Radiantmagic-煌炎の勇者-

橘/たちばな

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目覚めし七の光

裏切り者の逆襲

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グラインが嵐の試練に挑んでいる中、リルモ達はウィンダルとの実戦訓練をする事になった。町の広場で一人ずつ一対一の実戦を行い、ウィンダルを打ち負かせる実力があるか確かめたいという風王の提案によるものだった。
「おい鳥野郎! 今からてめぇをボコボコにしてやっから楽しみにしてろ!」
意気揚々と挑戦状を叩き付けるキオに対し、くだらんと一蹴するウィンダル。先ずはリルモが挑む事になる。
「人間の女戦士か。私は女であろうと容赦はせん。覚悟しておけ」
「女だからといってなめるんじゃないわよ」
お互い言葉をぶつけ合いつつ構えを取ると、次々と鳥人族が集まり始める。どうやら実戦訓練に興味津々の様子だ。
「始め!」
風王が試合開始の合図となる鈴を鳴らす。ウィンダルが高く飛び上がると、リルモが魔力を開放し、槍を振りかざす。空中を飛び回るウィンダルの動きを追おうとせず、心を静めながらも雷魔法を発動させる。電撃の雨を降らせるエレキテルレインだ。
「ぬっ……」
電撃の雨を浴びるものの、動じずに動きを止めないウィンダルはリルモの背後に回り込む。
「はあっ!」
即座に雷を帯びた槍を振り上げるリルモの攻撃。その一撃はウィンダルの翼を掠め、幾つかの羽が舞う。
「なかなかやるな」
ウィンダルは風の魔力を呼び覚まし、周囲に風を起こすと同時に竜巻を発生させる。
「クッ……」
突風に身構えるリルモ。巻き起こる竜巻を回避しようと考えた瞬間、空中からウィンダルの真空波が襲い掛かる。
「きゃああぁっ!」
真空波の攻撃を受けたリルモが吹っ飛ばされ、壁に叩き付けられる。更にウィンダルがリルモの前に現れ、レイピアによる連続突きを繰り出す。
「ごはあぁっ!」
連続突きを受けたリルモの苦悶の声が響き渡る。口から流れる血を拭い、リルモは反撃に転じようとするが、突然鈴の音が鳴る。風王による試合終了の合図だった。
「フム。腕前はなかなかだが、まだ修行が足りんようじゃな」
風王曰く、相手以外のものに気を取られた事で隙を見せたのが命取りになっていたとの評価である。
「おい、ちょっと待てよ。リルモはまだ負けたってわけじゃねえだろ?」
クレバルはリルモの敗北判定に納得がいかない様子。
「若いの。まだ解らぬか? 生きるか死ぬかの戦いでは、一瞬でも隙を見せると終わりだという事を」
鋭い目つきで風王がクレバルに反論する。その眼力によって威圧感を感じたクレバルは思わず面食らい、黙り込んでしまう。
「……確かに、隙を見せたのが甘かったわ。私もまだまだね」
素直に負けを認めたリルモは大人しく引き下がる。
「さあ、次はそこのお前さんじゃ」
風王が指名したのはクレバルだった。
「お、俺だって負けてらんねぇぞ!」
内心勝てっこないと思いつつも、リルモにいいところを見せてやるという気持ちでウィンダルに挑もうとするクレバル。
「へっ。惚れた女が見てるんじゃあ、死ぬ気でやんねぇとカッコつかねぇぞ」
キオの一言にクレバルは思わず顔を赤らめてしまう。
「馬鹿野郎、いらん事言うんじゃねえ! 俺はっ……」
必死で誤魔化すクレバルの姿にリルモは思わずキオの方を見る。
「何? どういうつもりなの?」
クレバルの素振りが気になるリルモはキオに問い詰める。
「オレのクチからは説明できねぇな。お前さんも案外まんざらでもねぇんじゃねえか?」
「はあ?」
一体何なのよとますます気になって仕方がないリルモに、ティムがそっと手を肩に置く。
「若いっていいわネ。デモ、いずれ解る時は来るわヨ」
ティムが軽い調子で言う。
「もう、みんなして何なのよおお!」
訳が解らない状態のリルモ。そんな中、風王による試合開始の鈴が鳴る。
「……フン。貴様など相手にもならん。一瞬で終わらせてやる」
見下すように言い放つウィンダル。
「こいつ、なめんじゃねえぞ!」
クレバルが魔力を放出すると、ウィンダルが空高く飛び上がる。空中を飛び回り、真空波を放つウィンダル。
「サーコファガス!」
突き出すように巨大な石棺が現れ、真空波をガードする。だがウィンダルは動じる事なく空中を舞い、クレバルの背後に回り込む。
「ライジングロック!」
即座に振り返って地中の岩盤が次々とせり上がると、数枚の羽が舞う。岩盤がウィンダルの翼を掠めたのだ。
「少し見縊っていたようだな」
ウィンダルは翼を羽ばたかせ、突風を放つ。
「うおおお!」
突風は強風となり、思わずバランスを崩すクレバル。次の瞬間、真空の刃が鋭い矢の如く襲い掛かる。
「ぐあああ!」
真空の刃はクレバルの両腕、脇腹を捉えていく。更にウィンダルはクレバルの目の前に現れ、連続突きを繰り出す。
「ぐおはあああああ!」
連続突きを食らったクレバルが吹っ飛ばされ、追い打ちをかけるように真空波で攻撃するウィンダル。試合終了の鈴が鳴り響き、ウィンダルの勝利に終わる。
「魔法はまずまずだが、全力のウィンダルには遠く及ばんようじゃな」
「うぐ……ちっくしょう……」
風王の評価に思わず悔しがるクレバル。リルモの表情は案の定負けたわねと言わんばかりであった。
「おめぇなんかじゃあ話にならねえ。今度はオレが相手するぜ」
キオが拳の関節音を鳴らしつつもウィンダルに挑もうとする。
「今度は貴様が相手か? 所詮力だけの貴様など私の動きすら捉えられん」
「何だとこの野郎!」
余裕の態度を崩さないウィンダルに殴り掛かろうとするキオ。
「おお、ちょっと待つのじゃ」
突然の風王からの一言。
「んだよ鳥ジジイ。オレはあの野郎と戦いたくてウズウズしてんだよ」
「まあ落ち着け。敵が近付いてるのじゃ」
風王には千里眼の能力で遥か遠い位置にあるものを捉える事が可能であり、敵と思わしき人物が鳥人族の町に近付いているというのだ。
「あぁ? 敵だと?」
「敵ですッテ! ……悪い予感ガ的中したみたいネ」
やはり敵が来ると緊迫した表情になるティム。ウィンダルは負傷したリルモとクレバルに薬草を与える。普通の薬草では回復しきれない大きな傷をもたちまち治せるという魔法の薬草『ゲンキ草』であった。
「貴様達も敵に対抗する戦力だ。今のうちに傷を治しておけ」
そう言い残し、敵との戦いに備えて身構えるウィンダル。
「ちっ、ホント偉そうな奴だな」
ウィンダルの態度に苛立ちながらもクレバルはゲンキ草を頬張る。
「な、なあリルモ」
「何よ」
横で薬草を頬張っているリルモにたどたどしく声を掛けるクレバル。
「どんな敵が来るのかわかんねぇけど……あんま無理すんなよ? 俺がいるからさ」
リルモを気遣うように言うクレバルは、ウィンダルに負けるという無様な姿を見せてしまった事を挽回しようとしているのだ。そんなクレバルをそっとリルモが小突く。
「あんたね、まさか私にカッコ悪いところを見せたとか思っててそんな事言ってるわけ?」
「うっ……」
図星で返す言葉を失ってしまうクレバル。
「人の事ばかり考えてないで自分の事を優先しなさいよ、バカ」
リルモはふてぶてしく顔を逸らすものの、横目でクレバルを見つめる。その目には全くどこまでもバカね、という言葉が込められていた。
「そこの二人。じゃれ合ってる場合じゃないわよ」
ガザニアが言った瞬間、空を飛ぶ多くの魔物の姿が見え始める。切り裂きコンドルの亜種に当たる怪鳥の魔物『デスイーグル』、翼竜『ランフォーリン』、炎を操る小型のドラゴン『ファイアドレイク』の群れだった。その数は凄まじいもので、軽く百体は越えている。
「な、何だありゃあ。どんだけいるんだよ」
接近する敵の軍勢に緊迫感が漂い、一斉に身構えるリルモ達。魔物の群れが町に到着すると、何者かを乗せたランフォーリンがやって来る。
「クックックッ……ヒャハハハハハ!」
けたたましい高笑いが聞こえ始める。ランフォーリンに乗った人物の正体は、神樹の聖地にてルエリアとの戦いの中で逃走して以来行方をくらませていたジギタだった。
「……ジギタ!」
裏切り者の同族が現れた事で思わず怒りに満ちた声を張り上げるガザニア。
「クックック……久しぶりだなガザニアさんよ。害虫どもとご一緒だったってわけか」
歪んだ笑みを浮かべるジギタを見て、ガザニアは嫌悪感を露にする。
「おい、何なんだよこいつは。お前の知り合いか?」
ジギタについてガザニアに問うキオ。
「ふん、同族の裏切り者よ。落ちるところまで落ちたって感じだけど」
ガザニアが怒り任せに鞭を振るう。
「お前、何が目的なんだ! お前のせいでリルモが……!」
クレバルは神樹の聖地での出来事を思い出しつつも、感情任せに声を上げる。ジギタの思惑に乗せられるがままにリルモが重傷を負わされた事への恨みがあるのだ。既に経緯を聞かされていたリルモも怒りに満ちている様子だ。
「ククク……ジョーカーズの任務さ。ジョーカーズはいいぞ……このオレに私兵を与えてくれたんだからなぁ!」
「何ですッテ!」
ジギタまでもジョーカーズと契約していた事に驚くティム。
「特別に教えてやるよ。あれから何があったのかをな!」
ジギタが経緯を語り始める。


ルエリアが倒された後、聖地から逃亡したジギタは復讐する術を失ったが為に一先ず安住の地を求めている中、魔物に襲われてしまう。だが、ジギタを襲った魔物は一瞬で切り裂かれ、現れたのはクロトとバキラだった。
「お前、こんなところで何してるの?」
バキラが興味津々で問い詰める。
「オ、オレはただの落ちこぼれの世捨て人だ……。助けてくれたのは有難いが、これ以上はほっといてくれ」
逃げ腰で返すジギタに、バキラが近付いて来る。
「ふーん、何があったのか知らないけど。世捨て人だっていうならちょっと話を聞いてやってもいいよ? ボクは困ってる人を見たら放っておけなくてね」
バキラは顔を寄せつつも、笑顔を向ける。ジギタは何とも言えない恐怖を感じ取り、思わず経緯を全て話してしまう。
「復讐ねぇ……それだったらボク達のところに来ればいい。契約すれば、もっと凄い形で報復とか出来ちゃうからね」
言葉巧みにジギタを勧誘するバキラ。
「あ、あんた達は何者なんだ?」
ジギタは声を震わせながら言う。
「ボク達はジョーカーズの者。この世界は間もなく闇に支配される。ジョーカーズの手によってね。契約するかどうかはお前が決めな」
バキラが返答すると、クロトが無表情でジギタに迫る。下手に断ると命を奪われると言わんばかりの威圧感に後退りしつつも、ジギタは契約する事を選択した。
「アッハッハ、そんなに怖かったのかな? まあいい。これでお前もボク達の仲間だ。来なよ」
「ほ、本当に力を貸してくれるのか?」
「信用出来ないなら取り下げても結構だけど。その代わり……」
バキラは冷血な笑みを浮かべつつもクロトに視線を向ける。やはりここで断ったら殺されてしまう。そう察したジギタは何も言えず、バキラ、クロトによって暗黒魔城へ連れて行かれる。ジョーカーズと契約を交わしたジギタが与えられた任務は、組織に仇名す『害虫』と呼ばれる連中の駆除であった。バキラから兵として多くの魔物を与えられたジギタは同族への復讐に意欲を燃やし、故郷を襲撃し始める。ファイアドレイクの群れが放つ炎によって大きく燃え盛る聖地の中、逃げ惑う同族達の姿。そんな光景を見下ろしつつも、ジギタはひたすら狂喜していた。


泣き叫べ。オレを力無き落ちこぼれと見下し、蔑んだゴミどもめ。

何もかも燃えて灰になってしまえ。最早オレには故郷など必要ない。


そう、ジギタの同族への復讐が果たされたのだ――。


「あんた……今、何て言ったの?」
ジギタが魔物と共に聖地を襲撃した事を口にした瞬間、ガザニアは凄まじい怒りを見せる。
「ヒャハハハハ! ジョーカーズには感謝してるぜ。契約したおかげでオレの復讐が叶ったんだからなぁ!」
笑うジギタの全身から黒いオーラが発生する。ジョーカーズとの契約の際に与えられた闇の力であった。次の瞬間、ジギタの姿が変化していく。それはまさに人の姿を捨てた巨大な口と鞭状の蔦を持つ二足歩行のグロテスクな食人植物といったところだ。
「ゲハハハハハハハ! 害虫ども、次はオマエらの番だ。やれぇ!」
ジギタのその一言が合図となり、魔物達が一斉に襲い掛かる。ファイアドレイクが空中から次々と炎の玉を吐き出した。魔物達の襲撃によって、町の住民達が一斉にパニックになる。
「ざけやがって!」
キオは飛んで来る炎の玉を腕で弾き飛ばしつつも、空中にいるファイアドレイクの群れを蹴散らそうとする。
「ウィンダル様!」
ウィンダルの元に数人の鳥人族がやって来る。ウィンダルの部下となる鳥人族の騎士だ。
「お前達、今すぐ住民を安全な場所に避難させろ! 敵は私が食い止める」
「ハハッ!」
部下一同が住民を避難させる為に動き始めると、ウィンダルは敵に立ち向かっていく。
「くそ、やるしかねぇか」
サンドストーム、ストーンドライブ等の地魔法でデスイーグル達を迎撃するクレバルに続き、リルモが雷の魔力を放出する。
「はああああっ!」
雷を纏った槍捌きで次々と魔物達を叩き落としていくリルモ。だが魔物の数はかなりのもので、リルモ達が数々の技で魔物を倒しても軍勢は容赦なく襲い掛かるばかり。
「……ジギタぁっ!」
ガザニアは凄まじい形相でジギタの元へ向かおうとするが、魔物が行く手を阻む。
「邪魔よ」
鞭の舞いで空を飛ぶ魔物をなぎ倒していくガザニア。背後から襲い掛かる一匹のデスイーグルに、キオの炎を纏った蹴りが叩き付けられる。
「ふん、余計な真似してくれるわね」
礼も言わず、ふてぶてしく言うガザニアにキオは頭に血管を浮き上がらせる。
「感謝する気もねぇのかこのアマ」
「助けろなんて言ってないでしょ」
「んだとぉ!」
いがみ合う中、三体のファイアドレイクの炎が次々と二人を襲う。
「二人とも、危ない!」
飛び出したのはリルモだった。
「ぐっ……」
燃え盛る炎に焼かれ、苦悶の声を漏らすリルモ。
「この野郎!」
キオは即座に回し蹴りでファイアドレイク三体を撃破する。
「おい姉ちゃん、大丈夫かよ?」
炎によるダメージを受けたリルモは全身に火傷を負っていた。
「これくらいなら平気よっ……」
リルモは火傷の痛みに耐えながらも戦いを続けようとする。
「馬鹿野郎、無茶するんじゃねえよ!」
そう言ったのはクレバルだった。飛び掛かるデスイーグルの群れを、クレバルは地魔法で撃ち落としていく。
「クレバル!」
「俺だっているんだからな。俺に出来る事があれば、何だって……!」
クレバルは地の魔力で周囲の岩を浮かせつつ、魔物の群れに挑もうとする。
「バカね、何カッコつけてるのよ……」
リルモは全力で魔物に立ち向かおうとするクレバルの後ろ姿を見ているうちに、胸が熱くなるのを感じていた。
「ロックバウンド!」
クレバルは無数の岩を器用に操りながらも、多くの空飛ぶ魔物を迎撃していった。
「やるじゃねえかオイ。戦う男はそうでなくっちゃあな!」
キオは飛び上がり、炎を纏った蹴りを繰り出しつつも高速回転する。炎は次第に自身の身体を纏う。火炎旋風脚だ。
「面倒だから一気に片付けるわ」
ガザニアの周囲に無数の花弁が覆い始める。
「花と共に散るがいいわ。スパイクウィップ・マスカレイド!」
イバラの鞭を振り回しつつも散りゆく無数の花弁。その華麗なる舞は美しく、花の香りが漂う程だ。同時に魔物達が次々と切り裂かれていく。
「うおおおおおお!」
クレバルの地魔法で次々とせり上がる岩盤。ウィンダルの竜巻と共に放たれる真空波。
「はあああっ!」
リルモが立ち上がり、槍を両手に大きく飛び上がる。
「空襲雷槍撃!」
雷の魔力が凝縮され、一点集中に力が込められた槍の一撃がランフォーリンの脳天に突き刺さる。激しい電撃に包まれながらも息絶えるランフォーリン。更に住民を避難させたウィンダルの部下一同も加勢に入る。リルモ達の奮闘によって、数多くの魔物の殆どが倒されていった。
「ググググ……まさかここまでやるとは」
ジギタが動揺しているかのような声で呟く。
「わたくし達を甘く見るんじゃないわよ」
ガザニアが詰め寄ると、ジギタは不敵に笑い始める。
「ククククク……観念すると思ったのか? 馬鹿めが」
ジギタが念じると手元に宝玉が出現し、玉から黒い瘴気が噴き出す。次の瞬間、現れたのは巨大なハンマーを持つ巨体の魔物デストロイと影のような姿を持つ魔物ナイトメアだった。
「うっ……!」
巨大な体躯を持つデストロイを前に思わず怯むリルモ達。
「カーッハハハハ! 全く凄いバケモノを頂いちまったぜ! お前らなんか余裕で蹴散らせそうだからなぁ!」
ジギタが大笑いする中、ナイトメアが口から黒い瘴気――ヘルメノンを吐き出す。
「いけなイ! ヘルメノンだワ!」
ティムが即座にレイフィルムを張ろうとする。だがナイトメアが吐き出したヘルメノンはあっという間に辺りを覆い尽くし、しかも濃度はレイフィルムでも防ぎきれない程の濃さとなっていた。
「う……ぐっ! か、身体が焼けるように熱い……」
不意に全身が熱くなる感覚に襲われるリルモ。
「ググ……あ、あの時と似たような感覚だぜ」
キオも身体の異変を感じる。かつて鬼人族の里を覆い尽くしたヘルメノンの影響を受けている時の感覚とほぼ同じ状態に陥っていた。
「クッ、もっと光の力ヲ!」
ティムは更に念じる。レイフィルムの光の膜が多少膨れ上がるものの、リルモ達は既にヘルメノンに毒されていた。
「ヒャハハハハハハ! 奴らは苦しんでやがる! やっちまいなデカブツ!」
デストロイが雄叫びを上げると、力任せにハンマーを地面に叩き付ける。その一撃によって衝撃波が荒波の如く地面を走り、リルモ達は吹っ飛ばされる。
「くうっ……!」
ガザニアが種を撒き散らすと、棘だらけの枝や葉の巨大植物が現れる。猛毒の棘を持つ植物を呼び出す自然魔法『ポイズンブランブル』である。ポイズンブランブルの枝と葉はデストロイを捉えるものの、デストロイに猛毒は効果がなく、ハンマーで植物を叩き潰していく。
「う、ぐ……あ、頭が割れそうだ……」
ウィンダルを始めとする鳥人族の騎士団もヘルメノンによって激しい頭痛に襲われ、思うように戦えない状態だった。再び雄叫びを轟かせつつも、ハンマーで地面を殴り付けるデストロイ。攻撃に転じようも、体調に異変をきたしたせいで戦いに集中出来ないリルモ達は危機的状況に立たされていた。


その頃、グラインは魔力のオーラの光で僅かに把握出来る視界の中、風の敵と戦いつつも嵐の回廊を彷徨い続けていた。既に全身傷だらけで、顔や両腕の至る所に切り傷を刻まれ、血を流していた。傷の痛みが襲い掛かる中、風の敵は容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
「ぐああ!」
敵が放った刃は左足を裂き、血が噴き出す。グラインは思わず周囲を攻撃する風魔法を放つ。頭からも血が流れ、出血多量によるふらつきを感じるようになる。
「くっ、このままじゃあ……」
危機感を覚えたグラインは、この道のりは一体いつまで続くんだと思い始める。そんな事を考えていると、左肩から夥しい量の血が噴き出す。
「ぎゃああ!」
激痛に叫ぶ中、風魔法で辺りを攻撃するグライン。出血は止まらず、目が霞んでいく。命の危機を感じたグラインの心に、恐怖が込み上がるようになった。


一体いつまでこの道を彷徨わなければならないんだ。いつまで見えない敵と戦い続けなけりゃいけないんだ。


このままでは死んでしまう。


まだ……まだ死ぬわけにはいかないのに。


けど……怖い。


焦ってはいけない。それは解っている。解っているんだけど……


怖い……んだ。


恐れてはいけないと、解っていても……解っていても……



必死で自分に言い聞かせているうちに、グラインの意識は途絶えてしまう。まるで灯火が消えるかの如く、倒れたグラインを覆う魔力の光は消えていった――。

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