人生負け組のスローライフ

雪那 由多

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まずは一歩 1

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 何かしたい。
 そんな衝動は今も俺を突き動かしていて、でも現実が目の前に立ちはだかる。
 そう。
 今目の前に立ちはだかるのは宮下の成長動画。
 夏の終わりに京都に行った宮下の初日の動画を編集している時にあの東京事件。宮下に内緒で作っているからどうなった?なんて言われないけど、鉄は熱いうちに打て。なんて言葉があるように素材は生物ナマモノだ。やるぞ!そんな突き動かすような衝動の勢いに飲まれて行動しなくてはああしたいこうしたいなんて悩みに悩んでグダグダの結果しか待ってない。
 チョリチョリさんから購入したテーマ曲も後日アレンジしたものが送られてきて、お見舞いではないけどこちらに変えてくれと言われれば甘えてしまうのは今このやる気になったノリだろう。
 五秒のオープニングを全部編集しなおしになったが悔いはない。
 音楽なんて実技は壊滅的とまでは言わないが、誰も聞いてないこの山奥での練習は獣よけぐらいにはなったはずだ。聞き慣れない音に警戒しただけと思っているが、バアちゃんからの白い目に耐えた結果、何気ない顔で合格点もらってしれっとしているのが俺のクールな所だ。そんな俺の編集にプロのチョリチョリさんに真っ先にこんな感じになりましたーなんてファイルで送ればなぜかすぐに電話がつながった。
 チョリチョリさんはちょうど朝起きたところで朝食を食べていた所だという。東京であんなお別れになったのでずっと心配していたのに
「ご迷惑おかけしました。もう大丈夫です」
 なんて絶対大丈夫じゃないメッセージだけが届いたので無理の東京に呼び出した手前心配が止まらなかった所だという。なので様子を見るために渡した曲をアレンジして応援曲ではないけど元気が出るようにと力強い、情熱的な曲へと生まれ変わった。
 宮下の成長動画だけど。
 別に嫉妬……してるけどね。
 でもこの鳥肌が立つような曲を一番に聞いたのが俺と言う事で満足するのだった。
 宮下の動画はあれからかなりこまめに届く事になった。
 よほど宮下に合ったのだろう。
 師匠の西野さんの技を盗む、と言うより後世に残す。
 そんな丁寧な撮影は室内撮影の陰影で隠れないように、そして仕事の邪魔にならないようなライティングを複数設置して、職人の歪に歪んだ指と年月を重ねたしわを柔らかく温かい温度が伝わるように編集をする。
 これといった事はしないが、前回うちに来たことで動画に残す事に協力的になってくれた西野さんは積極的に自分が持つ技術を宮下に披露してくれるのだった。
 内田さん達のように持てる技術を残す事。対抗するように自慢したいと言う欲が出たという。失われていく技術でもあり、そして誇れる技術でもあり、何より同じ職人同士に見せびらかしたいと年甲斐もなく見えぬ相手に張り合いたくなったと言う。
 長沢さんはこの歳になって何を張り切ってるんだかと鼻で笑うも、圭斗を呼び出し同じように張り合う長沢さんの動画を渡された時はなんに使えと言うのかと……宮下に丸投げする事にした。
 とりあえず第一回は生家からの旅立ちから始まって、師匠の家へのお引っ越しと掃除で終わる。二回目は新しい環境の朝のルーティン、そして職場の紹介と師匠の紹介。もちろん恥ずかしがって逃げ回るお世話いただく奥様もご紹介して、三話目は奥様と一緒の朝のルーティンから初めてのお仕事とやっと修行が始まる。いや、すでに始まってるが、仕事らしい仕事はここから始まる。
 パターンとして朝のルーティン、道具の紹介、仕事の内容、作業工程、完成披露、そして夜のルーティンという流れを二回から三回で紹介できたらいいとおもっている。端的にではなく丁寧な作りを目指したいからじっくりと時間をかける事にしている。
 そして合間合間に宮下の趣味や二年間磨き続けた魚捌きを見せることができればと、せっかくお魚の美味しい日本海側にいるのだ。美味しいお魚を紹介してもらいたいと思うのは完全に俺の要望だ。

 集中すると時間を忘れる。
 俺のダメなところで、この集中力は得意なところでもある。
 金曜日の如く机の周りにペットボトルをケースで置いて、温かいものが飲めるようにとポットも完備してある。今回は手を抜いて電子ジャーで炊いたご飯をそのまま保温の状態にして俺の部屋に置き、冷えてしまうが鍋に入れた煮物を隣に置く。だけどやっぱりご飯が暖かくてもおかずが冷たいと体が冷えるので、煮物をジャーのご飯の上にかけるという暴挙をして、蓋を閉めた。
 ふっ……
 何故かそんな笑みを浮かべ、次に小腹が空いた時に俺はガッツポーズをするのだった。
 水分と集中を切らさないように糖分は貰い物のお菓子で補い、集中力のせいで気がつけば夜が明けていて……

「吉野の……
 いくら若いとはいえ人間としてその生活は間違っていると思うぞ」
「綾人君、昨日先生が来てくれたけど相手してくれないしご飯がないって泣いてたぞ?朝ももう学校に行った後だけど、置き手紙があるよ?ほどほどにしてちゃんとご飯食べて寝なさいって。
 先生来たの覚えてる?」
 ふっ……
 すっかり忘れてたな先生の存在。
 どれだけ集中していたかわかる懸案で、こういう時は誰も部屋に入れないようにする俺の配慮が無駄になった瞬間だ。
 取り敢えずスマホを見れば圭斗からの苦情のメッセージ。
 朝からめんどくさい先生をうちによこすなとご立腹だった。
 今度お米を持ってご機嫌伺いに行こうと、編集の続きをする前に俺はご飯をタイマーでセットしてベットに潜り込むのだった。
 ちなみに烏骨鶏は浩太さんが小屋から出してくれていた。だんだん世話ができる人が増えるのは良い事だと、今度は小屋に烏骨鶏達を戻す方法を教えておこうと密かに企んでみた。




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