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第二章「嫉妬の荒魂」
第13話 信頼と信用と
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「勾玉……か」
翌日、通学路の待ち合わせ場所で海斗は勾玉を手に取り眺めていた。ミサキと共に調べてみたところ、あの場所で勾玉は合計で四つ見つかった。
だが、割れた要石の中に残っていた勾玉の跡は一つにつき四つ。つまりまだ四つの勾玉が存在している計算になる。もし、その一つがあの深雪が首から下げていたものだとすれば――。
「あと三回、同じことが起きるってことか?」
『あまり考えたくないわね
深雪の中からあふれ出た悪意の塊、鎌鼬。そしてそれを倒した時に感じた彼女の心の叫びとその原因。
『……あんなどす黒い悪意を見せつけられるのは二度とごめんよ』
「俺もごめんだよ」
手にした勾玉を握りしめる。先日は何とか撃退できたが、次はどうなるかわからない。洞窟に封じられていた何かについても伊薙家の文献を調べてみないと分からないらしく、祖父にその件は頼んである。
それに、調べなくてはならないことはまだ残っていた。
『私の正体も、ちゃんと調べないとね』
「ああ」
昨日、判明したことはもう一つあった。家に戻り「ミサキ」についてネットで検索してみた。今度は事件にかかわった用語を加えてみたところ、一件気になる物を見つけたのだ。
『まさか鎌鼬の別名が「山ミサキ」だったなんてね』
「人が行逢ったら高熱を出す……それも共通していたな」
『やっぱり私も「ミサキ」だから、ちゃんと自分の正体を知りたい……自分が化け物の仲間なんて思いたくないけど』
ミサキから伝わる不安な気持ち。自分の正体を知りたい一方で、もし自分があの怪異と同じ存在であったらという不安。知りたいと知りたくないという気持ちが渦巻いたモヤモヤした感情だった。
「大丈夫だよ」
『……海斗?』
だが、そんなミサキに海斗は声をかける。
「……お前は化け物なんかじゃないよ。少なくとも、誰かに害を与えるようなやつじゃない。そう俺は思ってる」
記憶がない中、海斗に必要な知識を提供し、危険の中では身を案じてくれた。それは言ってしまえば彼女の素の姿なのだろう。そんな彼が人の心の闇を暴き、暴れさせるような存在だとは思えない。海斗はそう確信していた。
『海斗……』
「……なんだよ」
『言い慣れないこと言ったから、ちょっと恥ずかしがってる?』
「そこはスルーしてくれよ!」
自分の感情も伝わっているので、少しカッコつけようと背伸びしたらバレバレだ。きめ切れない自分に海斗は頬が熱くなる。
『でも、ありがとう』
「え?」
『まだ記憶は戻らないけど私、海斗のことは絶対に守らなくちゃって言う気持ちはあるの。もしかして、これから記憶が戻ったらその理由もわかるかもしれない』
海斗は余計に頬が熱くなるのを感じた。ミサキがどんな姿をしているのかまだわからない。だが、あの夢の通りなら黒髪の綺麗な女の子に違いない。そんな子に「絶対に守る」と言われて悪い気がするはずがない。
「……一人じゃ何にもできないのにか?」
だから、照れ隠しに海斗は憎まれ口をたたく。ミサキもそれに憎まれ口を返す。
『うっさい。私がいなかったら海斗も怪異を感じ取れないくせに』
「……お前こそさっきの台詞で恥ずかしがってるくせに」
『そこはスルーしなさいよ』
思わず海斗は笑ってしまう。通学路を歩く生徒から見れば道に立ち止まってにやけている変な奴に見えるかもしれない。だが、彼は笑わずにいられなかった。
「ねえカイくん。さっきから誰と話しているの?」
「おわっ!?」
だがそこに話しかける人物がちゃんとした。いつの間にか後ろに美波が立っていたのだ。
「カイくん、おっはー。独り言も過ぎると怪しい人だよ?」
いつもと変わらない様子で美波は手をひらひらと降っていた。病み上がりとは思えないほど元気な姿だ。
「もう大丈夫なのか?」
「うん。病院に運ばれた時にはもう何ともなかったから。料理部のみんなも同じだよ」
「そうか、よかったよ」
「でも、学校祭までの貴重な一日が潰れちゃったんだよね。今日も家庭科室使えないからミーティングの後は自宅で試作になりそう」
「でも、ついでにおじさんの夕食も作れるって思えばいいんじゃないか?」
「ダメだよカイくん」
びしっと海斗に向けて美波は指を突き付ける。
「本番のメニューになるかもしれないのにそれをお父さんに振る舞うのはネタバレなのです」
「そういうものか」
「そういうものなのです」
それに、試作品を食べてもらうのも彼女のプライドが許さないらしい。父親にはちゃんとしたものを食べさせたいのだと言う。
「お母さんが生きてれば相談できたんだけどねー」
「ま、味見なら俺も手伝うよ。なんならうちで作ればいいんじゃないか?」
海斗の母親は今日も忙しそうに朝早く出て行った。どうやら事態が落ち着くまでは家で食事を作るのは海斗の役割になりそうだった。美波が来てくれるのであれば海斗も武志も助かるというものだ。
「さすがカイくん。助太刀に感謝なのです」
ニヤリと美波が笑う。海斗は今の流れが海斗にその一言を言わせるためのものではないかと、少し寒気が走った。
「ふっふっふ。伊薙家の厨房は私が占領した」
「……まあ、食材も適当に使っていいから」
「あいあい。カイくんなら、いくら食べてもらっても太る心配ないから安心だね」
「待て、俺にどれだけ食わす気だ」
『あ、相変わらず抜け目ないわね……』
完全にいつもの調子を取り戻した美波に安心しながらも、異変の中で少しでも日常が戻ってきたことを海斗は安堵した。
「そろそろ行こうぜ。学校に遅れたらまずい」
「あ、そうそう。今日はね――」
歩き出そうとした海斗だが、美波の言葉に足を止める――その直後だった。
「かーいーとーっ!」
「ぐわっ!?」
突如現れた何者かによって、海斗の背中が思い切り叩かれた。しかも加減なしの平手。まだ体の痛みが癒えていない海斗の全身にその衝撃が一気に広がる。
「あたしを置いて行こうだなんて、いい度胸してるじゃないの!」
悶絶する海斗を前に、ショートヘアーの女子が仁王立ちで睨んでいた。
「今日は御琴ちんも一緒だよー」
「言うのが遅いよ!」
思わず海斗は美波に苦情を言う。中から『……また女が増えた』と警戒する声が聞こえたが海斗は聞かなかったことにした。
「どうしたんだよ御琴。水泳部の朝練じゃないのか?」
「例の事件の影響で今日の朝部活は全部中止なのよ。だから久しぶりに一緒に学校行くことにしたの。美波んのことも気にかかってたし」
「大丈夫。この通り、ピンピンしてるよー」
「あー、よかった。私の未来の嫁に何かあったらどうしようかと」
そう言って御琴が美波を抱きしめる。海斗の中からミサキのひきつったような笑い声が聞こえた。
『えっと、嫁って……この子、女の子よね?』
「気にするな。いつものコミュニケーションみたいなもんだから」
うしろ抱きで美波に抱き着いたまま、御琴は海斗に向き直る。ちなみに、これが美波を抱きしめやすい彼女のベストポジションらしい。
こうすると背の低い美波がすっぽり腕の中におさまり、彼女の頭の上にちょうど御琴のあごが来る。まるで、美波がぬいぐるみみたいだと思ったのは言わないことにした。
「えー、私そっちの趣味はないんだけどなー」
「えー、だって美波ん以外に、将来私のご飯を誰が作ってくれるの?」
「うーん……カイくん?」
「待て。俺を巻き込むな」
「むむ……確かに海斗のご飯は美味しいけど……くっ、美波んは私に究極の選択をしろって言うの!?」
「お前も飯で人を天秤にかけるな」
「ごめん海斗……平等院鳳凰堂あげるからあたしのことは諦めて」
「なんで俺が惚れてる扱いになってんだよ!? というか手切れ金十円って安いな!?」
「おおー、さすがカイくん。御琴ちんいるとツッコミがキレっキレだねー」
「全然嬉しくないわ、そんな評価!」
拍手を送る美波にさらに海斗がツッコミを入れる。御琴もひとしきり笑った後、美波を解放する。
「さて、冗談はこの辺にしておきますか」
「まったく。お前はいつでもエンジン全開だな」
「もち! 芦原高校のシラウオはいつでも元気なのだ!」
「……えっと、踊り食いのお魚?」
「……確かに元気だな」
「あれ、テッポウウオだっけ?」
「それ、水吹いてエサとるお魚」
「トビウオか?」
「それそれ。早く言ってよー!」
照れくさそうに御琴が笑う。海斗と美波はそんな彼女の明るさにつられて笑いを浮かべるのだった。
『なるほど……これがもう一人の幼馴染なのね』
「な、面白い奴だろ?」
『うん。海斗も彼女のことを大切に思ってるってよくわかる』
「……」
そろそろミサキに黙ってスルーするということを知ってもらいたい。そう海斗は思った。
「カイくん、御琴ちん。そろそろ学校行こうっか?」
「そうだな、いい加減遅刻しそうだ」
「うん。行こう行こ――」
「御琴ちん、危ない!」
美波の声がしたと思った瞬間、海斗が振り返る。見れば、歩き出そうとした御琴が前に倒れようとしていた。
「えっ――?」
だがその時、既に海斗の体は動き出していた。
とっさに手を差し出し、御琴の体をその腕で受け止める。幸い、海斗が動くのが早かったお陰で御琴は倒れずに済んだ。
「あ、あはは。ごめん海斗。なんかクラっと来ちゃって」
「い、いや。気にするな……」
照れくさそうに笑う|御琴に海斗は動揺して笑顔で返すことができなかった。
それは、偶然とはいえ女の子を抱きとめることになってしまったからでも、御琴の顔が至近距離に近づいたことで意識してしまったことでもない。
「今……俺の体、なんで動いたんだ?」
御琴が倒れそうになっていると認識した時、既に海斗の体は動き出していた。見て反射的に動いたのではない。動き出したのは見る前だ。
『今の……何で?』
ミサキの方も声が震えていた。
御琴を助けた安堵感より、得体の知れない不安と恐怖。どちらの気持ちなのかわからない気持ち悪さだけが二人の中に渦巻いていた。
翌日、通学路の待ち合わせ場所で海斗は勾玉を手に取り眺めていた。ミサキと共に調べてみたところ、あの場所で勾玉は合計で四つ見つかった。
だが、割れた要石の中に残っていた勾玉の跡は一つにつき四つ。つまりまだ四つの勾玉が存在している計算になる。もし、その一つがあの深雪が首から下げていたものだとすれば――。
「あと三回、同じことが起きるってことか?」
『あまり考えたくないわね
深雪の中からあふれ出た悪意の塊、鎌鼬。そしてそれを倒した時に感じた彼女の心の叫びとその原因。
『……あんなどす黒い悪意を見せつけられるのは二度とごめんよ』
「俺もごめんだよ」
手にした勾玉を握りしめる。先日は何とか撃退できたが、次はどうなるかわからない。洞窟に封じられていた何かについても伊薙家の文献を調べてみないと分からないらしく、祖父にその件は頼んである。
それに、調べなくてはならないことはまだ残っていた。
『私の正体も、ちゃんと調べないとね』
「ああ」
昨日、判明したことはもう一つあった。家に戻り「ミサキ」についてネットで検索してみた。今度は事件にかかわった用語を加えてみたところ、一件気になる物を見つけたのだ。
『まさか鎌鼬の別名が「山ミサキ」だったなんてね』
「人が行逢ったら高熱を出す……それも共通していたな」
『やっぱり私も「ミサキ」だから、ちゃんと自分の正体を知りたい……自分が化け物の仲間なんて思いたくないけど』
ミサキから伝わる不安な気持ち。自分の正体を知りたい一方で、もし自分があの怪異と同じ存在であったらという不安。知りたいと知りたくないという気持ちが渦巻いたモヤモヤした感情だった。
「大丈夫だよ」
『……海斗?』
だが、そんなミサキに海斗は声をかける。
「……お前は化け物なんかじゃないよ。少なくとも、誰かに害を与えるようなやつじゃない。そう俺は思ってる」
記憶がない中、海斗に必要な知識を提供し、危険の中では身を案じてくれた。それは言ってしまえば彼女の素の姿なのだろう。そんな彼が人の心の闇を暴き、暴れさせるような存在だとは思えない。海斗はそう確信していた。
『海斗……』
「……なんだよ」
『言い慣れないこと言ったから、ちょっと恥ずかしがってる?』
「そこはスルーしてくれよ!」
自分の感情も伝わっているので、少しカッコつけようと背伸びしたらバレバレだ。きめ切れない自分に海斗は頬が熱くなる。
『でも、ありがとう』
「え?」
『まだ記憶は戻らないけど私、海斗のことは絶対に守らなくちゃって言う気持ちはあるの。もしかして、これから記憶が戻ったらその理由もわかるかもしれない』
海斗は余計に頬が熱くなるのを感じた。ミサキがどんな姿をしているのかまだわからない。だが、あの夢の通りなら黒髪の綺麗な女の子に違いない。そんな子に「絶対に守る」と言われて悪い気がするはずがない。
「……一人じゃ何にもできないのにか?」
だから、照れ隠しに海斗は憎まれ口をたたく。ミサキもそれに憎まれ口を返す。
『うっさい。私がいなかったら海斗も怪異を感じ取れないくせに』
「……お前こそさっきの台詞で恥ずかしがってるくせに」
『そこはスルーしなさいよ』
思わず海斗は笑ってしまう。通学路を歩く生徒から見れば道に立ち止まってにやけている変な奴に見えるかもしれない。だが、彼は笑わずにいられなかった。
「ねえカイくん。さっきから誰と話しているの?」
「おわっ!?」
だがそこに話しかける人物がちゃんとした。いつの間にか後ろに美波が立っていたのだ。
「カイくん、おっはー。独り言も過ぎると怪しい人だよ?」
いつもと変わらない様子で美波は手をひらひらと降っていた。病み上がりとは思えないほど元気な姿だ。
「もう大丈夫なのか?」
「うん。病院に運ばれた時にはもう何ともなかったから。料理部のみんなも同じだよ」
「そうか、よかったよ」
「でも、学校祭までの貴重な一日が潰れちゃったんだよね。今日も家庭科室使えないからミーティングの後は自宅で試作になりそう」
「でも、ついでにおじさんの夕食も作れるって思えばいいんじゃないか?」
「ダメだよカイくん」
びしっと海斗に向けて美波は指を突き付ける。
「本番のメニューになるかもしれないのにそれをお父さんに振る舞うのはネタバレなのです」
「そういうものか」
「そういうものなのです」
それに、試作品を食べてもらうのも彼女のプライドが許さないらしい。父親にはちゃんとしたものを食べさせたいのだと言う。
「お母さんが生きてれば相談できたんだけどねー」
「ま、味見なら俺も手伝うよ。なんならうちで作ればいいんじゃないか?」
海斗の母親は今日も忙しそうに朝早く出て行った。どうやら事態が落ち着くまでは家で食事を作るのは海斗の役割になりそうだった。美波が来てくれるのであれば海斗も武志も助かるというものだ。
「さすがカイくん。助太刀に感謝なのです」
ニヤリと美波が笑う。海斗は今の流れが海斗にその一言を言わせるためのものではないかと、少し寒気が走った。
「ふっふっふ。伊薙家の厨房は私が占領した」
「……まあ、食材も適当に使っていいから」
「あいあい。カイくんなら、いくら食べてもらっても太る心配ないから安心だね」
「待て、俺にどれだけ食わす気だ」
『あ、相変わらず抜け目ないわね……』
完全にいつもの調子を取り戻した美波に安心しながらも、異変の中で少しでも日常が戻ってきたことを海斗は安堵した。
「そろそろ行こうぜ。学校に遅れたらまずい」
「あ、そうそう。今日はね――」
歩き出そうとした海斗だが、美波の言葉に足を止める――その直後だった。
「かーいーとーっ!」
「ぐわっ!?」
突如現れた何者かによって、海斗の背中が思い切り叩かれた。しかも加減なしの平手。まだ体の痛みが癒えていない海斗の全身にその衝撃が一気に広がる。
「あたしを置いて行こうだなんて、いい度胸してるじゃないの!」
悶絶する海斗を前に、ショートヘアーの女子が仁王立ちで睨んでいた。
「今日は御琴ちんも一緒だよー」
「言うのが遅いよ!」
思わず海斗は美波に苦情を言う。中から『……また女が増えた』と警戒する声が聞こえたが海斗は聞かなかったことにした。
「どうしたんだよ御琴。水泳部の朝練じゃないのか?」
「例の事件の影響で今日の朝部活は全部中止なのよ。だから久しぶりに一緒に学校行くことにしたの。美波んのことも気にかかってたし」
「大丈夫。この通り、ピンピンしてるよー」
「あー、よかった。私の未来の嫁に何かあったらどうしようかと」
そう言って御琴が美波を抱きしめる。海斗の中からミサキのひきつったような笑い声が聞こえた。
『えっと、嫁って……この子、女の子よね?』
「気にするな。いつものコミュニケーションみたいなもんだから」
うしろ抱きで美波に抱き着いたまま、御琴は海斗に向き直る。ちなみに、これが美波を抱きしめやすい彼女のベストポジションらしい。
こうすると背の低い美波がすっぽり腕の中におさまり、彼女の頭の上にちょうど御琴のあごが来る。まるで、美波がぬいぐるみみたいだと思ったのは言わないことにした。
「えー、私そっちの趣味はないんだけどなー」
「えー、だって美波ん以外に、将来私のご飯を誰が作ってくれるの?」
「うーん……カイくん?」
「待て。俺を巻き込むな」
「むむ……確かに海斗のご飯は美味しいけど……くっ、美波んは私に究極の選択をしろって言うの!?」
「お前も飯で人を天秤にかけるな」
「ごめん海斗……平等院鳳凰堂あげるからあたしのことは諦めて」
「なんで俺が惚れてる扱いになってんだよ!? というか手切れ金十円って安いな!?」
「おおー、さすがカイくん。御琴ちんいるとツッコミがキレっキレだねー」
「全然嬉しくないわ、そんな評価!」
拍手を送る美波にさらに海斗がツッコミを入れる。御琴もひとしきり笑った後、美波を解放する。
「さて、冗談はこの辺にしておきますか」
「まったく。お前はいつでもエンジン全開だな」
「もち! 芦原高校のシラウオはいつでも元気なのだ!」
「……えっと、踊り食いのお魚?」
「……確かに元気だな」
「あれ、テッポウウオだっけ?」
「それ、水吹いてエサとるお魚」
「トビウオか?」
「それそれ。早く言ってよー!」
照れくさそうに御琴が笑う。海斗と美波はそんな彼女の明るさにつられて笑いを浮かべるのだった。
『なるほど……これがもう一人の幼馴染なのね』
「な、面白い奴だろ?」
『うん。海斗も彼女のことを大切に思ってるってよくわかる』
「……」
そろそろミサキに黙ってスルーするということを知ってもらいたい。そう海斗は思った。
「カイくん、御琴ちん。そろそろ学校行こうっか?」
「そうだな、いい加減遅刻しそうだ」
「うん。行こう行こ――」
「御琴ちん、危ない!」
美波の声がしたと思った瞬間、海斗が振り返る。見れば、歩き出そうとした御琴が前に倒れようとしていた。
「えっ――?」
だがその時、既に海斗の体は動き出していた。
とっさに手を差し出し、御琴の体をその腕で受け止める。幸い、海斗が動くのが早かったお陰で御琴は倒れずに済んだ。
「あ、あはは。ごめん海斗。なんかクラっと来ちゃって」
「い、いや。気にするな……」
照れくさそうに笑う|御琴に海斗は動揺して笑顔で返すことができなかった。
それは、偶然とはいえ女の子を抱きとめることになってしまったからでも、御琴の顔が至近距離に近づいたことで意識してしまったことでもない。
「今……俺の体、なんで動いたんだ?」
御琴が倒れそうになっていると認識した時、既に海斗の体は動き出していた。見て反射的に動いたのではない。動き出したのは見る前だ。
『今の……何で?』
ミサキの方も声が震えていた。
御琴を助けた安堵感より、得体の知れない不安と恐怖。どちらの気持ちなのかわからない気持ち悪さだけが二人の中に渦巻いていた。
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