17 / 61
初恋と今1
しおりを挟む
「また来とんか、さくら」
「武史先輩、お邪魔しています」
武史が仕事から帰ってくると、秀樹の妻のさくらが遊びに来ていた。
「タケちゃん、おかえりなさい」
台所から出てきた千尋が武史を出迎える。
「さくらちゃんからお裾分けもらったの」
あの告白の日から1ヶ月がたち、千尋は目に見えて明るくなった。本来の千尋はこちらなんだろう。無理せず、自然体に過ごすようになった。
仕事の量も少し減らした様子だった。少なくとも週1回は休みを取るようにしている様子だった。
近所の人とも行き来しているようで、特にさくらとは気があったのか時折家に帰ると今日みたいに遊びに来ていることもあった。
武史にとってもさくらは秀樹の奥さん以前に小・中学校の後輩ということもあり、気安い関係だ。
「武史先輩、今日青年団の集まりでいつもの店に来てって、秀樹が言ってましたよ」
「わかった、あとで連絡しとくわ」
「じゃ、子どもの迎えあるんで帰りますわ。ちーちゃん、これありがとう」
そう言ってさくらは千尋が持たせたおかずを片手に帰っていった。
「今日集まりだけど、晩御飯どうする?」
そう尋ねる千尋にいつもの返事をした。
「んで、また食ってきたんか!」
そう言って秀樹はビールを飲み干す。武史はチビチビと焼酎を舐めるように飲む。
「お前が食わんかっても割り勘やぞ」
「わかっとるわ。…それでも千尋と一緒に飯食いたいんや」
「でも、千尋ちゃん、気付いてないやろ?」
秀樹がからかうように笑う。ブスッとした顔の武史は黙って酒を飲んだ。
※
自覚した時にはもう、どうしようも無いくらい惹かれていた。
あの告白の日から、涙腺が壊れたように時折目を真っ赤にしている千尋を見てられなかった。
居間でコーヒーを飲んでいた千尋の横に座り、武史は話しかける。
「一人で泣くなや。聞いたるから」
「だって、タケちゃんに悪い。これ以上はダメだよ」
「今更やろ。親戚なんやし甘えたらええ」
親を小さい頃に亡くした千尋は、甘えるということに関して恐ろしく不器用だった。
そして、その癖甘えたくてたまらない人間だった。
「…ダメだよ。親の代わりを求めているだけだから。それに恥ずかしいよ、大人なのに人前であんなに泣くの」
「別にいいやろ、自覚しとんなら。それに小さい頃入れるともっと恥ずかしいこと見とるわ、親戚なんやし。今更やろ」
昔の恥ずかしい写真持ってきたろか?という武史に、顔を真っ赤にして怒る千尋。
そんな千尋を胸に抱き寄せる。
「ええって。一人で泣いとるのを見せられるほうがしんどいわ」
ポンポンと背中を撫でると、堪えていた涙を流す。
(相変わらず泣くの下手やなぁ)
武史しかいないのに声を抑えながら、静かに泣く千尋。
限界まで我慢して我慢してはち切れるまで、我慢を重ねる。
「まだ…ダメなの。どうしたら、忘れられる?」
「無理に忘れようとするからや。あるがまま受け入れや。それでも忘れれんかったら別にええやないか、それでも」
「…いいのかな?柳田さんのこと思ってて」
「ええって。もし、千尋が人の道外れそうになるんなら俺が止めたるから。だから安心しいや」
その言葉に安心したのか、大人しく武史の腕に包まれる。千尋の涙と共に零れる感情を、武史は受け止めた。
胸にいる千尋に対しての感情。まだ親戚の情だと、思いたかった。
だが、自分の胸で縋りつくように泣く千尋に、抱えている感情は親戚に対するものじゃないことも理解していた。
ひとしきり泣いたあと、千尋はバツの悪そうな顔をして、武史に言った。
「俊樹にはナイショにしてね」
その言葉にハッとした。
その言葉を聞いた瞬間、初めて千尋に恋に落ちたことを思い出した。
幼い頃に初めて持った淡い恋心。
俊樹に千尋が初恋だと指摘された際にも思い出せなかった記憶がよみがえってきた。
「…ちー姉からそのセリフ聞いたんは2回目やな」
「2回目?」
思わず昔の呼び名で呼んでしまうくらいには動揺していた。
そんな武史の様子に気づかずに千尋は聞き返す。
「...自分で思い出してくれや」
動揺していた自分と千尋へ気づいてしまった恋心を隠すため、わざとぶっきらぼうに伝える。
そんな武史の様子を珍しがるように千尋は彼の顔を覗きこむ。
「えー!教えてよ!」
どれだけ千尋が食い下がっても武史は絶対にしゃべることはなかった。
「武史先輩、お邪魔しています」
武史が仕事から帰ってくると、秀樹の妻のさくらが遊びに来ていた。
「タケちゃん、おかえりなさい」
台所から出てきた千尋が武史を出迎える。
「さくらちゃんからお裾分けもらったの」
あの告白の日から1ヶ月がたち、千尋は目に見えて明るくなった。本来の千尋はこちらなんだろう。無理せず、自然体に過ごすようになった。
仕事の量も少し減らした様子だった。少なくとも週1回は休みを取るようにしている様子だった。
近所の人とも行き来しているようで、特にさくらとは気があったのか時折家に帰ると今日みたいに遊びに来ていることもあった。
武史にとってもさくらは秀樹の奥さん以前に小・中学校の後輩ということもあり、気安い関係だ。
「武史先輩、今日青年団の集まりでいつもの店に来てって、秀樹が言ってましたよ」
「わかった、あとで連絡しとくわ」
「じゃ、子どもの迎えあるんで帰りますわ。ちーちゃん、これありがとう」
そう言ってさくらは千尋が持たせたおかずを片手に帰っていった。
「今日集まりだけど、晩御飯どうする?」
そう尋ねる千尋にいつもの返事をした。
「んで、また食ってきたんか!」
そう言って秀樹はビールを飲み干す。武史はチビチビと焼酎を舐めるように飲む。
「お前が食わんかっても割り勘やぞ」
「わかっとるわ。…それでも千尋と一緒に飯食いたいんや」
「でも、千尋ちゃん、気付いてないやろ?」
秀樹がからかうように笑う。ブスッとした顔の武史は黙って酒を飲んだ。
※
自覚した時にはもう、どうしようも無いくらい惹かれていた。
あの告白の日から、涙腺が壊れたように時折目を真っ赤にしている千尋を見てられなかった。
居間でコーヒーを飲んでいた千尋の横に座り、武史は話しかける。
「一人で泣くなや。聞いたるから」
「だって、タケちゃんに悪い。これ以上はダメだよ」
「今更やろ。親戚なんやし甘えたらええ」
親を小さい頃に亡くした千尋は、甘えるということに関して恐ろしく不器用だった。
そして、その癖甘えたくてたまらない人間だった。
「…ダメだよ。親の代わりを求めているだけだから。それに恥ずかしいよ、大人なのに人前であんなに泣くの」
「別にいいやろ、自覚しとんなら。それに小さい頃入れるともっと恥ずかしいこと見とるわ、親戚なんやし。今更やろ」
昔の恥ずかしい写真持ってきたろか?という武史に、顔を真っ赤にして怒る千尋。
そんな千尋を胸に抱き寄せる。
「ええって。一人で泣いとるのを見せられるほうがしんどいわ」
ポンポンと背中を撫でると、堪えていた涙を流す。
(相変わらず泣くの下手やなぁ)
武史しかいないのに声を抑えながら、静かに泣く千尋。
限界まで我慢して我慢してはち切れるまで、我慢を重ねる。
「まだ…ダメなの。どうしたら、忘れられる?」
「無理に忘れようとするからや。あるがまま受け入れや。それでも忘れれんかったら別にええやないか、それでも」
「…いいのかな?柳田さんのこと思ってて」
「ええって。もし、千尋が人の道外れそうになるんなら俺が止めたるから。だから安心しいや」
その言葉に安心したのか、大人しく武史の腕に包まれる。千尋の涙と共に零れる感情を、武史は受け止めた。
胸にいる千尋に対しての感情。まだ親戚の情だと、思いたかった。
だが、自分の胸で縋りつくように泣く千尋に、抱えている感情は親戚に対するものじゃないことも理解していた。
ひとしきり泣いたあと、千尋はバツの悪そうな顔をして、武史に言った。
「俊樹にはナイショにしてね」
その言葉にハッとした。
その言葉を聞いた瞬間、初めて千尋に恋に落ちたことを思い出した。
幼い頃に初めて持った淡い恋心。
俊樹に千尋が初恋だと指摘された際にも思い出せなかった記憶がよみがえってきた。
「…ちー姉からそのセリフ聞いたんは2回目やな」
「2回目?」
思わず昔の呼び名で呼んでしまうくらいには動揺していた。
そんな武史の様子に気づかずに千尋は聞き返す。
「...自分で思い出してくれや」
動揺していた自分と千尋へ気づいてしまった恋心を隠すため、わざとぶっきらぼうに伝える。
そんな武史の様子を珍しがるように千尋は彼の顔を覗きこむ。
「えー!教えてよ!」
どれだけ千尋が食い下がっても武史は絶対にしゃべることはなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる