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今晩のご飯はお手軽に炊飯器で炊くだけにして、圭斗の家で作った煮物と食べる直前に味噌汁とお肉を適当に焼けば十分だ。
ご飯が炊きあがるのは入水時間合わせて約一時間半、それまでにとりあえず食器を出そうとバケツリレーならぬ食器リレーをする。
片付ける為にも食器棚に配置された位置を覚える為に俺が配備され、中間を宮下、そして限りある広さに食器を上手く置くための飯田と言う配列となった。
作るのも食べるのも料理ラブな飯田は当然の如くそれに関る物すべてを感謝をする人間で、当然料理を彩る食器も丁寧に扱ってくれる。例えパン祭の食器だとしても多少の不満な視線を綾人に向けるも高級な食器同様大切に扱ってくれるので間違いはないだろ。
そんなリレーをする事三十分ほど。
すっかりと綺麗になった棚は何と言うか素人作りの割には
「この棚を外すとちゃんと扉が開くように作られてるとは……」
真っ直ぐ打ちつけられてない途中で曲がって無駄打ちされた釘を宮下は全部抜かないといけないのかと辟易していたが、それでも目的の場所に辿り着くようには作られていた棚には少なからずの関心を持った。
「まるで俺といい勝負の出来だな」
「綾人、それ自慢にならないから」
そっと溜息を零す宮下に飯田はもう心配する事はないと少し離れた所で圭斗に連絡をした。
『あ、飯田君?二人の様子はどうだい?』
ただし連絡を取ったのは圭斗ではなく
「浩太さん?」
『ああ、今圭斗の奴少し手が離せなくって代わりに』
苦笑交じりの声だけど、少しだけ緊張していた。
皆さん心配してくれていたんだと、綾人と宮下の二人が大切にされている事を嬉しく思えば飯田の声も自然と明るくなる。
「実は今綾人君の家の台所の食器棚判ります?」
『はい、母屋の台所の食器部屋ですよね』
食器部屋、かくも魅惑な言葉だなと感心しながら
「何か奥に部屋があるようでして、今探検中なのですよ」
少し離れた所から二人を見守っていれば立てつけの悪くなった扉に苦戦の模様。
宮下が梁を持ち上げて綾人が扉を外すと言う力技を披露と言う大事になって来ていた。
「ああ、扉まで外しちゃって、あーあ埃が……」
これからご飯を作るのにその前に掃除が大変だと呻く飯田だったが
『ちょ、まって!オヤジに確認するから!』
受話器越しにおやじーちょっとー!!!なんて悲鳴が響く声にも苦笑は止まらない。
スマホ越しにどっちも大変だと暢気に構えていたら
『飯田君か?!今から浩太とそちらに行くから待ってろ!』
そこで返事もなくぽちっと切られた。
「ええ……」
今のは鉄治さんだよな。来るころにはご飯だからひょっとしてごはん準備しなくちゃいけないのだろうかと思って浩太さんに晩ご飯はどうしますとメッセージを投げれば既に家でご飯が用意されていると思うのでお気になさらず!と返ってきた。更に圭斗から応援行けなくて悪いだそうでとの言葉も追加。
埃をなるべく落とさないように家の外に扉を運ぶ二人に
「なんか内田さんが来る事になっちゃいました」
「ええー、折角呼ばないようにしたのに」
「内田建築群の事なのできっと気になるのでしょう」
「あー、せめて掃除してから来てほしかった……」
頭を抱える宮下と項垂れる綾人に苦笑を零しつつ今から簡単にお土産に出来る物と考えて冷蔵庫を覗けば
「プリンぐらいは作れますね」
すぐに蒸し器をセットしてちゃかちゃかと卵液を作り何故とっておく、いやこういう時の為に取っておいたのだろうと言うようなケーキ屋でありそうな陶器のプリンのカップに泡が入らないように丁寧にこしきを使ってそっと入れて行く。
その横では箒で蜘蛛の巣を取り、土間仕上がりの部屋の明かりは既に電球が切れていて交換しないと何もできない状態。
「せめて電気は通じていてくれ!」
そんな綾人の叫び声と同時にスイッチではなく紐を引っ張るタイプの電球は昔ながらの裸電球に蛍光色の明かりが灯った。
「文明サイコー!」
高らかな宮下の叫び声と
「現実サイテー」
今にも地の底に沈まんと言わんばかりの嘆きの声に俺もひょいと中を伺えば反射的に逃げ出していた。
「な、なんですかその匂い……」
臭いで十分味覚までもやられそうだと鼻を摘まむ飯田に対して
「多分この臭いは味噌だと思う。あとカビ」
言えば宮下も飯田と同じく脱兎のごとく逃げだした。
「ちょっと待ってよ、それって味噌なら弥生ちゃんだよね?!何年前の代物?!」
「来ても台所に入れて貰えなかった俺が知るわけないだろ」
「ずいぶん古典的ですねー」
現実逃避の為に暢気に言ってみた物のそれで何とかなるわけでもなく綾人は勇者になって部屋の中に入って……
「信じられん。まだ食器があった……」
「弥生ちゃんどれだけ物持ちが良いの」
ウンザリと言わんばかりの宮下だけど
「悪いけどこの食器にもカビが着いちゃってるから洗っといて」
流しに置いて山から引いた水をかけ流して行く。飯田は盥を持って来て漂白剤を少し入れて皿を漬け置き洗いにする事に決めたようだが、持ち出してくる量に流しはいっぱいとなってしまう。それを見て宮下はゴム手袋を持ち出して
「チックショー、やっぱり洗う事になりそうか」
「そうですね。拭いて隣の部屋の方に山積みにするのでどんどん洗ってください」
飯田は布巾だけでは拭き切れないのでとタオルまで持ち出して拭き始め、綾人も一人運び出した量は食器部屋よりもかなりの量の食器が置かれる事になった。
ご飯が炊きあがるのは入水時間合わせて約一時間半、それまでにとりあえず食器を出そうとバケツリレーならぬ食器リレーをする。
片付ける為にも食器棚に配置された位置を覚える為に俺が配備され、中間を宮下、そして限りある広さに食器を上手く置くための飯田と言う配列となった。
作るのも食べるのも料理ラブな飯田は当然の如くそれに関る物すべてを感謝をする人間で、当然料理を彩る食器も丁寧に扱ってくれる。例えパン祭の食器だとしても多少の不満な視線を綾人に向けるも高級な食器同様大切に扱ってくれるので間違いはないだろ。
そんなリレーをする事三十分ほど。
すっかりと綺麗になった棚は何と言うか素人作りの割には
「この棚を外すとちゃんと扉が開くように作られてるとは……」
真っ直ぐ打ちつけられてない途中で曲がって無駄打ちされた釘を宮下は全部抜かないといけないのかと辟易していたが、それでも目的の場所に辿り着くようには作られていた棚には少なからずの関心を持った。
「まるで俺といい勝負の出来だな」
「綾人、それ自慢にならないから」
そっと溜息を零す宮下に飯田はもう心配する事はないと少し離れた所で圭斗に連絡をした。
『あ、飯田君?二人の様子はどうだい?』
ただし連絡を取ったのは圭斗ではなく
「浩太さん?」
『ああ、今圭斗の奴少し手が離せなくって代わりに』
苦笑交じりの声だけど、少しだけ緊張していた。
皆さん心配してくれていたんだと、綾人と宮下の二人が大切にされている事を嬉しく思えば飯田の声も自然と明るくなる。
「実は今綾人君の家の台所の食器棚判ります?」
『はい、母屋の台所の食器部屋ですよね』
食器部屋、かくも魅惑な言葉だなと感心しながら
「何か奥に部屋があるようでして、今探検中なのですよ」
少し離れた所から二人を見守っていれば立てつけの悪くなった扉に苦戦の模様。
宮下が梁を持ち上げて綾人が扉を外すと言う力技を披露と言う大事になって来ていた。
「ああ、扉まで外しちゃって、あーあ埃が……」
これからご飯を作るのにその前に掃除が大変だと呻く飯田だったが
『ちょ、まって!オヤジに確認するから!』
受話器越しにおやじーちょっとー!!!なんて悲鳴が響く声にも苦笑は止まらない。
スマホ越しにどっちも大変だと暢気に構えていたら
『飯田君か?!今から浩太とそちらに行くから待ってろ!』
そこで返事もなくぽちっと切られた。
「ええ……」
今のは鉄治さんだよな。来るころにはご飯だからひょっとしてごはん準備しなくちゃいけないのだろうかと思って浩太さんに晩ご飯はどうしますとメッセージを投げれば既に家でご飯が用意されていると思うのでお気になさらず!と返ってきた。更に圭斗から応援行けなくて悪いだそうでとの言葉も追加。
埃をなるべく落とさないように家の外に扉を運ぶ二人に
「なんか内田さんが来る事になっちゃいました」
「ええー、折角呼ばないようにしたのに」
「内田建築群の事なのできっと気になるのでしょう」
「あー、せめて掃除してから来てほしかった……」
頭を抱える宮下と項垂れる綾人に苦笑を零しつつ今から簡単にお土産に出来る物と考えて冷蔵庫を覗けば
「プリンぐらいは作れますね」
すぐに蒸し器をセットしてちゃかちゃかと卵液を作り何故とっておく、いやこういう時の為に取っておいたのだろうと言うようなケーキ屋でありそうな陶器のプリンのカップに泡が入らないように丁寧にこしきを使ってそっと入れて行く。
その横では箒で蜘蛛の巣を取り、土間仕上がりの部屋の明かりは既に電球が切れていて交換しないと何もできない状態。
「せめて電気は通じていてくれ!」
そんな綾人の叫び声と同時にスイッチではなく紐を引っ張るタイプの電球は昔ながらの裸電球に蛍光色の明かりが灯った。
「文明サイコー!」
高らかな宮下の叫び声と
「現実サイテー」
今にも地の底に沈まんと言わんばかりの嘆きの声に俺もひょいと中を伺えば反射的に逃げ出していた。
「な、なんですかその匂い……」
臭いで十分味覚までもやられそうだと鼻を摘まむ飯田に対して
「多分この臭いは味噌だと思う。あとカビ」
言えば宮下も飯田と同じく脱兎のごとく逃げだした。
「ちょっと待ってよ、それって味噌なら弥生ちゃんだよね?!何年前の代物?!」
「来ても台所に入れて貰えなかった俺が知るわけないだろ」
「ずいぶん古典的ですねー」
現実逃避の為に暢気に言ってみた物のそれで何とかなるわけでもなく綾人は勇者になって部屋の中に入って……
「信じられん。まだ食器があった……」
「弥生ちゃんどれだけ物持ちが良いの」
ウンザリと言わんばかりの宮下だけど
「悪いけどこの食器にもカビが着いちゃってるから洗っといて」
流しに置いて山から引いた水をかけ流して行く。飯田は盥を持って来て漂白剤を少し入れて皿を漬け置き洗いにする事に決めたようだが、持ち出してくる量に流しはいっぱいとなってしまう。それを見て宮下はゴム手袋を持ち出して
「チックショー、やっぱり洗う事になりそうか」
「そうですね。拭いて隣の部屋の方に山積みにするのでどんどん洗ってください」
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