自己犠牲者と混ざる世界

二職三名人

文字の大きさ
5 / 92

1-5:始まり

しおりを挟む
 天月博人の養父、天月口成は自由奔放な男であった。
 和野圭によれば、昔に比べてだいぶおとなしくなったというが、天月博人が白雉島にやって来て一週間も満たない頃。
 エンストを頻繁に引き起こす不安を凝縮させたような古めの車で島中を連れまわされたり、突然「スカイダイビングがしたい」と言い出して和野圭を困らせたりした。

「うちの島主ってそんな人なんだ……」
「俺は変に固いより好きだけどねぇ」
「家の雨漏り、儂がやれば圭に任せなくても良いかもしれんな……とか言ってただやってみたいという雰囲気を垂れ流してた時は、屋根から落ちるのを想像して背筋が凍ったりするけどね。
 いろいろ聞かされて養子になったときは、人柱のような生活を送るのかと思っていましたけれど拍子抜けだったり」

「人柱?」
「言い方を変えます。自分の意思を度外視して、自分ではない何かのために動き続けるのかと」

「あれ?博人君って一生涯血族のお役目を果たすとか懐木ちゃんへのお土産話で言ってたよね? そんな心持だったの!?」
「うげぇ、博人お前それ人間の生活じゃねぇよ」
「慣れてますので、こっちに来る前は家族が少しでもひもじく感じないようにアルミ缶とかペットボトルなどを拾って食費の足しにしてましたし。自分の事を度外視するのは癖みたいなものです」

 そんな自由本望な養父を雑談のお題に友景可威が持ってきた鉄バットで素振りをしながらぐだを巻く。最近は三人でつるむことが多くなったように思う。天月博人は友人と環境音を背景音楽に雑dンするこの空気感は嫌いではなかった。

「ところでこっちに来て何たらーで思ったんですけど、こっちに住んでいるなら、異能力とかってのは認知してます?」
「おう、親からも学校でも聞くぞ、そのうち社会の授業でもうちょっと詳しいことやるんじゃねぇか」
「知ってたけど僕の親は僕に教えてくれませんでしたー」

「返しづらい自虐はどうかと……自虐が出来る位に回復したと思えば良いか、なら聞くけど、異能力者をみたことは?」
「ある、ってか、うちのクラスで女子に一人いるぞ?お前が来た時すでに肌寒かったし、冬だから使ってないけれど」
「あーそれなら見てないよね、うちのクラスに水に触ると自分の意思で氷を作れる子がいるんだよ」

「身近にいたんですか……というか普通に異能力者っているものなんですか?」
「居るよ居る。フツ―にいるぜ? 知ってるとは思うが異能力者なんて昔からいる。
 ほら、童話とか神話とか普通の現代常識で考えるとありえねねだろって話があるだろ? あれの幾つか本物だって考えれば、今いてもおかしくねぇよ」

 友人と過ごす時間は尊いものだと思う。パッと意味のない雑談でも、話題が二転三転と転がっても、存外に何かしらの学に繋がる事がある。天月博人はそれを期待してわずかながら知識を付けていこうとする。

「おっと、そろそろ時間だ。帰ろう。明日は冬眠しているウシガエルでも掘り出しましょうか」
「おぉ蛙狩りか、いいねぇ」
「うぅ、僕、蛙とか少し苦手だよぉ」

「ならちょっと離れたところから見てるだけにする?調理風景とか見てられないかもだし」
「蛙食うのか!?」「蛙食べるの!?」

「食わず嫌いは駄目ですよ、飯食う金が惜しい時のいいお肉なんですから、試しに一口食べてみて、合わないと思ったらそれっきりでいいので」
「よっしゃ、俺は食うぞ!食えるって聞いた事有るから少し気になってたんだよ」
「うぅ……2人がそう言うなら、僕も食べてみるよ……吐いちゃったら御免ね?」

 茜色の空、日が沈む色になったのを目安に、明日何をするかを決めて解散して、家に帰った。これが、天月博人の今おくる日常の一欠けら、集めて塊にして宝石の様に煌めかせ、伊矢見懐木に送る物である。
 不満はない、もしあってもかなぐり捨てられるくらいには好待遇であるように思う。本土の元家族、元友人に会えない意外に今の日常に不満があるとするのなら、いつでも、どこでも、何が起きてもおかしくはないこの世界が天月博人の築きあげてきたものを突如崩壊させるかもしれない、現に元家族と元友人との関係は崩壊してしまったのだから猶更そう思ってしまう。

「お帰り」
「うお!?っとと、父上、天月博人、ただ今帰りました」

 玄関を通ると、待天月口成が待って居たかのようにそこの似た。普段玄関まで出迎えるのは和野圭であったために、天月口成だったことに驚いて思わず後ずさる。

「博人君、もうこの島に離れたかな?」
「はい、ジブンにはもったいない日々を過ごさせていただいております」

「そうか、それは善かったのう。……そんな博人君に水を差すようで悪いが、君にも【与神の血族】その養子として働いてもらう申請が通ったのじゃ、これは、儂が君に言い出したことじゃが、君が家族友人の平温と言う条件を付けて承諾したこと、どうか責任をもって果たすためついてきてほしい」

 天月博人は、ほんの少し息を飲むような間の後に頷いて「勿論です」と答え、天月口成の背中を追いかけた。案内された場所はこの家の地下、そこには白雉島が誕生する事に成った切っ掛けだと。耳にした存在。どこに有るのだろうとは思ってはいたそれがそこに在った。
 地下には、大よそ地下にあるはずのない外の光景が広がって居た。元々地下だったであろう光景は隅に追いやられ、人ほどの大きさの虫のような生き物がうごめく草原の風景がそこに在った。まさしく空間に開いた異空間への穴である。

「これが、儂らの管理する異空間の穴じゃ、小さいものは発生してもすぐに蒸発して消えるが、象が一匹、容易く通れるくらいの穴が開くと消えることが無くなり、それどころか年に微かに広がっていく。今では特殊なガラスで穴を塞いでいるが、これが割れたとき次の蓋をするまで対応する事に成るのじゃ。わかったか?」
「父上、対応するにしてもジブンには何もありません。一体どうしたら……」

「ふむ……対応と言っても、やり方は十人十色じゃ、与神の名字を元服の義で変えることなく継承し続けている本家に蓋が取れてしまったと連絡を入れて、自身の異能で、異界の存在を押しとどめる者も居れば、儂のように従者に押しとどめてもらい、近辺に居る力ある者に助けを求める者も居る。……じゃが人脈は儂が切ってしまったからのぉ……子供に力で押さえろというのも酷な話だ。うーむ……博人君、力が欲しいのか?」

 天月博人は、そう尋ねられて、考える。どんなに信じられない事だろうと、博人に襲い掛かっり現状を作り上げた蛙のような化け物の存在と、目の前の空間に開いた穴がこの世に存在する摩訶不思議な戯言は本物かも知れないと囁く。きっと天月口成の言葉は本当なのだ。頷けば何らかの力が得られるだろう。その力一体どんなものか、もしかして異能か、代償は有るのかと尋ねるべきものは多くあるだろうが。

「それで、ジブンがあの願いを永劫継続されるほどの価値ある人間に近づけるのなら、喜んで」
「うむ……わかった」

「ところで、博人君は本当に十一歳か?」
「最近の子供は、現実を詰め込まれて、夢を見ないほどに大人びているらしいですよ?」

 そんなものは博人にとって、その胸に秘めた身内の安泰に比べて些細な物であった。


 天月博人が力を得ることを了承してからは速かった、天月博人に割り当てられた部屋の敷布団の上で和野圭が同伴している中、四肢を縛られて動けなくさせられる。

「人には基本、腕が、脚が、目が耳が二つある様に、本人の体の一部として存在する異能力は二つまで覚醒するのじゃ。
 そして、本人が覚醒する以外に、外的要因から異能を得る事がある。空想上と思われている生き物の血肉を浴びるか摂取すれば不死身になる辺りが近いかの、また他に神、悪魔、妖怪から力を与えられるのもそうじゃな。これらは君本人が覚醒するはずだったかもしれない二つの異能の枠を食わないから後悔する事は少ない。だが外部的に得られる異能は一つ以上得るのは不可能に等しい。人の容量を超えたのか身体が破裂するように崩壊するのじゃ、気を付けなさい。
 で、じゃな、何故そんな話をしたのか、これから行う事を分かりやすく説明したのじゃよ。儂を含む、与神の血族は、異能を与える異能を持って生まれる可能性が高いのじゃ。その亜種的な異能を持って生まれる血族もおるがね……さて、始める前に、儂が与える力についても話そうかの」

 天月口成は、手を天月博人の背中に当てて優しく声をかける。

「儂が与える異能は簡単に言えば【加速】じゃ、これがあればいち早く異空間の穴に対応、また民間人を避難させるなどの行動を迅速にできる。最高出力は三倍速まであるが、身体に負荷がかかる故、押さえて使う様に」
「はい」
「その前に博人様、お口をお空けください」

 天月博人の、たった一つの了解の言葉を受けて、和野圭が天月博人に口を開けるように要求し、口を開けると布を詰め込まれる。それを合図にしたのか、天月口成は背中に合わせた手を通じて不可視の何かを流し込んだ。
 それはすぐに天月博人に痛みが生じるほどの圧迫感を覚えさせ、布越しに絶叫させた。体が痛みから逃れようとするが、縛られた獅子がそれさえも抑え込む。和野圭が布を詰め込んでいなければ、何かの拍子で舌を噛み千切っていたかもしれない程に暴れ、何時しか暴れる体力も、痛みを感じる精神力も失われ気を失った。





「何と言うか、蛙の化け物に襲われたときと同じ、走馬燈を見るような感覚を引き出して効果が発揮されるんですねこれ。
 もう少し練習が必要かもしれません。
 ちなみに十段階の加速があるとして、四段階目の1.8倍速まで加速を許可してもらっています」
「だ、大丈夫だったんですかヒロ!?」

「大丈夫ですよ、異能力の事はあまり人に話さない方が良いと言われましたけれど、なっちゃんなら話しても大丈夫でしょ」
「ほえ? あっ、よくわかりませんけど違います! 凄く痛い思いをしたヒロが大丈夫なのかを聞いているんです!」

 ある日、速さと言う力を得た話、を伊矢見懐木と二人だけの病室で語る。すると井矢見懐木は心配そうに天月博人の体を案じた。

「あぁ、大丈夫。あの激痛が嘘みたいに、異能を除いて何も残って居ない。ほら傷1つなく体健やかだよ」
「よ、よかった……私、ヒロが何を想ってそうするのかわかりませんから強く言えませんけど……辛い目に合うのはなんか嫌です。とても嫌なんです。
 どうか、辛さとは関係のない場所で元気に笑ってほしいんです」

 天月博人はそれを「善処しましょう」と言って約束はしなかった。天月博人は井矢見懐木の口にしたそれと同じ、「辛さとは関係のない元気で笑う」ことを身内に願い、そのためならばその身内が嘆き悲しむなど何を想ってもその身をささげる覚悟を、産みの父が死した時からずっと抱いたのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...