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3.憂鬱な自分の体
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帰ってきた楓はマグカップに水を注ぎ、キッチンのテーブルにある薬袋を手に取った。
メインの薬が3錠、他の薬が2種類1錠ずつ。合計5錠を口に含んで水で流し込む。
朝昼晩、一日3回。2週間に一回の通院。
3ヶ月前までバリバリ営業として働いていた楓にとって、頭で理解していても今の現状は心が追いつかないのだ。
風呂を沸かし、乳白色の入浴剤を入れる。フワッとしたヒノキの香りが漂った。
裸になり体重計に乗る。3ヶ月前と比べて5キロ増えていた。
気にしない、と独り言をいい、湯船に浸かる。
温かいお湯に包まれると、どうしても頭によぎる自分の病。
甲状腺疾患。バセドウ病。
これが楓に診断された病名。
芸能人やサッカー選手も病気を公表しているため、聞いたことはあった。
ただ、まさか自分がなるとは思ってもみなかった。
いつからか、食べても食べても太らないのも、夏に異様に汗をかくのも、時々動悸がするのも、疲れやすいのも、仕事に邁進しているからだと思っていた。
毎年の会社の健康診断でのどの腫れを指摘されたこともあったが、要観察だったし忙しさにかまけて再検査に行くことはなかった。
きっかけは手の震えと顔つきが変わってきたと指摘されたからだ。
「山下ー、なんかきつい顔になったね。バセドウ病じゃない?」
そのことが頭にひっかかり、検査に行ったところ発覚したのだった。
あまりにも数値が悪かったのだろう。上限は測りきれなかった。
即座に治療開始して。そして薬の副反応で白血球が減少して緊急入院した。
「今は治すことだけ考えよう。会社としても山下の体調面に配慮して、営業から事務に異動になる」
見舞いに来た課長に告げられた言葉に、頷くしかなかった。
せめてもの救いが、同じ課内での異動で営業事務という今までと近い仕事だったこと。
退院し、引き継ぎを済ませた楓は営業事務として内勤の仕事に従事したのだった。
甲状腺ホルモンは別名元気ホルモンと呼ばれる。
バセドウ病はそのホルモンが過剰に出る病気だ。
大量に出ていたホルモンを薬で抑える。症状としては良くなっているのに、楓は治療が進むにつれ何ともいえない倦怠感を実感していた。
今まで過剰なホルモンに慣れていた体だ。薬で急速に分泌が抑えられたホルモン量は、すぐには楓の体に適応しない。
薬飲んでいないときのほうが元気だった。
何度もそう思った。
休みになると体が貼り付けにされたようにベッドから起き上がれない。
2週間に一度病院に行き、採血をする。
ホルモンのお陰で良くなりすぎた代謝が元に戻ったが食事量は変わらないから太る。
ホルモンによって気分の浮き沈みが激しくなる。
仕方ない、とわかってはいる。
会社にもありがたいくらいに配慮してもらっている。感謝をしないといけない。
だけど、この病気に振り回されているし、悔しい気持ちは拭えない。
「あー、ダメだ」
落ちる。ネガティブの沼に。
私、こんなに後ろ向きじゃなかったのに。ホルモンのせいだ。
わかっていてももう止められない。
一人しかいないのに、楓は風呂で押し殺すようにひとしきり泣いたのだった。
メインの薬が3錠、他の薬が2種類1錠ずつ。合計5錠を口に含んで水で流し込む。
朝昼晩、一日3回。2週間に一回の通院。
3ヶ月前までバリバリ営業として働いていた楓にとって、頭で理解していても今の現状は心が追いつかないのだ。
風呂を沸かし、乳白色の入浴剤を入れる。フワッとしたヒノキの香りが漂った。
裸になり体重計に乗る。3ヶ月前と比べて5キロ増えていた。
気にしない、と独り言をいい、湯船に浸かる。
温かいお湯に包まれると、どうしても頭によぎる自分の病。
甲状腺疾患。バセドウ病。
これが楓に診断された病名。
芸能人やサッカー選手も病気を公表しているため、聞いたことはあった。
ただ、まさか自分がなるとは思ってもみなかった。
いつからか、食べても食べても太らないのも、夏に異様に汗をかくのも、時々動悸がするのも、疲れやすいのも、仕事に邁進しているからだと思っていた。
毎年の会社の健康診断でのどの腫れを指摘されたこともあったが、要観察だったし忙しさにかまけて再検査に行くことはなかった。
きっかけは手の震えと顔つきが変わってきたと指摘されたからだ。
「山下ー、なんかきつい顔になったね。バセドウ病じゃない?」
そのことが頭にひっかかり、検査に行ったところ発覚したのだった。
あまりにも数値が悪かったのだろう。上限は測りきれなかった。
即座に治療開始して。そして薬の副反応で白血球が減少して緊急入院した。
「今は治すことだけ考えよう。会社としても山下の体調面に配慮して、営業から事務に異動になる」
見舞いに来た課長に告げられた言葉に、頷くしかなかった。
せめてもの救いが、同じ課内での異動で営業事務という今までと近い仕事だったこと。
退院し、引き継ぎを済ませた楓は営業事務として内勤の仕事に従事したのだった。
甲状腺ホルモンは別名元気ホルモンと呼ばれる。
バセドウ病はそのホルモンが過剰に出る病気だ。
大量に出ていたホルモンを薬で抑える。症状としては良くなっているのに、楓は治療が進むにつれ何ともいえない倦怠感を実感していた。
今まで過剰なホルモンに慣れていた体だ。薬で急速に分泌が抑えられたホルモン量は、すぐには楓の体に適応しない。
薬飲んでいないときのほうが元気だった。
何度もそう思った。
休みになると体が貼り付けにされたようにベッドから起き上がれない。
2週間に一度病院に行き、採血をする。
ホルモンのお陰で良くなりすぎた代謝が元に戻ったが食事量は変わらないから太る。
ホルモンによって気分の浮き沈みが激しくなる。
仕方ない、とわかってはいる。
会社にもありがたいくらいに配慮してもらっている。感謝をしないといけない。
だけど、この病気に振り回されているし、悔しい気持ちは拭えない。
「あー、ダメだ」
落ちる。ネガティブの沼に。
私、こんなに後ろ向きじゃなかったのに。ホルモンのせいだ。
わかっていてももう止められない。
一人しかいないのに、楓は風呂で押し殺すようにひとしきり泣いたのだった。
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