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裏庭に潜む罠には飛び込むのが礼儀 2
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日本ですっかり慣れたスマホ越しの会話は相変わらず一呼吸遅れての会話となる物のそのテンポもお互い慣れた物で、慣れとはすばらしくその差は全く気にならなくなっていた。
ルームツアーは一階と二階をメインに三階と屋根裏はちょろっとだけの案内。
生活の基盤となる一階は理解できたが二階は綾人の部屋、いわゆるスマスタールームとこれから暮す事になるだろうオリヴィエの部屋があるのでしっかりと自慢したいお年頃だったようで、高山は一番最後に案内されたオリヴィエの部屋でくるくると走り回る様子を微笑ましく眺めて耳を傾ける。
「この部屋は壁紙を張り替えてくれるんだって。壁一面を本棚にして綾人の部屋みたいにするんだ。大きなベットを部屋の奥のこの辺に置いて、綾人のパソコン部屋みたいな大きな勉強机を置くんだ。隣のクローゼットはそれなりに大きさがあるから防音の部屋にして昌隆の部屋みたいなスタジオにする。綾人にパソコンを買ってもらう約束したから作曲活動を本気でやる事にした。マイヤーが俺の先生になってくれるんだって。
そしてこの陽の当たらない壁際には俺専用のバイオリンの収納棚を買ってくれるんだって。湿度管理が難しいからってマイヤーが綾人に教えてくれてね、すぐにマイヤーが知り合いの楽器屋に連絡してくれてカタログからお薦めの奴を綾人は注文してくれたんだ。クローゼットもスタジオに変えちゃったからタンスも必要だって用意してくれるんだよ!
夢みたいだ!俺の部屋があるなんて!」
「ああ、本当に夢みたいな部屋が出来るんだな」
珍しく有意義な買い物をしているなと綾人を褒め称えながら今までホテル住まいで定住何てプロになってからした事がなく、帰る家と確かな自分の物をやっと手に入れたオリヴィエは俺が想像する以上に喜び無邪気に笑う。
「ただ、俺は綾人にこの部屋の家賃を入れなくちゃいけなくて、今は夏休みだから良いけど来月から仕事が始まったら支払えばいいんだって。
ちゃんと働いて自分で稼いで、それが自分の生活に当てれるって凄く正しくっていいよね」
やる気に満ち溢れたオリヴィエを見ながらまだ伸びる時期を迎えてない視線より下の子供の頭を撫でながら
「当たり前のことを当たり前のようにする、意外と難しい事だから。
綾人に恩を感じるのならしっかりと音楽を愛する事だ」
翻訳アプリでは何と翻訳されたか判らないが、少しだけ顔を真っ赤に染めて俺を部屋から追い出し
「俺、練習の時間だから!薫と散歩でもして来て!」
随分とシェフの名前を流暢に呼べるようになったと感心しながらもシェフと散歩なんてないわーなんて、枝の剪定をする事にした。
遠ざかる足音に目を閉じて、取り出したバイオリンを構えてゆっくりと今与えられた課題の曲を弾く。
初見ではないため、今の自分がどこまで弾けるか記憶を頼りに弓を滑らせながら少しだけこの生活が始まる前を思い出す。
何年もの間オリヴィエの稼いだお金は生活と演奏の為の移動の資金以外は総て母親が搾取していてオリヴィエに一切還元されなかった。働く事の虚しさと演奏の意味を理解できなく、音楽を純粋に愛せなくなったオリヴィエはただその技術だけでいままでやってきたのだ。
人生のターニングポイントと言うべき深山での綾人との出会いは確実にオリヴィエに自立を促し、綾人の支援を得て拠点も決まった。
今はジョルジュとマイヤーと言うクラッシック界の二大巨頭に支えられているけどそれも時間の問題。それまでにジョルジュとマイヤーが居なくても大丈夫なくらいの確固とした地位を作らなくてはいけないのだ。
仕事を支援してくれる事務所も決まり、既に再開の為の準備も始めている。マイヤーも散歩代わりにここに来て朝食を食べては庭をぐるりと散歩したり、部屋の中やテラスでバイオリンのレッスンをしてくれる。勿論作曲家としての勉強もきっちりと教えてくれる。
マイヤーに直接学べるなんて羨ましい。
オリヴィエがこの城に居る事を知る仲間はすぐに足を運べないだけあってこまめなメッセージをくれる。
ちなみにこの様子は事務所と相談して動画として上げている。
教える事になるマイヤーも快く引き受け、きっとオリヴィエが最後の弟子になるだろうからと言って最後の足跡を残したいと言う。
「古典な音楽ばかりやって来たからね。オリヴィエのような若手の力、衝動はこの年になると眩しくて羨ましくて。少しでもオリヴィエの成長を一番側で見守りたい私の我が儘ですから、ダメと言っても一緒に出演しますよ」
そんな脅迫。
事務所側は願ってもないと調整を始める中、オリヴィエにも一人のマネージャーが付いた。オリオールもマイヤーも知る事務所の所長の秘書の一人が引き受けてくれたと言う。
まぁ、クラッシック界の二大巨頭のいとし子に碌でもないマネージャーが付くよりはと所長が直接交渉してくれたようで、今日もオリヴィエに会いに来てくれるのだった。
練習の最中に部屋の扉が開いたのに気が付いて演奏を止めれば
「練習中に悪いな。
所でこの城のオーナーはまだお戻りにならないのですか?」
「ごめん。今イギリスに寄ってから帰るって連絡があった」
暑いのにきちんとスーツを着て眼鏡をかけた俺のマネージャーのセシル・デューリーは汗もかかずにまいりましたねとあまり笑う事もなくまじめに仕事をする様子はさすが所長の秘書だと妙な納得を覚えるのだった。
ルームツアーは一階と二階をメインに三階と屋根裏はちょろっとだけの案内。
生活の基盤となる一階は理解できたが二階は綾人の部屋、いわゆるスマスタールームとこれから暮す事になるだろうオリヴィエの部屋があるのでしっかりと自慢したいお年頃だったようで、高山は一番最後に案内されたオリヴィエの部屋でくるくると走り回る様子を微笑ましく眺めて耳を傾ける。
「この部屋は壁紙を張り替えてくれるんだって。壁一面を本棚にして綾人の部屋みたいにするんだ。大きなベットを部屋の奥のこの辺に置いて、綾人のパソコン部屋みたいな大きな勉強机を置くんだ。隣のクローゼットはそれなりに大きさがあるから防音の部屋にして昌隆の部屋みたいなスタジオにする。綾人にパソコンを買ってもらう約束したから作曲活動を本気でやる事にした。マイヤーが俺の先生になってくれるんだって。
そしてこの陽の当たらない壁際には俺専用のバイオリンの収納棚を買ってくれるんだって。湿度管理が難しいからってマイヤーが綾人に教えてくれてね、すぐにマイヤーが知り合いの楽器屋に連絡してくれてカタログからお薦めの奴を綾人は注文してくれたんだ。クローゼットもスタジオに変えちゃったからタンスも必要だって用意してくれるんだよ!
夢みたいだ!俺の部屋があるなんて!」
「ああ、本当に夢みたいな部屋が出来るんだな」
珍しく有意義な買い物をしているなと綾人を褒め称えながら今までホテル住まいで定住何てプロになってからした事がなく、帰る家と確かな自分の物をやっと手に入れたオリヴィエは俺が想像する以上に喜び無邪気に笑う。
「ただ、俺は綾人にこの部屋の家賃を入れなくちゃいけなくて、今は夏休みだから良いけど来月から仕事が始まったら支払えばいいんだって。
ちゃんと働いて自分で稼いで、それが自分の生活に当てれるって凄く正しくっていいよね」
やる気に満ち溢れたオリヴィエを見ながらまだ伸びる時期を迎えてない視線より下の子供の頭を撫でながら
「当たり前のことを当たり前のようにする、意外と難しい事だから。
綾人に恩を感じるのならしっかりと音楽を愛する事だ」
翻訳アプリでは何と翻訳されたか判らないが、少しだけ顔を真っ赤に染めて俺を部屋から追い出し
「俺、練習の時間だから!薫と散歩でもして来て!」
随分とシェフの名前を流暢に呼べるようになったと感心しながらもシェフと散歩なんてないわーなんて、枝の剪定をする事にした。
遠ざかる足音に目を閉じて、取り出したバイオリンを構えてゆっくりと今与えられた課題の曲を弾く。
初見ではないため、今の自分がどこまで弾けるか記憶を頼りに弓を滑らせながら少しだけこの生活が始まる前を思い出す。
何年もの間オリヴィエの稼いだお金は生活と演奏の為の移動の資金以外は総て母親が搾取していてオリヴィエに一切還元されなかった。働く事の虚しさと演奏の意味を理解できなく、音楽を純粋に愛せなくなったオリヴィエはただその技術だけでいままでやってきたのだ。
人生のターニングポイントと言うべき深山での綾人との出会いは確実にオリヴィエに自立を促し、綾人の支援を得て拠点も決まった。
今はジョルジュとマイヤーと言うクラッシック界の二大巨頭に支えられているけどそれも時間の問題。それまでにジョルジュとマイヤーが居なくても大丈夫なくらいの確固とした地位を作らなくてはいけないのだ。
仕事を支援してくれる事務所も決まり、既に再開の為の準備も始めている。マイヤーも散歩代わりにここに来て朝食を食べては庭をぐるりと散歩したり、部屋の中やテラスでバイオリンのレッスンをしてくれる。勿論作曲家としての勉強もきっちりと教えてくれる。
マイヤーに直接学べるなんて羨ましい。
オリヴィエがこの城に居る事を知る仲間はすぐに足を運べないだけあってこまめなメッセージをくれる。
ちなみにこの様子は事務所と相談して動画として上げている。
教える事になるマイヤーも快く引き受け、きっとオリヴィエが最後の弟子になるだろうからと言って最後の足跡を残したいと言う。
「古典な音楽ばかりやって来たからね。オリヴィエのような若手の力、衝動はこの年になると眩しくて羨ましくて。少しでもオリヴィエの成長を一番側で見守りたい私の我が儘ですから、ダメと言っても一緒に出演しますよ」
そんな脅迫。
事務所側は願ってもないと調整を始める中、オリヴィエにも一人のマネージャーが付いた。オリオールもマイヤーも知る事務所の所長の秘書の一人が引き受けてくれたと言う。
まぁ、クラッシック界の二大巨頭のいとし子に碌でもないマネージャーが付くよりはと所長が直接交渉してくれたようで、今日もオリヴィエに会いに来てくれるのだった。
練習の最中に部屋の扉が開いたのに気が付いて演奏を止めれば
「練習中に悪いな。
所でこの城のオーナーはまだお戻りにならないのですか?」
「ごめん。今イギリスに寄ってから帰るって連絡があった」
暑いのにきちんとスーツを着て眼鏡をかけた俺のマネージャーのセシル・デューリーは汗もかかずにまいりましたねとあまり笑う事もなくまじめに仕事をする様子はさすが所長の秘書だと妙な納得を覚えるのだった。
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