異世界召喚に巻きこまれたらスマホがバグって騎士団団長の妻になるそうです

雪那 由多

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ぶっちゃけ過ぎたけど文句あるかぁあ!

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「聞いたぞ。今日も今日とて陛下と離宮を利用したとか」
「ああ、柘榴離宮だったか。情熱的でゴージャスだったな」

 思い出すな俺。思い出しただけでうっとりと顔をニヤつかせるな、相手を煽るなと言いたいがそんな俺の思いなんて全くのお構いなしなのは当然だろう。こめかみに欠陥を浮き出し、その美麗な顔を歪めるノルドシュトルム国魔法師団長エリエル・エルステラはそれでも綺麗な顔をしてるな、さすが主要キャラと言った所だろうか。いや、主要は聖華ちゃんの側に居る王子たちではないのか?だけどこんな悪態をついても一応攻略済み、信愛度100%のマークは未だ健全。これが世に言うツンデレと言う奴だろうか。いや、ヤンデレ?ツンツンの上にヤンヤンなんて、デレはいらないけどせめて親切は欲しい。
 がっ、と机を踏みしめて乗り上げて俺の髪を掴みで強引に目の前に引っ張り上げられた。

「痛っ!止めてっ!!!」

 禿るって思うよりもあまりの痛さに反射的に頭を守るように、そしてその手を放して貰えるように押し返そうとするも

「良いかよく聞けっ! 
 今この国は瘴気に犯され国民が病に倒れたり魔物が発生するという危機に瀕しているんだ!
 陛下はこの国の王として先頭に立って住民の保護と避難先の確保に日夜奔走されていると言うのにだ!
 お前は良く何もせずに与えられる物を何故当然とただ受け入れている!
 親友のクラエスとてやっと好いた者と結婚できたと言うのに休みなく働き、挙句の果てにこんな不道徳な事を平然とする奴にこの国に居てもらいたくないわっ!!!」
 
 悔しいと言う様に男泣きをするノルドシュトルム国魔法師団長エリエル・エルステラだが

「なに綺麗事言ってるんだよ」

 その言葉に俺は今まで溜まっていた未消化の言葉達が溢れだしていた。

「俺は説明もなく召喚なんぞされようとした子供を助けようとして巻き込まれただけだ。ここまで積み上げた勉強も実績も総て台無しにしてくれた挙句に家族を奪いやがって。
 陛下がどうとか俺には一切関係のない知る事すらなかった出来事に巻きこみやがった上に不道徳だ?どの口が言う!
 親友と言うクラエスを裏切ったのはお前だって同罪だ!よく自分を棚に上げて言えたな!」

 そうだ。決して俺はヤりたくてヤっていたわけではない。
 心と体が別々に動いて何人もの男を咥えこんできただけだ。
 俺だって道徳的に人助けをしようとしただけの被害者だ、だけどそれを言った所で何になる

「魔物も見た事ないし瘴気だって知らない。この国が亡ぼうが異なる俺達の世界には全く影響もないのに巻きこんだ上に何も説明なしに文句だけは一人前に言う!
 クラエスだってその事はよく理解しているからこそ俺をこれ以上巻きこまないようにって平和に過ごしてもらえるようにと俺に目隠しをして外の情報を遮断しているのにどうやって知れと言う!城での待遇を思い出すだけでもどうしてこの国の住民に同情しろと言う!
 三回しか会った事ないけどアレックスの考える国づくりを考えてもアレックスの采配とは思えないしお前達が情報を正しく伝達拡散できてないから瘴気や魔物がと言うくせに王都の人間は享楽に耽り思いのまま欲を見たしのんびりと自分の保身しか考えてない!
 正直に言えばこの状態で良く聖女召喚になんて踏み込めたな!
 自分達が戦うよりも伝説の聖女に押し付けたいだけだろ!
 住民の保護だって本気に考えるのなら王都に引きこめば良いだけだし実行できないのは貴族の主張に決断が出来ないだけだろ。
 本当に魔物や瘴気が来たら王都の外の人間が紛れ込んだ何て程度の騒ぎじゃ済まなくなる。食料の備蓄だって自分の分配が減る、だから外の人間を入れたくない、この生活の質を落としたくない、安全を脅かされたくないだけの我が儘な人間たちに俺をどうこう言う資格なんてあると思うのか?!」

 フーッ、フーッ、と一息に声を荒げる様に叫び散らかせば、いつの間に手を放していたのか何か言い返したそうに俺を睨んで顔を真っ赤にするも最後まで一言も言い返せず暫く睨み合っていたかと思えばすとんとソファに座る。
 それから頭の中を整理する様に

「こっちに来てから何があったか言え」

 今度は自分の頭を抱える様にして床を見る様にして俯くその旋毛に向かってこの世界に来てからの事をぶちまけた。 
 召喚されて直ぐいなかった扱いにして、たまたまそばにいたクラエスに助けを求めた事。何とか話を通して貰い城の一室で冷遇されながら監禁されていた事。俺の為に用意された物は城の侍女達に盗まれた事。更に盛って来た鞄の中身がいろいろ失われていた事。
 まだまだある。
 不満と思う事をとにかくぶちまけた。
 どこぞの王様にセクハラされた事から始まって目の前の人物にレイプされた事。更にこの国の三公とも言うべき宰相に連れ込まれたり、英雄扱いしている冒険者にいきなりつっこまれた事、そして人目がない所で一人になった俺に襲い掛かった王弟。主人のベットで妻を犯す執事、食卓に上る毒料理、主の配偶者を冒涜する下級貴族の娘から平民を人とも思わない言動の貴族達。
 話を聞く男はまさかの遭遇と選民意識の高すぎる爵位だけの貴族に対する思いはいっその事この国は滅びる方がいいと主張する俺の言葉に反論できないでいた。

 いつも俺を一番に考えていてくれたクラエスにだからこそ不満を一切言わなかった。いつも俺にどうすれば快適に過ごしてもらえるか、そしてどうすれば愛してもらえるか沢山の愛を俺に与えてくれたクラエスだからこそ向き合いたかったのにそれをkの世界が邪魔をする。歯がゆいと思いながらもがく俺だけど、クラエスに出てけと言われたら素直に出て行こう。どういう理由とは言えども裏切った事には変わりがない。
 それぐらいは弁えているつもりだ。

 無言になった空間の中俺達は気まずさよりもこの異様になりすぎた空気に逃げ出す事も出来ずに俺の言葉をお互い吟味しているのだろうが、俺はいっその事クラエスにすべてばれて追い出されれば良いと、裏切りに対する罰はバッドエンドを受け入れるしかない事に腹をくくるれば

 トントン……
 
 控えめなノックの音。

「はい」

 久しぶりに口を開いたと言わんばかりに返答をすれば

「天鳥さん、聖華です。
 今お時間宜しいでしょうか?」

 先触れもなく直接本人が来たから慌てて居住まいを正し

「どうぞ、今は大丈夫です」

 とりあえず今はいいタイミングだと目の前の男にさりげなく退室を促せば、ココが引き時と立ち上がっている所に聖華ちゃんとその護衛の人が室内に入ってきた。
 デゲルホルム夫人の采配だろう護衛の騎士の人はちゃんと女性を選んでくれて、一人は室外で、一人はドアを入ったすぐ横で待機をしていた。

「何かありましたか?」

 何て聞けば

「スマホです!充電終わりました?!」

 目をキラキラとした聖華ちゃんは

「楽しみでしょうがなくて午後の授業が手に付かないからって先に様子を見に行きなさいって!」

 えへへとクリスマスのプレゼントを手にしたかのような期待に満ちた笑みの聖華ちゃんにスマホを取り出して渡せばちゃんと充電は100%になっていて、護衛の女騎士さんが覗きこむ様に背伸びをしていたが気にしないと言う様にサクサクと人差し指が画面を変えて行く。
 やがて指が止まれば

『聖華』
 
 優しく名を呼ぶ声。
 彼女のご両親の声だったかと思っている間に彼女は安心しきった顔でスマホを抱きしめていた。



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