人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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これもまた山暮しのお約束 3

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 頭痛薬を飲んでパウチのゼリー飲料を飲んで市販の薬を飲んだ。もうお腹いっぱい。それよりもとにかく眠いし頭痛薬はまだ効いてないので枕元で一応気を使ってか小声で先生マジ役に立たねぇと世話になってるのならせめて宮下位役に立てと叱る圭斗の声とごめんなさいしか言えない先生のコントのような会話が頭に響いて陸斗に寝るからと言って二人を出してもらう事に成功するのだった。
 それから目を瞑ればトロトロとした眠りと加湿機能の付いたヒーターが部屋を暖めてくれて心地よい眠りに就くのだった。

「さて、先生は漬物の位置は詳しいのに何で薬の位置は知らないんだよ」
「決まってるだろ。先生は風邪をひいた時綾人の家に行かないし、綾人が風邪をひいた時もいかないから。そう言うのは宮下担当だな」
「ひでぇ。教師とは思えん言葉」
「いやいや、教師だからこそ生徒にうつすわけにはいかないから気を付けてるんだぞ?」
 もっともな意見に黙ってしまう。
「だけど宮が居ないならいくらでも俺が世話をしてやるんだからせめて場所位把握しとけよ」
「あー、綾人に「先生が触っていい場所は寝室と居間と台所と風呂だけ。冷蔵庫も良いけど目的の物以外さわらないでね?」って言われてるんだ」
 さすが汚屋敷の主。余分な所は触るなと言う綾人の防衛がうかがい知れるが
「命に係わる所は教えてもらう様に。俺からも綾人に言い聞かせて置く」
「ぜひよろしくお願いします」
 と言った所で、さてと先生は話しを区切り
「所で先生綾人に食わせてもらうつもりだったからまだご飯食べてないんだけど」
 何か作ってくれと言う視線に項垂れてしまう。
 実の親みたいになるのは以ての外だけど、こんな大人にもなりたくないと陸を呼んで綾人の台所事情を聴きだす。
「俺が作るよ」
「ああ、ありがとう。だけどダメな大人への説教タイムは終わったから一緒に作ろうか」
「うん。なら先生は先にお風呂に入ってて」
「じゃあお言葉に甘えて」
 なぜか当然のように着替えとお酒を手に五右衛門風呂に行く姿を見送る。
「陸斗、先生を甘やかすな」
「綾人さんが先生とあまりかかわるなって言うから」
 それもどうなんだと思うがあながちあんな私生活ダメ男の世話を陸斗になんてさせたくないが、消去法となると俺しかいない時が付けば改めて宮下の存在の大きさを思い知るのだった。
「早く修行から帰ってこないかな……」
「翔ちゃん京都から帰って来るの?」
 期待した瞳で俺を見上げる陸斗に
「いずれの話しだ。西野さんも結構な年齢だからそんなに長く現役でいられるわけがないからそこまで修行が出来るわけがない。基本と応用、技術と伝統とかあるだろうからその辺をしっかりと学んでくるだろうな」
 俺も人の事を言えないが頭で覚えられない分を体で覚えないといけないだろうから大変だと思ってしまう。
「どっちにしても早く帰って来れるといいな」
「まあな。うちの襖綺麗にしてもらいたいし」
 ホームセンターでアイロンで貼れる襖紙で劣化した襖の上に張ったが裏紙の部分は昔のまま。売ってはいたが使わない部屋だしとそのままにしてあるがいつかは変えてあげたいと言う思いはあの家が俺達の家だからだ。とは言ってもお金のかかる問題。古い家には襖や障子がつきもので、我が家には三十枚弱の襖がある。宮下と一緒に長沢さんの所で紙の見本を見せて貰ったら一枚約一万円弱のお値段設定。相当な覚悟がいるぞと失笑を零しそうになったのはまだつい最近の話しだ。だから是非とも宮下に帰ってきてもらって格安で襖を直す。圭斗の拙い作戦だ。と言うか
「せっかくアイロンで貼ったのだからそのまま使えばいいじゃん」
 なんていう宮下の声が聞こえたような気がした。そう言うところはズボラで、綾人の方が金に物を言わせて気前良く変えるんだろうなと綾人の家の離れの仕事の報酬だって現金に日当で払ってくれている。絶対人件費取りすぎだろうと思うも家って買うとそのくらいの値段だし、ネットに載ってた人件費とか森下さんに聞いたらそれぐらいの値段だからいいんじゃね?なんて意外とザルな計算だった事に閉口した。
 ペーペーとは言わないがまだまだ新米のうちの俺と一級建築師の資格持ちとじゃ格が違うだろうと盛大に突っ込みたいもののそれでも内田さん親子よりは安い設定にしてると言うのだから俺はもう黙ってありがたくいただく事にした。
 人件費と工期どちらを優先するか?
 工期に決まっている。
 綾人がすんなりと出した注文に沿って森下さん達が応援に来てくれたのは俺にとっても人脈を広げるためにはありがたい選択だった。それに急がないと十一月には雪が降り出すここでは早ければ十月下旬には雪が舞ったり霙が降ったりと冬の先ぶれが一足先にやってくるのだ。金銭面で余裕があるからの選択は正直羨ましいものの、こんな山奥、ほかにこの家を受け継ぐ人もいない場所で家を建て直しする理由は正直俺には綾人の気持ちはわからない。この家に取り憑かれている、そんなことを思う時も多々あるのだが……恩恵をいただく俺が言ってはならない言葉だとわかってるからこそ恩には恩を。助けることができるなら駆けつけるのが俺なりの礼だ。

 コトコトと肉じゃがの鍋が火を弱めろと訴える音を聞いて中火に落とす。電気コンロは就職してた頃使っていたが今はガスコンロ。火力の違いに感動したし、鍋を選ばないから土鍋も使えるのが正直嬉しい。鍋はもちろん米も炊けるし煮物もうまい。綾人の家の納戸にあった物をもらったが、なかなかどうして良いものをもらったと陸斗も喜んでいた。
 高一の喜ぶものじゃねえ……
 生家の呪いじゃないが年相応に青春を謳歌してほしいと願うのは満たされなかった俺の高校時代の暗黒時代があるからで、それでもなんとか卒業できたのは宮下と綾人の手助けがあったから。せめて友達の一人でもと願ったが、案外心配は杞憂のようだった。俺に宮下と綾人との三人組が出来たように陸斗にも葉山と下田という友人ができてホッとするのは俺だけではない。宮下の親父さんとおばさんも喜んでくれて、勉強会と称して家で遊んだり、泊まったりするのはもう好きにしていいぞと言うしかない。実際あいつらも時々手土産持って来たりと気を遣ってくれていて、今では三年と二年の奴等まで来るようになった。週末には手土産を持ってくるし、うちの財政難は知ってかうちでは足りないものでも余っていれば使えと言ってくれる親切はありがたくいただくことにする。

「さてと。
 陸、先生にご飯できたって声かけてくれ」
「うん」
 漬物を用意していた陸斗は菜箸を置いて土間から風呂へと向かう。
 真っ暗な闇の先にポッカリと浮かぶ明かりに向かって
「せんせーご飯だよー」
 小さな声でボソボソと喋る子供が元気で弾けるような声が夜の山間に響く。
「すぐ行くから先に食べててくれ」
 同じように学校では聞く事のなかったリラックスし過ぎた声が返ってきた。
 そして
「俺も何か食べる……」
 ガサガサの声と共にゾンビのようなすり足でやって来た綾人が毛布を被って暗い廊下から現れた姿に悲鳴をあげそうになるものの
「おかゆさんで良いですか?」
 小さな土鍋を出して聞く陸にこくんと素直に頷いてゾンビウォークでウォーターサーバーに直行する姿に動揺しない弟をちょっとだけ尊敬するのだった。


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