家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多

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付喪神が運んできたご縁が心地いい物だと気付くのは何年先か 7

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 大家さんが空豆をさや事炭の中に放り込んでしばらくして皮が真っ黒になった頃炭の中から取り出して軍手を使ってさやをぱっくりと割る。
 中から親指の爪より大きな空豆が出てきてお皿の上にパラパラと取り出す。
 それを見ていたちみっこはお皿の回りに待機して、今にもかぶりつきたいのに粗熱が取れるのを待っていた。
 いじらしい……
 指先で熱さを確認する様子のかわいらしさにちょっと距離を取っていた一樹も食べたいのに食べれなくってお皿を囲って一生懸命息を吹き付けて冷まそうとしている様子にだんだん気になりだして……

「お?綾人悪いな。皮向いてくれるなんて気が利くじゃない」

 先生がお箸を使ってひょいひょいと口の中へと入れてしまった……
「「「「「あー!!!」」」」」
「あ!」
 ちみっこ涙目の抗議とずっと見ていた一樹も一緒になってなんて事と言うように声を上げていた。
「なんだ?一樹も空豆狙ってたのか?」
 言いながらもひょいひょいと口へと放り込む先生の容赦なさに真白なんかぽかんと口を開けたまま涎を垂らす始末。
 一樹は一樹で
「冷めるの待ってて……」
 何とか誤魔化してくれた。
「一樹も大きくなったけど熱いのを冷めるまで待つなんてまだまだ子供ねえ。
 綾人、空豆剥いてあげて」
「いや、そこは本人に剥かせろよ」
 そう言ってお皿に皮が真っ黒に焦げた空豆を何個か乗せて渡せば一樹は少し空豆を見ていたけど先生から離れた所まで移動してせっせと空豆をさやから外した。
 そしてふっくら蒸し焼きで火の通った色鮮やかな空豆を丁寧に皮も剥いてお皿の上に並べた。
 真白や朱華はじーっとその空豆を見ていたが一樹は一粒だけ口へ運び、残りはそっとお皿を押してちみっこ達へと差し出した。
「貰っても良いの?」
 そわそわとしている朱華の隣で玄さんが聞けば小さく頷くだけの一樹。俺はよかったねと心の中で言えば嬉しそうな顔で
「「「「「いただきます!」」」」」
 言って大喜びで空豆にかぶりつくのだった。
 お皿を囲むように座り込んで一粒一粒食べるその様子をほっこりとした顔で見守る一樹は同じように焼かれた玉蜀黍をぽろぽろと半分ほど実を剥がして器に置けば
「食べてもいいの?」
 緑青が期待を込めた目を向ければ一樹もすぐに頷き
「朱華も頂きます!」
「玄も頂きます!」
「岩も玉蜀黍大好き!」
「真白も主の玉蜀黍美味しくて好き!」
 なんてみんな玉蜀黍に飛びつく様子に口元がふと緩んでいくのを俺と大家さんは視線だけを向けて笑みを浮かべてしまう。
「一樹は子供の頃結構厳しい生活してたから変に距離をとる奴だったんだけど、案外ちび達と気が合いそうだな」
「いやいや、ちみっこ達をかわいくないなんて思う奴がいたら是非とも会いたいですよ」
「いたじゃないか。あのクソジジイ達」
「あー、いましたねー……」 
 なんて話していれば
「まあ、俺が知る中じゃこいつらはかなり珍しい部類になるからな」
 缶ビールを片手に砂肝に塩コショウを振ったものを持ってやってきたのは暁さんだった。
 一樹も俺達の方に視線を向けて耳を傾けていた。
「付喪神は物に宿る何かだ。
 だからどうしても本体となる物に姿が影響されるのだが……」
「まったく影響されてませんね」
「かけらも影響されてない。まあ、色とかそう言うのはされているのだろうが……」
 真っ黒な、でも光沢のある甲羅を持つ玄さんと同じく光沢のある鱗が美しい岩さんのその姿。水墨画で墨の濃淡だけで描かれた真白、名前の通り浮かぶ錆の微妙な色合いをまとう緑青は本体に影響されていると言うしかない。
 しかし朱華は木の色なのに色鮮やかなド派手な朱色なのを思うと
「朱華は、作り手のイメージが濃く浮き出たか?」
 なんて悩みながら砂肝を食べる暁さんはビールで流し込んでいた。

「綾っちー、栄螺焼けたから置いておくよ。蠣はもうちょっと待ってて」
「おう!」
「あとビールも置いておくからみんなも飲んでよ」
「茄子焼けたらこっちに回して」
「あ、トマト焼けたからとりあえずそれで待ってて」
 ホイルに包まれたトマトがお皿の上にどんと乗せられていた。
 あつ、あつっと大家さんがホイルをむけばころころと転がるプチトマト。
 皮が爆ぜたり実がとろりと崩れていたり。
 目にも美味しそうな姿にひょいと口へと運べばそこは熱テロが待っていた。
 思わずと言うように口を押さえ、一樹に差し出されたよく冷えたビールを飲んで熱を押さえつけるが
「これだからやめられない!」
 ほんのりとオリーブオイルの香るプチトマトが絶対美味しいと確約された。
 ちみっこ達も粗熱が取れた所でプチトマトを食べる。オリーブオイル大丈夫なんだと思いながら砂肝を頂いていれば
「生のトマトも美味しいけど焼いたトマトも甘みが増して美味しいね!」
「酸っぱくなくなっておいしいね!」
「前に主が作ったピザみたいで美味しいね!」
「緑青はピザの回りのカリカリな所が好き!」
「おせんべいみたいで美味しかったよね!」
 中々にしていい物を食べてらっしゃるとちみっこ達の話を聞いていれば

「真!真も食べてるか?!」

 先輩が水野さんを連れてやってきた。
「ほら、園田が捌いた虹鱒も美味いぞ!」
 十匹ぐらいのこんがりと焦げた虹鱒を持って来てくれた。
 虹鱒を焼いたというのなら納得できるが
「捌いたというのは料理人さんかな?」
 なんて小首を傾げれば
「ああ、園田は獣医なんだ。
 主に牛をメインにやってるけど普通に大学の動物病院で仕事もしてるぞ」
「うう、なんか捌くという意味がちょっと怖いかも」
 泣き言を言いたくなったけどそこに園田さんがやってきて
「いやいや、それでも飯田さんの腕前に比べたらまだまだだから勉強しないとな」
 どんな勉強だよと思うもあれだけ美味しい料理を作る飯田さんなら魚を骨だけにしても泳がせることが出来るのだろうと想像すれば
「丁寧さもだけどスピードが全然違うからね」
 なんて苦笑しながら魚を置いた所で別の所から「園田来て~」なんて呼ばれて急ぎ足で向かっていくのを見送れば
「皆さん働き者ですね」
「まあ、これをしたくてここに来るんだから。全力で楽しんでもらう準備はするさ」
 いつの間にか陸斗さんが持って来てくれた焼きおにぎりをちみっこ達がかじりついていて満足というようにへそ天な姿に踏まれるなよと大家さんはあまり人の入らない縁側に座布団を置いてちみっこを並べていた。
  

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