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犬猿の仲
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先読みの巫女が見も知らぬ者が入り込んだのに、それを誰にも告げようとしなかったことは、父親であるアイザック卿には大きな衝撃でした。
それでもそれは娘の世間知らずな優しさ故と思っていたのに、あろうことかプレシュス辺境伯に恋ではないのかとあてこすられたのです。
アイザック卿は、怒りで我を忘れそうでした。
これはいけないと、ナオは慌ててロビンを戒めます。
「あなた。それはローズマリー様に失礼よ。ローズ様は困っている方を、お助けしただけなのですから。そうですわよね。アイザック卿」
「もちろんですとも奥方さま。ローズマリーは心優しい娘でございますから、このような不気味な半端者にも、情けをかけてしまったのでしょう。
ロビンは結婚して初めてナオに『あなた』と呼ばれたので、すっかり上機嫌になっていました。
「いやぁ。これは失礼なことを申し上げました。先読みの巫女さまは、純真でお優しいお方だ。どうやら私の邪推が過ぎたらしい」
これで場の空気はすっかり穏やかになったのですが、おさまらないのはカイトです。
いくらなんでも不気味な半端者と呼ばれて、黙っている訳には行きません。
猛然と抗議の声をあげようとしたところで、誰かに手を引っ張られました。
振り返るとローズが目にいっぱい涙をためて、必死に腕を引っ張っているのです。
せっかく納まったこの場を乱してどうするつもりだったんだ!
カイトは己の未熟さを恥じました。
カイトはローズマリーの手をそっと握り返すと、黙って一歩下がりローズの後ろに控えました。
その様子を見てロビンは、どうやらこの熊の中身は、みどころがありそうだと見て取りました。
そこであえて厳しい調子で、カイトとローズに言い渡したのです。
「カイト。とりあえずお前は私たちと同行してもらう。王都でお前の状況を、調べておく必要があるのでな。明日の夜にはこちらに帰してやろう。それからローズ。こんなことは二度とあってはならない。幸いカイトは敵ではなかったが、ローズの立場は我儘が許されるものではないのだから」
プレシュス辺境伯にしかられてローズマリーは、青ざめた顔を父親の方に向けました。
「お父さま、ローズはアイザックの家名に、傷をつけてしまいました。どのような罰でもお受けいたします。申訳ありませんでした」
そしてロビンの顔を真っすぐに見つめていいました。
「この度のことは私の考えが至らぬために招いたことです。罪はアイザック家ではなく、私ひとりにあります。お咎めは私だけにしてくださいませ」
そうして深々と礼をした姿は、間違いなく貴族令嬢としての姿でした。
ロビンは面白そうな顔になると、ローズマリーに言いつけました。
「それではローズマリー。そなたにはそのぬいぐるみの監視を命じよう。もしも許可なくそのぬいぐるみがシルフィードベル王国から逃げ出したら、その罪はローズマリー、そなたが償うことになる。よいな」
ローズマリーはにっこりとほほ笑んで「はい」と返事をしました。
「貴様、なんて奴だ。こんな少女を人質にする気かよ。この娘はお前の国の巫女姫なんだろうが」
カイトがいきり立ってロビンに食って掛かるのを、ロビンは一笑しました。
「そなたがおとなしくしていれば、ローズマリーが罪に問われることはない。言っておくがローズマリーは、国家反逆罪として処刑されてもおかしくない罪を犯したのだ。わかれば素直に我らと同行することだ」
ロビンがこうしたやり方で、結局はローズマリーの罪を許したのだということは、ここにいる全ての人間がわかったのですが、カイトだけには理解されませんでした。
それはカイトが厳しい身分社会というものを、理解出来ていないからですが、この一件があってからはカイトはロビンという男を、冷徹で非情な奴だと思い込んでしまいました。
出発の時間になって、ナオが熊のぬいぐるみを抱き上げようとすると、カイトはぎょっとしたようにあとずさりました。
いくら何でも、女に抱きかかえられて移動するなど、大人の男のプライドはズタズタです。
けれどもナオはきっぱりとカイトに言い渡しました。
「カイト。動くぬいぐるみを見せて歩く訳にはいかないの。私に抱かれて移動するか、それともカバンの中に入って移動するか、どちらかに決めて頂戴。せっかくこの世界の様子を見ることができるチャンスを潰したいなら、それでもいいのよ」
「わかったよ。まったくお前さん方は実に似た者夫婦だな。情の強いところなんかそっくりだぜ」
カイトの減らず口にロビンの眉がピクリと上がりましたが、ナオがさらりとカイトを抱きかかえると、もう片方の手をロビンの腕に絡ませて「旦那様、参りましょう」と言ったので、騒ぎにはなりませんでした。
どちらにしてもロビンとカイトは初対面だというのに、お互いを仇敵のように嫌ってしまったのです。
やれやれとナオはため息をつきました。
いったいどうしてロビンとカイトは、こんなに角を突き合わせるのでしょう。
ウマが合わないというのは、こういうことを言うのかもしれません。
正直に言えばロビンは、ナオがカイトを胸に抱いていることが、既に気にくわないのです。
そんなぬいぐるみなど、箱詰めにでもして送ってしまえばいいと腹を立てていました。
けれども冷静なロビンは、カイトが少しでも多くシルフィードベル王国の実情に触れることが、カイトにとって必要なことだとは理解をしています。
「これは大昔に作られた運河なのよ。シルフィードベル王国はこの運河を使って交易をしているの。この運河は海まで続いています。人工に作られたものである証拠に、川が真っすぐに王都を横切っているでしょう」
「薔薇の街のレンガは、赤みを帯びた深いローズ色をしています。この運河から見れば薔薇の街が、本当に薔薇色に染まっているのがわかるでしょう。このバラ色のレンガが使われる建物は、この薔薇の街にしかありません。薔薇の街が特別であることが、一目瞭然になっているんです」
ナオは熊のぬいぐるみを船べりに座らせると、落っこちないようにしっかりと支えながら、独り言を続けています。
「ナオ、もう十分だろう。船室に入りなさい。いくら春とはいえ夕方はまだまだ冷える」
ロビンにそう言われて、ナオは素直に船室に引っ込みました。
ナオがカイトを椅子に座らせたのを確認したロビンは、まるで見せつけるかのようにナオに口づけしました。
「待ってよ。ロビン。ダメよ……」
カイトはそんな2人にフンとばかりに背を向けましたが、この世界にきて初めて、自分に身体のない事が悔しくて、辛くてたまりませんでした。
そんなカイトの頭に浮かんだのは、地球にいた頃に付き合っていた恋人の姿だったのですが、その恋人を抱きしめようとすると、恋人の顔はローズマリーになってしまうのです。
いったいどうしたっていうんだ。
ローズマリーなんてまだ子供じゃないか。
カイトは馬鹿げたことを夢想した自分を、そう言ってしかりつけました。
「着いたわ。王都よ。これから王都の中心部に入るから、カイトは絶対に動いたり、話したりはしないでね」
そう言って再びナオがカイトを抱き上げようとすると、傍らからひょいっとロビンがカイトを奪ってしまいました。
そしてそのまま片手でカイトの腕を掴んでぶら下げます。
「ロビン、ダメよ。辺境伯であるあなたが、ぬいぐるみなんて持ち歩いたいたらみんな変に思うわ」
「大丈夫だよナオ。君と一緒ならね。みんな私が君にぞっこんなのは知っているからね。このぬいぐるみは私から君へのプレゼントだと思うだろうさ。それより姫、お手をどうぞ」
魔術師塔の人々は、ロビンがぬいぐるみを持っているのを見てぎょっとした顔をしましたが、すぐにかたわらにナオがいるのを見て、あぁとばかりに納得するのでした。
一方カイトは、ぶらぶらと振り回されて目が回るやら気分が悪くなるやらで、王都見学どころではありません。
「くっそう。ロビンの奴、わざと振り回して遊んでやがる。この礼はあとできっちりと返してやるからな!」
それでも一行は、ようやくセディのいる魔術書塔の最上階に辿りつきました。
セディは事情を聞くと、好奇心満々になってぬいぐるみをこねくり回しています。
「どうかしら? ここにいるのはカイトの精神の方だと思うのだけれども、肉体はどうなったのかわかるかしら?」
ナオの疑問にセディは異世界を探査する術式を作り上げるから、10日間待ってっくれといいます。
さすがに天才魔術師です。
「どういうことだ? 結局天才魔術師さまにも何もわからないのかよ」
カイトの言葉をナオが訂正しました。
「セディは10日あればカイトの肉体を発見して見せると、請け合ってくれたのよ。つまりセディならカイトの身体を見つけられるってことなの」
「マジかよ。そうか。オレの身体を見つけてくれるんだ。良かった。セディさん。ありがとう」
「いや、見つかっても召喚できるかどうかわからないんだからね。ぬか喜びはさせたくないんだ。まだなにも約束はできないよ」
「それでもセディ。全力を尽くしてくれるんだろう?」
「あぁ、カイト。約束しよう。魔術師セディの名にかけて、精一杯の努力をしてみせるよ」
「ありがとうセディ。お前っていい奴なんだなぁ」
そんな2人を興味深げに見守ってきたロビンは、セディに確認しました。
「セディ。これは偶然の産物か? それとも誰かの力が関与しているのか?」
それがロビンの最も危惧していることでした。
精神と肉体を分離してしまうなんて魔法は聞いたことがありません。
けれども今回のカイトの一件に、誰か別の人間の意思が関わっているとしたら、大変な事態になってしまいます。
「すまない。ロビン。それもまだ結論がでないんだ。悪いが少し待ってくれ」
セディならとことん食い下がって、調べてくれるでしょう。
ナオはセディに転移術式を組み込んだペンダントを作ってもらうと、カイトの首にかけました。
熊のぬいぐるみの首元には、青い宝玉が輝いています。
どうやらセディは、随分張り切って魔方陣を刻んでくれたみたいです。
「ともかく、明日の朝9時までに魔術師塔のセディの部屋に来て頂戴ね。それまでは自由行動を楽しんでてくれていいわよ。その青いペンダントには転移術式が刻まれているの。王都の魔術師塔から薔薇の街の占星術師の塔の間を行き来できるようにね。その他の場所には飛べないから注意してね」
ナオはそう言って、カイトにローズマリーのところに帰ってやるように促しました。
カイトはちょっと迷いましたが、素直に宝玉を貰うことにしたらしくにっこりと笑って言いました。
「ありがとう、ナオ。助かったよ」
そういうなり熊のぬいぐるみの姿は、跡形もなく消えていきました。
「カイト!」
カイトが星巡りの巫女の部屋に転移すると、その途端にローズマリーがカイトを抱きしめました。
正確には熊のぬいぐるみに抱き着いたのですが、咄嗟のことでカイトは目を白黒させてしまいます。
「おいおい、ローズ、懐かしいのはわかったから、そろそろ離してくれないかな。そんなに抱き付かれたら息苦しくなってしまうからね」
ローズは慌てて手を離すと、カイトを椅子に腰かけさせます。
そうしてとびっきりの笑顔をカイトに向けました。
「お帰りなさい。カイト」
それでもそれは娘の世間知らずな優しさ故と思っていたのに、あろうことかプレシュス辺境伯に恋ではないのかとあてこすられたのです。
アイザック卿は、怒りで我を忘れそうでした。
これはいけないと、ナオは慌ててロビンを戒めます。
「あなた。それはローズマリー様に失礼よ。ローズ様は困っている方を、お助けしただけなのですから。そうですわよね。アイザック卿」
「もちろんですとも奥方さま。ローズマリーは心優しい娘でございますから、このような不気味な半端者にも、情けをかけてしまったのでしょう。
ロビンは結婚して初めてナオに『あなた』と呼ばれたので、すっかり上機嫌になっていました。
「いやぁ。これは失礼なことを申し上げました。先読みの巫女さまは、純真でお優しいお方だ。どうやら私の邪推が過ぎたらしい」
これで場の空気はすっかり穏やかになったのですが、おさまらないのはカイトです。
いくらなんでも不気味な半端者と呼ばれて、黙っている訳には行きません。
猛然と抗議の声をあげようとしたところで、誰かに手を引っ張られました。
振り返るとローズが目にいっぱい涙をためて、必死に腕を引っ張っているのです。
せっかく納まったこの場を乱してどうするつもりだったんだ!
カイトは己の未熟さを恥じました。
カイトはローズマリーの手をそっと握り返すと、黙って一歩下がりローズの後ろに控えました。
その様子を見てロビンは、どうやらこの熊の中身は、みどころがありそうだと見て取りました。
そこであえて厳しい調子で、カイトとローズに言い渡したのです。
「カイト。とりあえずお前は私たちと同行してもらう。王都でお前の状況を、調べておく必要があるのでな。明日の夜にはこちらに帰してやろう。それからローズ。こんなことは二度とあってはならない。幸いカイトは敵ではなかったが、ローズの立場は我儘が許されるものではないのだから」
プレシュス辺境伯にしかられてローズマリーは、青ざめた顔を父親の方に向けました。
「お父さま、ローズはアイザックの家名に、傷をつけてしまいました。どのような罰でもお受けいたします。申訳ありませんでした」
そしてロビンの顔を真っすぐに見つめていいました。
「この度のことは私の考えが至らぬために招いたことです。罪はアイザック家ではなく、私ひとりにあります。お咎めは私だけにしてくださいませ」
そうして深々と礼をした姿は、間違いなく貴族令嬢としての姿でした。
ロビンは面白そうな顔になると、ローズマリーに言いつけました。
「それではローズマリー。そなたにはそのぬいぐるみの監視を命じよう。もしも許可なくそのぬいぐるみがシルフィードベル王国から逃げ出したら、その罪はローズマリー、そなたが償うことになる。よいな」
ローズマリーはにっこりとほほ笑んで「はい」と返事をしました。
「貴様、なんて奴だ。こんな少女を人質にする気かよ。この娘はお前の国の巫女姫なんだろうが」
カイトがいきり立ってロビンに食って掛かるのを、ロビンは一笑しました。
「そなたがおとなしくしていれば、ローズマリーが罪に問われることはない。言っておくがローズマリーは、国家反逆罪として処刑されてもおかしくない罪を犯したのだ。わかれば素直に我らと同行することだ」
ロビンがこうしたやり方で、結局はローズマリーの罪を許したのだということは、ここにいる全ての人間がわかったのですが、カイトだけには理解されませんでした。
それはカイトが厳しい身分社会というものを、理解出来ていないからですが、この一件があってからはカイトはロビンという男を、冷徹で非情な奴だと思い込んでしまいました。
出発の時間になって、ナオが熊のぬいぐるみを抱き上げようとすると、カイトはぎょっとしたようにあとずさりました。
いくら何でも、女に抱きかかえられて移動するなど、大人の男のプライドはズタズタです。
けれどもナオはきっぱりとカイトに言い渡しました。
「カイト。動くぬいぐるみを見せて歩く訳にはいかないの。私に抱かれて移動するか、それともカバンの中に入って移動するか、どちらかに決めて頂戴。せっかくこの世界の様子を見ることができるチャンスを潰したいなら、それでもいいのよ」
「わかったよ。まったくお前さん方は実に似た者夫婦だな。情の強いところなんかそっくりだぜ」
カイトの減らず口にロビンの眉がピクリと上がりましたが、ナオがさらりとカイトを抱きかかえると、もう片方の手をロビンの腕に絡ませて「旦那様、参りましょう」と言ったので、騒ぎにはなりませんでした。
どちらにしてもロビンとカイトは初対面だというのに、お互いを仇敵のように嫌ってしまったのです。
やれやれとナオはため息をつきました。
いったいどうしてロビンとカイトは、こんなに角を突き合わせるのでしょう。
ウマが合わないというのは、こういうことを言うのかもしれません。
正直に言えばロビンは、ナオがカイトを胸に抱いていることが、既に気にくわないのです。
そんなぬいぐるみなど、箱詰めにでもして送ってしまえばいいと腹を立てていました。
けれども冷静なロビンは、カイトが少しでも多くシルフィードベル王国の実情に触れることが、カイトにとって必要なことだとは理解をしています。
「これは大昔に作られた運河なのよ。シルフィードベル王国はこの運河を使って交易をしているの。この運河は海まで続いています。人工に作られたものである証拠に、川が真っすぐに王都を横切っているでしょう」
「薔薇の街のレンガは、赤みを帯びた深いローズ色をしています。この運河から見れば薔薇の街が、本当に薔薇色に染まっているのがわかるでしょう。このバラ色のレンガが使われる建物は、この薔薇の街にしかありません。薔薇の街が特別であることが、一目瞭然になっているんです」
ナオは熊のぬいぐるみを船べりに座らせると、落っこちないようにしっかりと支えながら、独り言を続けています。
「ナオ、もう十分だろう。船室に入りなさい。いくら春とはいえ夕方はまだまだ冷える」
ロビンにそう言われて、ナオは素直に船室に引っ込みました。
ナオがカイトを椅子に座らせたのを確認したロビンは、まるで見せつけるかのようにナオに口づけしました。
「待ってよ。ロビン。ダメよ……」
カイトはそんな2人にフンとばかりに背を向けましたが、この世界にきて初めて、自分に身体のない事が悔しくて、辛くてたまりませんでした。
そんなカイトの頭に浮かんだのは、地球にいた頃に付き合っていた恋人の姿だったのですが、その恋人を抱きしめようとすると、恋人の顔はローズマリーになってしまうのです。
いったいどうしたっていうんだ。
ローズマリーなんてまだ子供じゃないか。
カイトは馬鹿げたことを夢想した自分を、そう言ってしかりつけました。
「着いたわ。王都よ。これから王都の中心部に入るから、カイトは絶対に動いたり、話したりはしないでね」
そう言って再びナオがカイトを抱き上げようとすると、傍らからひょいっとロビンがカイトを奪ってしまいました。
そしてそのまま片手でカイトの腕を掴んでぶら下げます。
「ロビン、ダメよ。辺境伯であるあなたが、ぬいぐるみなんて持ち歩いたいたらみんな変に思うわ」
「大丈夫だよナオ。君と一緒ならね。みんな私が君にぞっこんなのは知っているからね。このぬいぐるみは私から君へのプレゼントだと思うだろうさ。それより姫、お手をどうぞ」
魔術師塔の人々は、ロビンがぬいぐるみを持っているのを見てぎょっとした顔をしましたが、すぐにかたわらにナオがいるのを見て、あぁとばかりに納得するのでした。
一方カイトは、ぶらぶらと振り回されて目が回るやら気分が悪くなるやらで、王都見学どころではありません。
「くっそう。ロビンの奴、わざと振り回して遊んでやがる。この礼はあとできっちりと返してやるからな!」
それでも一行は、ようやくセディのいる魔術書塔の最上階に辿りつきました。
セディは事情を聞くと、好奇心満々になってぬいぐるみをこねくり回しています。
「どうかしら? ここにいるのはカイトの精神の方だと思うのだけれども、肉体はどうなったのかわかるかしら?」
ナオの疑問にセディは異世界を探査する術式を作り上げるから、10日間待ってっくれといいます。
さすがに天才魔術師です。
「どういうことだ? 結局天才魔術師さまにも何もわからないのかよ」
カイトの言葉をナオが訂正しました。
「セディは10日あればカイトの肉体を発見して見せると、請け合ってくれたのよ。つまりセディならカイトの身体を見つけられるってことなの」
「マジかよ。そうか。オレの身体を見つけてくれるんだ。良かった。セディさん。ありがとう」
「いや、見つかっても召喚できるかどうかわからないんだからね。ぬか喜びはさせたくないんだ。まだなにも約束はできないよ」
「それでもセディ。全力を尽くしてくれるんだろう?」
「あぁ、カイト。約束しよう。魔術師セディの名にかけて、精一杯の努力をしてみせるよ」
「ありがとうセディ。お前っていい奴なんだなぁ」
そんな2人を興味深げに見守ってきたロビンは、セディに確認しました。
「セディ。これは偶然の産物か? それとも誰かの力が関与しているのか?」
それがロビンの最も危惧していることでした。
精神と肉体を分離してしまうなんて魔法は聞いたことがありません。
けれども今回のカイトの一件に、誰か別の人間の意思が関わっているとしたら、大変な事態になってしまいます。
「すまない。ロビン。それもまだ結論がでないんだ。悪いが少し待ってくれ」
セディならとことん食い下がって、調べてくれるでしょう。
ナオはセディに転移術式を組み込んだペンダントを作ってもらうと、カイトの首にかけました。
熊のぬいぐるみの首元には、青い宝玉が輝いています。
どうやらセディは、随分張り切って魔方陣を刻んでくれたみたいです。
「ともかく、明日の朝9時までに魔術師塔のセディの部屋に来て頂戴ね。それまでは自由行動を楽しんでてくれていいわよ。その青いペンダントには転移術式が刻まれているの。王都の魔術師塔から薔薇の街の占星術師の塔の間を行き来できるようにね。その他の場所には飛べないから注意してね」
ナオはそう言って、カイトにローズマリーのところに帰ってやるように促しました。
カイトはちょっと迷いましたが、素直に宝玉を貰うことにしたらしくにっこりと笑って言いました。
「ありがとう、ナオ。助かったよ」
そういうなり熊のぬいぐるみの姿は、跡形もなく消えていきました。
「カイト!」
カイトが星巡りの巫女の部屋に転移すると、その途端にローズマリーがカイトを抱きしめました。
正確には熊のぬいぐるみに抱き着いたのですが、咄嗟のことでカイトは目を白黒させてしまいます。
「おいおい、ローズ、懐かしいのはわかったから、そろそろ離してくれないかな。そんなに抱き付かれたら息苦しくなってしまうからね」
ローズは慌てて手を離すと、カイトを椅子に腰かけさせます。
そうしてとびっきりの笑顔をカイトに向けました。
「お帰りなさい。カイト」
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