人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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夏の向日葵の如く背筋を伸ばし顔を上げて 7

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 既に仕事は再開され賑やかな物音がいつもは静かな山奥に響きわたる。
 ビデオを見終わった俺達も何とも言い難い感想が溢れだそうとするも言葉を見つける事が出来ず、ただ椅子にどっかりと座って暫くPCのモニターを眺めていた。
 ただ言えるのは一度建てた家には沢山の歴史と顔の知らない人達の営みと言う思い出も詰まっていると言う事で、いずれは片づけなくてはならないのだろうがそれまでは面倒が見れるうちは大切にしなくてはと改めて思うのだった。
「ビデオは終わったか?そろそろジャッキアップするぞ」
 内田さんが呼びに来てくれた所で我に返り、慌てて三人で様子を見に行けば気持ちが良いほどすっきりと何もなくなって見通しの良い室内が広がっていた。宮下は早速ビデオを回してジャッキをセットをした様子を録画していた。
 何台もの油圧ジャッキがセットされていて随分ごつい家になったと思うも内田さんと作業にあたる人達は俺を呼んで
「要石は今までこの家を守ってくれたからそのまま使おう。柱もこれなら床下の部分で切り替えができる」
 言いながらチェンソーでサクッとカット。あんな話をしていたのに仕事に対してはドライなんだなと切り落とされた虫食いだらけの柱の根元を見せてもらう。よくもこんな姿になっても家を支え続けてたなと感心する合間に新しく切り落とした根本の代わりの柱を置いて要石に合う様に底をノミで削って行く。平の状態で置いたらぐらぐらと揺れてすぐに家が傾くだろう場に内田さんがノミを使って削り、要石にフィットする状態にノミで削ってぐらつく事がなくなった所に柱と柱を複雑な形に切った物を木槌を使って叩きながらジャッキを少しずつ降ろしてはめて行った。と言うか、嵌った。嵌るんだ?嵌ったね……
 そんな奇跡な事を見て思わず間抜けな会話でお互い目の前の出来事を見ての感想に内田さんは笑っていた。
「これが古民家に残された木材の継ぎ手の技術の一つだ。
 爺様が作った家には釘が使われてないが、こう言った技術を駆使すれば釘なんていらないと理解できるだろ」
 鼻高々と言わんばかりの内田さんは絶対ジイちゃんっ子だと確信を持って見てしまう。そこから先は興奮した宮下が好奇心が止まらないと言う様にビデオを取り出し、内田さんは他の人達が別の柱の補修に入るのを陸斗を連れて説明をしていた。陸斗も最初こそあの内田の祖父と言う人物に戸惑っていたけど、先ほどとは違う方法を用いて柱を繋げる技法に内田さんに何が違うか聞いている様子を見て俺はそっとこの場を離れた。
 いろいろ情報が多すぎて逃げたと言ってくれてもいい。
 情報もだが、人も多い、人の声も何もかもが多くて、思わず人の居ない烏骨鶏ハウスに潜り込んでしまった。途中雑草を抜いて持って行けば烏骨鶏達は普段食べている雑草を突き出し、今日は外に出れないの?外に行きたいんだけどと言う様に入口にたむろするのを邪魔する様に一匹を抱え込んでその羽毛の暖かさに心をおちつかせていた。
 こんな賑やかな吉野邸は何年ぶりか。葬儀の後の大騒動振りかと思い出せればどっと疲れが出てきた。
 ぎゅーともふもふの羽を堪能していたが、運悪く気性の荒い雄鶏だった為に容赦無く腕を突かれまくった所で諦めてリリース。ペンチでつねられるような痛みに涙が浮かびそうになる。ペンチでつねられた事ないから本当かどうかは分からないけど。日々下僕として尽くしていると言うのにこの飼い主を決して慰めようとしないこいつらを改めてかわいいなあと思うも、媚びることのない普段通りの通常運転なこいつらに何か救われた気がして暫く小屋の中でぼんやりをしていて思いだした。この小屋の二階はどうなっていたかと使う事はないだろうと設置した止まり木の奥にある引き戸を開けて二階に上がる階段を上って行く。
 この階段を使うのはここを小屋に改装する前が最後だったかと何が置いてあったっけと二階を覘いて戦慄。こんな所にまで
「バアちゃんこんなトコにまで置いとくなよ……」
 項垂れて膝を付く目の前には茅が干してあった。これ使えるのか?って言うか不特定多数の人にこの鳥小屋に入って欲しくない。と言う前に入りたくもないだろう。
「つまりなんだ?これ俺一人で何とかしろとか?ってか何年物なんだよ……」
 それなりにまだ新しい部類に入るこの内田建築群の小屋は後で内田さんに聞いておこう。きっと知っているはずだからと思うも二階は屋根裏部屋仕様なのでワンフロアだ。うん、そう言えば聞こえはいいと一面の茅にどこか降ろす場所があるだろうとうろうろとすればちゃんと扉があった。
「窓じゃないとはこれいかに」
 茅の為の場所なのかと思えば納得はいく。そしてひょっとして向こうの小屋の茅とこれを合わせれば屋根葺き替えれたんじゃね?なんておもってしまった。いや、これ以上は考えない。何かがグダグダになりそうで泣きたくなる。と言うかもう後には引けない。
 だけどだ。
 こんな事を泣く理由にするには情けなさすぎる。
 俺は扉を開ければ通りすがりの大工さんにお願いして内田さんか井上さんを呼んでもらうようにお願いすれば駆け足で井上さんがやってきた。
「なんか梯子でここに上がれないですかー?」
「ちょっとまっててー」
 と、まあ大声で言い合えば誰ともなく俺達を見上げる中で梯子を上がって来た後の井上さんの笑い声だけがただ響くと言う状況に一人、また一人と手を離せる人が集まって来た。
「森下、お前今日帰るんだったよな?ついでに持って帰ってくれ」
「なにを?」
 小首傾げて言う相手に容赦なく放り出された茅を慌てて受け取っていた。
「井上さん何?ちょっと待って!」
 茅をとなりにいた人に預けながら言ったすぐそばから梯子を駆けあがってきた森下さんは二階一面に在る茅に思わず大笑いと言う様に声を上げて笑う。
「何で今頃気付いたのですか!」
「いやぁ、烏骨鶏ハウスって掃除以外使わないし、そもそも裏側からは入れない仕様だったのが問題で……」
「ああ、もう。
 せっかくだから裏からも入れるようにドア付けちゃいましょう」
 そう言ってる間に他の人も上ってきて干してあった茅をみて「あーあ」と言う声を零しながら顔を引き攣らせていた。
「とりあえず降ろせるだけ降ろしちゃいましょう。鶏用にどれぐらい残します?一竿分ぐらいで良いですか?」
「あー、良く判らないけどそれぐらいで。チモシーもネットで買ってあるので」
「ありましたねぇ」
 苦笑を隠せずにいる森下さんは古民家再生チームを呼び出して茅を運びだし、トラックに乗せてブルーシートで覆っていた。内田さんもちょうど手が離れた所で様子を見に来て苦笑。
「そう言えばこの小屋の屋根裏に上がる階段どこだったかとずっと考えていたが、鳥小屋側だったか」
「でした。井上さんが反対側から扉を付けてくれると言ってくれたのでお願いする事にしました」
「まぁ、廃材はいくらでもあるから扉を作ってもらうと良い」
 内田さんの言葉に井上さんは早速と言わんばかりにバールで屋根裏から階段を下りてちょうど烏骨鶏ハウス側と反対側の壁に穴をあけて土壁を穿り返していた。全く持って大工と言う職種の人は逞しく仕事が早いと感心するのだった。






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