Radiantmagic-煌炎の勇者-

橘/たちばな

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目覚めし七の光

氷結の魔女

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ライディ達の墓を後にした一行はフロストール王国へ向かおうとするものの、ペチュニア曰く「城の人々は地下の砦に避難している可能性が高い」との事で、地下砦へ行く為に必要なものを取りに一旦フリズル村へ戻る。必要なもの――地下砦行きのワープスポットを出現させる青い宝玉は、座長に預けられていた。
「リルモさん、先程は……」
座長が気まずそうな様子でリルモに声を掛ける。
「父さんの事でしょう?」
リルモが淡々と返答すると、座長は黙って頷く。
「ライディさんの事は決して隠すつもりではなかったのです。いずれ知る事になるのは解っていた。けど……すぐに打ち明けるべきか否か考えていたら、なかなか言い出せなかった。言い訳がましいのは承知ですが」
「座長さんが気に病む必要ないわよ。今はフロストール王国に用があるの」
半ば俯き加減でリルモが言うと、座長は青い宝玉を手渡す。
「私も同行するわ。案内役なら任せて!」
ペチュニアはフロストール王国にいるかつての仲間と会う目的も兼ねて、引き続き同行する事となった。座長に見送られつつ、一行は改めてフロストール王国へ赴く。
「リルモ……あんまり無理すんなよ?」
クレバルはリルモの心情が気になって思わず声を掛けるものの、リルモは無言で足を進める。その様子はかなり不機嫌そうだった。
「キナ臭い事になってきたわね」
ガザニアが呟くと、隣にいるグラインが不安を覚える。リルモの無言の圧力を肌で感じてしまい、王国の人々とトラブル沙汰に走るのではという不安が頭を過っていた。不安を感じているのはティムも同じである。
「リルモ、ワタシ達の目的は氷のエレメントオーブヨ。変な気は起こさないでよネ」
ティムが声を掛けるが、リルモは返事もせず無言で歩いていた。
「リルモ……」
グラインはますます不安を募らせる。ペチュニアは申し訳なさそうな表情をしていた。気まずい空気感の中、一行はフロスタル森林を抜け、フロストール王国に辿り着く。
「やはりあの時と同じね」
王国全体が凄まじい吹雪を伴う寒波に包まれ、十三年前の時と同じ形で全てが完全に凍り付いている。人の気配すらもないゴーストタウン状態で、常人ならば一瞬で凍ってしまう程だ。そんな場所にいる一行はトンガラの実の効果で寒波に耐えられるものの、僅かに肌寒さを感じていた。
「誰もいない……みんな凍り付いてるなんて」
グラインは凍り付いた王国の惨状に愕然とするばかり。ペチュニアに連れられ、地下砦に通じるワープスポットが隠された祭壇の部屋に辿り着く一行。奥の壁に設けられた獣の像の口に青い宝玉を嵌め込み、ワープスポットを出現させる。
「この光のサークルに入れば一瞬で地下砦に行けるわよ」
「これで? どういう事だ?」
「ワープヨ。さっさト行くわヨ」
ワープスポットに入った瞬間、周囲の景色が歪み始め、変化していく様にグライン達は不思議な感覚を覚える。歪みが収まり、地下砦の内部に辿り着く一行。
「ここが秘密の地下砦よ」
地下砦にやって来た一行の前に、槍を持ったペン族が次々とやって来る。
「何者だ! 魔女の使いか?」
槍を持ったペン族は王国の兵士であった。不審者とみなされ、敵意を剥き出しにしているのだ。
「待って! この人達は悪者じゃないわ! それに私は……」
ペチュニアが王国で世話になっている芸人一座のメンバーだった事を打ち明けつつ事情を説明すると、兵士達が首を傾げる。
「君があの芸人一座の一人だというのか?」
「そうよ! 今は脱退した身だから元メンバーになるんだけどね」
兵士達は顔を見合わせる。
「……ならば少しばかり待つがいい」
兵士の一人が砦の奥へ向かって行く。
「おい、大丈夫かよ。思いっきり怪しまれてるじゃねえか」
クレバルが問う。
「大丈夫のはずよ。ここには私の仲間がいるんだから」
ペチュニアが返事した直後、兵士が別のペン族を連れてやって来る。芸人一座のリーダーとなるロペロであった。
「ロペロ!」
「ペチュニア! 久しぶりじゃないか。年を重ねてもあんまり変わっちゃいないな」
かつての仲間との再会を喜び合うペチュニアとロペロ。
「ここにいるニンゲンさん達は誰なんだ?」
「ワケアリの旅人なのよ。ちょっと砦に入れてもらえる?」
ペチュニアの事情を汲んだロペロは兵士達にグライン一行の入場を許可するように頼み込むと、兵士達は訝しみつつも引き受ける。砦に入った一行はまず芸人一座が集まる部屋に入る。メンバーの楽屋として与えられた部屋であった。
「ペチュニア!」
「みんな、久しぶり! 元気だった?」
ペチュニアの来訪に、芸人一座のペン族達が手厚く歓迎する。十数年振りの再会であり、仲間達の顔を見て昔の出来事を懐かしむペチュニア。
「ねえ……再会で喜び合ってるところに悪いんだけど」
リルモが険しい顔でペチュニアに近付く。
「あ、わ、わかってるわよ」
ペチュニアは芸人一座のメンバーから王国で起きた出来事の全てを聞き始める。王は十三年前の魔女との戦いの末に他界し、王妃も突然の病で他界していたという。現在は王子が王国を治めており、更に王子の姉で第一子となる王女までも病を患っている状態で、第二子となる王子が王位を継ぐ事になってしまったのだ。王女の名はメルベリア、王子の名はシルベウド。芸人一座は病に蝕まれているメルベリアと王国を治めるシルベウドに幸せのひと時を与える為に様々な芸を披露している毎日だった。
「何だか魔女の件以外にも色々な事情がアるみたいネ」
ティムは王国の事情について考えると、リルモの事がますます気に掛かってしまう。不意にドアをノックする音が聞こえて来る。やって来たのは白い肌に群青色のドレスを着た高身長の女性――メルベリア王女だった。
「姫様!」
メルベリアを前に、芸人一座の面々が一斉に跪く。
「お邪魔だったかしら……」
長い髪を靡かせつつも、メルベリアが物憂げな表情で言う。
「とんでもございません! 姫様が我々の楽屋をお訪ね頂けるだけでも光栄な限りです!」
「そう……ジッとしているのも退屈だから、あなた達とお喋りでもしたくなったの」
「なんと! 私どもでよろしければ何なりと!」
紳士的な対応をする芸人一座を前に、メルベリアは笑顔を浮かべる。
「あの人がお姫様か? 美人だけど案外でけぇ身体なんだな」
クレバルが率直に言う。だがリルモはクレバルの発言に突っ込もうとせず、険しい表情のまま無言に徹していた。いつものリルモではない事に、何とも言えない違和感を覚えてしまうクレバル。
「あなた方は旅人さんかしら?」
メルベリアがグライン一行の存在に気付き、声を掛ける。
「初めまして。僕達は氷のエレメントオーブを求めてやって来たんですが」
グラインが旅の目的を話す。
「エレメントオーブの事は、弟に聞いてちょうだい。今は氷の魔女の事でそれどころじゃないけど」
「そうですか……」
どの道氷の魔女と戦う事になると改めて悟った一行は、シルベウド王子の元へ向かおうとする。
「待って」
メルベリアが一行に呼び掛ける。
「……どうか、余計な真似はしないで」
「え?」
どういう事ですかとグラインが問うものの、メルベリアはそれ以上答えようとしない。
「あなたも何か隠しているの?」
リルモが半ばイライラした調子で問う。
「落ち着いて、リルモ。まずは王子に話を聞こう」
グラインに宥められたリルモは鋭い目つきで黙って頷く。楽屋を出て、王子がいる玉座の間にやって来る一行。
「ぬぬ、そなた達は何者だ?」
人間の中年男が身構えるように言う。大臣であった。そして玉座には、華奢な印象を受ける王族の少年――シルベウド王子が腰掛けている。
「大臣よ、下がれ。彼らは旅人だ」
「しかし……」
「命令だ」
シルベウドの命令に従い、大人しく引き下がる大臣。
「僕はフロストールの王子シルベウドだ。君達は何をしに此処を訪れた?」
グラインとティムが王国を訪れた理由と旅の目的を話す。リルモは穏やかじゃない様子のまま俯いていた。
「氷のエレメントオーブが必要だと? そうか、あの予言者が言っていた世界に希望をもたらす者とは君達の事か」
シルベウドの一言に一行が驚く。ドレイアド族の村とドワーフの集落にてグライン達の訪れを予言していた謎の予言者は、数週間前にてフロストール王国にも訪れていたのだ。予言者はグライン達の訪れの他、氷の魔女の封印が解けて再び王国に災いを及ぼす事、世界全体に大いなる災いが起きる事を予言しており、予言通り王国は氷の魔女の脅威にさらされて民は地下砦に避難していた。そしてシルベウドは近いうちに訪れる世界に希望をもたらす者に氷のエレメントオーブを授けるよう予言者から告げられていた。
「アナタ方も予言者に会っていたのネ。オーブは譲ってくれるのかしラ?」
「そうしたいところだが……」
シルベウドの言葉を遮るように、メルベリアが玉座の間に現れる。
「姉様! 部屋でジッとしてろって言っただろ」
「いちいち偉そうにしないでちょうだい……今何を話していたの?」
「何をって、言わずとも察しが付く事だ」
メルベリアは眉を顰める。
「……やはり、あの魔女を倒しに行くのね」
「そうだ」
「あなたには聞こえないの? 恨みの声が……うっ、ゲホッ! ゴホッ……」
口を押さえ、苦しそうに咳き込むメルベリア。
「姫様! ご無理をなさらずどうかお部屋にお戻りを!」
大臣が気遣うように声を掛けると、メルベリアは兵士達に連れられる形で玉座の間を後にする。
「姉様はいちいちクチうるさいから困る。しかも恨みの声が聞こえるとか、訳のわからない事を言うんだ」
シルベウドが溜息交じりで愚痴をこぼすと、ティムはメルベリアの口から出た恨みの声という言葉が気になり始める。
「……と、話の続きだったな。ヘルメノンと呼ばれる邪悪な力がレイニーラや世界各地を蝕んでいると話していたな。もしや氷の魔女もその影響で封印が解けたという事なのか?」
「そこまでハ解らないケド……邪気が関係していルのは否定できないわネ」
「そうか……今やこのフロストール王国は疎か、フロスタル大陸を支配している魔女もいずれ世界各地を死の寒波で覆い尽くす事も十分に考えられる」
魔女の操る死の寒波は闇の力がもたらす冷気と言われており、もし魔女が邪悪な力そのものであるヘルメノンを取り込むと世界全体に脅威をもたらす存在に変貌するのではとシルベウドは考えていた。そうなる前に魔女を討たなければとグライン達の力を借りようとしているのだ。
「シルベウドさん。魔女なら僕達が何とかしてみせます。王国の危機となっている以上、放っておけませんから」
「どの道野放しにハできなイからネ。オーブを貰う代わりとして力ニなるワ」
グラインとティムの一言。
「おお、我々に協力してくれるのか。流石は世界に希望をもたらす者だ。感謝するぞ」
歓喜の声を上げるシルベウド。
「いいよね?」
グラインが仲間の顔を伺う。
「どうせやんなきゃいけねぇのは解ってたよ。一肌脱いでやるぜ」
「ふん。この礼は必ずしてもらうわよ」
クレバルとガザニアは了承するものの、リルモは答えないどころか俯き加減で無表情のままだった。
「……シルベウドさん。一つ、聞きたい事があります」
リルモがシルベウドに問い掛ける。
「魔女討伐に派遣された私の父ライディの事……十三年前の出来事はご存知ですか?」
俯き加減で問うリルモに、シルベウドが過去の記憶を辿り始める。同時に大臣が顔を強張らせ、冷や汗を流す。
「そうか……君が戦士ライディの娘だったのか。当時は幼かったもので、あまり詳しい事は覚えていないが……」
リルモが鋭い目つきでシルベウドを見据える。グライン達はリルモの様子を見て固唾を呑むばかり。
「何故……何故父の死を伝えてくれなかったんですか? 私達が今までどんな思いをして過ごしていたか……あなた達には解るんですか!」
感情が爆発し、怒鳴るように言うリルモにシルベウドは驚き戸惑う。
「伝えてくれなかっただと? 大臣よ、一体どういう事だ?」
事情がよく解らない様子のシルベウドは思わず大臣に問う。
「……王子。ここからは……私が話しましょう」
大臣は顔を強張らせたまま話す。ライディ達が魔女との戦いで戦死した事をレイニーラには伝えず、レイニーラからの捜索隊が訪れた際には魔女の操る闇の力で消されてしまい、行方不明になったと嘘を付いていたと。それは自身や王位を継ぐシルベウドへの責任追及、国同士の関係悪化による対立等を危惧しての事であった。ライディ率いるレイニーラの戦士達を護衛に付かせる事を考えたのは王であるが、大臣の「余所から救援を呼ぶのはどうか」という進言をきっかけに始まった事でもあり、王亡き後の王国は魔女によってほぼ壊滅同然の状態で王妃も病で亡くなっており、王子であるシルベウドが成長するまでは国を支える者がいない。そんな状況で余所の国との余計なイザコザを生んではならないと思い込んでいた大臣の臆病な考えによるものだった。そしてその事情を知る者には口止めさせ、詳しい出来事を知らないシルベウドには伝えていなかったという。
「何よそれ……ふざけてるの? 嘘を付いてまで人の死を隠蔽するなんて、あなたには人の心があるの?」
怒りのままに声を張り上げるリルモ。大臣は自分の行いが自身の臆病さによる保身だという事を痛感し、返す言葉もないと言わんばかりに頭を下げる。
「大臣。全て事実なのか?」
鋭い目つきでシルベウドが問うと、大臣は「間違いありません」と震えた声で返答する。
「……思う事は山程あるが、今は魔女の事を考えなくては」
込み上がる怒りの感情を抑えつつも、シルベウドは改めて魔女討伐の話に切り替える。魔女は王国から北の方向に建てられた氷結の塔で身を潜めているとの事だ。魔女の居場所を聞いたリルモは槍を手に、玉座の間から出ようとする。
「リルモ、何をするつもりだ?」
「父さんの仇を取るのよ! 邪魔しないで!」
そう言って走り去っていくリルモ。
「おい、ちょっと待てよ!」
クレバルが後を追う。
「……無理もあるまい。彼女にとって父の仇でもあるのだからな」
項垂れるシルベウド。グラインは明らかに取り乱しているリルモの事が気掛かりで何とも言えないばかりだった。


感情任せに走り、砦の出口前まで来たリルモの前に、メルベリアが立ちはだかる。
「そこをどきなさい」
攻撃的な口調でリルモが言うものの、メルベリアは退こうとしない。
「……何処へ行くつもりなの?」
「魔女を倒しに行くのよ! どかないとあなたを殴り倒してでも行くわよ」
半ば苛立つ余り脅すように言うリルモだが、メルベリアは軽蔑するかのようにリルモを見据える。
「殴り倒す? あなたも直情的な物の考えしか出来ないのね……」
淡々と呟くメルベリア。リルモはメルベリアに詰め寄り、顔を近付ける。
「何なのよ……バカにしてるの?」
眼前で言われて思わず顔を逸らすメルベリアだが、すぐにリルモの方に顔を向ける。
「バカにするつもりはないわ。少しは頭を冷やした方がいいと思っただけよ」
「うるさいわね! 私の事はほっといてよ!」
メルベリアを突き飛ばし、飛び出してしまうリルモ。
「リルモ! リルモ!」
クレバルがやって来るものの、リルモは既にその場にいなかった。リルモに突き飛ばされたメルベリアは床に這う態勢で蹲っている。
「姫さん……大丈夫かよ? 何があったんだ?」
メルベリアを支えるクレバルの元に、グライン達がやって来る。メルベリアが経緯を話すと、グライン達は驚きの表情を浮かべる。
「あいつ、何考えてんだよ! 魔女がどんな奴なのかわかんねぇのに……」
思わず声を荒げるクレバル。
「みんな、私の言う事など信じるわけないわよね……あの声は、きっと私にしか聞こえないのだか……らっ……うっ! ぐっ……ごふっ」
メルベリアが口を押さえ、吐血する。持病による発作であった。
「大変ヨ! 早く安静にさせなキゃ!」
騒ぎに駆け付けたペン族の兵士達と共に、グライン達はメルベリアを医務室に運んで行く。ベッドに寝かされたメルベリアはゲホゲホとシーツが赤く染まる程に血を吐いていた。
「姉様!」
事態を聞かされたシルベウドが医務室にやって来る。
「クッ……無理をするなとあれ程……!」
メルベリアの容態が気掛かりなシルベウドは、医師に症状を尋ねる。医師曰く、暫く安静が必要との事だった。
「おい、早くリルモを追わねぇと! いくらあいつでも無事で済むわけねえぞ」
クレバルの一言に頷くグライン。
「済まない。本当は僕も君達に付いていこうと考えていたのだが、今は姉様の傍にいなくてはならない」
同行するつもりだったシルベウドはメルベリアに付き添う事となり、グライン達はリルモの後を追う。
「……聞……こ……え……る…………」
メルベリアが弱々しく声を出す。口元は吐血によって真っ赤に染まり、肌の色は血色が失せたかのように白くなっていた。
「姉様……何を言ってるんだ? 聞こえるって恨みの声か?」
シルベウドはメルベリアの「恨みの声」という言葉の意味がどうしても気になっていた。


雪原を進むリルモは、魔物を蹴散らしながらもある過去の出来事を振り返る。それは、父が旅立ってから数年が経過した時の事――


「父さん……あれからずっと帰って来ないけど、やっぱり死んじゃったの?」
「……王様や、捜索に行ってた人達は魔女の力で行方不明になったって言ってた。もしかしたら、何処かで生きてるかもしれない。そう思いたいわ」
「でも、これだけ待っても帰らないなんて……」
「リルモ。父さんはとても強い人よ。そう簡単に死ぬわけがない。あなたも父さんの事、信じなきゃ……」
「うん、母さん……」

ドアをノックする音が聞こえる。ルルカの甥であり、リルモにとっては従弟となるパルであった。
「リルモおねーちゃん! 遊びに来たよ!」
「パル!」
リルモは嬉しそうにパルを抱きしめる。
「ねえ、聞いて聞いて! ボクのお父さん、アズウェルのせーえー戦士の部隊に選ばれたんだって!」
「えっ」
パルが父親の自慢話を始めた事で思わず絶句するリルモ。パルの父親かつリルモの叔父はアズウェル在住で、精鋭戦士部隊の一人に抜擢されていたのだ。父が生死不明である状況に心をモヤモヤさせていたリルモにとって、父親の自慢話をされるのは酷なものとなっていた。
「おねーちゃん、どしたの?」
パルが不思議そうにリルモの顔を覗き込む。
「あ。な、何でもないよ。何でもないから気にしないで」
咄嗟に何事もなかったかのように振る舞い、笑顔を向けるリルモ。言葉に出来ない思いを募らせながらも、パルとの会話に花を咲かせるひと時を過ごしていた。


母のルルカと父に関する話をしている中で訪れたパルとの思い出が頭に浮かんでは切ない気分になり、涙を堪えながらも塔に辿り着くリルモ。槍を握り締めながらも、塔の内部に潜入する。塔の内部にも氷を司る魔物が生息していた。
「邪魔よ」
スパイラルサンダー、エレキテルレイン等の雷魔法や槍術で魔物をなぎ倒しつつも、塔を進む。その途中で氷漬けになっている三人の男がいるが、敵討ちで頭で一杯のリルモは目もくれず進んでいく。氷漬けにされた男三人は、ルビー一味であった。


塔の最上階には大広間が設けられ、水晶のような形をした巨大な氷が並び、その中心となる場所に白いマントで身体を覆った魔女が居座っている。
「……あら、お客さんかしら? 何処のお嬢さんか知らないけど、たった一人でよくここまで来れたものね」
魔女と対峙したリルモは、怒りに満ちた表情で槍を構える。
「あんたが氷の魔女ね。父さんの……父さんの仇! 絶対に許さない!」
怒り任せに雷の魔力を全開にさせるリルモを前に、魔女は冷たい笑みを浮かべる。
「フフッ……あの時私に挑んだ戦士の娘かしら? この私に戦いを挑んで後追いがしたいってわけ?」
魔女はマントを翻し、氷の魔力を放出させる。
「私はフロスティア。氷結の魔女と呼ばれし者よ」
魔女――フロスティアの周囲が氷の粒に覆われていく。リルモは怒りを滾らせ、槍に雷を集中させていた。


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