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11.お試し交際って?
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体を重ねると、なぜ素直に話せるのだろう。
楓は星野が買ってきたたこ焼きを頬張りながら考える。
お互いに抱き合って、少しだけ寝て。起きて目が合って恥ずかしそうに笑い合って。
それだけで今までモヤモヤ一人で考えていたことが整理され、星野にありのままの気持ちを話す気になる。
男と女って不思議だなあと、目の前で焼きそばをすすっている星野を見る。
「ん、何?」
昨日までと同じように問われるのに微かに甘い響きが混じるのは、思い違いか。
「どうしたん?」
星野は楓の頬に手を当てると顔を近づけてくる。
「ちょっ!やめてって」
「ん、惜しい」
カラッと笑う星野。うん、思い違いじゃないようだ。
コタツの中で星野の足を蹴る。イテッと小さく呟く声すら楽しそうだ。
「楽しそうで何より」
「うん、ありがとう」
楓のイヤミも今は通じない。はぁー、とため息をつく楓に星野は尋ねる。
「なにがひっかかっとん?」
「ん……」
※
星野にはベッドで目覚めたときに楓の気持ちをすべて話していた。
惹かれていることも、同時に妬ましく思っていることも。
面と向かって言えないことも、情事の後、裸で彼の胸に抱かれているときにはスラスラ出てくる。
うんうん、と黙って聞いていた星野は楓がすべて吐き出した後、こう言ったのだ。
「うん、わかっていた」
と。
楓の気持ちなんかとっくに星野に伝わっていたのだ。
入社して以来、同じ部署で沢山語り合ってきたのだ。
時には営業として意見をぶつけ合い、時には同期としてアドバイスを貰い、時には友人として助けてもらい。
社内で一番意見を言い合い、お互いのことを話してきたのだ。
楓の考えなどお見通しなのだったのだ。
その上で星野は言ったのだ。
「山下が営業に戻れるまでお試し交際しない?」
と。
※
「だって……」
「「お試し交際って都合良すぎじゃない?」」
二人の声がハモる。
星野は笑い、楓は対照的に憮然としてたこ焼きを口に入れる。
「考えすぎだよ、山下は」
星野は手を伸ばしヒョイッと楓のたこ焼きを一つ横取りする。
ますます楓は眉間にシワを寄せた。
「俺は付き合える、山下は考える猶予がある。お互い不利益にはなってない」
「でも……」
「それなら真剣交際する?」
「……いや」
「いやって言われると傷つくなぁ」
「う……ごめん」
「じゃあ、お詫びに0日婚でもする?俺は良いよ」
「っ!?ゼっ……」
絶句した楓に星野はカラカラと笑う。
くそー、ホッシーってこんなキャラだっけ?
楓の心を読んだかのように星野は答えた。
「俺、家族にはこんな感じだよ」
「……そう」
星野はお茶で喉を潤すと楓に尋ねる。
「営業できないのが悔しい?」
「うん」
「だから、俺に嫉妬する?」
「……うん」
「他の人にはしないのに?」
「……同期で比べられてきたし」
「うん」
「味方だけど一番のライバルだから、ホッシーは」
「ありがと。俺も同じ。早く山下に営業に戻ってきてほしい。
けど、今は体が一番だろ?」
「……わかってるよ。それでも」
「妬み嫉みは治まらない?」
コクリと楓は頷く。
だよね、と星野も頷いた。
「その山下のモヤモヤしてる気持ちって、俺と付き合おうが付き合わないが無くならないよね。元のように仕事できない限り」
「そうだけど……」
「なら今どうにも出来ないことだよね」
「うん」
「だったら付き合っても変わらないよ?」
言葉だけ見ると辛辣だ。だけど、星野がフラットに話してくれるから楓は冷静に答えることができた。
営業として意見を交わしている時と同じ会話に、楓の勘も戻ってくる。
正面から星野の会話に乗るのは不利だ。
楓は論点を少しだけズラした。
「なんか焦ってる?」
「……」
無言は、肯定だ。
そっか、と楓は息を吐いた。
楓は星野が買ってきたたこ焼きを頬張りながら考える。
お互いに抱き合って、少しだけ寝て。起きて目が合って恥ずかしそうに笑い合って。
それだけで今までモヤモヤ一人で考えていたことが整理され、星野にありのままの気持ちを話す気になる。
男と女って不思議だなあと、目の前で焼きそばをすすっている星野を見る。
「ん、何?」
昨日までと同じように問われるのに微かに甘い響きが混じるのは、思い違いか。
「どうしたん?」
星野は楓の頬に手を当てると顔を近づけてくる。
「ちょっ!やめてって」
「ん、惜しい」
カラッと笑う星野。うん、思い違いじゃないようだ。
コタツの中で星野の足を蹴る。イテッと小さく呟く声すら楽しそうだ。
「楽しそうで何より」
「うん、ありがとう」
楓のイヤミも今は通じない。はぁー、とため息をつく楓に星野は尋ねる。
「なにがひっかかっとん?」
「ん……」
※
星野にはベッドで目覚めたときに楓の気持ちをすべて話していた。
惹かれていることも、同時に妬ましく思っていることも。
面と向かって言えないことも、情事の後、裸で彼の胸に抱かれているときにはスラスラ出てくる。
うんうん、と黙って聞いていた星野は楓がすべて吐き出した後、こう言ったのだ。
「うん、わかっていた」
と。
楓の気持ちなんかとっくに星野に伝わっていたのだ。
入社して以来、同じ部署で沢山語り合ってきたのだ。
時には営業として意見をぶつけ合い、時には同期としてアドバイスを貰い、時には友人として助けてもらい。
社内で一番意見を言い合い、お互いのことを話してきたのだ。
楓の考えなどお見通しなのだったのだ。
その上で星野は言ったのだ。
「山下が営業に戻れるまでお試し交際しない?」
と。
※
「だって……」
「「お試し交際って都合良すぎじゃない?」」
二人の声がハモる。
星野は笑い、楓は対照的に憮然としてたこ焼きを口に入れる。
「考えすぎだよ、山下は」
星野は手を伸ばしヒョイッと楓のたこ焼きを一つ横取りする。
ますます楓は眉間にシワを寄せた。
「俺は付き合える、山下は考える猶予がある。お互い不利益にはなってない」
「でも……」
「それなら真剣交際する?」
「……いや」
「いやって言われると傷つくなぁ」
「う……ごめん」
「じゃあ、お詫びに0日婚でもする?俺は良いよ」
「っ!?ゼっ……」
絶句した楓に星野はカラカラと笑う。
くそー、ホッシーってこんなキャラだっけ?
楓の心を読んだかのように星野は答えた。
「俺、家族にはこんな感じだよ」
「……そう」
星野はお茶で喉を潤すと楓に尋ねる。
「営業できないのが悔しい?」
「うん」
「だから、俺に嫉妬する?」
「……うん」
「他の人にはしないのに?」
「……同期で比べられてきたし」
「うん」
「味方だけど一番のライバルだから、ホッシーは」
「ありがと。俺も同じ。早く山下に営業に戻ってきてほしい。
けど、今は体が一番だろ?」
「……わかってるよ。それでも」
「妬み嫉みは治まらない?」
コクリと楓は頷く。
だよね、と星野も頷いた。
「その山下のモヤモヤしてる気持ちって、俺と付き合おうが付き合わないが無くならないよね。元のように仕事できない限り」
「そうだけど……」
「なら今どうにも出来ないことだよね」
「うん」
「だったら付き合っても変わらないよ?」
言葉だけ見ると辛辣だ。だけど、星野がフラットに話してくれるから楓は冷静に答えることができた。
営業として意見を交わしている時と同じ会話に、楓の勘も戻ってくる。
正面から星野の会話に乗るのは不利だ。
楓は論点を少しだけズラした。
「なんか焦ってる?」
「……」
無言は、肯定だ。
そっか、と楓は息を吐いた。
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