Radiantmagic-煌炎の勇者-

橘/たちばな

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神界に眠るもの

壊された聖地

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「久しいな。君に提供した兵力はお眼鏡に適ったかね?」
暗黒魔城の常闇の空間にて、タロスがファントムアイを通じて何者かと交信している。ファントムアイの目玉には灰色の肌を持つ魔族らしき人物の顔の一部――血のように赤く塗られた唇が大きく映し出されていた。
「ええ、気に入ったわ。この私を久々に満足させてくれるなんて」
低音かつ妖艶な雰囲気漂う女の声。
「ふむ、それは光栄な事だ。しかし、君と敵対する連中には厄介な存在がいる事も確認された。我々にとっても害虫となる輩がな」
「……それで?」
「もう一人、兵力を授けてやろう。君を満足させられる存在かは解らぬがね」
ファントムアイに映し出された唇からは紫色の舌が現れる。軽く舌なめずりをすると、唇は上向きに歪む。
「あなたってどこまでもゾクゾクさせてくれるわね。今度は何を与えてくれるのかしら」
声の主である女は血の色をした酒を軽く飲み始める。雷鳴が激しく轟く中、タロスはクックックッと含み笑いをしていた。
「例のあの男ですか」
現れたネヴィアがグラスに酒を注ぐ。
「奴は恐るべき力が備わるデビスト族である事が解った以上、駆除しておかねばならぬ害虫だ」
タロスは盤台のチェスの駒を一つ動かす。
「それに……ネヴィアよ。場合によっては君にも出向いてもらう必要がありそうだ。一応あやつにも命じているが、他に駆除すべき害虫も並大抵のものではない」
「ハッ、私でよければ何なりとお申し付け下さい」
手を胸に当て、頭を下げるネヴィア。タロスは注がれた酒を口にしつつも、グラスを掲げると更に雷鳴が鳴り響いた。




ヒーメルに乗ったグライン達は次の目的地となる場所へ向かっていた。
「炎気砲、だっけ? あれって僕が使う魔法とは違うものかな」
グラインはキオが習得した炎気砲について興味を抱いている様子。
「あの爺さん曰く、炎の魔力と気の力を融合させたエネルギーを放つ技だそうでな。多分お前が使ってる魔法とは違うだろうな」
「へえ……世の中色んな形の技があるんだね」
「武道で戦う者ノ中にハ気の力ヲ扱う者だッテ存在するワ。キオにもその才能ガ備わっていタのヨ」
ティムの言葉にキオはニヤリと笑みを浮かべる。
「ほほう、才能ねぇ……思いっきり大声で叫びたくなっちまったぜ」
自身の更なる飛躍を堪能して上機嫌なキオは息を吸い込み始める。その傍らでガザニアは見下すように横目で見ていた。
「オラオラオラァ! ジョーカーズのクソ野郎ども! 何処にいやがる! てめぇらがどんな作戦立てようが、このオレが必ずぶっ潰してやるからよぉ、せいぜいクビを洗って待ってやがれ! ビビってんじゃねえぞオラァ!」
大声で宣戦布告をするキオ。
「ちょっと、声でかいよ……」
近くにいるグラインは耳を塞いでいた。ガザニアは呆れたような目で見るばかりだった。
「あ! あれは……」
突然のグラインの一言。前方に黒い煙が立っている。煙が立つ場所には、巨大な樹がある。ジギタの襲撃を受け、焼き討ちされた神樹の聖地であった。焼き尽くされ、破壊された森。その爪痕は大きく残されていた。襲撃された故郷を見下ろすガザニアの顔付きは強張っている。
「ガザニア……」
思わず声を掛けるグライン。
「……今すぐ下ろしなさい」
冷静かつ威圧するかのような声でガザニアが言う。心情を察したグラインは黙って引き受け、ヒーメルに指示をする。降り立ったグライン達は、森が破壊し尽くされ、滅ぼされたドレイアド族の村と見るからに無残な光景となった聖地に愕然とする。
「酷ぇ事しやがる。これも奴らの仕業かよ」
キオが感情的に呟く中、ガザニアの表情は静かな怒りに満ちていた。グラインが辺りを見回すと、人影を発見する。村に住むドレイアド族の男であった。
「大丈夫ですか!」
グラインが声を掛けると、男がうっすらと目を開ける。ボロボロの姿で、今にも事切れそうな状態だ。男の名はスカビオ。ドレイアド族における自然魔法の使い手の一人である。
「……スカビオ。他の連中は……ジジイはどうなったの?」
ガザニアの声に、息も絶え絶えで口を動かそうとするスカビオ。
「ガザニア……さま……。申し訳ありません……長老は……他の者達は……魔物どもに……」
スカビオの言葉に目を見開かせるガザニア。同時にジギタの言葉が頭を過る。



ヒャハハハハ! ジョーカーズには感謝してるぜ。契約したおかげでオレの復讐が叶ったんだからなぁ!



ジギタが操る魔物ファイアドレイクの群れは次々と炎を放ち、聖地を焼き払っていく。ドレイアド族が扱う自然魔法によって生み出される数々の植物は炎には無力であり、逃げるしか他にない。だがジギタは復讐を目的に逃げ惑う同族を執拗に狙っていた。魔物が吐く炎のブレスで焼き尽くされていくドレイアド族だが、神樹を守る為に最後まで立ち向かおうとしていた者達がいた。スカビオ、エーデル、ハイビの三人。彼らは自然魔法の使い手の中ではレベルが高い術者とされていた。
「いくら何でも私達では炎相手にかないっこない! 逃げなくては……」
「愚か者が! 我々ドレイアドを絶やさない為にも、神樹を守らなくてはならんのだ」
神樹はドレイアド族を生む母のような存在であり、神樹が破壊される事はドレイアド族の絶滅を意味する。スカビオ達はドレイアド族の絶滅を阻止する為に、刺し違えてでも敵と戦う使命を重んじていた。決死の覚悟で魔物達に挑むものの、スカビオ達の自然魔法では魔物が放つ炎を打ち破る事は不可能だった。
「きゃああああ!」
燃え盛る炎がハイビを焼き尽くしていく。
「ハイビ! くっ、おのれ……!」
最後まで抵抗するスカビオとエーデルだが、健闘虚しく魔物の炎の餌食となってしまう。この日、ドレイアド族は裏切り者によって滅ぼされたのだ。


聖地が大きく破壊された今、長老を始めとする同族達の生存は絶望的と聞かされたガザニアは俯き加減で拳を震わせる。
「ガザニア……どうか落ち着いて」
気を遣うように声を掛けるグラインだが、ガザニアは事切れそうなスカビオに目を向ける。
「……どうしてあんた達まで逃げなかったのよ。勝てない戦いだと解っていて抵抗するなんて……」
静かな怒りに満ちた声でガザニアが言う。
「……せめて……神樹を……神樹を守りたかった……神樹が失われたら……我々、ドレイアドは……」
言い終わらないうちにスカビオは息絶えてしまう。
「彼らハ、神樹を守ル為にモ最後まで抵抗したのネ……」
ティムの声。グラインはスカビオを含むドレイアド族の犠牲に怒りを覚える。
「彼は私が手厚く葬るわ」
ガザニアはスカビオの遺体を抱え、神樹の方へ向かっていく。グライン達も後を付け、神樹の元へ辿り着く。魔物による攻撃を受けていた神樹もダメージを受けており、完全に燃やされてはいないものの、表面の所々が焼け爛れていた。
「こんなでけぇ木があったなんて驚いたぜ」
キオは神樹の大きさに驚くばかり。ガザニアはスカビオの遺体を神樹の前に寝かせ、木の魔力を流し込む。すると、スカビオの遺体は消滅し、植物の芽と化した。
「これは……?」
ガザニアの弔いは、ドレイアド族の習わしでもあった。生涯を終えたドレイアド族は花と化して神樹と共に聖地を見守る使命がある。神樹の周囲に咲く花の中には、元はドレイアド族であった花も数多く存在している。スカビオだった芽はこれから神樹の膝元に咲く花となるのだ。グラインは思わず、スカビオの芽に黙祷を捧げる。
「……さあ、行くわよ。寄り道させてごめんなさいね」
「う、うん」
グラインはガザニアの心中が気になりつつも、再びヒーメルを呼び出す。一行を乗せたヒーメルは再び目的地となる場所へ向かう。
「ガザニア。ドレイアドの長老……他の人達モきっと何処かデ生きてるワ……」
ティムが気遣うように言うものの、ガザニアは無表情で遠ざかっていく神樹の方向を見つめていた。
「何もかも全部ジョーカーズの仕業って事だろ? あいつらだけは何があってもぶっ潰さねぇとな。考える度に胸糞悪いったらありゃしねぇ」
キオの一言にそうだね、と素っ気なく返すグライン。
「……ジジイや他のドレイアド達は何処かで生きてると信じたいのは山々だけど……あんた達の手伝いを優先するわ。有難く思いなさい」
冷静な声で呟くようにガザニアが言う。その声にはジギタを悪の道へ走らせた元凶となるジョーカーズへの怒りが込められており、グラインも薄々ガザニアの怒りを感じ取っていた。飛び立ってから少し経つと突然、冷気が襲い掛かる。辿り着いた場所は、全てが氷で覆われた氷壁の大地となるラアカス大陸の真上だった。聖竜の塔の鍵がある場所に辿り着いたのだ。
「此処ヨ。やっと着いタわネ」
上陸する一行。フロスタル大陸並みの気温となっており、一瞬で凍える程の極寒が襲い掛かる。
「うお、すげぇ寒いところなんだな。オレはまあ平気だが」
炎の力が備わる上、寒さを物ともしない頑強な肉体を持つキオは極寒レベルの気温であろうとも耐えられるのだ。
「グライン、寒くナイ? フロスタル大陸の時はトンガラの実のおかげデ耐えられたケド」
ティムが問う。人間ならば耐えられない極寒だが、グラインは何故か平気そうな様子だ。フロスタル大陸に訪れた際、口にしたトンガラの実がもたらす寒波に耐えられる効果がずっと続いているとは考えられない。
「冷たさは感じるけど、凍えるって程じゃないな。何故か知らないけど、何とか大丈夫だよ」
グラインの返答。ティムはもしかすると紅蓮の勇者フォティアの加護によるものではないかと推測する。
「マア、寒さニ問題ないなラどうトいう事はないわネ。此処ニはアザラン族が住んでいル。アザラン族がいる場所を探さナきゃ」
ティムの言葉に従い、アザラン族が住む場所を探す一行。
「うわあ!」
足を滑らせて転倒するグライン。大地も氷となっており、歩くだけでも一苦労であった。
「全く、地面が氷となると歩くのも面倒になるわね」
氷の大地の不便さに思わず不満を漏らすガザニア。暫く歩いているうちに、集落を発見する一行。アザラン族の住む集落であった。
「あんたら、ニンゲンか? ニンゲンじゃないのもいるな」
アザラン族の住民がやって来ると、グラインは集落に訪れた理由を話す。
「ふーん、そのセイリューのトウのカギとかいうのはよくわからんが、族長に聞いてみたらどうだ?」
グラインの話を聞き入れたアザラン族の男は、族長のゴマッフが住む氷の砦に案内し始める。
「建物まで氷かよ。オレが気合い込めただけでも溶けちまいそうだな」
キオは砦の構造をジッと見つめている。簡素な建物だが、柱や壁までもが氷で出来ていた。砦の奥には族長のゴマッフがいた。
「お前さん方、ニンゲンか? またもニンゲンがやって来るとはな」
ゴマッフが素っ気ない態度で応じると、グラインとティムが事情を話すと同時に、ミカエルの印を見せながらも聖竜の塔の鍵を求めている事を打ち明ける。
「確かにそのようなものならば持っているが……お前さん方が勇者だというのならば一つ頼み事を聞いて欲しい」
ゴマッフの頼み事とは、少し前にラアカス大陸に流れ着いた女剣士――リフが全治三ヶ月の大怪我を負っており、アザラン族のドクターと顔見知りの若者タテゴに看護されながらも療養の日々を送っているという。そんなリフを不憫に思ったゴマッフは、どんな大怪我も一瞬で完治させる秘薬の材料となる『白氷の霊水』を取って来て欲しいとの事だ。
「あぁ? よりにもよってオレ達にお使いかよ。その気になればこんな建物なんざ一瞬で溶かせるんだぜ?」
脅すように言うキオだが、ガザニアが背後から棘を突き刺す。キオは猛烈な眠気に襲われ、その場で眠ってしまう。麻酔効果のある植物の棘だった。
「五月蝿いだけのバカは黙らせておいたわ。あんたが必要としているものを持って来れば鍵を渡してもらうわよ」
「う、うむ。約束だけは必ず守るから安心してくれ」
ゴマッフ曰く、白氷の霊水はフロスタル大陸内に存在する白氷山の泉の湧き水であった。グライン達は再びフロスタル大陸へ向かう事になったが、療養中のリフがどのような人物か気になったので、リフがいる家に立ち寄る。
「誰だ!」
家から出てきたのはタテゴだ。
「あの、リフさんという人は此処にいらっしゃいますか?」
グラインはリフについて問うものの、タテゴは疑わしい目で見つめる。
「あんた達、あの姉ちゃんの仲間だってのか?」
「いえ、そういう事ではないのですが……」
ティムが自分達について話すと同時に旅の目的を打ち明けると、タテゴは半信半疑な表情で家の中へ招き入れる。地下へ案内され、部屋に入るとベッドの上に横たわるリフの姿があった。傍らには聖剣ルミナリオが佇んでいる。
「あ、あれハ……!」
ティムはルミナリオを見て驚愕の声を上げる。
「……誰?」
「ニンゲンの旅人らしいんだ。どうもあんたに興味があるらしい。信用していいのかよくわからん連中だが」
訝しげにタテゴが言う中、グラインは思わずルミナリオに注目してしまうものの、すぐさまリフに視線を向ける。
「あなたがリフさん……えっと、あなたは何があって此処に流れ着いたんですか? それに、凄い剣があるけど……」
グラインは経緯を問うものの、リフは物憂げな表情で俯いてしまう。
「……あなた達には関係ない。何者なのか知らないけど、私の事は放っておいてちょうだい」
静かな声で返答し、これ以上は応じようとしないリフ。
「もういいだろ? 彼女だって色々あるんだ。そっとしてやれ」
タテゴがすぐ部屋から出るように言う。今はそうするしかないかと思いつつ、言葉に従うグライン達。
「あんた達が彼女を助けてくれるってぇなら、さっさとしてやんな。俺達ではいつまでも彼女の面倒は見てられないんだ」
海の魚やイカが激減し、食糧難の状況に立たされていたアザラン族には人間一人を看護するだけでも精一杯であり、限界が迫っている。そんな過酷な現状を告げるタテゴの表情は悲しげだった。
「グライン。さっきノあのリフってコ、必ず助けナきゃイけないワ」
ティムからの一言。
「ねえティム。あの剣って……」
グラインはリフの傍らに置かれていた剣について何か知ってるのではないかと思い、ティムに尋ねる。
「あの剣ハ……ティリアムが使っていタ伝説の武器。聖剣ルミナリオよ」
「ええっ!」
剣の正体が勇者の武器である事を知らされたグラインは驚愕の表情を浮かべる。グラインはリフについてある一つの考えが浮かび上がるものの、ティムはそれ以上話そうとしなかった。
「詳しいコトは、あのコを助けてからヨ。あのコ自身も知らない事実かも知れないカラ」
「う、うん」
まずはリフを助けるのが先だという事でフロスタル大陸へ向かおうとヒーメルを呼び出そうとするグライン。
「そろそろバカが目を覚ます頃よ」
ガザニアの言った通り、麻酔で眠らされていたキオが意識を取り戻す。
「ん……あ? オレ、いつの間に寝てたんだ? 頭がボーっとして解んねぇや」
何故自分が眠っていたのか解らない状態のキオ。あまり言わない方がいいかと思いつつも、グラインは角笛を吹き始める。
「お前ら、結局頼み事を引き受けたのかよ」
「仕方ないでショ。助けるベき相手ハきっと心強い味方になるワ」
「あぁ? どういう事だよ」
「いずれ解る事ヨ」
明確な理由を打ち明けようとしないティムに納得いかないキオ。再び現れたヒーメルに乗る一行。ヒーメルはグラインの意思に従い、勢いよくフロスタル大陸へ飛んで行く。半日も経たないうちに、ヒーメルはフロスタル大陸の上空に辿り着く。
「あそこは……間違いない」
空中から雪原に聳え立つ城と幾つかの建物を確認したグラインはそこがフロストール王国と確信し、ヒーメルに降ろすよう指示する。紛れもなくそこはフロストール王国であった。
「あの時は全てが凍り付いていて城下町や城の中には誰もいなかったけど……」
王国内を見回すと、フロスティアによって凍り付いていた城下町の氷は僅かに残るものの、家内に光が灯っているのが見える。少しずつ復興の兆しが見え始めている様子だった。
「何だよ、また寒いところか?」
キオがぼやく中、一行はシルベウドから白氷山について話を聞こうとフロストール城へ向かう。
「ほらほら、さっさと動く! ボサッとしない!」
突然の少女の声。ペチュニアであった。
「ヒーッ! なんでアタシ達がこんな事しなきゃなんないのよ!」
「全くですぜ、オネエ様!」
「同感ですぜ、オネエ様!」
食糧袋や資材等様々な物資を運ぶ騒がしい三人の男――ルビー一味の姿。ペチュニアがルビー一味をコキ使う形で城下町の復興活動に勤しんでいるのだ。
「いつかのバカトリオが騒いでるわね」
ルビー一味を見たガザニアの毒舌。
「あ! あなた達は……グラインさん!」
グライン一行に気付いたペチュニアが嬉しそうに駆け寄る。
「アラ、誰かと思えばいつかの冒険者一行じゃないの! ちょっと荷物運ぶの手伝ってちょうだい!」
ルビーがグライン達に荷物運びを手伝うように言う。
「あなた達は黙って仕事しなさい! でないと夕食抜きって言い付けるわよ!」
すかさず怒鳴り付けるペチュニア。
「キー! 解ったわよこの人でなしペンギン!」
「オネエ様の言う通りだ! このオニペンギン!」
「同感だ! このデビルペンギン!」
捨て台詞を残して渋々と荷物運びをするルビー一味であった。
「全く、あいつらはクチだけ無駄に動くんだから! しかも何よ。人でなしペンギン、オニペンギン、デビルペンギンって失礼しちゃう!」
ペチュニアは腰に手を当ててプンプンと怒る。
「何だあいつら?」
キオが問うものの、気にしなくていいよと返すグライン。ペチュニアはすぐさまグラインに視線を向ける。
「久しぶりだね、ペチュニア」
「うん! グラインさんとお仲間さん……って、あれれ? リルモさんとクレバルさんと白い犬さんは? そっちの怖そうな赤い人は誰?」
初対面となるキオの姿を見て、思わず目を逸らすペチュニア。
「おい、怖そうな赤い人はねぇだろ。オレはキオ。こいつらのお供ってところだ」
「そ、そうでしたか。見慣れないお方だったもので、失礼しました! あ、私は逞しい男の人も好きですよ!」
「あぁ? まあそう言われると悪い気はしねぇな」
そんな会話が交わされる中、グラインはリルモ、クレバル、ティムに関する事情と、再びフロストール王国へ訪れた理由についてペチュニアに話す。話の途中でティムが姿を現し、この小さな光の玉が今の自分の姿であり、自分の魂でもあると打ち明けた。
「そんな事があったというの……リルモさんとクレバルさんが……それに、白い犬さんまでそんな姿に……」
「ティムヨ、ワタシはティム! 確かに白い犬だったケド、そんなコトはイイとして。クレバルのコトは本当ニ残念だったワ……。リルモもドコにいるのカ……」
クレバルの死と生死不明になったリルモの事を聞かされたペチュニアは大きな衝撃を受けていた。
「白氷山の事は噂で聞いた程度だから私には詳しい事は解らないけど……王子なら何か知ってるかもしれないわ」
「そうか。解った、ありがとう」
グライン達は城へ向かって行く。ペチュニアは何かを思いつつも、こっそりとグライン達の後を付けた。城の玉座の間へやって来ると、玉座にはシルベウド、傍らにはメルベリア、大臣がいた。
「おお、君達か。まさか再びフロストールに来てくれるとは」
手厚く歓迎するシルベウド。グラインとティムは事情を全て話すと、シルベウドは驚愕の表情を浮かべる。
「なんと、それ程の恐ろしい事が……」
これまでの出来事に加え、白氷山へ向かう目的を伝えられたシルベウドの表情が険しくなる。
「白氷山……あれは禁断の地と呼ばれる場所だ」
シルベウドの言葉を聞いた瞬間、グラインは驚くと同時に一体どういう事ですかと返す。禁断の地と呼ばれている理由――それは、決して止む事のない猛吹雪と雪に覆われた道、そして白い森。並みの山とは違ってさほど高くはないものの、永久凍土の山ともいう白氷山の恐ろしさは視界を遮る程の吹雪が舞う広大な森であり、生きて帰って来れた者は誰もいないという。おまけに白氷の霊水が湧き出る場所は、山頂だった。





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