うちの隊長は補佐官殿が気になるようですが

雪那 由多

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うちの隊長は魔族と初遭遇したようです

 二日目は前日の宣言通り日の出と共に拠点を出発して夜に戻るスケジュールを立てた。
 あまりの大雑把な計画にアトラ小隊の皆様は何か言いたげに俺達を見ていたが、ざっくりとしたスケジュールはシーヴォラ隊ではごく普通なので誰も今更いちいち気に留めない。
 というか、昨日の今日なので心配で出立を見守ってくれたカントラ隊長とグロス副団長が呆れた目で見送ってくれた。

「貴方達は昨晩は魔力の枯渇で倒れる様に寝たというのにひと眠りで回復する物なのですね」
「副団長、普通はああはなりません」
「それぐらい私だって知ってます」
「訓練のたまものですよ。これも」

 アレクが何やら二人に言えば半眼で睨まれてしまい、そのレベルを要求されているのだと勘違いしたアトラ達が怯えだしていた。

「ではシーヴォラ隊出発!」

 昨晩は治療の他に拠点周辺の討伐をしながら大分魔物も狩れたので獲れた肉をギルドまで回せば

「だいぶあいつに鍛えられたみたいだな」
「まぁ、あいつの話しは何かと勉強になる事が多いから実践しようと奮闘してるよ」

 肉の引き渡しの時にギルド側の代表として顔を合わせた時にホウルラの時よりも切れ味の鋭くなった切口を見ての評価にさすがはSランクと心の中で感動してしまうも

「所で他の方を見ませんが?」
「あいつらは俺抜きで調査させてる。
 俺らが担当している西側にはアンデッド系が多いからな。
 少し前にアンデッド系に煮え湯を飲まされて今回リベンジだって飛び出して行きやがった。
 俺がいると復讐できないからって俺は留守番でギルドの手伝いをしてる始末さ」
「ああ、それはご愁傷様?」

 言えば苦笑と共に

「たいくつだー!」
 
 そんな悲鳴にどこからか笑い声も聞こえてくるが

「まぁ、西側は後少しって所で羨ましい」
「そうとるか。
 聞いたぞ、北側もやっと目途が立ったとか」
「今立地的な足場作りをしている。
 前回からの情報から想定すればここ数日中に決着を付けないとヤバいだろう」
「急ぎ過ぎるなよ」
「そっちこそな」
「所であいつは来てるか?」

 あいつの言葉に思わず呼吸が一つ遅れればホルガーは顔を歪める。

「あいつが居ればこの戦いもっと楽になるぞ……」

 その指摘は俺も良く理解しているが

「城の方でちょっとあって俺の隊から外れた。
 今は騎士団団長の加護の中に居る」
「って、あいつ大丈夫かよ……」

 件の武器の横領の話しを噂で知っているホルガーは顔を歪めながら

「そんな大物の側にいるとあいつの目的も意味がなくなるぞ……」

 こそりと身元をくらましている件を言っているのだろう。

「だけどそれに関して俺がとやかく言えないだろう。
 ここまで来るとあいつはもう仕事を辞める選択しかないんだから……」
「あいつも不憫だなぁ……
 まぁ、もし辞めるのならうちに来いって伝えてくれ。
 すぐに正メンバーとして迎えるってな?」
「そう言う事は直接本人に言ってくれ」

 それは嫌だなぁと言うのが顔に出てたのかホルガーはくつくつと笑いながら

「そろそろ行けよ。
 冒険者と騎士様が楽しくお話してると怪しく思われる」
「ああ、とりあえず怪我人にたらふく肉を食わせてやってくれ」
「正直助かる。
 何せ俺達西側は肉のないアンデット系ばかりだからな」

 笑い声を聞きながら聞いた言葉を俺は副団長に苦情として伝えた。
 素材を食料として有効活用できない騎士団と、素材の食料を獲得できないギルド。
 こう言った所でも無駄な出費が発生している事を伝えればにっこりと笑って判りましたと言う副団長の顔が今日一番輝いていたというのは見なかった事にしたいと本気で思った出来事だった。






 討伐地は拠点から奥へ奥へと向かった所。
 今朝がた合流したルーツ隊の一部を選抜して北側に住む魔族と出くわさないように魔物を討伐する。
 魔族だけを絞り込むように追いつめる様に魔物を減らして行く。
 問題の救護隊は昨日で少し目が慣れたようで、昨日ほどパニックになったりはしていない。
 だけどまだ最後尾で怯えている辺りアレクに言って誰かに守らせている。 
 それにすら気付いてない辺りアトラ達もまだまだお荷物だなと溜息が零れるものの、途中体力上昇、脚力上昇の指示を出してバフ効果を要求する。
 正しく効果を付与できるように指示をするも上手く発動するのは半分以下の確立。
 ここでも指示なくその場に似合った効果を与えてくれるヴォーグの援護を懐かしく思ってしまった。
 戦闘が一区切りついた所で

「アトラ隊の魔法効果の付与の成立が著しく低い。
 それは初心者の魔法の成功率とほぼ同等なくらいだ。
 君達はその試練も乗り越えたエリートなはずだ。
 試練の乗り越え方も体験したのならこの試練も乗り越えてほしい」

 冷たく突き放すようにシーヴォラ隊に怪我人が居ないか確認して武器の状態も確認する。
 既に陽も頂点を越えた所の為にそろそろ帰還しようと提案するアレクに俺も頷く。
 アトラ隊はあからさまにほっとした顔を見せた為に

「油断すると怪我をするぞ。
 このまま生きて帰りたいのなら一瞬でも油断をするな」

 厳しく叱咤して注意を促す。
 途端にピンと背筋が伸びるあたり、昨日みたいに泣き出すまでの状況じゃなくって良かったと思うも……

「つれないなぁ。
 せっかくここまで来て俺に会わずに帰ろうとするなんて寂しいじゃないか」

 背後からの聞きなれない場違いなまでの甘ったるい声に一斉に振り向く。
 使い魔を連れたどこか派手な男が空に浮いていた。

「魔族!」

 誰かがそう言えば男は不快そうに

「そんなくくりで私をひとまとめにしないでほしいな。
 こう見えても魔王クウォールッツの配下の一人、インキュバスのダヴィドと言えば私の事だ」

 無駄に見た目の良い男は長い金の髪を後ろに向かって払うも

「そりゃ初めましてだな」

 思わず悪態をついてしまうのは仕方がないだろうか。
 不快に歪められる顔に向かって

「魔王クウォールッツも物語の人物だと思ってたし、インキュバスに一々名前があるなんて俺達にはどうでもいい話だ」

 挑発する様に言えば不愉快気な顔はふんと鼻で笑い、予想に反して冷静になってしまったようだった。

「確かに。
 百年にも満たない時間しか生きる事をできない人間達よ。
 我々も同じようにお前たち人間につけられた名前など覚える価値もない。
 わざわざ魔物のエサ程度の価値の物にそんな物は必要ないな」

 冷酷な目で俺達を見下ろすも俺達はその姿に困惑していた。
 下半身は足の筋肉が浮びあがるぐらいのぴったりとしたズボン。
 大きくはだけた胸元はへそまで見えてる始末。
 なのに首回りにはゴージャスなのか何なのか良く判らないがふさふさの鳥の羽で縁取り、首元は腕には金の首飾りや腕輪がジャラジャラと光を反射していた。
 そして男なのに唇に紅でも刺しているのか艶やかな赤がテカテカと光らせ髪を掻き上げていて……

「女性なら騙されるかもしれませんね」

 ぽつりと言ったアレクの小さな声に

「あんなピエロに騙される女っているのかよ?!」

 素で返してしまった言葉にルーツがこっそりと

「案外いる物ですよ」

 何故か訳知り顔で唸っていた。
 冷静に考えれば被害が出ている以上そう言う物かもしれないが……

「生理的に受付ねぇ」
「隊長は下がっててください」

 いかにもナルシストタイプの変態ヤローにはいい思い出がない。
 背筋を這う寒気の理由を知るアレクはそっと俺を手で後ろにと言う様に下げるのをありがたく足を運ぶ。

「おやおや、ナイト様は人間にしては美しい顔立ち……
 凛々しい女戦士が居ないのは非常に残念ですが、逞しい騎士達にサキュバスも喜ぶでしょう!」

 この場に女が居ないのにがっかりして見せるインキュバスだったがどこか演技じみた手を振り体をよじらせてのセリフの後に蝙蝠の魔物が背後から襲いかかって来た隙をついて背後にはいつの間にか何人もののサキュバスが居た。

「ふふふ……
 ステキ。こんなにもたくましい殿方がたくさん!」

 ほぼ全裸にも近い要所要所さえ隠せばいいなんて姿で現れたサキュバスが襲い掛かって来た。
 美貌はもちろん、下着が下着の役割を果たしてないその姿に男ばかりの社会で出会いのない男達は剣を振るうのを躊躇い、瞬く間にサキュバスに唇を奪われて……童貞と共に生気を、命を吸い取られていた。








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