Radiantmagic-煌炎の勇者-

橘/たちばな

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神界に眠るもの

魔人の王

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何故、俺の頭の中に見慣れぬ連中の姿が浮かび上がる?

奴は誰だ? そして俺は――何者なんだ?


大剣を手にした男と、無法者と思わしき多くの人間があからさま自分に殺意を向けている。そんな光景が再び頭の中で浮かび上がる。俺の正体と何か関係があるのか? その答えを探す為、荒廃した大地をたった一人で進んでいくゾルア。濃い霧で覆われた魔導帝国の領土内には何があるのか解らない。だが、他に行く当てもない。自分の正体を知れる場所が掴めない限り、ただ前へ進むしか他に無い。そして現れる魔物の群れ。血に飢えた魔物達は、獲物として選んだゾルアに襲い掛かる。
「全く……騒がしい奴らだ」
襲い来る魔物を剣で次々と切り裂いていくゾルア。しかし現れた魔物は途轍もない数による群れだった。応戦しようにも、肉体は既に限界へ達している。イーヴァとの戦いによるダメージも回復していない状態であるが故、命を落とすのも時間の問題だ。魔物の鋭い牙がゾルアの脇腹を捉え、赤黒い血が迸る。
「ゴボ……ぐっ……」
込み上がる血反吐を撒き散らしつつ、ゾルアが膝を付く。周囲に立ちはだかる魔物の群れが目を光らせている。


――モウ限界カ……所詮ハニンゲン。足掻コウニモ越エラレヌ壁ハ存在スルカ。


グレアウロの声が頭から語り掛けるように聞こえ始める。
「邪魔……するな……」
ゾルアは自分の意識を奪おうとするグレアウロに抗うかの如く、激痛を抑えながら立ち上がろうとする。
「……ガアアアアアッ!」
咆哮と共に剣を大きく振り回すゾルア。そのひと振りは鋭い斬撃となり、飛び掛かる魔物を一斉に斬り飛ばした。
「う、ぐ……グオオオオオアアアアアアア!」
目が赤く光り、朦朧とする意識の中、ゾルアは更に剣を振り下ろす。凄まじい衝撃波が巻き起こり、魔物の群れを撃退していく。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」
凄まじい咆哮に応えるかの如く、ゾルアから巨大な闇のエネルギーの柱が発生し、波動となって広がり始める。そして大爆発を引き起こし、全ての魔物は吹き飛ばされた。ゾルアの身体も爆発によって吹っ飛ばされていく。



――ククク、ソレデモ抗ウカ。越エラレヌ壁ガアッテモ越エヨウトスルトハナ。


闇の中、嘲笑うように言い放つグレアウロ。
「……越えられぬ壁など、お前が決めつけた事じゃないのか? お前が何を言おうと、足掻き続けてやるまでだ」
ボロボロの姿のゾルアは、抗う意思を曲げようとしない。
「フハハハ……気ニ入ッタゾ。オレニ抗オウトスルソノ意思ガドコマデ続クノカ、実ニ興味深イ」
相変わらず愉快そうな様子のグレアウロに、殺気が込められた目を向けるゾルア。
「抗エ。オレノ全テヲ奪イタケレバ、死ンデモ抗エ。死ンデモナ……」
グレアウロの言葉で思わず剣を振り下ろすゾルアだが、目の前にいるグレアウロは実体ではなく幻であった。



目を覚ますと、そこは屋内――見慣れぬ内装の家内であった。
「よぉ、目を覚ましたか。ニンゲンよ」
声を掛けてきたのは、青い肌の魔族の男だ。
「あんた、何処から来たのか知らねぇが、王国の近くに倒れてたんだぜ」
男の名はマルバス。デルモンド王国の魔人兵の一人であり、倒れていたゾルアを発見して家まで連れて帰ったという。爆発によって暗黒大陸まで吹っ飛ばされたゾルアは王国の付近で倒れていたのだ。
「此処は我ら魔人の王国デルモンドだ。サターニアの悪魔どもに見られたら何されるかわからねぇから感謝するこったな」
マルバスは任務中という事で家から出ようとする。
「……もし腕に自信があるってぇなら、魔人王様のところへ行ってみるか? 死ぬ覚悟くらいは必要だがな」
振り返らず、そう言い残して去って行くマルバス。密かにゾルアから何かを感じ取った様子だ。
「魔人王……俺の事が少しでも解るならば、会ってみる価値はあるかもな」
ゾルアは傍らにある剣を手に家を出ると、殺風景な雰囲気に満ちた光景が視界に飛び込んで来る。筋肉質の逞しい体付きを持つ魔人の男が至る所にいる。鍛錬で激しく拳を交える者達や、道の上で酒盛りをしている集団。魔族によるスラムのような街だった。街の中心地にあるのは、魔人王バアルの居城。バアルの城へ向かう中、ゾルアは様々な魔人の話を耳にする。
「サターニアの悪魔どもは闇の魔力による魔法を扱える。だからこそ徒党で組まれると厄介な存在にもなり得るぞ」
「だが、力においては我ら魔人が圧倒的に勝っている。闇の魔力といえど、ちょっとやそっとの魔法で屈する程ヤワではない」
「奴らの団結力は侮れぬぞ。それに、最近では悪魔王が得体の知れぬ勢力と協力関係を結んでいるとの噂だ。バアル様は今どうお考えなのか……」
話し合っているのは、デルモンドの魔人兵三人であった。
「ムッ、貴様は何者だ?」
魔人兵の一人がゾルアに声を掛ける。
「……魔人王とやらに用がある」
ゾルアが返答すると、二人の魔人兵が立ち塞がる。
「貴様、ニンゲンだな。悪魔王に雇われたスパイか?」
魔人兵の一人が突っかかるように言う。
「アンタ達に用は無い。そこをどけ」
冷徹に返すゾルア。
「何のつもりかは知らんが、妙な真似はさせんぞ。ニンゲン如きが兵力の足しになるとは思えんからな」
食って掛かる魔人兵に対し、ゾルアは無言で剣を抜く。敵意剥き出しで魔人兵が殴り掛かるものの、ゾルアは軽く一撃をかわし、反撃の一閃を繰り出す。
「ぐおあっ!」
一閃を受けた魔人兵の身体から緑色の鮮血が迸る。
「おのれ!」
残りの二人が挑む。ゾルアは動じずに剣を振る。
「がはあっ!」
「ごあああ!」
一瞬で倒される魔人兵達。三人の魔人兵を軽く撃破出来る圧倒的な強さは、ゾルア自身でも不可解な次元であった。


――ククク、ココニ来テ戸惑イ始メタノカ? 己ノ尋常デナイ強サニ。


グレアウロが語り掛けるように言う。やはりお前のせいか。いい加減しつこいぞ、と反論するものの、グレアウロは笑い続ける。


――クックック、己ノ正体ガ知リタインダロウ? コノ先、オレノ力ガナイ限リ、ソノ願望ハ果タセナイゼ? 何、恐レル事ハ無イ。オマエノ意識ダケハ保ツヨウニシテヤル。オレハオマエデモアルノダカラナ!


頭に響き渡るグレアウロの声にどこまでも鬱陶しい奴だ、と呟きつつも、ゾルアは倒れた魔人兵の姿を見つつも足を動かす。
「おい、あんたは何者だ! ニンゲンにしては強すぎる……まさか悪魔王と関わりのある者か?」
魔人兵とのひと悶着を目撃していたマルバスが鋭い目で声を掛ける。
「そんな奴は知らん。俺は自分の正体を知る目的で流離っているだけだ。俺をこんなところに連れてきたのはアンタじゃないのか?」
ゾルアの返答に対し、マルバスはそうかと何か安心したような顔になる。
「あんただったら、我々の心強い兵力になるかもな」
マルバスはゾルアが魔人王に会おうとしている事を知ると、城まで案内する。
「むっ、マルバスよ。その男は何者だ」
城の門番を務めている魔人兵二人が立ち塞がる。
「我々と似た匂いがするニンゲンだ。魔人王様の元へ案内させて頂いている」
「何だと? ニンゲン等が魔人王様に何の用があるというのだ!」
訝しむ魔人兵達だが、ゾルアは全く動じない。
「アンタらには解らんだろうが、俺は決してただの人間ではない。俺の中には恐るべきバケモノが潜んでいる」
ゾルアの目が赤く光り始めると、身体から黒い瘴気のようなものが発生する。魔人兵達は得体の知れない気配を感じ取り、思わず身構える。
「シニタクナケレバ……ソコヲドケ」
発したその言葉は、ゾルアではなくグレアウロの声だった。
「……何者なのか知らんが、通るが良い。だが……敵とみなせば容赦はせんぞ」
戦慄を覚えた魔人兵達は城の奥へ向かって行く。我に返ったゾルアは不意に頭痛に襲われる。
「なあ……あんた、本当に大丈夫か。今の声があんたの言うバケモノとやらか?」
ゾルアの口から出たグレアウロの声を聞いて、思わず警戒心を抱き始めるマルバス。
「……ここまで案内されれば十分だ。もう俺に関わらない方がいい」
痛みが治まらない頭を抑えつつも、ゾルアは足を動かす。マルバスはゾルアの言葉に従うかのように、その場に立ち尽くしていた。あいつは一体何者だ。奴の中にいるというバケモノは何なんだ。浮かんでくる疑問に対する答えを知る術は無い。


辿り着いた先の階段を上るとそこは、謁見の間であった。部屋の中心に設けられた台座には巨大な球体が置かれ、玉座にはグラスを片手に酒を嗜む筋肉隆々の肉体を持つ大男――魔人王バアルであった。傍らには報告に向かった門番の魔人兵がおり、球体は闘技場での戦いを映し出す映像装置だった。
「貴様か。バケモノの姿を持つニンゲンというのは」
淡々と、威圧感のある声で問うバアル。
「俺自身に関する事はゾルアという名前以外に、グレアウロと名乗るバケモノが潜んでいる事しか知らん」
「何だと?」
「俺は自分の正体が知りたくて来ただけだ。アンタは……俺が何者なのか知っているのか?」
片手のグラスを握り潰し、険しい表情を浮かべるバアル。
「まさか、グレアウロが貴様の中にいるというのか。貴様は……」
バアルが鋭い目を向ける。グレアウロやゾルアについて何か知っている様子であった。
「話せ。知っている事の全てを。勿体ぶるなら力ずくでも聞かせてやるぞ」
ゾルアが剣を構えると、魔人兵達が戦闘態勢に入る。
「……ククク、面白い。ゾルアといったな。私は貴様の力に興味がある。グレアウロとして生きる、貴様の力がどんなものかをな」
バアルは手元に剣を出現させる。黒ずんだ刀身は幅広く、デモンズブレイドと呼ばれる無骨な形状をした剣であった。
「この剣は決闘に参加する者のみ使う事が許される。地下の闘技場で貴様の力を見せてみろ。我が配下となる戦士達、そしてこの私自身との試合に勝つ事が出来れば、貴様の正体を教えてやろう」
バアルが目を見開くと、不意にゾルアの頭から声が聞こえてくる。


――ククク、懐カシイ匂イダ。コイツガオレノ事ヤ、オマエの正体ヲ知ッテイルノハ当然ダロウナ。ヤッテミロヨ。コイツモブチノメシガイガアルゼ……!


俺に命令するな、と意識の中で返答しつつも、ゾルアはバアルが出した剣……デモンズブレイドを手に取る。
「……いいだろう。試してやる」
ゾルアが決闘に参加する事を確認したバアルは指を鳴らすと、ゾルアのいる場所が抜け、地下へと降りていく。足場が地下深くまで降りた先には、闘技場が設けられていた。リング上では傷だらけの魔人が巨大な魔獣と戦っており、客席は多くの観客で賑わっている。多くの魔人が鍛錬や実力を競い合う決闘で血を流しながら戦い合う暗黒の闘技場であった。
「ぐああああああ!」
魔獣の鋭い牙に掛かった魔人の断末魔の叫び声。牙は心臓に達し、血反吐を吐きながら息絶える魔人。決闘においては犠牲をも厭わない修羅の場でもあるのだ。
「聞け、諸君。たった今、新たなる決闘の参加者が現れた」
突然、響き渡るように聞こえてくるバアルの声。
「新手の参加者はニンゲンの戦士だが、決してただのニンゲンではない。幾多の修羅を乗り越えた魔人将を相手にどこまで戦えるか、とくと見届けよ」
バアルの声に応えるかの如く、客席が盛り上がり始める。屍となった魔人が運ばれていく中、ゾルアは舞台に出る。すると、牙を剥けた魔獣が襲い掛かる。
「チイッ」
魔獣の鋭い牙を間髪で回避しては間合いを取る。頬に傷跡が刻まれていた。だが魔獣の武器は鋭い牙だけではない。口から激しい火炎を放つ事も可能であった。
「ぬうっ……」
火炎ブレスによって身を焼かれつつ、ゾルアは反撃に転じる。魔獣の牙がゾルアの右肩に食い込んだ瞬間、黒い血飛沫が舞う。ゾルアの剣によって、魔獣の身体は真っ二つに裂かれていた。
「ククク……どうやら本当にただのニンゲンではないようだな」
鍛え抜かれた鋼の巨体を持つ大男の魔人が現れる。精鋭の戦士の一人、魔人将バルバルスである。
「貴様がどれ程の者かは知らんが、魔人王様の手を煩わせる事もあるまい。このオレ様が叩き潰してくれるわ!」
バルバルスが剛腕を振り下ろす。その一撃による破壊力は凄まじく、リングに大きなクレーターを生む程だ。
「カアアッ!」
ゾルアに向けて口から冷気を吐き出す。その冷気は無数の黒い氷の粒による雹と化していく。闇の魔力によって黒く輝く暗黒の冷気だ。辺りが黒く凍り付いていき、ゾルアの両足も凍り付いていく。
「くたばれェッ!」
バルバルスの一撃がゾルアを襲う。だが次の瞬間、ゾルアの目が赤く光り、拳を剣で受け止める。更に両足の黒い氷を砕き、回し蹴りを繰り出す。
「ヌグッ」
回し蹴りを食らったバルバルスがよろめいた隙に、ゾルアは瞬時に一閃を繰り出す。バルバルスの剛腕が吹っ飛ばされ、緑色の血飛沫が迸る。
「グオアアアアアアッ!」
絶叫するバルバルスの懐に飛び掛かり、次々と切り裂いていく。ズタズタに引き裂かれたバルバルスの身体は血に染まり、血反吐が吐き出される。緑色の血に塗れたバルバルスはそれでも勝負を捨てないものの、最早まともに動く事すら出来なかった。辺りが緑色に染まる中、決着のゴングが鳴り響く。


――クックックッ……コイツラハ八ツ裂キニシテモ戦オウトスル。ダカラコソ、八ツ裂キニシガイガアル。モット足掻ケ……ズタボロニサレヨウト戦エ! 足掻ケ! ソシテコロセ! 殺戮アルノミダ!


グレアウロに半ば意識を奪われつつも、放心状態で緑色の血の海に沈んだバルバルスを見つめるゾルア。
「次はこのオレだ。バルバルスに勝ったからといっていい気になるなよ」
続いて現れた精鋭の戦士は、魔闘将ハウラス。サタンズクローと呼ばれる爪を両手に装備した武闘家の魔人だ。
「オレの動きに付いて来れるか?」
ハウラスはゾルアの周囲を動き回る。その動きは肉眼では捉えられない程の凄まじい速度で、残像が生じていた。
「キエエエエエッ!」
次々とクローによる引き裂き攻撃がゾルアに襲い掛かる。目にも止まらぬ速度の攻撃は一瞬でゾルアをズタズタに引き裂いていき、赤黒い血が迸る。間合いを取りつつも動きを止めたハウラスは返り血を浴びていた。ハウラスの攻撃でゾルアは血塗れかつ傷だらけの姿となり、出血の量は激しいものだった。
「ククク……やはりオレのスピードによる攻撃には手も足も出ないか」
とどめを刺してやろうと言わんばかりに再びゾルアの周囲を動き回るハウラス。血を流すゾルアはよろめくものの、再び目を赤く光らせる。口から黒い瘴気が漏れ、咆哮を上げる。グレアウロに意識を奪われているのだ。グレアウロの意識が前面に出た時、ゾルアの身体中の傷が塞がれていく。そして、残像を伴って動き続けるハウラスに斬撃を食らわせる。
「ぬうっ」
斬撃を受けたハウラスは空中回転しつつも、着地しては構えを取る。グレアウロに意識を支配されたゾルアは剣を捨て、唸り声を上げながらも素手で応戦しようとしていた。
「剣を捨てるとは何のつもりだ? オレを見縊るなぁっ!」
多くの残像を生み、ヒットアンドアウェイ戦法で瞬時に攻撃を加えていくハウラス。ゾルアは攻撃を受けるものの、ハウラスが次の攻撃を仕掛けてきた瞬間、爪の一撃を両手で受け止める。
「何ッ!」
ゾルアはハウラスの爪を掴んだまま大きく振り回し、力任せに投げ飛ばす。ハウラスが吹っ飛ばされる中、ゾルアは一瞬でハウラスに追いつき、地面に叩きつける。捨てた剣を再び手にし、起き上がろうとするハウラスに一閃を繰り出す。
「ゴボァッ」
深々と切り裂かれたハウラスは盛大に血反吐を吐き散らす。クリティカルヒットとなったものの、ハウラスは傷を抑えつつも反撃に転じようとする。目を光らせたゾルアは尚もハウラスに近付いていく。
「貴様ァッ!」
怒りに満ちた形相で攻撃に転じるハウラス。だがその動きは傷を負ったせいで鈍っており、キレがない。ゾルアは剣を大きく振り下ろす。衝撃波が地面を伝う中、居合を繰り出すゾルア。
「ぐおあああああ!」
緑色の血が多量に迸る。脇腹を深々と切り裂かれたハウラスが膝を付くと、ゾルアの剣が黒ずんだ雷に覆われる。闇の雷であった。



衝破雷撃――



闇の雷が込められた斬撃。縦に裂き、横に裂き、そして最後の斬り上げと共に巻き起こる激しい闇の雷。
「ガアアアアアアアアッ!」
致命傷を負い、闇の雷を受けたハウラスは倒れる。意識を取り戻したゾルアは、目の前に倒れているハウラスの姿を見て今まで奴がやったのかと悟る。


――クックックッ……他愛ノナイ。オレノ力ニ頼ラナイデ戦ッテミルカ? オマエノ力ダケデ勝テルカドウカ怪シイト思ウガナ。


ゾルアの頭の中でグレアウロが笑う。散々俺の身体で好き勝手しやがって、と反論するものの、グレアウロはひたすら嘲笑うばかりだった。グレアウロの力が宿ったゾルアの恐るべき強さによって撃破された二人の魔人。観客は大いに盛り上がっていた。


「これがデビスト族の力か……」
球体で試合を見物していたバアルは、グレアウロによるゾルアの強さに血が騒ぐような感覚になっていた。
「ククク……久々に全力で戦う時が来たようだ」
不敵に笑いながらも、バアルが立ち上がる。そして下降する床を利用して闘技場へ向かって行く。
「まさかあのニンゲンの男がバアル様と……」
「いや、奴は決してニンゲンではない。奴の中にいるというグレアウロは……」
二人の魔人兵は固唾を呑む。球体に映し出された試合は、三人目の対戦相手に挑んでいるゾルアの姿があった。



その頃、最後の聖竜の塔の鍵であるガブリエルの印を手に入れる為、グライン達は暗黒大陸へと辿り着いていた。草木一本も存在せず、至る場所に溶岩が流れている荒野のような大地といった光景に思わず息苦しさを覚える。
「こりゃあ随分やべぇとこだな。魔族の奴らはこんなところに住んでるってわけか」
こいつは思った以上に骨がありそうだとキオは闘志を燃やしていた。
「魔導帝国領とはまた違った物々しさを感じるわね」
リフは呼吸を整える。
「見渡す限り環境最悪な場所だわ。さっさと用事を済ませるわよ」
不快そうにぼやくガザニアを見て苦笑いするグライン。
「もう一度言っておくケド、此処は気を引き締めて行かないト命取りヨ。魔界に近い場所でもあるんだかラ」
ティムが真剣な声で言う。
「みんな、油断するなよ。敵の気配がする」
魔物の気配を感じ取ったグラインは即座に構えを取る。大陸内に住む魔物の群れが早速牙を剥けているのだ。
「へっ、歓迎するつもりかよ」
気合いを入れて炎の力を全開にするキオ。現れた魔物は、凶悪な魔獣『ヘルジャッカル』、三つの頭を持つ恐怖の番犬『ケルベロス』、様々な動物の特徴を持つ合成獣『デスキマイラ』、空からは黒い翼竜『イビルワイバーン』といった獣の群れだ。
「うおおおおおおお!」
グラインがデスキマイラに向けて炎の魔法を放ち、キオがヘルジャッカルの群れを次々と叩きのめしていっては炎気砲で吹っ飛ばしていく。闇のブレスを吐くイビルワイバーンに対し、ガザニアの自然魔法による巨大植物の蔦が次々と襲い掛かる。そして鞭で翻弄しつつも、猛毒が塗られた針を連射するガザニア。
「離れなさい!」
リフが大きく飛び上がり、聖剣ルミナリオを振り下ろす。眩い光を伴った一閃はケルベロスの群れを真っ二つにしていき、更に地を這う光の衝撃波がデスキマイラをなぎ倒していく。あらゆる技で魔物を撃破していくグライン達だが、大陸内に生息する魔物は次々と襲い掛かる。
「そこをどけ!」
立ちはだかる魔物と応戦するグライン達。暗黒大陸内の魔物は強敵揃いであったが、目的があるグライン達は決して引き下がらない。魔物の群れを撃退し、大陸内を進んでいく。ガブリエルの印の在処はデルモンド王国。大魔導師レニヴェンドが遺した地図はそこを示していた。先ずはデルモンド王国を目指すべきだが、強力な魔物達と岩場や溶岩による複雑な道のりで険しいものであった。
「うっ……」
不意にリフが何かを感じ取る。
「リフ、どうしたの?」
グラインが声を掛けると、リフは険しい顔付きになる。
「……途轍もなく恐ろしい力を感じた。邪悪なものとはまた違う、恐るべき何かが目覚めたような……そんな気がしたの」
リフが感じた気配――恐るべき強大な力を持つとされるそれは、デルモンド王国にいるものであった。



グオオオォォアアアアッ! ガアアアアアァァァァッ……!

オオオオオオオオオオオオオオッ!


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