モテ期なんて聞いていない!ー若手実業家社長の幼馴染と元カレ刑事に求婚されています

雪本 風香

文字の大きさ
5 / 30

デートじゃないし

しおりを挟む
「ホントに大丈夫なの?」
「大丈夫。そうじゃないと来ないよ」
 理貴は苦笑する。もうこの質問は三回目。わかっているが、あかりは聞かずにはいられなかった。

 今日の理貴の服はオーダーなのだろう、体にフィットしたパリッとしたスーツにきっちりネクタイを締めている。安居酒屋では浮くような服装だけど、この場所には自然と馴染んでいる。
 本当に仕事が終わっているのか少々疑問が残るが、あかりはそれ以上追究するのは止めた。
 それよりも改めて理貴の服装を見たあかりは、再び自分の格好に引け目を感じ始める。
 
(せめてスーツでこれば良かったな)

 そっとため息をついたあかりに対して、理貴はごく自然にあかりに声を掛ける。

「今日の服、いいね。よく似合っている」
「なっ……!?」
「いつも仕事終わりでスーツ姿だったから。初めて私服見れて嬉しい」
 絶句しているあかりと反対に、理貴はニコリと微笑む。一瞬息を呑んでしまうくらい魅力的な笑みにあかりは言葉が見つからない。
 理貴は更に歯の浮くセリフを重ねてくる。
「あかりちゃんがそんな格好していると……デートしているみたいだね」
 あかりは自分を落ち着かせるために一呼吸おく。常に平常心を保つのは、警官の基本である。
 日頃の鍛錬の賜物か、少し間を置くだけであかりはすぐにいつもの自分を取り戻した。
 そして呆れた顔を理貴に向けた。
「デートじゃないでしょ。ただの昔馴染みと再会を祝っての飲みだよ」
「あかりちゃんと二人きりなんだよ。デート以外に相応しい言葉はないよね」
 あかりは大きくため息をついた。
「……よくまぁ、そんなセリフがペラペラ出てくるね。今まで散々いろんな子に言ってきたんでしょう?」
「そんなことないよ」
 理貴は吹き出した。
「あかりちゃん、僕のことそんな風に見てるの?」
「うん」
「心外だなぁ。あかりちゃんにしか言っていないのに」
 あかりは理貴の目が僅かに揺れたのを見逃さなかった。 
、でしょ?」
 あかりの切り返しに、理貴は一瞬驚いたように目を見開いた後、フッと息を吐く。

「さすがプロですね。即座にウソを見破りますか」
 茶目っ気たっぷりに言う理貴にあかりは軽く胸を張った。
「それで食べていっていますから」

 もう自分の浮いている装いのことは気にならなくなっていた。 
 

 ※

 幼馴染だった、というのは強い。どれだけ期間が空いていたとしても瞬時にあの頃に戻れる。
 最初はぎくしゃくしていた会話も、お互いの近況を肴にして飲み食いした腹が満たされる頃には、昔のようなテンポに戻っていた。
  
「昨日は大丈夫だった?」
 追加の飲み物を注文しながら、理貴はごく自然に切り出した。
「うん。ごめんね、早々に解散して」
 詫びるあかりに理貴は首を振る。
「仕事柄、仕方ないよ。幸人もそうだし」
 弟の名前が出てきたのを機に、あかりは再会してから知りたかったことを尋ねる。
「幸人とはずっとやり取りしていたの?」
「うん。引っ越してからずっと付き合いあったよ。僕、中学から大学までずっと剣道部に入っていたんだ。幸人も剣道部だったから大会で再会して。中学の頃は携帯しか持っていなかったし、そこまで頻繁に連絡はしていなかったけど、高校からはお互いスマホ持ち出したから結構マメにやり取りしてたかな」
「あー、なるほど」
 幸人はマメな方じゃないから、きっと理貴から連絡を取り続けてくれたのだろう。
 それよりあかりは、理貴が剣道を続けていたという事実のほうが嬉しかった。
「剣道、続けていたんだね」
「うん。福田先生のところは通えなくなったけど、剣道は好きだったから。結局大学までどっぷり漬かってた」

 同学年ではないあかりの記憶の中にいる理貴は、祖父が教えていた道場にいる姿がほとんどを占めている。
 めったに祖父が筋がよいと褒めるくらいだった理貴の立ち姿は、今振り返ってみても凛としていたのを覚えている。
 だから理貴が剣道を辞めずに続けていたことに嬉しくなる。
「あかりちゃんは今でもしているんでしょ」
「うん。仕事に必須だからね。でも家出てるからする機会はグッと減ったよ」
「福田先生は変わりない?」
「全然変わらない。相変わらず竹刀振り回しているよ」
 容易にその姿を想像できたのか、理貴は噴き出す。
「福田先生、怖かったなー。部活の指導が優しく感じたくらい」
「あの頃は容赦なかったもんね。今は時代もあるし、だいぶ丸くはなっているけれど。……それでも生徒には厳しいと言われてるみたいだけどね」
「そうなんだ。めっちゃ厳しかったからたまに褒めてくれた時はすごく嬉しかったんだ。また道場にお邪魔したいな」
 祖父の道場に通っていた頃は、楽しいことばかりじゃなかったはずなのに、懐かしむように昔住んでいた場所を訪れようと話している理貴を見ると、あの町での記憶がイヤなものばかりじゃないのだと安心する。
「いつでもおいでよ。祖父も喜ぶよ」
 あかりの言葉に理貴はうなずく。その様子を見て、あかりは少し迷った。

 あと一つ、確認したいことがあったのだ。

 だが、聞いてしまえばガラリと空気が変わる。 

 今、楽しく昔話に花が咲いているのだ。このまま続けて今日、何事もなく別れることも可能だ。
 ここで話を切り出さなければ、波風を立てずに終われる。当たり障りない会話をして、何年か後に今夜は楽しかったなぁ、と振り返ることができるだろう。

 それでもあかりは話を切り出すことを決めた。
 どちらに転んでも理貴ともう会う気がなかったからだ。
 幼馴染とはいえ、あかりとは学年が違う。仲が良かったのも、今も付き合いがあるのは弟の幸人だ。性別も違うあかりとはそもそも関係が薄いから、誘われたとしても断り続ければそのうちフェードアウトできるだろう。

 それに、今あかりは自身でもわかるくらい隙がある。弟のような理貴に絆される気はさらさらないが、万が一、いや億に一、理性が吹っ飛んだタイミングで迫られたら断りきれるか自信がない。
 仮に一夜の過ちだったとしても、すぐに幸人に筒抜けになるだろう。となると、兄の雅人や父の耳に届くのも時間の問題だ。そうなるとますますややこしくなる。
 ならば、今日を最後に関係を断てばいい。別に今まで通りなのだ。何も失わない。
 今日しかチャンスはない。聞いておかないと、もう聞く機会はないだろう。ささいなことだが、この先もモヤモヤした気持ちで生活するのは、どうもスッキリしない。

 ならば、尋ねるしかない。幸いにもあかりには失うものは何もない。
 開き直ったあかりは、単刀直入に問いかける。 

「なんでいきなりプロポーズしたのよ。……もしかして冗談とか?」 


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。 でも今、確かに思ってる。 ―――この愛は、重い。 ------------------------------------------ 羽柴健人(30) 羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問 座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』 好き:柊みゆ 嫌い:褒められること × 柊 みゆ(28) 弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部 座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』 好き:走ること 苦手:羽柴健人 ------------------------------------------

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。 佐倉ここ。 玩具メーカーで働く24歳のOL。 鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。 完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。 【完結】ありがとうございました‼

氷雨と猫と君〖完結〗

カシューナッツ
恋愛
彼とは長年付き合っていた。もうすぐ薬指に指輪をはめると思っていたけれど、久しぶりに呼び出された寒い日、思いもしないことを言われ、季節外れの寒波の中、帰途につく。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・ なりませんでした!! 【現代版 シンデレラストーリー】 貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。 はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。 しかしながら、その実態は? 離婚前提の結婚生活。 果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

処理中です...