「おい! お前」
ローズマリーが私室の居間に飛び込むなり、男の声がローズマリーを呼びつけました。
じりじりと慎重にローズマリーは出口に向かって、下がっていきます。
どうやって不審者が入り込んだのかはわかりませんが、衛士が警備している星巡りの塔に侵入者がいるなんて、ただ事ではありません。
なんといってもローズマリーは先読みの巫女なのですから、警備は厳重なはずなのです。
「おい、ちょ、待てよ。冗談じゃねぁぞ。子供を襲う趣味なんてもってないからな」
子供と言われてカチンときてしまったローズマリーは、状況もわきまえずに言い返しました。
「ちょっと、私は今年8歳になるんですからね。もう立派なレディよ。子供扱いしないでよ」
「おい、おい。まじかよ。外人ってのは発育がいいねぇ。まさかそんなにガキだとは思わなかったな。これは頼るだけ無駄か。悪かったな嬢ちゃん。好きなとこに行っていいぞ」
とうとうローズマリーは怒りを爆発させました。
「冗談じゃないわ。なんで私が出て行かなきゃいけないのよ。此処は私の部屋ですからね。出て行くのはそっちでしょ。さっさと出て行きなさいよ」
するとどうでしょう。
ローズマリーのお気に入りの熊のぬいぐるみが、ひょこひょこと出てきたのです。
「いやぁ、すまない。此処って君の部屋なんだ。どうりで女くさいと思ってたんだよなぁ。オレだってこんなとこに来たかったわけじゃねぇんだ。気が付いたらいつの間にかここにいたんだ」
まさか、ぬいぐるみが喋った?
いや、いや、そんなまさか。
けれどもぬいぐるみはローズマリーのお気に入りの椅子によじ登ると、ちゃかりと座り込んでしまいました。
「まぁさぁ。話は長くなりそうだしな。オレも色々聞きたいこともあるしさ。立ち話もなんだから、チビ助も座っちゃどうかな」
「な、な、なんなのよ! いいこと。それは私の椅子だし、私はローズマリーってちゃんとした名前があるんですからね。こんどチビ助呼ばわりしたら、承知しないわよ」
「わかった、わかった。大声を出すな。キンキンする。オレは海斗。天堀海斗だ。カイトって呼んでくれ。これでも大人の男なんだよ。今年30歳になる。仕事はホテルマンをしている。コンシェジェっていってもわかんねぇか。まぁ客の要望に沿って手配なんかをする仕事だ」
「30歳っていったらとっくに引退して楽隠居してなきゃいけない年じゃない。カイトって可哀そうに。そんなお年寄りになってもまだ働いているのね」
ローズマリーがしみじみとした調子でそう言えば、熊は慌てた様子を見せました。
どうやら星の巡りがカイトの世界と違うと気づいたローズマリーは、この世界では24時間で1日。7日で1週間。
1週間が9回巡ると1月となり、12ヶ月で1年になると教えてあげました。
「そうすると1年は756日って訳か。およそこっちの2年がそっちの1年になる計算になるなぁ。わかった。悪かったな。どうやら星巡りの周期がおれのいた世界とは違うらしい。ローズマリーは立派なレディだったんだな。オレの年齢はその計算でいくと今年15歳ってことになるな」
ローズマリーは、ちょっとびっくりしました。
この熊が、あっさりと複雑な計算をしてしまったからです。
「熊さんって頭がいいのね。熊さんも人間なのね。なんで熊さんになったの。しかもぬいぐるみになんて」
そう言ったローズマリーは、こらえきれずにぷっと噴き出してしまいました。
きっとカイトにとっては、とっても大変な事態であるとは理解しているので、ひくひくと腹筋がつっていますが肩を震わせて爆笑を抑え込んでいます。
だってどうやらこの愛嬌ある熊のぬいぐるみの中身は、大人の男らしいのです。
そう考えたら、ついつい笑ってしまいそうになるのでした。
「おい、笑いごとじゃねぇんだぞ。ちぇ、仕方ねえか。箸が転んでもおかしい年頃だもんなぁ。けどもうちょっと親身になってくれ。せめてこの世界のことを詳しく教えてくれないか」
カイトはさすがに大人の男らしく少女をうまく宥めすかしながら、情報取集を測っています。
カイトが妙にテンションが上がったのは、この世界に魔法や魔術があると知った時でした。
ほとんど食い気味に、魔術や魔法について知りたがったのです。
そこでローズマリーは、魔術書や魔法書をごっそりとお父さまの書庫から持ってきて、カイトに渡してあげました。
どうやら本は読めるというので、くれぐれもこの塔の中で魔法の練習をしないようにとだけ言いつけて、お母さまに頼まれたスープを持って、ルッツのお母さまのお見舞いに行くことにします。
「おば様、お体の具合はいかがですか。スープを持ってきたの。今、召し上がりますか?温めますよ」
「まぁまぁ、ローズ。ありがとうね。今朝はもう食事を済ませたからね。おいて置いてくれればルッツがお昼に戻った時に一緒に頂くよ」
ルッツのお母さまは、少し調子を崩したものの、病気という程でもなかったので、ローズマリーは、安心して部屋に戻ってきました。
急いで戻ってきて本当に良かったのです。
今まさに、カイトが膨大な魔力を練り上げていたのですから。
「ダメ、カイト。暴発させてしまうわ」
ローズマリーは、大急ぎでカイトの周りに結界を張り巡らしました。
この魔力が洩れれば、下手をすれば先読みの巫女の暗殺者として殺されてしまうかも知れません。
どうやらカイトは無意識に魔力を練っていたらしく、ローズの声を聴いてすぐにゆっくりと魔力をキャンセルさせていきました。
「説明したじゃない。此処はあるいみ国家の重要拠点なのよ。しかもこう見えて私はそれなりに重要人物なの。その部屋でそんな膨大な魔力を練るなんて、敵だと思われたら瞬殺されるわよ」
涙目になってカイトに食って掛かるローズマリーを見て、カイトも自分のしでかしたことを理解できたのでしょう。
「すまない。ローズマリー。オレもそんなに魔力が強いなんて知らなかったんだ」
「ローズって呼んでくれていいよ。親しい人はみんなそう呼ぶから。お父さまだけは絶対にローズマリーって呼ぶけれどもね。お父さまは権威主義者なの」
それを聞いてカイトはクスクスと笑いました。
「それ、ローズ、わかって使ってるのかな? とりあえず魔法は使えるようだね。このぬいぐるみの手では魔方陣は描けそうにないし、極めるとしたら魔法一択になりそうだな」
「ところでローズ。先読みの姫なのにオレが来ることはわからなかったの?」
残念ながら先読みの巫女は、自分に関することは未来視出来ないのです。
カイトが別の場所にやってきたなら、きっとローズマリーは夢見をしたでしょうが、よりにもよってローズマリーのぬいぐるみに入り込んだので、ローズにはわからなかったのです。
「自分の未来が視えないなんて、けっこう不便な能力なんだね」
「違うと思うよ。自分の未来が視えるのが怖くて、無意識にそれを視ないようにしているんだと思うよ。だって自分の人生がどうなるかわかってしまうのって、怖くない?」
ローズの言い分を聞いてカイトもなるほどと思いました。
とりあえずぬいぐるみなのは大いに問題ですが、他の場所よりは随分マシな場所にやってきたようです。
ローズマリーもカイトもプレシュス家の血筋が、どれほど先読みの巫女に同調する力があるか全くわかっていませんでした。
ですから2人は、カイトの事は内緒にすることにしたのです。
人の精神を宿した魔力持ちのぬいぐるみなんて、厄介事の匂いしかしませんからね。
けれどそれはロビンが思っていたのとは、全く違う方向だったのです。
占星術師たちは通称『星巡りの塔』と呼ばれる占星術師の塔の中に、私室を与えられて生活しています。
結婚を機に街に部屋を借りる者がいない訳ではありませんが、占星術師は夜に仕事をして朝日が昇ると眠るという生活をしているので、塔で暮らすほうが便利なのでした。
占星術師になりたいと思う若者は『星巡りの塔』にやってくると、それぞれに師匠について学びながら一人前になっていきます。
そんな占星術師にとっては、9階に暮らすアイザック一族は特別な存在です。
占星術師の長は代々アイザック家が占有していて、誰もそれをおかしいとは思いません。
なぜならアイザック一族は古き王家に仕える一族であり、この一族から稀に『先読み』と言われる未来を視る力を持つ者が生まれるからです。
不思議と先読みの力を持つのは女児に限られているので、そのように未来視の力を持つ娘は先読みの巫女と呼ばれて大事に守護されてきました。
さやさやと風がカーテンを揺らせ、柔らかな朝日がちらちらとベッドの中にも侵入してきたので、ローズマリーは、ふわぁとあくびを洩らしながら起き上がりました。
先読みの巫女であるローズマリーは、夜はぐっすりと眠り朝日と共に目覚めるという一般の人にとっては当たり前でも、星巡りの塔の住人には異端な生活をしています。
それはローズマリーの先読みは、星々が天を彩る真夜中に夢という形で預言されるからでした。
だからローズマリーは朝食の席で長である父親に昨夜の夢見を報告したら、家人の安息を妨げないようにさっさと2階にある先読みの巫女の部屋に降りていくのが常なのです。
「おはよう、ローズマリー。昨夜は良く眠れたかな?」
「おはようございます。お父さま。ぐっすり眠って夢は見ませんでした」
「おはよう、ローズ。あまりふらふらと街を歩きまわらないでね。まぁ治安の良い街だけれども、ローズはおちょこちょいだから心配だわ」
「お母さまったら、心配性ねぇ。私はもう子供じゃないんですからね。昼間の間にしておくことはありますか?」
「そうねぇ。衛士のルッツのお母さまが具合が悪いそうだから、スープでも持ってお見舞いにいっておいてくれるかしら?」
「はい、お母さま。今年の冬は冷えましたからね。年よりには厳しかったのかもしれませね」
星巡りの塔の長は、いかにも大人ぶった返事をする娘を、愛おしそうに見つめました。
ローズマリーは、今年8歳になります。
真っすぐな亜麻色の髪がまだ幼さの残る顔を柔らかに縁取っていますし、そのブルーの瞳も穏やかです。
娘らしくしなやかな肢体を見ると、そろそろこの娘にも似合いの相手を探さなければならないなぁと思って、長は少し辛くなりました。
全くどうして子供というのは、親を置いて大きくなってしまうのでしょうか。
そんな両親におやすみのキスをすると、ローズマリーは、さっさと階段を駆け下りていきます。
3階が観光客用に星巡りのスライドショーを行う場所で、ここには土産物屋や簡易カフエだってあります。
1階から3階までは、街の人々がお勤めしている場所なんです。
だから4階から上のどこか重苦しく陰鬱な占星術師たちの住まいと違って、お日様の光を浴びる人々の世界は明るくて生き生きしていて、ローズマリーは階下に降りるとほっとするのでした。
ローズマリーは真っすぐに自分の部屋に飛び込んでいきました。
占星術師である両親の住む豪華な10階の住まいより、質素でも明るいこの部屋をローズマリーはとても気に入っているのです。
「おい! お前」
ローズマリーが私室の居間に飛び込むなり、男の声がローズマリーを呼びつけました。
じりじりと慎重にローズマリーは出口に向かって、下がっていきます。
どうやって不審者が入り込んだのかはわかりませんが、衛士が警備している星巡りの塔に侵入者がいるなんて、ただ事ではありません。
なんといってもローズマリーは先読みの巫女なのですから、警備は厳重なはずなのです。
「おい、ちょ、待てよ。冗談じゃねぁぞ。子供を襲う趣味なんてもってないからな」
子供と言われてカチンときてしまったローズマリーは、状況もわきまえずに言い返しました。
「ちょっと、私は今年8歳になるんですからね。もう立派なレディよ。子供扱いしないでよ」
「おい、おい。まじかよ。外人ってのは発育がいいねぇ。まさかそんなにガキだとは思わなかったな。これは頼るだけ無駄か。悪かったな嬢ちゃん。好きなとこに行っていいぞ」
とうとうローズマリーは怒りを爆発させました。
「冗談じゃないわ。なんで私が出て行かなきゃいけないのよ。此処は私の部屋ですからね。出て行くのはそっちでしょ。さっさと出て行きなさいよ」
するとどうでしょう。
ローズマリーのお気に入りの熊のぬいぐるみが、ひょこひょこと出てきたのです。
「いやぁ、すまない。此処って君の部屋なんだ。どうりで女くさいと思ってたんだよなぁ。オレだってこんなとこに来たかったわけじゃねぇんだ。気が付いたらいつの間にかここにいたんだ」
まさか、ぬいぐるみが喋った?
いや、いや、そんなまさか。
けれどもぬいぐるみはローズマリーのお気に入りの椅子によじ登ると、ちゃかりと座り込んでしまいました。
「まぁさぁ。話は長くなりそうだしな。オレも色々聞きたいこともあるしさ。立ち話もなんだから、チビ助も座っちゃどうかな」
「な、な、なんなのよ! いいこと。それは私の椅子だし、私はローズマリーってちゃんとした名前があるんですからね。こんどチビ助呼ばわりしたら、承知しないわよ」
「わかった、わかった。大声を出すな。キンキンする。オレは海斗。天堀海斗だ。カイトって呼んでくれ。これでも大人の男なんだよ。今年30歳になる。仕事はホテルマンをしている。コンシェジェっていってもわかんねぇか。まぁ客の要望に沿って手配なんかをする仕事だ」
「30歳っていったらとっくに引退して楽隠居してなきゃいけない年じゃない。カイトって可哀そうに。そんなお年寄りになってもまだ働いているのね」
ローズマリーがしみじみとした調子でそう言えば、熊は慌てた様子を見せました。
どうやら星の巡りがカイトの世界と違うと気づいたローズマリーは、この世界では24時間で1日。7日で1週間。
1週間が9回巡ると1月となり、12ヶ月で1年になると教えてあげました。
「そうすると1年は756日って訳か。およそこっちの2年がそっちの1年になる計算になるなぁ。わかった。悪かったな。どうやら星巡りの周期がおれのいた世界とは違うらしい。ローズマリーは立派なレディだったんだな。オレの年齢はその計算でいくと今年15歳ってことになるな」
ローズマリーは、ちょっとびっくりしました。
この熊が、あっさりと複雑な計算をしてしまったからです。
「熊さんって頭がいいのね。熊さんも人間なのね。なんで熊さんになったの。しかもぬいぐるみになんて」
そう言ったローズマリーは、こらえきれずにぷっと噴き出してしまいました。
きっとカイトにとっては、とっても大変な事態であるとは理解しているので、ひくひくと腹筋がつっていますが肩を震わせて爆笑を抑え込んでいます。
だってどうやらこの愛嬌ある熊のぬいぐるみの中身は、大人の男らしいのです。
そう考えたら、ついつい笑ってしまいそうになるのでした。
「おい、笑いごとじゃねぇんだぞ。ちぇ、仕方ねえか。箸が転んでもおかしい年頃だもんなぁ。けどもうちょっと親身になってくれ。せめてこの世界のことを詳しく教えてくれないか」
カイトはさすがに大人の男らしく少女をうまく宥めすかしながら、情報取集を測っています。
カイトが妙にテンションが上がったのは、この世界に魔法や魔術があると知った時でした。
ほとんど食い気味に、魔術や魔法について知りたがったのです。
そこでローズマリーは、魔術書や魔法書をごっそりとお父さまの書庫から持ってきて、カイトに渡してあげました。
どうやら本は読めるというので、くれぐれもこの塔の中で魔法の練習をしないようにとだけ言いつけて、お母さまに頼まれたスープを持って、ルッツのお母さまのお見舞いに行くことにします。
「おば様、お体の具合はいかがですか。スープを持ってきたの。今、召し上がりますか?温めますよ」
「まぁまぁ、ローズ。ありがとうね。今朝はもう食事を済ませたからね。おいて置いてくれればルッツがお昼に戻った時に一緒に頂くよ」
ルッツのお母さまは、少し調子を崩したものの、病気という程でもなかったので、ローズマリーは、安心して部屋に戻ってきました。
急いで戻ってきて本当に良かったのです。
今まさに、カイトが膨大な魔力を練り上げていたのですから。
「ダメ、カイト。暴発させてしまうわ」
ローズマリーは、大急ぎでカイトの周りに結界を張り巡らしました。
この魔力が洩れれば、下手をすれば先読みの巫女の暗殺者として殺されてしまうかも知れません。
どうやらカイトは無意識に魔力を練っていたらしく、ローズの声を聴いてすぐにゆっくりと魔力をキャンセルさせていきました。
「説明したじゃない。此処はあるいみ国家の重要拠点なのよ。しかもこう見えて私はそれなりに重要人物なの。その部屋でそんな膨大な魔力を練るなんて、敵だと思われたら瞬殺されるわよ」
涙目になってカイトに食って掛かるローズマリーを見て、カイトも自分のしでかしたことを理解できたのでしょう。
「すまない。ローズマリー。オレもそんなに魔力が強いなんて知らなかったんだ」
「ローズって呼んでくれていいよ。親しい人はみんなそう呼ぶから。お父さまだけは絶対にローズマリーって呼ぶけれどもね。お父さまは権威主義者なの」
それを聞いてカイトはクスクスと笑いました。
「それ、ローズ、わかって使ってるのかな? とりあえず魔法は使えるようだね。このぬいぐるみの手では魔方陣は描けそうにないし、極めるとしたら魔法一択になりそうだな」
「ところでローズ。先読みの姫なのにオレが来ることはわからなかったの?」
残念ながら先読みの巫女は、自分に関することは未来視出来ないのです。
カイトが別の場所にやってきたなら、きっとローズマリーは夢見をしたでしょうが、よりにもよってローズマリーのぬいぐるみに入り込んだので、ローズにはわからなかったのです。
「自分の未来が視えないなんて、けっこう不便な能力なんだね」
「違うと思うよ。自分の未来が視えるのが怖くて、無意識にそれを視ないようにしているんだと思うよ。だって自分の人生がどうなるかわかってしまうのって、怖くない?」
ローズの言い分を聞いてカイトもなるほどと思いました。
とりあえずぬいぐるみなのは大いに問題ですが、他の場所よりは随分マシな場所にやってきたようです。
ローズマリーもカイトもプレシュス家の血筋が、どれほど先読みの巫女に同調する力があるか全くわかっていませんでした。
ですから2人は、カイトの事は内緒にすることにしたのです。
人の精神を宿した魔力持ちのぬいぐるみなんて、厄介事の匂いしかしませんからね。
0
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました
三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。
優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。
優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。
そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。
絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。
そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる