家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多

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仮のお住まいは賑やかに? 1

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 こうなるとはわかっていた。
 一応と言うか真似をして帽子付きのパーカーを買っておいた。
 まさかここで活躍するとは思わなく、仕事をしながら失笑してしまう。
「真ー!このぎゅーんって音いやだー!」
「真―!ガリガリする音もいやー!」
「真ー!お屋根がごんごん言ってるよ!」
「真ー!帽子じゃ安心できないよー!」
「真ー!おなかの方に行くからねー!」
 工事の工具の音に脅えてみんな一目散に帽子の中に飛び込んできたまではいいが、それでも部屋に届く騒音にプチパニックなちみっこは帽子の中からパーカーの首周りからおなかの方へ滑り落ちてきてすぽっと収まるのだった。
「あ、こら……」
 シャツの裾をめくればコロンと床に落ちるちみっこ達だがすぐに俺のズボンをよじ登り、玄さんは緑青が抱えてすぐに膝の上に集合をした。
「真ー!一緒に逃げよう!」
「真ー!静かな所に逃げよう!」
「真ー!玄のお池がなくても我慢するからー!」
「真ー!玄さんを助けてあげてー!」
「真ー!主のお家にお邪魔しよう!」
「こら朱華。今大家さんお留守なんだから居ない時に勝手にお邪魔するのはマナー違反です。なのでダメです」
「「「「「真ー!」」」」」
 涙をぽろぽろこぼしながら助けてーと必死にしがみ付く様子にとてもじゃないが仕事にならないと溜息を落として
「じゃあ、少しお散歩に行こうか」
「「「「「お散歩ー!」」」」」
 本当はこれが目的だったのではないのかというくらいの元気な声にヤラレタと思うもぽろぽろ落ちた涙はズボンに吸い取られてしっとりとする本物。まあ、良いかと思いながら鞄に財布とスマホが入ってるのを確認しながら車のキーをもって

「浩太さん、すみません。ちょっと出かけてきます」
「ああ、そうか。すまないね。
 こんな賑やかだと仕事にならないだろ?」
「ええと……」
 なんて濁して誤魔化せば
「だったら麓の家の方においでよ。
 あそこだったら今日はこれと言って仕事がないから静かだよ?」
 そう声をかけてくれたのは宮下さん。
「いえ、さすがにお邪魔するわけには……
 それに気分転換も兼ねて体を動かそうと思いまして」
「そう?だったらいいんだけど、一応綾人にも後で言っておくから限界になる前に言ってね」
 そう言って誰かに呼ばれて駆け足で去っていく宮下さんを見送りながら
「なんであんなに良い人が大家さんの友達なんだろう」
「うーん。綾人君と友達になるならあれぐらい器が大きくないとね」
 はははと失笑する浩太さんにそこの所詳しくと聞きたかったが
「まあ、もし仕事にならなくて困ってるのだったら燈火君のお店に行くと良いよ」
「えー?だったらうちに来ればいいじゃん」
 通りすがりに俺達の会話に入って来たのは遠藤さんで
「いえ、だからと言って誰もいないお宅にお邪魔をするのはと言う話でして」
「あー?だったらうちに来いよ。妹が一人で店番してるから一緒に居てくれるだけでもありがたいんだが?」
「妹さん?」
「今妊婦だからな。何かあった時に救急車呼ぶなり俺を呼ぶなりそんな感じでいてもらえばいいから」
「なんっすか。めっちゃハードルが上がったのですが……」
 妹さんの命は俺にかかってるなんて言う言い方止めてくださいと言うように浩太さんの背後に隠れてしまうも
「圭斗さんの妹さんは宮下の奥さんなんだ」
「そして妊婦さん。心配なのも納得」
 なるほどと思うも
「ですが面識がない方の所にいきなりはちょっと。むしろ妊婦さんなのにいきなり知らない人が居るのはストレスでは?」
「「はっ!!」」
 圭斗さんと遠藤さんが今気づいたというような顔で俺を見ていた。
 このままじゃ親切の押し売りに大変な事になりそうだと思いながら俺は慌てて少し出かけてきますとその場を逃げるように車に乗り込んでいつもの公園へと車を走らせるのだった。

 途中コンビニでおやつとお茶を買って
「公園に到着ー!」
「静かだねー!」
「広いねー!」
「散歩道に行こう!」
「敷物を敷いておやつにしよう!」
 安定の朱華の食欲ぶりは無視して普段聞きなれない音に脅えていたちみっこ達の姿はどこにもない。
 のびのびとして、真白なんかは草むらをかき分けながら尻尾を振り振りと振ってご機嫌よく歩くのを見れば確かに工期中の家の中は休まる時間もないなと少し悩みながらも木陰の下に敷き物を敷いておやつとお茶を並べて嬉しそうに本日のおやつの葡萄をかじる様子を眺めながら俺は電話を一本かけた。

「あ、沢村さんですか?九条真です。
 先日は大変お世話になりました」
「ああ、九条君か。大変だったね。あれから何もないかい?」
 そんな優しい気遣いに俺が大変だったことを理解して親身にお世話をしてくれた弁護士さんにちょっとだけウルッとしてしまった。
 何でもないように思ったけど、あまりに現実離れが過ぎた事が多くてまだ現実味を感じてないけど、俺が思うより心の方はダメージを負っていたいたらしい事に今になってやっと気づいた。
「ええと、今の所実家の方から連絡もないし向こうの方とも連絡がないので落ち着いていると思います」
 なんて言えばわからなくて何も進展がない事だけは伝えれば、
「うんうん。待つだけも大変だよね」
 ものすごい優しい気遣いにぶわっと涙が出そうになった。 
 だけど俺はきゅっと目頭に力を入れて我慢して
「ところで先日お断りしたお部屋の件ですが少しお話をしても良いでしょうか?」
「何かあったのかい?」
 心配げな声に
「いえ、工事の音がすごいので昼間の間だけでも仕事をするために部屋を借りれればと思いまして。
 工事の期間だけでも、あ、夜は留守番も兼ねて家で寝泊まりするので一部屋だけで十分です。
 部屋を借りるとして、その料金も請求できますか?」
 これ大事。
 自慢にならんがうちって古くからある事もあって結構便利な所にそこそこの敷地面積を持っているから上物の代金はつかなくっても土地代で大家さんに十分お支払い出来て同等ぐらいの金額が手元に残るだろうという話を小耳にはさんでいた。
 だったらしっかり息子の為にも支払わせてやろうと思えば
「ええ、請求が出来ますよ。ですがせっかくだったらいい部屋を借りればいいのに」
 沢村さんはじわりじわりといたぶるように残りの資産を削り取れとでもいうかのような提案をしてくれたが
「いえ、家が出来次第すぐ引き払う予定なのでそこまでこだわりのある家でなくても十分です」
「そうか」
 もの凄く残念な声が返されたけど一体俺をどんな人間と思われているのか少しだけ不安になった。


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