家賃一万円、庭付き、駐車場付き、付喪神付き?!

雪那 由多

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掴んだ幸せの花の名は 11

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「綾人!もう限界だ!」

 暁さんはそう叫ぶが

「主頑張ってください!
 朱華はもうすぐ鮎を食べ終えるのでそれまで何とか!!!」

 ほっぺに米粒、ではなく魚のかけらをほっぺにつけての必死のお願いは必死さを表すように身を突くスピードが上がっていた。
「まあ、それぐらいは頑張るが、朱華お前また丸々太って、飛べるのか?」
「大丈夫です!朱華はこの姿だと緑青と同じようにお空を飛べますので!」
 ばっと羽を広げた美しい姿を披露するもどうしてもぷりんを通り越したぶりんとしたお腹に目が行ってしまう。
 朱華、確かに綺麗だけど残念過ぎるよ!
 涙を呑んだのは俺だけではなく大家さんもそうであるようでついに

「ひよこ、もうおなかいっぱいだろうからお家に帰ってお昼寝でもしてなさい。
 それだけたくさん食べたのだからおとなしくしてるんだよ」
「そんな!主!殺生です!!
 まだ鮎を食べ終えてないのですよ!!!」
「そこか?!残念過ぎるよ!!!」

 思わず俺まで大声で突っ込んでしまったものの

 ぽんっ!

 そんな擬音が似合うと言わんばかりに朱華は瞬く間に小さくなって……

「主ー!なんてことを!!!」

 丸々とした姿が余計目立つボールのような赤いひよこに

「やっぱりひよさんはチョコボじゃなくヒヨコの姿が一番かわいいな。
 真、いつもの通り飯田さんに頼んで後は頼む」

 大家さんはそう言った後ぱたりと倒れ、朱華もまたぽんっ!と音を立てたと思えば姿が消えていた。

「ええと、いったい……」

 何が起きたかと思って側に駆け寄るも
「大方本体に戻ったのだろう」
 力を使い切って倒れる大家さんか意地汚い朱華に呆れたようにため息を零す九条の方々だけど

「しかし意地でも膳の鮎を持ち帰る辺りその根性には見直したぞ」

 食べかけの鮎が丸ごとなくなっていた辺り朱華が本体に帰ると同時に持ち帰ったのだろう。
 確かに食への執着はここまでくると凄いなと言わざるを得ないが……

「家に帰ったら朱華が食べ散らかした鮎が部屋に落ちてることを考えると勘弁してほしいですね」

 それについてはただ憐れむだけの視線を貰って誰も何も言ってはくれなかった。
 
 暁さんがすぐに飯田さんを呼んできてくれれば再びやって来た飯田さんはひょいと大家さんを俵抱きにして
「失礼します。目が覚めたらご連絡入れるように伝えます」
 軽々と手荷物のごとく運んで行ったのを相変わらず馬鹿力だなと俺と暁さんで文句を言いながら運んだ日を思い出しながら母屋へ向かう姿を見送る。
 慌てて追いかけてきたしいさん達もそのまま母屋の方へと向かっていったのだろうが代わりに

「おかあさーん、寒天美味しかったよー」
 椿をあたまに乗せた陽菜乃ちゃんがご機嫌にやってきて志月さんのお膝の上にチョンと座った。
 もちろん晴朝君もぶんさんを抱えてやってきて
「寒天の中に金魚が泳いでてすごく綺麗だったんだ!食べるのもったいなかったけどいっぱいあるからって食べたらゼリーみたいで美味しかった!」
「それはよかったなあ。飯田はお菓子作りも得意だからさぞうまかっただろう」

 なんてご機嫌で帰って来た孫を祖父はよかったな。俺には久しく食べさせてくれないのにとすねながらも膝の上に座らせれば孫の膝の上に座るぶんさんの口元にも鮎だろうか魚の食べかすがありずいぶん気を使ってもらった事に感謝をしようと思うも吉野の心配りだと思えば感謝の気持ちは半減する。
 優雅も厳かも何もなくなってしまった座敷だがまあ、いろいろな収穫のあった場だと思うも大半が大変な事になったなあと夏の枯山水の庭を眺めながらこの後始末をしなくてはいけない事に気が付いて上座に座る父を見ればそっと目を瞑り後は任せたという顔をしていたのを見て舌打ちをする。
 ピクリ、目の前に座るすべてを失った高守の家長はあからさまに震えてみせた。
 それはそうだろう。
 千年近くも分所として仕えてきたのに志月の家から申し出がなければ一番の暁の嫁候補だった結奈に対する扱いの酷さは目に余る。かといって我が九条家とて優秀な血を残さなくてはならない。
 千年以上自然との対話を続けるなかでやがて薄まる血を維持するためには当然の選択。
 寧ろ志月を送り込んできたという事は九条家の血が薄まりかけていた証拠だろう。
 かの家はそうやって異能の家系に子供を送り込んでくるので没落したくなければ受け入れるしかないのだ。
 もっとも拒否をしても良いのだが、その後の転落ぶりは見るも無残な結末ばかりなのでそれを知る一門はみな拒否をできずにいた。
 多少浮世離れをしているが、それでも妻して母として立派に務め、何より愛らしい後継ぎを二人も生んでくれた。
 少々元気良すぎるが、それでも最近吉野から与えられた付喪神の世話をするようになり各段に顔つきが変わったのはよい傾向だろうと見ている。
 そんな幸せの裏で結奈のような、当時まだ親の庇護下にいるにもかかわらず冷遇されていたとは完全に我々の落ち度だというしかないだろう。
 とは言え一度結びついた縁がこういった形で再びつなごうとしている。
 しかも吉野が持ち込んできたのだからきっと思いもしない良き縁になるだろう。
 膝の上で鼻歌を歌いながらぶんさんの毛づくろいを始めた晴朝の頭を撫でながらしばらくの間無言が続く室内で

「真よ、お前の一家の件に関しては我々の無関心から招いた事。
 いつでも親がわりにもなるし、いずれ娶る結奈も一度は九条家の嫁にと考えた娘。九条を家族のように、暁と志月を兄と姉として相談すると良い。
 九条家は真と結奈を我が子同然に守ろう」

 でないと吉野のがまた何かしでかすか不安でしかない。
 付喪神をこの遠く離れた地に呼び寄せる事を学んだ以上次は何をしでかすか分からない。
 これは警告だったのだろう。
 今度こそ守るべきものを守れと遠回しに脅されたと言っても良いのかもしれないが、その結果与えられる恩恵を思えば安いものかもしれない。
 ちらりと向ける視線の先にはご機嫌の孫娘がやって来た鈴に誘われて遊びに行く後姿を見送る。
 世話を任された付喪神のおかげで鈴を追いかけるように走る事も出来なかった孫の健やかな成長をおもえば吉野の策に乗るのは癪だが差し出す言葉は他にない。

「二人の結婚にはうちの神社に来なさい。
 式を挙げるつもりがないとしても異能を持つ身ならけじめとして祝詞をあげよう。そうしないと吉野のがまた何か企むかもしれないから何か言いだす前に決断しなさい」

 決断出来たら連絡しなさいなんて言うつもりで少し脅しもかけて言ったものの結奈を置いてきぼりに真は言った。

「その折には是非ともお世話になります」

 綺麗に手をついて頭を下げられてしまったその決断力に言わざるを得ない。

「苦労してるようだな」
「前回の様な行動力を出される前に予定は決めておいた方が絶対いいと思いますので」

 はっきりと言い切った言葉に結奈も思い当たる事があるようではっとしたかのような顔のまますぐに綺麗に三つ指をついて

「よろしくお願いします」

 すぐ隣の両親に見向きもせず慌てて頭を下げるあたり吉野のは一体何をやったのか頭が痛くなるも、たぶんもう切り離す事の出来ない縁を少しだけ憐れむのだが、頭をあげて二人の視線があったのかふと笑う二人の姿に何も心配する事はないとこれ以上とない良縁だという事を気付く。

 志月が九条に来た事も結奈と縁を結べなかったことで真と縁を結ぶことになった事もまるで巡り合わせのような流れにこの二人の未来が明るい事にそっと笑みを浮かべた。

 


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