三十六計逃げるに如かず

ビス子

文字の大きさ
1 / 3

しおりを挟む


 橋本りつ、27歳。独身。
私は、一般的な女性としては少し、いや、かなり変わっていると思う。
 幼い頃から、親や周りの大人たちから『りつちゃんは変わってるね。』と言われて育ったのだから、嫌でも自覚する。
例えば、『友達』と遊ぶのが苦手だった。特に気分も乗らない時に、やりたくもないことを一緒にさせられる。断れば、泣かれたり、仲間外れにされたり。先生からは『どうしてみんなで仲良く出来ないの?』と、まるで私が問題児のように困った顔をされ。
そうして、枠の中に無理やり収められる。私も、何度もそうした経験を繰り返せば、幼いながらに処世術を学ぶ。最初は、我慢して、みんなの思う通りに行動した。『友達』の望むように輪に入り、気乗りしない遊びやお喋りに付き合い。
そうして、どんどんストレスが蓄積されていき、結果、弾けたそれによって、私は倒れた。身体中に蕁麻疹が出て、嘔吐を繰り返し、食事さえまともに摂れず。幼い子供が感じるストレスとしては、かなり異常で、重すぎた。
けれど、私は家族に恵まれていた。母はそんな私に対して、『嫌なら周りの子と一緒に居なくて良い。でも、りつが一緒に居たいと思える子が居るなら、その子は大事にしなさい。』そう言って、『学校に行かない』という選択肢を示してくれた。そのかわりと言うように、『学校に行かないのなら、家のことをしなさい。働かざるもの食うべからずよ。』と、徹底的に家事を仕込まれた。元々、私は大人がしていることにこそ興味があったので、家事を覚えるのが楽しくて仕方がなかった。
父は、『…よし、釣りに行くか。』とよく海に私を連れ出してくれた。物静かな父は特に何か話したりすることは無かったが、静かな海で波の音だけをBGMにぼんやりとする釣りは大好きだった。たまに大物が掛かると、父は嬉しそうに笑いながら、その大きな手で少し痛いくらいに頭を撫でてくれた。そして、その場で釣れた魚を捌いては、酒盛りする父の酎ハイを一口だけと強請って飲ませて貰ってみたり。母に知れたら壮絶な夫婦喧嘩が起こっただろうとは、当時の私は考えもしなかったけれど。
 兎に角、理解のある両親のお陰で、私は再び学校に通うようになった。今度は、只管我慢するのではなく、それなりに同調出来るように振舞ってみたり。
けれど、女の子という生き物はなんとも難しく身勝手なものだということを思い知らされた。何かにつけて、『一緒』なのだ。行動だけではない、持ち物や、髪型まで。そして、自分が好きな男の子と少しでも仲良くすると、呼び出され、ヒステリックに喚かれる。なんだ、この生き物はと私は一瞬面食らい、そして次の瞬間には全てが面倒になった。なんでこんな頭の悪い生き物たちに同調して、自分を殺さなければいけないのか。同調したところで、気に食わなければ標的にされるのだ。阿呆らしい。
そう思ってからは、我慢なんて一切やめた。思うように行動し、思った事を言葉にする。自己中心的な振る舞いは最初こそ強い反感を買い、それはもう同級生どころか、先輩、果ては教師に至るまで色々な形で『お呼び出し』を食らった。だが、幸いにも私にはそれらを返討てるだけのものがあった。幼い頃から小難しく色々観察したり考えたりしていた事によって鍛えられ、暇さえあれば読書に耽っていたことで厚みを増した思考は、こと、相手を言い負かすことに於いては無駄に回転が良かった。平均よりずっと高い、同級生の男子どころか、下手すると大人と同じくらい高い上背も役に立った。
 毎日どころか、暇さえあれば日に何度もある『お呼び出し』に素直に応じては、完膚なきまでに論破する。そんな日々を過ごして数ヶ月後には、パッタリと落ち着いた日常に、逆につまらなさを感じる程になった頃。呼び出しに喜び勇んで赴いては、どこまでも笑顔で追い込む私は、影で『悪魔』と呼ばれるようになっていた。
聞いた時は、腹を抱えて笑った。


.
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

お義父さん、好き。

うみ
恋愛
お義父さんの子を孕みたい……。義理の父を好きになって、愛してしまった。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...