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平和は訪れても大体何かの前触れでしかない 3
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「どうした?お昼寝の時間じゃないのに鍋の中に潜り込んで」
寝室の鍋のお日様の匂いのするタオルの下に隠れるちみっこ達は震える体を寄せ合って今にも泣き出しそうな目で俺を見上げ
「あの音嫌いー!」
「ぎゅいんぎゅいん怒ってるよ!」
「真ー怖いよー!」
「主ー怖いよー!」
「あの音怖いよー!」
真白や緑青なんかは飛びついてきて俺のシャツの中まで潜り込んできた。
きっと初めて聞く音に恐怖におびえる様をかわいいと思いつつも内側からシャツにしがみ付くのは服が伸びるので止めてくださいとはさすがに口にしなかった。
「そうか。あの音が大きいから怖いんだね。
だけど怒ってるわけじゃなくってお仕事してる音だから怖くはないんだよ」
怖いの正体を教える為にタオルにくるまっている朱華、玄さんと岩さんを抱えて縁側へと向かう。
そこでは腐りかけていた縁側を切り取っている浩太さんと呼ばれていた人がいた。
俺が近づく気配に電のこを止めてくれた。
「結構傷んでいましたね」
「この位置はどうしても吹き込むので仕方がないですね」
「仕方がないのですか?」
聞くも
「この街を眺める景色を見る為に造られたお宅だと聞いています。なのでどうしても雨風が当たってしまい、どうしてもこうなってしまいます」
「じゃあ、また傷んでしまうのでしょうか?」
なんてコスパの悪い、と言うかその度に直さないといけないのかと修繕費を計算してしまう。いくら大家さんが支払ってくれるとは言えどこまで甘えていいのかと思ってビビるのは仕方がないだろうか。
少しだけ顔色を悪くしていれば浩太さんは笑い
「その為のメンテナンスをするんだよ。
防腐剤の入ったこのキシラデコールを仕上げに塗るんだ」
用意されたペンキの缶みたいなものをひょい御持ち上げてみせてくれた。
「防水性のペンキとは違うのですか?」
全く知識がないのでどう違うのか聞けば
「防水性のペンキだと何度も雨が当たるうちにペンキにクラックが生じてその隙間から浸透すると今度は内側が乾かなくなって逆に腐らせてしまうんだ。だから腐らせないように防腐剤入りのものを塗る。
他の所も表面のカビを落としてこれを塗ったら当面は持つから、また腐りかけたら教えてくれればいいよ。塗ればいいだけだから」
なるほど。俺でも分るようにものすごい大雑把な説明で結局そのうち腐る事だけは分かった。
そこは自分でも理解しているのか苦笑しながら
「心配だったらブルーシートをかぶせておくといいよ。修繕する前まではそうしていたから」
「あ、それでいいのですか?」
「雨にあたらなければ大丈夫だ」
笑いながら電のこはバッテリーを外して片づけてしまい、鑿を手にしてこんこんと削り出しを始めた。
「今度は何を……」
断面を凹凸を作るように小さなのこぎりも駆使しての作業にちみっこ達も興味を持ってシャツの中から出てきたり、肩にしがみ付いてその様子を眺めていた。
「ああ、もともとある縁側の丈夫な部分と新しい木材を組み合わせてつなぎ合わせるんだ」
「新しいものに全部取り換えるのではないのですね」
ちょっと驚きと言うかなんと言うか。
そういうものかと思いながら聞けば
「新しいものと取り換える方法もあるけど、この家の縁側は扉の補強も兼ねているから抜くとなると大仕事になるからね。依頼主の大家さんからも最小限でと頼まれたので」
意外とケチだなと思うも
「大仕事ですか?」
「ウッドデッキみたいな造りじゃないからね。まあ、扉を全部取り外さないといけなくなるからこの家をリフォームした時にこちらの壁一面張替えとなる大仕事になりそうで、そこは大家さんの判断で止めたんだ」
「後々の事を考えると返って高くつくのでは?」
ささやかな疑問には
「この家が古いって言うのは知っていると思うけど、そんな面白い作りだから残したいって言う思いの方が勝ったみたいだから」
手直しする方は大変だけどこういった手間のかかる家はかわいいよなと笑う様子に鑿で新しい縁側の一本と組み合わせて木槌で重ね合わせていく。
「落ちないものなのでしょうか」
そんな不安にも浩太さんは笑い
「台形になっているからね。それに湿気を吸って膨張したりするからそんな心配はないよ」
釘も止め直すしと言ってくれたので大丈夫なのだろう。
台形とは言え微妙に複雑な形をしているが、それでも木槌を使ってこんこんと打って嵌めていく。
嵌るんだ。
嵌った時の心地よさに思わず拍手してしまえば照れたように浩太さんは笑ってくれた。
「じゃあ、邪魔になるので向こうに行ってるので何かあったら呼んでください」
「はい。ではまた後で」
良く陽に焼けた顔の笑顔はなんて人当たりがいいのだろうとまだこちらに移り住んでご近所さんとの交流がないので余裕のある人生の先輩の姿にほっとしてしまう。
とりあえず俺は俺の仕事をしようかと仕事部屋へと向かえばもう怖くないという事を理解したちみっこ達は俺の肩から降りてしばらくその作業を好奇心満々に眺めていたが、すぐに庭へと遊びに出かけるのだった。
だけどただ一体。
朱華はその作業をじっと見守るようにその場にうずくまり、結局浩太さんが今日の作業を終えて明日も今日と同じ時間にお邪魔しますと報告に来るまでずっとそばで見守っていたようだった。
寝室の鍋のお日様の匂いのするタオルの下に隠れるちみっこ達は震える体を寄せ合って今にも泣き出しそうな目で俺を見上げ
「あの音嫌いー!」
「ぎゅいんぎゅいん怒ってるよ!」
「真ー怖いよー!」
「主ー怖いよー!」
「あの音怖いよー!」
真白や緑青なんかは飛びついてきて俺のシャツの中まで潜り込んできた。
きっと初めて聞く音に恐怖におびえる様をかわいいと思いつつも内側からシャツにしがみ付くのは服が伸びるので止めてくださいとはさすがに口にしなかった。
「そうか。あの音が大きいから怖いんだね。
だけど怒ってるわけじゃなくってお仕事してる音だから怖くはないんだよ」
怖いの正体を教える為にタオルにくるまっている朱華、玄さんと岩さんを抱えて縁側へと向かう。
そこでは腐りかけていた縁側を切り取っている浩太さんと呼ばれていた人がいた。
俺が近づく気配に電のこを止めてくれた。
「結構傷んでいましたね」
「この位置はどうしても吹き込むので仕方がないですね」
「仕方がないのですか?」
聞くも
「この街を眺める景色を見る為に造られたお宅だと聞いています。なのでどうしても雨風が当たってしまい、どうしてもこうなってしまいます」
「じゃあ、また傷んでしまうのでしょうか?」
なんてコスパの悪い、と言うかその度に直さないといけないのかと修繕費を計算してしまう。いくら大家さんが支払ってくれるとは言えどこまで甘えていいのかと思ってビビるのは仕方がないだろうか。
少しだけ顔色を悪くしていれば浩太さんは笑い
「その為のメンテナンスをするんだよ。
防腐剤の入ったこのキシラデコールを仕上げに塗るんだ」
用意されたペンキの缶みたいなものをひょい御持ち上げてみせてくれた。
「防水性のペンキとは違うのですか?」
全く知識がないのでどう違うのか聞けば
「防水性のペンキだと何度も雨が当たるうちにペンキにクラックが生じてその隙間から浸透すると今度は内側が乾かなくなって逆に腐らせてしまうんだ。だから腐らせないように防腐剤入りのものを塗る。
他の所も表面のカビを落としてこれを塗ったら当面は持つから、また腐りかけたら教えてくれればいいよ。塗ればいいだけだから」
なるほど。俺でも分るようにものすごい大雑把な説明で結局そのうち腐る事だけは分かった。
そこは自分でも理解しているのか苦笑しながら
「心配だったらブルーシートをかぶせておくといいよ。修繕する前まではそうしていたから」
「あ、それでいいのですか?」
「雨にあたらなければ大丈夫だ」
笑いながら電のこはバッテリーを外して片づけてしまい、鑿を手にしてこんこんと削り出しを始めた。
「今度は何を……」
断面を凹凸を作るように小さなのこぎりも駆使しての作業にちみっこ達も興味を持ってシャツの中から出てきたり、肩にしがみ付いてその様子を眺めていた。
「ああ、もともとある縁側の丈夫な部分と新しい木材を組み合わせてつなぎ合わせるんだ」
「新しいものに全部取り換えるのではないのですね」
ちょっと驚きと言うかなんと言うか。
そういうものかと思いながら聞けば
「新しいものと取り換える方法もあるけど、この家の縁側は扉の補強も兼ねているから抜くとなると大仕事になるからね。依頼主の大家さんからも最小限でと頼まれたので」
意外とケチだなと思うも
「大仕事ですか?」
「ウッドデッキみたいな造りじゃないからね。まあ、扉を全部取り外さないといけなくなるからこの家をリフォームした時にこちらの壁一面張替えとなる大仕事になりそうで、そこは大家さんの判断で止めたんだ」
「後々の事を考えると返って高くつくのでは?」
ささやかな疑問には
「この家が古いって言うのは知っていると思うけど、そんな面白い作りだから残したいって言う思いの方が勝ったみたいだから」
手直しする方は大変だけどこういった手間のかかる家はかわいいよなと笑う様子に鑿で新しい縁側の一本と組み合わせて木槌で重ね合わせていく。
「落ちないものなのでしょうか」
そんな不安にも浩太さんは笑い
「台形になっているからね。それに湿気を吸って膨張したりするからそんな心配はないよ」
釘も止め直すしと言ってくれたので大丈夫なのだろう。
台形とは言え微妙に複雑な形をしているが、それでも木槌を使ってこんこんと打って嵌めていく。
嵌るんだ。
嵌った時の心地よさに思わず拍手してしまえば照れたように浩太さんは笑ってくれた。
「じゃあ、邪魔になるので向こうに行ってるので何かあったら呼んでください」
「はい。ではまた後で」
良く陽に焼けた顔の笑顔はなんて人当たりがいいのだろうとまだこちらに移り住んでご近所さんとの交流がないので余裕のある人生の先輩の姿にほっとしてしまう。
とりあえず俺は俺の仕事をしようかと仕事部屋へと向かえばもう怖くないという事を理解したちみっこ達は俺の肩から降りてしばらくその作業を好奇心満々に眺めていたが、すぐに庭へと遊びに出かけるのだった。
だけどただ一体。
朱華はその作業をじっと見守るようにその場にうずくまり、結局浩太さんが今日の作業を終えて明日も今日と同じ時間にお邪魔しますと報告に来るまでずっとそばで見守っていたようだった。
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