没落令嬢はお屋敷ダンジョンを攻略します!

雪那 由多

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フェズは知ってしまいました、この家には秘密がいっぱいだと

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 その夜は気を使ってくれたアンディ様によって室内で夕食を頂いた。
 朝食は用意してあるから今日はぐっすりと寝てゆっくり休んで、そんな心遣いにありがとうございますと頭を下げるも頭の中はそれどころじゃない。ルヴィ様がルヴィ様と……

 キスしたキスしたキスしたキスしたキスしたキスしたキスしたキスしたキスしたキスしたキスしたキスしたキスしたキスしたキスしたキスしたキスしちゃったキスしたキスしたキスしたキスしたキスしたキスしたキスした……

 お父様とお母様の顔もとっくにふっとんだと言うか今はこの言葉以外何も考えられない。
 単純だとは思っていたけど頭の中にはもう二人の顔はどこにもない。
 おばちゃんなんて思ってた人(酷い!)がものすごく頼れる人だったなんて信じられなくて(これも酷い!)その上にどうしようもないくらい素敵な男の人で……
 城で見た姿は何だったのだろうか。
 先ほど見せてくれた姿は何だったのだろうか。
 ベットの上で身悶える私に起こされて愛想を尽かしたフェズはご飯欲しさにアンディ様に狩りに連れて行ってもらおうとした所でマダムも一緒に出掛けて行き、ぷっくりと膨れたお腹を見せに来てくれた辺りでフェズなりに私を励ましてくれているのだろう。
 でもねフェズ、そこはもう通り過ぎた所なの。
 父母なんかよりも今はルヴィ様が大問題でね、だってキスしたんだよ!初めてなんだよ!ちゅーなんだよ!でこちゅーでもないんだよ!
 おまじないとか言って、あんなにもみっともなく泣いた後にキスなんだよ!一瞬だけど。
 さすが大人だ慣れてらっしゃるなんて考える前より早く部屋を出て行っちゃったし、もう思い出すだけで顔が真っ赤になる!
 おばちゃんだなんて思ってたのに意外と視線は鋭いのねとか、年上なのにまつ毛長いのねとか、お肌綺麗だとか、お洋服が新品の匂いしてるんですけど?!なんて現実逃避する残念な頭の中は指摘されるまでもないけど……

 優しかった。

 緊張とか恐怖とかそんな物すっ飛ばしてただただ優しかった。
 
「うわあああぁぁぁーっ、何かの間違いだって!!!」

 あれが好意だなんて、好意があんなにも優しい物だなんて想像した事なくって!!!

 ぱたり。
 
 お腹パンパンのフェズを枕のように抱きかかえたままベットの上で悶える。
 何度も脱出を試みようとするフェザードラゴンの幼生は既に羽がぼさぼさに毛羽立っていて改めて人間の恐ろしさを覚えるようにメリッサの腕から抜け出そうとするが余計きつく抱きしめられるだけ。人間の腕力如きでどうこうなる躰ではない物のある種のトラウマとやはり人間の規格に収めるには少々疑問を覚える主人の包容力に『くええー、くええー』と下僕(アンディ)に助けを求めても主人の配下でもある為にこの部屋に足を運んでくる事はない。
 そんなフェズの順位づけなんて知らないメリッサは毛羽立った翼さえ関係ないと言う様に翼がフェザーなら胸元の綿毛のようなダウンボールに顔を埋めてもふもふと温もりを堪能して安らぎを求めてしまう。
 たとえ先程ネズミーを食して胸元を血で真っ赤に濡らした後でアンディに綺麗にしてもらっても生臭いとはいえこの汚屋敷に住んでその程度の悪臭何て慣れた物だ。
 むしろ控えめな方。
 明日魔法で綺麗に洗ってあげようと心の中で決めてもふもふと顔を埋めてしまう。生臭いけど。
 そのまま顔を埋めている間に疲弊しきった心に新たに湧き上がった大問題に疲れたメリッサはまた眠りに就いて、やっと解放されたフェズはとてとてと歩きながら隣の部屋に行けば派手なオスにニタニタと笑われている主人の番を見つけて膝の上に乗り上げてやっと落ち着いたと座り毛づくろいを始める。

「いやぁさすがメルちゃん。
 私達の知らない事を自分から暴露してくれるなんてかわいいじゃないの!」

 目尻から涙を零して下僕に何やらどす黒いような赤い液体を貰っていた。
 漂う香りにふんと鼻を背ければ

「いやぁ、あんなふうに自覚されるとね。
 俺様嬉しいんだか恥ずかしいんだか」

 同じ液体を飲みながらまんざらでもなさそうに、でも少しだけ嬉しさがかつような優しげな声にふーん何て目の前のオスは笑うも

「それより声が筒抜けなの一度話した方がいいわよ?」
「今更?」
「だったら本気入れて屋敷を掃除しなさい。
 メルちゃん押し倒すならせめてあんな小さいベットじゃなくって綺麗なシーツでお姫様みたいに扱ってあげなきゃ。
 盛りのついたガキじゃないんだから大人の余裕、忘れちゃダメよ」

 セッティングはルヴィには判らないから私に任せてと上機嫌で下僕を引き連れて自分の巣に帰るといったオスの何やらは終始ご機嫌だった姿を黙って見送れば

「なあフェズ」

 膝の上からひょいと片手で持ち上げられる己の無力さに溜息が零れ落ちそうになる物の首の後ろを持ち上げられれば主人の番に服従するしかない。
 名前を呼ばれて何だと言うようにしっぽを振れば

「お前メリッサの側に居過ぎだ。
 度を過ぎるとこう言う目にあうぞ」

 言って何故か普段出入りする扉ではなく大きな柱時計の後ろに隠された通路から部屋の外に出た先でひょいと捨てるように手を離されて……

「ぷっぎょおおおぉぉぉおおおっっっ!!!」
「ふふふ、まだメリッサに知られてないこの部屋に軟禁されたいか?」

 いつもの変な口調ではないまともな口調と見た事もないような冷酷な視線、改めて主の番な事を理解した。こう言った人間だから主と番になれるのだろうとフェズはそうやってわりとはずれていない勘違いを重ねて行く。
 これも絶対逆らってはならない類の人間だと、出会った人間の数はまだ少ない物の本能がそう訴えている。
 もう何の匂いを嗅いでいるのかわからない、何か背筋をぞわぞわとさせる気配に部屋に戻ろうとするも簡単に足で妨害されて、屈服する意志を表すように腹を見せるのだった。



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