6 / 30
番外編~遥香~
しおりを挟む
肩を回して欠伸をして遥香の前を歩いているのは幼馴染みの諒だ。
昨日も夜遅くまでバイトだったのかぁ…
彼の家庭事情はそれなりに知っている。伊達に幼い頃から一緒にいない。あそこの家族は仲がとても良い。だがそれはあくまで家族のみ、だ。そこに諒は含まれていない。
だがそのことに関して遥香達は同情などは一切しない。諒自身が一番嫌がることだからだ。だから彼女達は彼を対等の扱いをする。彼の家のことは一切関わらない。そうして成り立ってる友情だ。
それでも心配はする。だから遥香は少しでも気が楽しくなるよういつも話しかけてる。
今日もそう。
前を歩いてる彼に走って追いつく。
「諒、おはよぉぉぉ」
ドンッ、と飛びつくと諒が声がでかい、というように顔を顰めた。
そんな声でかくないのになぁ…などと思ってると諒が不意に聞こえるか聞こえないかくらいの大きさの声で呟いた。
「それだけで…充分、か」
何を急に言ってるのかこのアホは。
不思議に思い聞き返すもまともに返答は返ってこない。仕方が無いから学校へと行く。時計を見るとまだ少々余裕がある。だが前を見るといつもは必ず引っかかる信号が珍しく青になっていた。
ラッキー。今日はいい事あるかもっ!
などと思いつつ渡っていると隣にいたはずの諒がいないことに気がついた。後ろを見ると考え事をしているのか足が止まってる。
まったく…
「何止まってんの!早く早く!信号赤になっちゃうよ!」
「え、あ、おう」
遥香の言葉で我に返ったように顔を上げた諒は目を見開いた。何か呟いた様だが距離があって聞こえない。
不思議に思って声をかけようとすると諒が遥香に向かって全力疾走してきた。彼は昔から足が速い。あっという間に距離が詰められる。
そしてー遥香の身体は押し飛ばされた。
「きゃ…何すっ…」
痛みとともに諒に文句を言おうと顔を上げる。そしてその先は言葉にならなかった。
「え、」
諒の身体は空中にあった。そして地面に叩きつけられる。
その横にはトラック。
やっと遥香には状況が理解出来た。
そして何処から出るのかという位の叫び声を上げた。
「諒ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
地面でピクリとも動かない諒へと駆けつける。
目から零れ落ちてくる涙で視界がにじむ。
「いや、いや…いやぁぁぁぁ諒ぉぉぉ」
絶叫にもにたその呼び声は諒へと通じたのか、指先がぴくりと動き口が微かに動いた。
「泣く……な…よ」
それだけだった。それだけで諒はもう動かなくなった。
「いやだよ、ねぇ、諒……嘘だと言ってよ…ねぇ!!!」
救急車が到着するももう手遅れなのは誰の目にも明らかだった。
「ー……私の……せいだ…私が…私が諒を…」
いつもは重く感じない制服も何故かとてつもなく重く感じる。
諒の葬式ー
彼の友人が皆そろっていた。
遥香は壊れたように泣き続けていた。
そして肩に暖かい温もりを感じた。誰かが手を置いてくれたのか。だがそれを確認する気すらおきなかった。
妹夫婦は家族席にいた。なんとか顔を上げて彼女達を見る。
その表情に悲しみは一切無かった。逆に何処かせいせいしたような表情さえ感じる。
「なん、でよ…」
なんでそんな表情が出来るの…血が繋がってる…親戚なのに…
だが、心の底では分かっている。
あの人たちは無駄なお金をこれから使うことがなくて喜んだいるのだ。人一人亡くなったこの状況下で。
遥香にとってそれは不愉快でしかなかった…がそれを咎める権利すら無い。そう思い口を噤んでいた。
肩に触れていた諒の友人が口を開いた。
「諒はさ、お前に最後なんて言ったんだけっか」
その言葉とともに頭の中で諒の言葉が蘇る。
『泣く……な…よ』
幼い頃、よく泣いていた遥香を諒が慰めていたように、そう呟いた。
「あいつはお前を助けることができて喜んでるだろ。あいつはそういうやつだ」
声が震えているのがわかる。
「だからさ、あいつの為にも笑ってやろうぜ。笑って楽しくあいつの分も生きてやろうぜ」
「でも…でも私は…私が…」
「楽しく生きてりゃまた会えるさ。生まれ変わって。別の世界でもきっと出会える。そう信じてれば現実になるんだよ」
信じてれば現実になる…
どこに確証もない。そんな言葉だが遥香は深く噛み締めた。
信じてれば…また…会えるの?諒…
その瞬間室内のはずだが優しいけれども強い風が吹いた。
あぁ、またきっと会えるさ。
そんな声とともに。
遥香は泣き崩れた。だが今度は自分を責め続ける言葉はない。
「…信じ…てるから……信じてるよ」
そう泣きながら言うと風が穏やかになった。
肩に置かれた手も力を緩める。そして嗚咽が聞こえる。
きっと私のせいだとずっと思ってても諒は嫌がるよね…なら…
諒が安心できるようにちゃんと生きるね。
そう誓う。
また出会える日を信じてる。
昨日も夜遅くまでバイトだったのかぁ…
彼の家庭事情はそれなりに知っている。伊達に幼い頃から一緒にいない。あそこの家族は仲がとても良い。だがそれはあくまで家族のみ、だ。そこに諒は含まれていない。
だがそのことに関して遥香達は同情などは一切しない。諒自身が一番嫌がることだからだ。だから彼女達は彼を対等の扱いをする。彼の家のことは一切関わらない。そうして成り立ってる友情だ。
それでも心配はする。だから遥香は少しでも気が楽しくなるよういつも話しかけてる。
今日もそう。
前を歩いてる彼に走って追いつく。
「諒、おはよぉぉぉ」
ドンッ、と飛びつくと諒が声がでかい、というように顔を顰めた。
そんな声でかくないのになぁ…などと思ってると諒が不意に聞こえるか聞こえないかくらいの大きさの声で呟いた。
「それだけで…充分、か」
何を急に言ってるのかこのアホは。
不思議に思い聞き返すもまともに返答は返ってこない。仕方が無いから学校へと行く。時計を見るとまだ少々余裕がある。だが前を見るといつもは必ず引っかかる信号が珍しく青になっていた。
ラッキー。今日はいい事あるかもっ!
などと思いつつ渡っていると隣にいたはずの諒がいないことに気がついた。後ろを見ると考え事をしているのか足が止まってる。
まったく…
「何止まってんの!早く早く!信号赤になっちゃうよ!」
「え、あ、おう」
遥香の言葉で我に返ったように顔を上げた諒は目を見開いた。何か呟いた様だが距離があって聞こえない。
不思議に思って声をかけようとすると諒が遥香に向かって全力疾走してきた。彼は昔から足が速い。あっという間に距離が詰められる。
そしてー遥香の身体は押し飛ばされた。
「きゃ…何すっ…」
痛みとともに諒に文句を言おうと顔を上げる。そしてその先は言葉にならなかった。
「え、」
諒の身体は空中にあった。そして地面に叩きつけられる。
その横にはトラック。
やっと遥香には状況が理解出来た。
そして何処から出るのかという位の叫び声を上げた。
「諒ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
地面でピクリとも動かない諒へと駆けつける。
目から零れ落ちてくる涙で視界がにじむ。
「いや、いや…いやぁぁぁぁ諒ぉぉぉ」
絶叫にもにたその呼び声は諒へと通じたのか、指先がぴくりと動き口が微かに動いた。
「泣く……な…よ」
それだけだった。それだけで諒はもう動かなくなった。
「いやだよ、ねぇ、諒……嘘だと言ってよ…ねぇ!!!」
救急車が到着するももう手遅れなのは誰の目にも明らかだった。
「ー……私の……せいだ…私が…私が諒を…」
いつもは重く感じない制服も何故かとてつもなく重く感じる。
諒の葬式ー
彼の友人が皆そろっていた。
遥香は壊れたように泣き続けていた。
そして肩に暖かい温もりを感じた。誰かが手を置いてくれたのか。だがそれを確認する気すらおきなかった。
妹夫婦は家族席にいた。なんとか顔を上げて彼女達を見る。
その表情に悲しみは一切無かった。逆に何処かせいせいしたような表情さえ感じる。
「なん、でよ…」
なんでそんな表情が出来るの…血が繋がってる…親戚なのに…
だが、心の底では分かっている。
あの人たちは無駄なお金をこれから使うことがなくて喜んだいるのだ。人一人亡くなったこの状況下で。
遥香にとってそれは不愉快でしかなかった…がそれを咎める権利すら無い。そう思い口を噤んでいた。
肩に触れていた諒の友人が口を開いた。
「諒はさ、お前に最後なんて言ったんだけっか」
その言葉とともに頭の中で諒の言葉が蘇る。
『泣く……な…よ』
幼い頃、よく泣いていた遥香を諒が慰めていたように、そう呟いた。
「あいつはお前を助けることができて喜んでるだろ。あいつはそういうやつだ」
声が震えているのがわかる。
「だからさ、あいつの為にも笑ってやろうぜ。笑って楽しくあいつの分も生きてやろうぜ」
「でも…でも私は…私が…」
「楽しく生きてりゃまた会えるさ。生まれ変わって。別の世界でもきっと出会える。そう信じてれば現実になるんだよ」
信じてれば現実になる…
どこに確証もない。そんな言葉だが遥香は深く噛み締めた。
信じてれば…また…会えるの?諒…
その瞬間室内のはずだが優しいけれども強い風が吹いた。
あぁ、またきっと会えるさ。
そんな声とともに。
遥香は泣き崩れた。だが今度は自分を責め続ける言葉はない。
「…信じ…てるから……信じてるよ」
そう泣きながら言うと風が穏やかになった。
肩に置かれた手も力を緩める。そして嗚咽が聞こえる。
きっと私のせいだとずっと思ってても諒は嫌がるよね…なら…
諒が安心できるようにちゃんと生きるね。
そう誓う。
また出会える日を信じてる。
0
あなたにおすすめの小説
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ある平凡な女、転生する
眼鏡から鱗
ファンタジー
平々凡々な暮らしをしていた私。
しかし、会社帰りに事故ってお陀仏。
次に、気がついたらとっても良い部屋でした。
えっ、なんで?
※ゆる〜く、頭空っぽにして読んで下さい(笑)
※大変更新が遅いので申し訳ないですが、気長にお待ちください。
★作品の中にある画像は、全てAI生成にて貼り付けたものとなります。イメージですので顔や服装については、皆様のご想像で脳内変換を宜しくお願いします。★
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【男装歴10年】異世界で冒険者パーティやってみた【好きな人がいます】
リコピン
ファンタジー
前世の兄と共に異世界転生したセリナ。子どもの頃に親を失い、兄のシオンと二人で生きていくため、セリナは男装し「セリ」と名乗るように。それから十年、セリとシオンは、仲間を集め冒険者パーティを組んでいた。
これは、異世界転生した女の子がお仕事頑張ったり、恋をして性別カミングアウトのタイミングにモダモダしたりしながら過ごす、ありふれた毎日のお話。
※日常ほのぼの?系のお話を目指しています。
※同性愛表現があります。
悪役令嬢になりましたので、自分好みのイケメン近衛騎士団を作ることにしました
葉月キツネ
ファンタジー
目が覚めると昔やり込んだ乙女ゲーム「白銀の騎士物語」の悪役令嬢フランソワになっていた!
本来ならメインヒロインの引き立て役になるはずの私…だけどせっかくこんな乙女ゲームのキャラになれたのなら思うがままにしないと勿体ないわ!
推しを含めたイケメン近衛騎士で私を囲ってもらって第二の人生楽しみます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる