クリスタライズ~ある狙撃手へのレクイエム~

浅倉優稀

文字の大きさ
26 / 49
#24 嘘と真実

#24ー1

しおりを挟む
 ミズキの尋問から数時間後――。
 クラウスは、執務室でブランデーを飲んでいた。そのブランデーは、かつての親友がバースデープレゼントにくれたものだった。
『飲みすぎるなよクラウス。そのブランデーはなかなかの名品だ。ちゃんと味わって飲むんだぞ。おまえには、俺の代わりにジュリアの結婚式に出てもらわなければならないんだからな』
 今ここにいない友人の笑顔が脳裏に浮かぶ。
「アルベルト……」
 ミズキの尋問で、クラウスは恐ろしい事実を聞いてしまった。 
 それは自分の聞き違いか、それともそれが現実なのか。頭が混乱してしまっていた。
『アルベルトと貴様は、ディスタンシアで何をしていた?』
『セックス……』
 ミズキはそれだけ言うと、クラウスを見てニコッと笑った。その瞬間、薬で朦朧としていたミズキの表情が変わった。
 男を誘う、妖艶で美しい二色の瞳。その瞳の奥に揺らめくのは、官能を刺激する淫靡さだ。
 自分を見つめる二色の瞳がおぞましい大きな手となって、クラウスの全身を愛撫しているような気にさえなって、身体の中心がふと熱くなる。
(そんな馬鹿な……こいつはただの子供だぞ……)
 ふいに想像した不埒な画像を、頭を振って追い出し、もう一度ミズキを見る。
 薬物に意識と理性を乗っ取られ、もはや今のミズキは自分の意思では何もできなくなっているはずだ。こちらから投げかける質問にたどたどしく答えているが、舌もうまく回っていない。
 最初は薬の作用でなにか聞き違えたのだと思った。ろれつが回っていないから、何か変な言葉に聞こえただけだろうと。
 だが違う。ミズキははっきり言ったのだ。
『アルベルトとおじさ、違う、エル……に。縛られて後ろから……痛くて…イイ…の』
 ミズキはそこまで言うと辛そうに眉根を寄せた。だが上目遣いでクラウスを見つめ、その赤い唇をぺろりと湿らす舌の動きに絶句した。
 自分の頭を冷やす必要がある。ミズキにまたマウスピースを噛ませて今日の尋問を終えた。
 アルベルトがミズキを抱いていた――。
 そしてアルベルトと共にいた相手は、ディスタンシア軍において、主に暗殺任務を請け負うサンドストーム隊の隊長・シュトラウス。
 ディスタンシアの要人だけでなく、時には地上からコクピットを正確に狙ってパイロットを殺害し、戦闘機を制御不能制御不能アンコントーラブルに陥らせて撃ち落とす凄腕の狙撃手だ。
 その狙撃部隊の隊長とアルベルトは常に一緒にいて、毎日のようにミズキを抱いていたというのだ。
 ミズキは男だ。
 ほっそりとして色白、優しい顔立ちをしているせいで女の子のように見えるが、尋問開始時にクラウスを睨みつけたあの鋭い視線は、確固たる意志を秘め、クラウスと対峙する軍人そのものだ。
「あいつは私とジュリアを置いていったというのか……?」
 しかし、彼の消息がいまだ不明なのも現実だ。アルベルトはミズキに惹かれ、このクラリスを出ていったというのか。
 愛娘と友人をおいて――?
 あんな子供の身体を抱くために?
「そんなはずあるか!!」
 怒りが急激に爆発し、クラウスは持っていたブランデーグラスを床に叩きつけた。
 表面に美しい模様の入ったグラスが大きな音を立て、派手に砕け散る。
「アルベルト、なぜだ……?」
 机の上の写真立て。そこに映る彼は、クラリスを守るという使命感と自信に満ちた笑みを湛えている。それなのに、彼はどうしてディスタンシアに行った? あんな瓦礫しかないような敗戦濃厚な国に。
 尋問の際、ミズキは言っていた。
『縛られて……後ろから……痛くて……イイ、の』
 あんな子供に、ジュリアは父親を取られたというのか。
 粘性を持ったマグマのように、怒りのボルテージがゆっくりゆっくりと上がっていく。
「あの戦犯……っ!」
 確かめる必要がある。
 クラウスは席を立ち、ミズキを捕らえている部屋に向かう。
 あの戦犯にはマウスピースを噛ませ、24時間体制で椅子に拘束状態だ。
 自白剤を大量投与しているから、そう簡単に暴れ出すこともない。
 ずんずんと大股で廊下を歩き、地下へと降りる。大きく分厚い鉄の扉を開くと、ミズキは肩の上に首を乗せて、すうすうと静かな寝息を立てていた。
 ドアに鍵をかけ、ミズキの拘束をすべて解く。
「戦犯、起きろ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

処理中です...