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1-5:始まり
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天月博人の養父、天月口成は自由奔放な男であった。
和野圭によれば、昔に比べてだいぶおとなしくなったというが、天月博人が白雉島にやって来て一週間も満たない頃。
エンストを頻繁に引き起こす不安を凝縮させたような古めの車で島中を連れまわされたり、突然「スカイダイビングがしたい」と言い出して和野圭を困らせたりした。
「うちの島主ってそんな人なんだ……」
「俺は変に固いより好きだけどねぇ」
「家の雨漏り、儂がやれば圭に任せなくても良いかもしれんな……とか言ってただやってみたいという雰囲気を垂れ流してた時は、屋根から落ちるのを想像して背筋が凍ったりするけどね。
いろいろ聞かされて養子になったときは、人柱のような生活を送るのかと思っていましたけれど拍子抜けだったり」
「人柱?」
「言い方を変えます。自分の意思を度外視して、自分ではない何かのために動き続けるのかと」
「あれ?博人君って一生涯血族のお役目を果たすとか懐木ちゃんへのお土産話で言ってたよね? そんな心持だったの!?」
「うげぇ、博人お前それ人間の生活じゃねぇよ」
「慣れてますので、こっちに来る前は家族が少しでもひもじく感じないようにアルミ缶とかペットボトルなどを拾って食費の足しにしてましたし。自分の事を度外視するのは癖みたいなものです」
そんな自由本望な養父を雑談のお題に友景可威が持ってきた鉄バットで素振りをしながらぐだを巻く。最近は三人でつるむことが多くなったように思う。天月博人は友人と環境音を背景音楽に雑dンするこの空気感は嫌いではなかった。
「ところでこっちに来て何たらーで思ったんですけど、こっちに住んでいるなら、異能力とかってのは認知してます?」
「おう、親からも学校でも聞くぞ、そのうち社会の授業でもうちょっと詳しいことやるんじゃねぇか」
「知ってたけど僕の親は僕に教えてくれませんでしたー」
「返しづらい自虐はどうかと……自虐が出来る位に回復したと思えば良いか、なら聞くけど、異能力者をみたことは?」
「ある、ってか、うちのクラスで女子に一人いるぞ?お前が来た時すでに肌寒かったし、冬だから使ってないけれど」
「あーそれなら見てないよね、うちのクラスに水に触ると自分の意思で氷を作れる子がいるんだよ」
「身近にいたんですか……というか普通に異能力者っているものなんですか?」
「居るよ居る。フツ―にいるぜ? 知ってるとは思うが異能力者なんて昔からいる。
ほら、童話とか神話とか普通の現代常識で考えるとありえねねだろって話があるだろ? あれの幾つか本物だって考えれば、今いてもおかしくねぇよ」
友人と過ごす時間は尊いものだと思う。パッと意味のない雑談でも、話題が二転三転と転がっても、存外に何かしらの学に繋がる事がある。天月博人はそれを期待してわずかながら知識を付けていこうとする。
「おっと、そろそろ時間だ。帰ろう。明日は冬眠しているウシガエルでも掘り出しましょうか」
「おぉ蛙狩りか、いいねぇ」
「うぅ、僕、蛙とか少し苦手だよぉ」
「ならちょっと離れたところから見てるだけにする?調理風景とか見てられないかもだし」
「蛙食うのか!?」「蛙食べるの!?」
「食わず嫌いは駄目ですよ、飯食う金が惜しい時のいいお肉なんですから、試しに一口食べてみて、合わないと思ったらそれっきりでいいので」
「よっしゃ、俺は食うぞ!食えるって聞いた事有るから少し気になってたんだよ」
「うぅ……2人がそう言うなら、僕も食べてみるよ……吐いちゃったら御免ね?」
茜色の空、日が沈む色になったのを目安に、明日何をするかを決めて解散して、家に帰った。これが、天月博人の今おくる日常の一欠けら、集めて塊にして宝石の様に煌めかせ、伊矢見懐木に送る物である。
不満はない、もしあってもかなぐり捨てられるくらいには好待遇であるように思う。本土の元家族、元友人に会えない意外に今の日常に不満があるとするのなら、いつでも、どこでも、何が起きてもおかしくはないこの世界が天月博人の築きあげてきたものを突如崩壊させるかもしれない、現に元家族と元友人との関係は崩壊してしまったのだから猶更そう思ってしまう。
「お帰り」
「うお!?っとと、父上、天月博人、ただ今帰りました」
玄関を通ると、待天月口成が待って居たかのようにそこの似た。普段玄関まで出迎えるのは和野圭であったために、天月口成だったことに驚いて思わず後ずさる。
「博人君、もうこの島に離れたかな?」
「はい、ジブンにはもったいない日々を過ごさせていただいております」
「そうか、それは善かったのう。……そんな博人君に水を差すようで悪いが、君にも【与神の血族】その養子として働いてもらう申請が通ったのじゃ、これは、儂が君に言い出したことじゃが、君が家族友人の平温と言う条件を付けて承諾したこと、どうか責任をもって果たすためついてきてほしい」
天月博人は、ほんの少し息を飲むような間の後に頷いて「勿論です」と答え、天月口成の背中を追いかけた。案内された場所はこの家の地下、そこには白雉島が誕生する事に成った切っ掛けだと。耳にした存在。どこに有るのだろうとは思ってはいたそれがそこに在った。
地下には、大よそ地下にあるはずのない外の光景が広がって居た。元々地下だったであろう光景は隅に追いやられ、人ほどの大きさの虫のような生き物がうごめく草原の風景がそこに在った。まさしく空間に開いた異空間への穴である。
「これが、儂らの管理する異空間の穴じゃ、小さいものは発生してもすぐに蒸発して消えるが、象が一匹、容易く通れるくらいの穴が開くと消えることが無くなり、それどころか年に微かに広がっていく。今では特殊なガラスで穴を塞いでいるが、これが割れたとき次の蓋をするまで対応する事に成るのじゃ。わかったか?」
「父上、対応するにしてもジブンには何もありません。一体どうしたら……」
「ふむ……対応と言っても、やり方は十人十色じゃ、与神の名字を元服の義で変えることなく継承し続けている本家に蓋が取れてしまったと連絡を入れて、自身の異能で、異界の存在を押しとどめる者も居れば、儂のように従者に押しとどめてもらい、近辺に居る力ある者に助けを求める者も居る。……じゃが人脈は儂が切ってしまったからのぉ……子供に力で押さえろというのも酷な話だ。うーむ……博人君、力が欲しいのか?」
天月博人は、そう尋ねられて、考える。どんなに信じられない事だろうと、博人に襲い掛かっり現状を作り上げた蛙のような化け物の存在と、目の前の空間に開いた穴がこの世に存在する摩訶不思議な戯言は本物かも知れないと囁く。きっと天月口成の言葉は本当なのだ。頷けば何らかの力が得られるだろう。その力一体どんなものか、もしかして異能か、代償は有るのかと尋ねるべきものは多くあるだろうが。
「それで、ジブンがあの願いを永劫継続されるほどの価値ある人間に近づけるのなら、喜んで」
「うむ……わかった」
「ところで、博人君は本当に十一歳か?」
「最近の子供は、現実を詰め込まれて、夢を見ないほどに大人びているらしいですよ?」
そんなものは博人にとって、その胸に秘めた身内の安泰に比べて些細な物であった。
天月博人が力を得ることを了承してからは速かった、天月博人に割り当てられた部屋の敷布団の上で和野圭が同伴している中、四肢を縛られて動けなくさせられる。
「人には基本、腕が、脚が、目が耳が二つある様に、本人の体の一部として存在する異能力は二つまで覚醒するのじゃ。
そして、本人が覚醒する以外に、外的要因から異能を得る事がある。空想上と思われている生き物の血肉を浴びるか摂取すれば不死身になる辺りが近いかの、また他に神、悪魔、妖怪から力を与えられるのもそうじゃな。これらは君本人が覚醒するはずだったかもしれない二つの異能の枠を食わないから後悔する事は少ない。だが外部的に得られる異能は一つ以上得るのは不可能に等しい。人の容量を超えたのか身体が破裂するように崩壊するのじゃ、気を付けなさい。
で、じゃな、何故そんな話をしたのか、これから行う事を分かりやすく説明したのじゃよ。儂を含む、与神の血族は、異能を与える異能を持って生まれる可能性が高いのじゃ。その亜種的な異能を持って生まれる血族もおるがね……さて、始める前に、儂が与える力についても話そうかの」
天月口成は、手を天月博人の背中に当てて優しく声をかける。
「儂が与える異能は簡単に言えば【加速】じゃ、これがあればいち早く異空間の穴に対応、また民間人を避難させるなどの行動を迅速にできる。最高出力は三倍速まであるが、身体に負荷がかかる故、押さえて使う様に」
「はい」
「その前に博人様、お口をお空けください」
天月博人の、たった一つの了解の言葉を受けて、和野圭が天月博人に口を開けるように要求し、口を開けると布を詰め込まれる。それを合図にしたのか、天月口成は背中に合わせた手を通じて不可視の何かを流し込んだ。
それはすぐに天月博人に痛みが生じるほどの圧迫感を覚えさせ、布越しに絶叫させた。体が痛みから逃れようとするが、縛られた獅子がそれさえも抑え込む。和野圭が布を詰め込んでいなければ、何かの拍子で舌を噛み千切っていたかもしれない程に暴れ、何時しか暴れる体力も、痛みを感じる精神力も失われ気を失った。
「何と言うか、蛙の化け物に襲われたときと同じ、走馬燈を見るような感覚を引き出して効果が発揮されるんですねこれ。
もう少し練習が必要かもしれません。
ちなみに十段階の加速があるとして、四段階目の1.8倍速まで加速を許可してもらっています」
「だ、大丈夫だったんですかヒロ!?」
「大丈夫ですよ、異能力の事はあまり人に話さない方が良いと言われましたけれど、なっちゃんなら話しても大丈夫でしょ」
「ほえ? あっ、よくわかりませんけど違います! 凄く痛い思いをしたヒロが大丈夫なのかを聞いているんです!」
ある日、速さと言う力を得た話、を伊矢見懐木と二人だけの病室で語る。すると井矢見懐木は心配そうに天月博人の体を案じた。
「あぁ、大丈夫。あの激痛が嘘みたいに、異能を除いて何も残って居ない。ほら傷1つなく体健やかだよ」
「よ、よかった……私、ヒロが何を想ってそうするのかわかりませんから強く言えませんけど……辛い目に合うのはなんか嫌です。とても嫌なんです。
どうか、辛さとは関係のない場所で元気に笑ってほしいんです」
天月博人はそれを「善処しましょう」と言って約束はしなかった。天月博人は井矢見懐木の口にしたそれと同じ、「辛さとは関係のない元気で笑う」ことを身内に願い、そのためならばその身内が嘆き悲しむなど何を想ってもその身をささげる覚悟を、産みの父が死した時からずっと抱いたのだから。
和野圭によれば、昔に比べてだいぶおとなしくなったというが、天月博人が白雉島にやって来て一週間も満たない頃。
エンストを頻繁に引き起こす不安を凝縮させたような古めの車で島中を連れまわされたり、突然「スカイダイビングがしたい」と言い出して和野圭を困らせたりした。
「うちの島主ってそんな人なんだ……」
「俺は変に固いより好きだけどねぇ」
「家の雨漏り、儂がやれば圭に任せなくても良いかもしれんな……とか言ってただやってみたいという雰囲気を垂れ流してた時は、屋根から落ちるのを想像して背筋が凍ったりするけどね。
いろいろ聞かされて養子になったときは、人柱のような生活を送るのかと思っていましたけれど拍子抜けだったり」
「人柱?」
「言い方を変えます。自分の意思を度外視して、自分ではない何かのために動き続けるのかと」
「あれ?博人君って一生涯血族のお役目を果たすとか懐木ちゃんへのお土産話で言ってたよね? そんな心持だったの!?」
「うげぇ、博人お前それ人間の生活じゃねぇよ」
「慣れてますので、こっちに来る前は家族が少しでもひもじく感じないようにアルミ缶とかペットボトルなどを拾って食費の足しにしてましたし。自分の事を度外視するのは癖みたいなものです」
そんな自由本望な養父を雑談のお題に友景可威が持ってきた鉄バットで素振りをしながらぐだを巻く。最近は三人でつるむことが多くなったように思う。天月博人は友人と環境音を背景音楽に雑dンするこの空気感は嫌いではなかった。
「ところでこっちに来て何たらーで思ったんですけど、こっちに住んでいるなら、異能力とかってのは認知してます?」
「おう、親からも学校でも聞くぞ、そのうち社会の授業でもうちょっと詳しいことやるんじゃねぇか」
「知ってたけど僕の親は僕に教えてくれませんでしたー」
「返しづらい自虐はどうかと……自虐が出来る位に回復したと思えば良いか、なら聞くけど、異能力者をみたことは?」
「ある、ってか、うちのクラスで女子に一人いるぞ?お前が来た時すでに肌寒かったし、冬だから使ってないけれど」
「あーそれなら見てないよね、うちのクラスに水に触ると自分の意思で氷を作れる子がいるんだよ」
「身近にいたんですか……というか普通に異能力者っているものなんですか?」
「居るよ居る。フツ―にいるぜ? 知ってるとは思うが異能力者なんて昔からいる。
ほら、童話とか神話とか普通の現代常識で考えるとありえねねだろって話があるだろ? あれの幾つか本物だって考えれば、今いてもおかしくねぇよ」
友人と過ごす時間は尊いものだと思う。パッと意味のない雑談でも、話題が二転三転と転がっても、存外に何かしらの学に繋がる事がある。天月博人はそれを期待してわずかながら知識を付けていこうとする。
「おっと、そろそろ時間だ。帰ろう。明日は冬眠しているウシガエルでも掘り出しましょうか」
「おぉ蛙狩りか、いいねぇ」
「うぅ、僕、蛙とか少し苦手だよぉ」
「ならちょっと離れたところから見てるだけにする?調理風景とか見てられないかもだし」
「蛙食うのか!?」「蛙食べるの!?」
「食わず嫌いは駄目ですよ、飯食う金が惜しい時のいいお肉なんですから、試しに一口食べてみて、合わないと思ったらそれっきりでいいので」
「よっしゃ、俺は食うぞ!食えるって聞いた事有るから少し気になってたんだよ」
「うぅ……2人がそう言うなら、僕も食べてみるよ……吐いちゃったら御免ね?」
茜色の空、日が沈む色になったのを目安に、明日何をするかを決めて解散して、家に帰った。これが、天月博人の今おくる日常の一欠けら、集めて塊にして宝石の様に煌めかせ、伊矢見懐木に送る物である。
不満はない、もしあってもかなぐり捨てられるくらいには好待遇であるように思う。本土の元家族、元友人に会えない意外に今の日常に不満があるとするのなら、いつでも、どこでも、何が起きてもおかしくはないこの世界が天月博人の築きあげてきたものを突如崩壊させるかもしれない、現に元家族と元友人との関係は崩壊してしまったのだから猶更そう思ってしまう。
「お帰り」
「うお!?っとと、父上、天月博人、ただ今帰りました」
玄関を通ると、待天月口成が待って居たかのようにそこの似た。普段玄関まで出迎えるのは和野圭であったために、天月口成だったことに驚いて思わず後ずさる。
「博人君、もうこの島に離れたかな?」
「はい、ジブンにはもったいない日々を過ごさせていただいております」
「そうか、それは善かったのう。……そんな博人君に水を差すようで悪いが、君にも【与神の血族】その養子として働いてもらう申請が通ったのじゃ、これは、儂が君に言い出したことじゃが、君が家族友人の平温と言う条件を付けて承諾したこと、どうか責任をもって果たすためついてきてほしい」
天月博人は、ほんの少し息を飲むような間の後に頷いて「勿論です」と答え、天月口成の背中を追いかけた。案内された場所はこの家の地下、そこには白雉島が誕生する事に成った切っ掛けだと。耳にした存在。どこに有るのだろうとは思ってはいたそれがそこに在った。
地下には、大よそ地下にあるはずのない外の光景が広がって居た。元々地下だったであろう光景は隅に追いやられ、人ほどの大きさの虫のような生き物がうごめく草原の風景がそこに在った。まさしく空間に開いた異空間への穴である。
「これが、儂らの管理する異空間の穴じゃ、小さいものは発生してもすぐに蒸発して消えるが、象が一匹、容易く通れるくらいの穴が開くと消えることが無くなり、それどころか年に微かに広がっていく。今では特殊なガラスで穴を塞いでいるが、これが割れたとき次の蓋をするまで対応する事に成るのじゃ。わかったか?」
「父上、対応するにしてもジブンには何もありません。一体どうしたら……」
「ふむ……対応と言っても、やり方は十人十色じゃ、与神の名字を元服の義で変えることなく継承し続けている本家に蓋が取れてしまったと連絡を入れて、自身の異能で、異界の存在を押しとどめる者も居れば、儂のように従者に押しとどめてもらい、近辺に居る力ある者に助けを求める者も居る。……じゃが人脈は儂が切ってしまったからのぉ……子供に力で押さえろというのも酷な話だ。うーむ……博人君、力が欲しいのか?」
天月博人は、そう尋ねられて、考える。どんなに信じられない事だろうと、博人に襲い掛かっり現状を作り上げた蛙のような化け物の存在と、目の前の空間に開いた穴がこの世に存在する摩訶不思議な戯言は本物かも知れないと囁く。きっと天月口成の言葉は本当なのだ。頷けば何らかの力が得られるだろう。その力一体どんなものか、もしかして異能か、代償は有るのかと尋ねるべきものは多くあるだろうが。
「それで、ジブンがあの願いを永劫継続されるほどの価値ある人間に近づけるのなら、喜んで」
「うむ……わかった」
「ところで、博人君は本当に十一歳か?」
「最近の子供は、現実を詰め込まれて、夢を見ないほどに大人びているらしいですよ?」
そんなものは博人にとって、その胸に秘めた身内の安泰に比べて些細な物であった。
天月博人が力を得ることを了承してからは速かった、天月博人に割り当てられた部屋の敷布団の上で和野圭が同伴している中、四肢を縛られて動けなくさせられる。
「人には基本、腕が、脚が、目が耳が二つある様に、本人の体の一部として存在する異能力は二つまで覚醒するのじゃ。
そして、本人が覚醒する以外に、外的要因から異能を得る事がある。空想上と思われている生き物の血肉を浴びるか摂取すれば不死身になる辺りが近いかの、また他に神、悪魔、妖怪から力を与えられるのもそうじゃな。これらは君本人が覚醒するはずだったかもしれない二つの異能の枠を食わないから後悔する事は少ない。だが外部的に得られる異能は一つ以上得るのは不可能に等しい。人の容量を超えたのか身体が破裂するように崩壊するのじゃ、気を付けなさい。
で、じゃな、何故そんな話をしたのか、これから行う事を分かりやすく説明したのじゃよ。儂を含む、与神の血族は、異能を与える異能を持って生まれる可能性が高いのじゃ。その亜種的な異能を持って生まれる血族もおるがね……さて、始める前に、儂が与える力についても話そうかの」
天月口成は、手を天月博人の背中に当てて優しく声をかける。
「儂が与える異能は簡単に言えば【加速】じゃ、これがあればいち早く異空間の穴に対応、また民間人を避難させるなどの行動を迅速にできる。最高出力は三倍速まであるが、身体に負荷がかかる故、押さえて使う様に」
「はい」
「その前に博人様、お口をお空けください」
天月博人の、たった一つの了解の言葉を受けて、和野圭が天月博人に口を開けるように要求し、口を開けると布を詰め込まれる。それを合図にしたのか、天月口成は背中に合わせた手を通じて不可視の何かを流し込んだ。
それはすぐに天月博人に痛みが生じるほどの圧迫感を覚えさせ、布越しに絶叫させた。体が痛みから逃れようとするが、縛られた獅子がそれさえも抑え込む。和野圭が布を詰め込んでいなければ、何かの拍子で舌を噛み千切っていたかもしれない程に暴れ、何時しか暴れる体力も、痛みを感じる精神力も失われ気を失った。
「何と言うか、蛙の化け物に襲われたときと同じ、走馬燈を見るような感覚を引き出して効果が発揮されるんですねこれ。
もう少し練習が必要かもしれません。
ちなみに十段階の加速があるとして、四段階目の1.8倍速まで加速を許可してもらっています」
「だ、大丈夫だったんですかヒロ!?」
「大丈夫ですよ、異能力の事はあまり人に話さない方が良いと言われましたけれど、なっちゃんなら話しても大丈夫でしょ」
「ほえ? あっ、よくわかりませんけど違います! 凄く痛い思いをしたヒロが大丈夫なのかを聞いているんです!」
ある日、速さと言う力を得た話、を伊矢見懐木と二人だけの病室で語る。すると井矢見懐木は心配そうに天月博人の体を案じた。
「あぁ、大丈夫。あの激痛が嘘みたいに、異能を除いて何も残って居ない。ほら傷1つなく体健やかだよ」
「よ、よかった……私、ヒロが何を想ってそうするのかわかりませんから強く言えませんけど……辛い目に合うのはなんか嫌です。とても嫌なんです。
どうか、辛さとは関係のない場所で元気に笑ってほしいんです」
天月博人はそれを「善処しましょう」と言って約束はしなかった。天月博人は井矢見懐木の口にしたそれと同じ、「辛さとは関係のない元気で笑う」ことを身内に願い、そのためならばその身内が嘆き悲しむなど何を想ってもその身をささげる覚悟を、産みの父が死した時からずっと抱いたのだから。
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