傷ついた心を癒すのは大きな愛

雪本 風香

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初恋と今2

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初めて恋に落ちたのもこの家だった。

千尋と俊樹の両親が亡くなって初めてのお盆だった。
千尋が9歳、武史と俊樹が7歳になる歳だった。
俊樹が熱を出して寝込んだ。親の初盆での疲れから来る熱だと医者はいい、1日大人しく寝るように俊樹に言った。
「姉ちゃん、側にいて!」
そう泣きじゃくる俊樹を優しく見た千尋は、自分もその日は1日家にいることを決めた。
周りには同年代の子どもたちがいて遊びたかったと思う。
「俊樹が心配だから、明日遊ぼ」
そう言って、他の子どもを家で見送った。

武史もみんなと遊びに行った。が、途中で帰宅した。
川で遊んでいたら滑って血だらけになったからだ。
慌てて付き添いの大人に家に連れて帰られた。
思ったほど傷が深くなく、病院に行くほどのケガではなかった。
ホッとした敏子に散々叱られ、家にいるなら千尋と遊ぶように言われた。

二階に上がり、俊樹が寝ている和室の襖を開けた。
「ちー姉?トシ?」
ぐっすり眠っている俊樹の横で、千尋は驚いたように振り返った。
その目は涙で濡れていた。
慌てて、口の前に指を立てて武史に言う。
「黙ってて、お願い」
片手に両親の写真が入った小さな写真立てを握りしめていた。

いつも笑顔しか見せない千尋が泣いているのにどうしたら良いか分からず、入口で立ちすくむ武史を、千尋は涙を拭きつつ手招きして呼んだ。
武史が側に来ると、千尋はびっくりしたように尋ねる。
「タケちゃん、顔と足、どうしたの?」
擦りむいたところに大きな絆創膏を貼られていた武史に驚いたようだ。
「コケた」
「大丈夫?痛くない?」
「うん」
どう言ったらいいか分からない武史は、迷いながら千尋に聞く。
「ちー姉もどこか痛いの?」
「もう大丈夫。…タケちゃん、ありがとう」
そう言って無理に微笑む千尋だったが、うまく笑えず涙を零す。
そんな千尋の頭を武史は撫でた。
「ちー姉、泣かないで」
そう言いながら慰めるが止めることができないのか、一向に泣き止む様子がない。
困った武史はどうするか迷っている時に、祖父が様子を見に来た。

「じいちゃん!」
助け船とばかりに祖父の顔を見る。
祖父は武史を見て、千尋に視線を移す。千尋の手に握られているものを見て全てを察したようだ。
武史の頭を撫でると千尋に話しかける。
「ちーちゃんは我慢しすぎや。泣いてええんやで」
フルフルと首を振る千尋は、小声で言った。
「おじいちゃんとおばあちゃんには言わないで」
珍しく祖父は困ったように眉を下げる。
「そしたら、ちーちゃんがしんどかろう」
「いいの。私はお姉ちゃんだから、しっかりしないといけないの。私まで泣いたら2人が悲しむ」
祖父は千尋を抱きかかえる。ポンポンと頭を撫でると、堪えきれないように嗚咽を漏らす。

「ちーちゃんは優しいな。自分がツラいのにじいちゃんばあちゃんのことを考えれて。
だけどな、ちーちゃんがそうして我慢しとる方がじいちゃんばあちゃんはツラいんやぞ」
「…でも俊樹も泣いて私まで泣いたら心配かける」
「こうして影で泣いとる方が心配やぞ。感情を殺してしまうと心まで死んでしまう。ここにはワシとタケ坊しかおらん。隠さんでええ」
千尋は何も言わず、祖父の腕の中で泣いていた。
抱えていた苦しみを全て吐き出すようなそんな泣き方だった。
少し落ち着いた頃、祖父が言う。
「ワシがついとるから、じいちゃんばあちゃんに今の気持ち言おうや。自分の口で言えるか?」
少し考えた千尋は、コクリと頷く。
祖父が武史の方に向き、千尋の祖父母を呼んで来るように伝えた。

「タケちゃん」
階下に降りようとする武史を千尋が呼び止める。振り向いた武史に千尋は言った。
「ついていてくれてありがとう。俊樹にはナイショにしてね」
その泣き笑いの表情にドキッとした。

千尋の祖父母を呼びに行き、しばらく経って降りてきた祖父に武史は自分の感情を伝える。
「俺、ちー姉が泣いているの見るのイヤや」
祖父は驚いたように武史を見ると、ポンと頭を軽く叩いた。
「ほんならタケ坊がちーちゃんのこと守りや」

その言葉通り、それから武史は出来るだけ千尋の側にいるようになった。
千尋が笑ってくれると嬉しくなり、少し表情が曇っていると悲しくなった。
多くてもお盆と正月にしか会わない親戚への気持ち。
それが恋と呼ぶものだと気づいたのは、千尋が中学に上がり、学校が忙しくてこの町に来れなくなった時だ。
「ちー姉、また来れないんか?」
遊びに来ていた大きめの公園で俊樹と2人になった時に尋ねた。
そうだ、と答える俊樹は面白そうに笑う。
「タケは姉ちゃんのことが好きなんだね」
ニヤニヤと笑う俊樹に何も言えなかった。
「顔真っ赤だよ!」
そんな武史のことを指さして笑う俊樹を余所に、自分の気持ちに気付いた戸惑いで思わず走り出す。
「ちょ!タケ!」
驚いた俊樹が慌てて追いかけてくるが、それどころではなかった。

(俺は…ちー姉が好きや)
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