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スマホ、暴走する

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 食後の後は今までの人生通り歯磨きをして顔を洗う。
 歯ブラシのある文化で良かったと思うと同時に泡立ちの悪い石鹸は不必要に顔の油分を奪って行きつっぱって仕方がない。
 朝からシャワーを浴びれない為に水で髪を整えたら後はやる事がない。
 暇だ。
 拷問にも近い無駄な時間。
 それならそれで本を読む。
 動画は家のPCで見る派なのでスマホには通勤の間に読む予定の本が大量にDLされている。一度読んで二度読んでない作品が大量にあり、この暇な時間を潰す為にも読み続けていたが、さすがにおかしい事に気が付いていた。

「っかしーな。さすがにバッテリー持たないだろ……」
 
 そう言ってバッテリーの状態を見るも相変らず100%になっていた。
 さすがにそれはない。
 昨日寝る前には70%切っていたのにといつどこに電源があるのかと思うもこの見知らぬ世界の理由なんて知らなく、俺は暇さ加減とベットの上でごろりとなっていた理由にまたウトウトとしだし始めるのだった。



 ピコン

 聞き慣れた音に無意識でスマホに手を伸ばす。
 今日は久しぶりに予定が入っていたのでアラームをセットしたっけと言う様に手を伸ばせばぼんやりとした視界には一通のメッセージ。

『バージョンアップできます
 バージョンアップしますか? YES/NO』

 寝ぼけた頭でまたかと思えばもうそこは機械的にバナーに手を伸ばしてタップをし、一度も読んだ事のない長い注意文の一番下にある『同意します』の文字を押してDL開始。後は自動でアップデートしてくれるからとスマホを手から離して瞼を閉じる。またウトウトとしだした所でようやく違和感を感じて目を覚まそうとする様にごろりと転がりながらやたらと寝心地の良いベットから落ちた。

「いっ!!!」

 ゴッ、なんて結構大きい音がしたけど、おかげでちゃんと目が覚めて

 コンコン

 控えめなまでのノックの音。

「は、はい……」
 
 とりあえず返事をすれば

「何か大きな音がしましたが大丈夫ですか?」
 
 外にまで響く音ってなんだよと苦笑しながら

「軽い運動をしてたらベットから落ちただけなので、お騒がせしてすみません」

 なけなしの見栄でそう言う事にしておく。

「はあ、おだいじに」

 会話終了。
 寂しい……
 ではなく

「バージョンアップって何なんだよ?!」
 
 見る間に更新の進行はよどみなく進んでいき……
 どうやって止めるんだっけ?
 強制的に電源落してよかったんだっけ?
 使えなくなったら本末転倒なんて考えている間に

『バージョンアップ完了しました』

 そんなメッセージの後に強制再起動。
 暗転した画面の後にはいつものリンゴマークではなく

「見た事ない絵が浮かんでるんだけど」

 だけどそれは一瞬。
 暫くしていつもの見慣れた画面に戻っていた。

「な、なんだったんだよ……」

 言いながらいつも使うアプリを起動すれば何て事のないいつもの画面で違和感なく使う事が出来た。
 Wi-Fiすらないこの世界での唯一の娯楽が読書何て寂しすぎるが、これを取り上げられたらマジ退屈過ぎて死ぬと泣きそうだったのでほっとして画面をホームに戻せば見た事のないアイコンがあった。
 なんだ?
 まさかこれが今回の更新ってわけじゃないだろうなと親切なのか一つのフォルダに纏められていたので一応気を付けながらもタップをする。

 マップ、辞書、スキル、倉庫、ショップ。

 五つのわけのわからんアイコンが入っていた。
 とりあえず一番わかりやすいマップと言うのを押せば画面上に見た事もない地図が描かれており、現在地を示すマーカーをズームして行けばこの地域の名前が分った。

 ノルドシュトルム国 ・ノルドシュトルム城

 そういや初日にそんな事言ってたなとぼんやり思い出しながらもどこまで詳しく書かれているのかと思えばこの城の名前を触ってしまった。
 そうすると画面が読み込み状態となり……
 次に現れたのは城内マップだった。

「これダメなやつ!!!」

 絶叫しそうになる口元を思わず手で押さえてしまいながらも見てはいけないほど見たくなると言う様に口を手元で押さえてない手でサクサクと操作。
 立派な事に七階建てのこのお城は地下も二階あり、いくつかの離れまである事が分った。
 俺が滞在しているのは三階のようで、窓から見える景色と俺の感覚で間違いない事は保障で来た。
 飛び降りたら怪我をする。そんな逃走のしにくい部屋は城の隅っこにあった。
 警戒されてるんだなとぼんやりと思いながらも俺も警戒してるから同じかと思いつつもフロアマップを見ながら階段の位置やトイレの位置を確認してしまう。
 トイレの位置重要だからね。
 まぁ、この部屋から出る事が出来ればの話だけど。
 取り合えずお宅拝見という様に東の離れやいくつかある離れ、そして北の塔など沢山施設あるんだなと感心しながら次のアプリに変更する。
 辞書は文字通り普通の辞書だった。
 この世界の常識やマナーも書いてあり、これで当面時間を潰せると歓喜しながら次々と何種類もある辞書をチェックする中何故かカメラ機能を発見。
 何なんだと思ってタップすればすぐにカメラワークへと変更となり、この部屋の様子が映し出されていた。
 何の変哲もないカメラワークだが、その世界を覗き見れば何故かそこには文字も映し出していた。何が問題かという様に部屋の壁に飾ってあったランプに合わせれば
「はあ?!」
 なんて思う同様にピコンとシャッターを切っていて、その後にはメッセージ。
 
『辞書に登録しますか? YES/NO』

 NO何て進展のない言葉はむしをしてYESをタップ。
 その後中央で読み込み中のマークがくるくると回ればすぐに『登録完了』の文字と登録したページが開かれた。
 さっきの簡易説明ではなく

『魔道ランプ(汎用品)
 魔力を込められた魔石を利用したランプ。
 使用時間は残り三日ほど。
 価格銀貨五枚』

「いや、値段なんて知りたくないし、銀貨五枚の価値なんて判んないし」
 
 普通に考えれば五千円ぐらいのランプって事で良いのか?
 って言うか魔力とか魔石とか魔導とかっていう言葉があるって事は

「魔法があるのか?あるわな。俺達それでこっちに来たんだし」

 一応辞書で調べればちゃんとあって、こちらの世界では誰もが持つ力だと言う。
 俺にはないからヤバいなあと思いながらも

「この辞書は便利だけど一々スマホ取り出して調べるって不便だよな」

 なんて言えばピコンとメッセージ音。

『持ち主と生体リンクできます。
 生体リンクしますか? YES/NO』
 
 生体リンクって何ぞやと思いながらもリンクって事はいちいちスマホ取り出さなくっていいって事かと安直に考えながらYESをタップ。
 すぐにバージョンアップの時みたいにダウンロードを始めますと文字が現れた瞬間、俺は意識を手放していた。

 

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