傷ついた心を癒すのは大きな愛

雪本 風香

文字の大きさ
5 / 61

奇妙な同居生活2

しおりを挟む
漁師仲間との昼食を終え、いつもより早めに作業を終わらせ、帰り支度をする。
「女でもできたんか?」
珍しい武史の様子に漁師仲間から冷やかしの声に苦笑いで答える。
「親戚が来とるんですわ。しばらくこっちで過ごす予定で」
明日明後日には、しばらくこちらにいる親戚が武史と年齢が変わらない女だということがわかるだろう。それくらい小さい町で、コミュニティも狭い。
夜にでも千尋にそのことを伝えておかないと、都会暮らしだった彼女にはしんどいものがあるだろう。
武史は男だし、あまり噂話には関心がないが、年頃の女性にとってはいきなり噂の中心になることはキツいものがある。
(悪い人たちやないんやけどな)
智史はこれが嫌で家を出た。千尋はどうだろうか。
(できれば馴染んでくれるとええけどな)
そう思いながら、武史は急いで家に帰った。

千尋と俊樹もちょうど食べ終わった頃だった。
「早かったな、タケ」
居間にいたのは俊樹だけだった。台所を覗きこみ、洗い物をしている千尋に声をかけると一旦手を止めて振り向く。
「おかえりなさい」
早朝に見たような泣きそうな顔はもうしていなかった。ホッとしながら、武史は千尋の出迎えに答える。
「ただいま」

冷蔵庫に夕飯の魚を仕舞うと、荷造りをしていた俊樹に帰る時間を確認する。あと少しで出ないと間に合わない時間だった。
「駅まで送るわ」
洗濯機に今日の作業で使った服を放り込み、回し始める。
まだ早いと言う俊樹に、田舎の電車の恐ろしさを伝える。
「1時間に一本やぞ。乗り遅れたらえらいことになる。早めに行っとくに越したことないわ」
その言葉が響いたのか、重い腰を上げた俊樹は、千尋に帰る旨を伝える。
千尋も駅に見送りに行こうとするが、俊樹が止めた。
「姉貴は離れの片付けあるし、ネットの工事の人もこの後来るんだろう?ここでいいよ」
一旦言葉を切ったあと、俊樹は真剣な顔をして千尋に伝える。
「今度は何かあったら事前に言ってくれよ。二人だけの姉弟なんだから。俺に言いにくいなら、タケでも智史くんでも敏子おばちゃんでもいいから。それだけは約束して」
辛そうな表情を見せたのは一瞬だった。
「心配かけてごめんね。...約束する。...柳田さんとも連絡取らないから」
その返事をすべて信じている訳ではないだろう。それでも俊樹は頷き、お盆にまた来ることを伝えると、武史と共に駅へ向かった。

「タケ、姉貴を頼むな」
「わかった。俺もトシと約束したからな」
さっきまでの真剣な表情とはうって変わり、気が抜けた顔で助手席に乗る俊樹に返事をしながら武史は車を駅に向かわせる。
昼間のため、交通量は少ない。すいすいと進む車に合わせて流れる風景を見ながら、俊樹は爆弾発言をする。
「俺、タケなら兄貴って呼んでもいいよ」
脳にその言葉が届いた後も、意味を理解するまで数秒かかった。
「はぁ!?何言いよんや、お前」
「タケ、姉貴が初恋だって言ってたじゃんか」
「昔の話やろ!」
親戚ならではの古い記憶を掘り起こされ、武史は声を荒らげる。手にびっちょりと汗をかいているのがわかった。

「客観的に見ると姉貴はいい女だと思うよ。料理も家事もばあちゃん仕込み。自分で食べて行けるだけの仕事もあるし。身長はちょっと低いのと、顔は好みが分かれるのが難点だけど。意外と胸もあるし。ま、性格がちょっと面倒くさいけど」
弟からの評価に武志はどう答えたらよいかわからず、黙ったままだ。俊樹も返事を求めているわけではないのだろう、独り言のように呟く。
「両親が死んで、自分がしっかりしないといけないと思ったんだろうな。じいちゃん、ばあちゃんの言うことを素直に聞いていて、家のこともしっかりやっていたよ。親がいないことにふて腐れて、反抗ばかりしていた俺よりもよっぽど大人だった。...だから、柳田みたいな、一回りも上の男にちょっと優しくされて嬉しかったんだろな」
「柳田とは付き合っていたんか?」
「姉貴は少なくともそう思っていたよ。バツイチと聞かされてそれを信じてた」
ため息混じりに俊樹は答えた。あまり話さないから、俺もこれ以上知らないんだという俊樹に答えに、武史も何も言えないまま駅まで車を走らせ続けた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

処理中です...