Radiantmagic-煌炎の勇者-

橘/たちばな

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神界に眠るもの

希望の光

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恐れぬ勇気? 屈しない心? 悲しみを乗り越えられる強さ?

お前にそんなものは必要ない。

お前は心の何処かで恐れを捨て切れていない。だから、勇気など必要ない。


お前は所詮子供。お前は臆病者がお似合いなのだ。



全てが闇に包まれた空間の中、どんなに彷徨ってもそんな声が繰り返されて響き渡る。何処とも知れない真っ暗闇の空間。闇の力に心を支配されたグラインの意識は、永遠の闇の中に閉じ込められていた。



捕らわれたグラインの姿を見せつけつつも、ネヴィアはクククと笑いつつも空中で一行を見下ろしていた。
「あの野郎……グラインを人質に取るつもりかよ」
キオはいつでも炎気砲が撃てるよう、拳に炎の力を凝縮し始める。ネヴィアが指を鳴らすとグラインの姿が見える穴は閉ざされ、亡霊が襲い掛かる。腐敗した肉体を失い、悪霊そのものとなってもネヴィアの冥府の力で動き続けるのだ。
「クッ、やるしかないの……!」
リフは再び剣を構え、応戦しようとする。だが、亡霊の中にはラビトとキャヌーンがいるせいで思わず躊躇してしまう。
「うあっ……」
突然、気が遠くなるような感覚に陥り、膝を付くリフ。亡霊の呪いであった。
「食らいやがれ!」
炎気砲を放つキオ。悪霊は一斉に吹っ飛ばされていく。
「無駄ですよ」
ネヴィアが目を光らせると、次々と新手の亡霊が出現する。戦争で犠牲になったエルフ族、ビースト族だけでなく、人間の亡霊までいる。しかも全てが肉体を失った悪霊だ。
「ハハハハハ! 言っておきますが、我が手駒はビースト族とエルフ族だけではありませんよ」
人間の亡霊は、バキラとクロトの襲撃を受けたアズウェル戦士部隊と王国の住民、マカフィロ王国の人々の魂が悪霊に変えられたものであった。ネヴィアの冥府の力で悪霊に変えられた魂はひたすら苦しみ喘ぎながらも、本能のままに獲物を求める邪悪な魔物でしかない。悪霊と化した魂は完全に消し去る事で浄化するしか他に無いのだ。
「貴様……この外道が! 許さない……貴様だけは許さない!」
母国の住民や戦士部隊に属する部下達の魂までもが手駒にされている事を知り、激昂するリフ。
「いい加減うぜぇんだよ!」
襲い来る亡霊に対し、炎気砲で迎え撃とうとするキオだが、拳に炎と気の力が集まらない。気の力を使い果たしていたのだ。
「野郎! 諦めてたまっかよぉ!」
炎気砲が撃てなくなったキオは、それでも食い下がろうとする。しかし、肉体を持たない悪霊タイプの亡霊には物理攻撃は効果がない。ティム曰く、悪霊タイプのアンデッドには弱点となるエレメントの力を宿していない限り、物理攻撃は通用しないという。
「まずい事になったわね」
自分の力では抑えられない事を知ったガザニアは焦りの表情を浮かべる。
「あいつは闇の力で亡霊を操っていル。この亡霊達の弱点は光ヨ。せめて光の力があれバ……」
ティムの口から出た光の力という言葉を聞いた時、リフは聖剣ルミナリオを手にして直接斬りかかる。亡霊の一人を斬りつけるリフだが、その瞬間に苦しみの声を聞いてしまう。痛い、苦しい、助けて……と、耳を塞ぎたくなるような痛々しい声だった。聖光の力が備わる者のみ扱える聖剣なだけにルミナリオには光の力が宿っている故、斬り付けによる一撃は亡霊に効果があったものの、剣で斬りつけられた痛みの声を聞かされたせいで思わず攻撃の手を止めてしまったリフは、剣を持つ手を震わせてしまう。
「リフ、亡霊達に聖剣ルミナリオの攻撃は通用するみたいヨ。躊躇う気持ちは解るケド……やるしかないワ」
ティムに言われても、リフは亡霊達の苦しみの叫び声がどうしても気になるせいで攻撃する気になれなかった。
「彼らだってずっと苦しんでいるのよ! 彼らを苦しみから解放させる為にも戦いなさい! あなたには……大事な使命がある事を忘れないで!」
ティマーラとしての声で叱咤を受けたリフの頭の中にサラの姿が過り、同時に襲撃されたアズウェルの惨状が浮かび上がる。そして憎き敵の姿。自分に託して犠牲になる事を選んだネルの姿が浮かんでいく。次の瞬間、リフは鼓動が高鳴るのを感じる。胸の奥が熱くなるような鼓動だった。
「ぐおああああッ!」
「うぐあああああああッ!」
突然、キオとクロウガが絶叫する。亡霊が次々と呪いの波動を放ち、波動を受けた事で全身が凍り付く感覚に襲われていた。やがて金縛りにあったかの如く身体が動かせなくなってしまい、頭の中で無数の呪いの声が響き渡る。
「う、くっ! あぁぁっ……!」
ガザニアも呪いの波動を受け、その場で膝を付いてしまう。亡霊が放つ呪いの波動は三人を着実に無力化させていた。
「クッ、このままでは!」
危機を感じたリフが思わず亡霊に斬りかかる。一閃が亡霊の一人を切り裂くと、嘆きの声が絶え間なく聞こえてくる。耳を塞ぎたい思いでリフは攻撃の手を止めず、目を瞑りながら剣を振り下ろす。しかしその一撃は本気ではなく、本能で加減していた。決定打にならず、亡霊の群れが次々と呪いの波動を放つ。
「うううっ……ああぁぁぁぁっ!」
呪いの波動を受けたリフは全身が凍り付く感覚に抗おうとするものの、頭の中で響く呪いの声はどんどん大きくなっていく。
「く、くそっ……負けるわけには……!」
自身を蝕む呪いと戦いながらも、反撃に転じようとするリフ。
「どう足掻いても無駄です」
高みの見物を決め込んでいたネヴィアがリフの前に現れ、黒い波動を放つ。死者の呪いを肥大化させる冥府の波動だった。
「うがああああああああああああっ!」
呪いが強化された事で全身が凍り付いてバラバラに砕けるかのような苦痛に襲われ、大口を開けて凄まじい絶叫を轟かせるリフは気を失ってしまう。
「そ、そんな……」
キオ、クロウガ、ガザニアに続いてリフまでも倒されてしまい、全滅という現実に直面して絶望の声を漏らすティム。動けなくなったキオ達の前に穴が出現し、無数の手が全員の身体を一斉に掴み、穴の中に引きずり込んだ。


その頃宮殿では、ヨーテと数少ない獣人兵に看護されている獣王が苦しげに咳き込んでいた。
「獣王様!」
「グホッ、ゴホッ……どうやら最期の時が近付いたようだ……」
自身の命は残り僅かだと悟った獣王は呼吸を整える。戦いによる傷と肉体の崩壊は己の命をも大きく削る事となり、風前の灯火となっていたのだ。次期国王となるはずの息子レイオはこの世にいない。後継者がいない上、多くの獣人が戦争の犠牲となった今、王国としてのビストールは死んだも同然である。
「今を生きる者よ……勇者達をアルガンシュの元へ……彼らは新たなる希望……」
グライン達を導くように獣王が言うと、更に咳き込み始める。ヨーテは苦しむ獣王の姿を見つつも、グライン達の事が気になり始める。彼らは王国に現れた邪悪なる敵に挑んでいる。そして今、敵の手によって危機に陥っている。自分には何も出来ない。獣王の最期と迫り来る王国の終焉――そして、何においても自分ではどうにも出来ないという現状に、自身の無力さを痛感していた。


ネヴィアの冥府の力で生み出された空間に引きずり込まれたキオ達は、グラインと同様に四肢を無数の手で掴まれ、拘束されていた。
「ぐ……動けねぇ……」
四肢を掴んでいる手から逃れようとするキオだが、どんなにもがいても離れる事が出来ない。
「クックック……無駄ですよ。一度この世界に入ると永遠に出る事は出来ない」
捕まっているキオ達の前に現れたネヴィアは、大量の魂を召喚する。無数の魂からは次々と唸り声が聞こえてくる。そしてネヴィアは牙を剥き出し、キオの首元に噛み付く。
「ぐ……がああああああッ!」
ネヴィアの牙から闇の力を注入されたキオの絶叫。続いてガザニアの首元に噛み付くネヴィア。
「うっ……あああああああああ!」
闇の力を注入され、絶叫するガザニア。クロウガ、リフにも噛み付き、成す術もなく全員闇の力を注入されていく。
「お……あぁっ……お、お前ら……」
薄らぐ意識の中、キオは死した同族達の苦しみに満ちた声を聞きながらも、ボロボロの姿となった同族が次々と現れるのを目にする。ヘルメノンによって凶暴化した鬼人族の末路。同時に過る忌まわしい記憶。ガザニアの視界に映るのは、裏切り者であるジギタの襲撃を受け、命を落とした多くのドレイアド族。クロウガの視界に映るのは、エルフ族との戦争で犠牲となった多くのビースト族。リフの視界に映るのは、バキラとクロトの襲撃で犠牲となったアズウェル王国の人々。それぞれの故郷で死した者の魂の叫び声が絶え間なく響き、無残な姿が皆の視界に飛び込んでいた。
「ぐ……はぁっ……」
全員が闇のオーラに包まれ、口から溢れ出る闇の瘴気。皆が闇の力に蝕まれ、目の光が失われていく。
「あ……あぁっ……」
キオ、ガザニア、クロウガが白目を剥き、リフの全身の血色も失せていき、白目を剥く。捕えられた全員はピクリとも動かなくなってしまった。
「これで全てが終わりました。あなた方は永劫の苦しみの中で死んでいき、魂は永遠の闇へと葬られていくのです。クックックックッ……ハッハッハッハッハッハッ……ハーッハッハッハッハッハッハッハッ!」
勝利を確信したネヴィアは、狂ったように高笑いしていた。


全員がネヴィアの世界に引きずり込まれ、地上にはティムだけが残されていた。
「ああ……どうすればいいの……」
魂だけの存在になってしまった自分には何も出来ない。肝心の勇者達は今やネヴィアの手に掛かり、『敗北』と『全滅』の二つの言葉が過るばかり。そして聖剣ルミナリオが地面に転がっている。せめて自分にルミナリオが使えたら、と自分の無力さを嘆くティム。その時、空中に穴が開き、現れたネヴィアが静かに降り立つ。
「……ネヴィア! 皆を何処へやったの!」
ティマーラとして振る舞いつつも気丈な態度で問うティム。
「おやおや、まだ光ある魂がいましたか。ずっと気になっていたのですが……」
ネヴィアはティムについて興味を抱き始める。
「私の問いに答えなさい! 皆は何処にいるの?」
「冥府の世界ですよ。彼らは闇の中で永遠に苦しみ続けるのです。彼らと縁のある亡者達の叫び声を聞きながら、ね」
冷酷に返すネヴィアに、ティムは怒りに震える。
「あなたはどこまでも非道なのね……許さない!」
感情任せな声を上げるティム。
「許さない、と? ただの魂でしかないあなたに何が出来るというのです? あなたは確か、タロス様のご兄弟であったとか」
ネヴィアがゆっくりとティムの元に歩み寄る。
「近寄らないで!」
ティムは即座に聖剣ルミナリオの近くまで動いた。
「その剣、実に目障りですね。あなた共々この私の力で闇に染めてみせましょうか」
ネヴィアの額の目が大きく見開き、手から凄まじい闇の波動を放つ。
「うッ……あぁぁぁああああッ!」
闇の波動を受けたティムが叫び声を上げる。
「如何なる魂を闇に染める事など、この私にとっては造作もない。あなた自身とその剣も我が力で闇に染める事が出来れば、我々に仇名す害虫どもはこの世から完全に消えてなくなる」
波動の力が強まっていく中、ティムの魂から一時光が失い掛けるものの、抗っているのか、光は消えようとしない。
「……私は……最後まで闇に屈しない!」
闇の波動に飲まれながらも、ティムは諦めない意思を曲げる事無く、そして心の中で呼び掛ける。



神の子の血筋を引きし者に宿る聖光の力よ……どうか目覚めて……

私の全てを捧げてでも……新たなる光となりし勇者の為にも、どうか……どうか――!



その時、聖剣ルミナリオの柄に嵌め込まれた青い宝玉が光り始める。まるでティムの想いに共鳴しているかのように、宝玉は光っていた。
「ぬ? これは……」
思わず戦慄を覚えるネヴィア。ルミナリオの宝玉の光は、ティムの魂の光と同じものだった。



――光を……


我を目覚めさせるには、選ばれし者の光を必要としている。


今こそ……汝に秘められし光を呼び出すのだ――。



何者かに呼び掛けられ、意識を取り戻すリフ。そこは、完全なる暗闇の中だった。
「誰なの? 此処は……私、どうなったの……?」
声の主は誰なのか辺りを見回すリフだが、暗闇でしかないそこには何も見えない。その時、リフは左手の薬指から暖かさを感じる。ロレイ村の修道院にてグレド院長から与えられた神光の指輪の宝玉が輝いているのだ。
「これは……この光……」
リフは指輪から放つ光に不思議な感覚を覚えると同時に、身体の奥底が熱くなっていく。
「リフ……」
次の瞬間、リフは驚きの表情を浮かべる。現れたのは、ネルの幻だった。
「あなたに備わる光は、私とは違う光。それは、全ての闇を浄化する聖光の勇者の力――」
ネルの幻の言葉を聞くと、リフは思わず魔導帝国の領地での出来事を思い出してしまう。不死皇帝ゼファルドの攻撃で重傷を負った時、ネルが死を覚悟して全ての光の魔力を与え、次元転送魔法エクスパルーションで自分を逃がしてくれた。ネルは、自分の為に命を捨てた。その想いに応える為にも、自分の中に備わる聖光の力を目覚めさせたい。けど、聖光の力を自分の意思で自在に呼び起こす方法が解らない。今まで自分に備わる光の力が発動したのは、自分の意思によるものではない。今、救うべきものが沢山あるから、聖光の力を自分の意思で扱えるようになりたい。自分の中に備わる光が、全ての闇を浄化出来るのなら――。
「どうか希望を、捨てないで。あなたは一つの希望。そしてあなたは希望の光。聖光の勇者だって、希望の光だったから……」
希望――その言葉を聞いた時、グラインの言葉が頭を過る。


僕の仲間も、あいつらのせいで犠牲になってしまった。あいつらだけは絶対に滅ぼさなくてはならない。僕の大切なものを沢山奪った、あいつらだけは……!


僕は……何があっても絶対に絶望しないから。



そう、絶望してはいけない。どんなに絶望的な状況であろうと、希望を捨ててはいけない。だからこそ、私は全てを救う光になりたい。希望の光に――。


その時、リフの前に聖剣ルミナリオが出現する。柄に嵌め込まれた青い宝玉が眩く輝き、神光の指輪が共鳴するかのように強く輝いている。
「ルミナリオ……!」
リフがルミナリオを手に取った瞬間、身体に力が注ぎ込まれるのを感じた。



汝に秘められし光は、希望の象徴とされし聖――


汝が希望となる決意、しかと受け止めた。今こそ汝と共に戦おうぞ――!



突然、王国全体が眩い光に包まれる。それは聖なる輝きの光。
「グアアアアアアアアアッ!」
光の中、苦痛の叫び声を上げるネヴィア。黒い波動は光によって完全に消え去り、亡霊達は一瞬で浄化されていく。聖剣に秘められた力が目覚めたルミナリオによる聖光であった。
「この光は紛れもなく聖光……ルミナリオが覚醒したのね」
ティムが呟く傍ら、ルミナリオは主を探すかのように空中へ浮かんでいく。
「グウッ……あの剣……忌々しい。消えろおおおおお!」
激昂したネヴィアが闇の力を凝縮させた衝撃波をルミナリオに向けて放つ。だがルミナリオが覆う聖光の力は衝撃波を遮断してしまう。ルミナリオは空間を切り裂き、闇の穴を出現させる。ネヴィアによる冥府の世界へと繋がる穴だった。
「クッ、おのれ!」
ネヴィアは冥府の世界へと向かって行く。冥府の世界に侵入したルミナリオは光を放ち、グライン達を拘束している無数の黒い手を消し去った。そしてルミナリオはリフの元へやって来る。
「う……」
目を覚ましたリフは立ち上がり、そっとルミナリオを手にする。そして自分の中に大いなる力が漲ると共に、光の力に関する様々な知識が浮かび上がる。今こそ確信した。これが私の真の力だと。この力があれば――!
「何処までも忌々しい。かつて私を葬った光を受け継ぐ者がいたとは。貴様だけは私の手で消し去ってくれる!」
現れたネヴィアを前に、リフは剣に力を込める。刀身は青く輝く光に満ちている。
「覚悟しろネヴィア!」
リフが突撃すると、ネヴィアは周囲に無数の黒い手を出現させると同時に空中へ飛び上がり、両手から闇のエネルギーを放出する。次々と襲い来る無数の黒い手を一閃で切り裂くと、黒い豪雨が降り注ぐ。闇の魔力を水溶液へと変え、呪いの力が込められた死の雨を降らせる魔法『ビドーブスコール』だった。
「ハァッ!」
即座にリフが両手で剣を持つ形で構えを取ると光のバリアに覆われ、絶え間なく降る死の雨をガードする。
「ガアアッ!」
ネヴィアの口から吐き出される漆黒のブレス。様々な死者の怨念が致死に至る猛毒と化したブレス、その名も『デスペリアベノム』。だがリフを覆う聖光はデスペリアベノムの猛毒を遮断していく。
「うおおおおおおおっ!」
リフは剣を掲げ、十字状に振り下ろす。


光覇十裂斬――


光り輝く十字架状の衝撃波がネヴィアを襲う。
「ぐおはあぁぁぁぁぁあっ!」
その一撃は聖光の力によるものであって、ネヴィアにとっては大きなダメージとなった。
「ガハァッ……か、身体が……こ、こんなはずは……ぐげぼぉぉぉおおっっ!」
苦痛の絶叫を轟かせるネヴィア。十字状の深い傷跡が刻まれ、更に光によって傷口から広がるように焼かれていく。だがネヴィアは勝負を捨て切れず、マントと衣服を吹き飛ばして両手に漆黒の刃『ダークネスソード』を出現させる。
「人間如きに……下等な人間如きに倒されはせぬぞおおおおッ!」
額の目が光り、漆黒のオーラを纏うネヴィアはダークネスソードによる二刀流で挑む。光の剣と闇の剣の激しい剣戟が繰り広げられ、後方に飛び退いては空間から巨大な手を召喚する。鋼鉄をも軽々と裂く爪を持つ悪魔の手を自在に操る暗黒魔法『ギルティクロー』だ。ギルティクローとの連携でリフに襲い掛かるネヴィア。
「でやあああああっ!」
聖光を纏うルミナリオによる一閃を受け止めるギルティクロー。その隙を突いてネヴィアの攻撃がリフを捉える。血飛沫が舞い、手傷を負うリフだが、それでも攻撃の手を止めようとしない。
「うぐうっ!」
リフは不意に身体の内部が凍り付くような寒気を感じる。頭に響き渡るように聞こえる怨念のようなおどろおどろしい声。ネヴィアが呼び寄せた冥府の呪いによる死への誘いで魂を奪う暗黒魔法『デスペナルティ』である。この声は死の声だ。だんだん頭がおかしくなりそうな恐ろしい怨念。折れると確実に死んでしまう。本能で悟ったリフはルミナリオを握り締めている手に力を込めつつ、絶対に負けられないと闘志を燃やす。
「死ぬがいい、忌々しい人間めェェッ! 我が冥府は……不滅なのだァァァッ!」
凄まじい形相で叫びつつも、魔力を最大限まで高めていくネヴィア。冥府の呪いに襲われる中、リフは両手でルミナリオを大きく掲げる。
「我が聖光よ……唸れ! ホーリーブラスター!」
ルミナリオから放出される巨大な光。そして次々と降り注ぐ光の柱。
「うごがはぁぁぁぁあああおおおおおぅぅおおおおぁぁぁぁぁああああっ!」
光の柱の直撃を受け、断末魔の叫び声を上げるネヴィア。
「たああああああああっ!」


飛天滅光斬――


聖光の力を宿したルミナリオを両手に空高く飛び上がったリフは、空中から降り注ぐ光の柱と共にネヴィアを大きく斬り裂いた。そして更に巨大な光の柱が発生し、斬り裂かれたネヴィアの肉体を浄化していく。
「……ガ……アァッ……完全に……私の負け……だ……」
肉体が消滅し、光が消えていくと、小さな核のような黒い球体が転がっていた。
「……私が死して、も……我が主……は……」
言い終わらないうちに声が途切れ、黒い球体は粉々に砕け散り、消滅する。そして空間が歪み始める。ネヴィアが死んだ事で冥府の世界は消滅し、グライン達は元の世界に戻る事が出来た。
「戻ってこれたの……?」
辺りを見回すリフ。視界に映るのは意識を失った仲間達の姿と、ビストール王国の光景。
「リフ! 無事だったのネ」
ティムが駆け付けて来る。リフから漂う聖光の力を感じ取ったティムはネヴィアの死を悟り、安堵する。そしてリフこそが新たなる希望の光となる勇者だと確信した。



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