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#24 嘘と真実
#24ー1
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ミズキの尋問から数時間後――。
クラウスは、執務室でブランデーを飲んでいた。そのブランデーは、かつての親友がバースデープレゼントにくれたものだった。
『飲みすぎるなよクラウス。そのブランデーはなかなかの名品だ。ちゃんと味わって飲むんだぞ。おまえには、俺の代わりにジュリアの結婚式に出てもらわなければならないんだからな』
今ここにいない友人の笑顔が脳裏に浮かぶ。
「アルベルト……」
ミズキの尋問で、クラウスは恐ろしい事実を聞いてしまった。
それは自分の聞き違いか、それともそれが現実なのか。頭が混乱してしまっていた。
『アルベルトと貴様は、ディスタンシアで何をしていた?』
『セックス……』
ミズキはそれだけ言うと、クラウスを見てニコッと笑った。その瞬間、薬で朦朧としていたミズキの表情が変わった。
男を誘う、妖艶で美しい二色の瞳。その瞳の奥に揺らめくのは、官能を刺激する淫靡さだ。
自分を見つめる二色の瞳がおぞましい大きな手となって、クラウスの全身を愛撫しているような気にさえなって、身体の中心がふと熱くなる。
(そんな馬鹿な……こいつはただの子供だぞ……)
ふいに想像した不埒な画像を、頭を振って追い出し、もう一度ミズキを見る。
薬物に意識と理性を乗っ取られ、もはや今のミズキは自分の意思では何もできなくなっているはずだ。こちらから投げかける質問にたどたどしく答えているが、舌もうまく回っていない。
最初は薬の作用でなにか聞き違えたのだと思った。ろれつが回っていないから、何か変な言葉に聞こえただけだろうと。
だが違う。ミズキははっきり言ったのだ。
『アルベルトとおじさ、違う、エル……に。縛られて後ろから……痛くて…イイ…の』
ミズキはそこまで言うと辛そうに眉根を寄せた。だが上目遣いでクラウスを見つめ、その赤い唇をぺろりと湿らす舌の動きに絶句した。
自分の頭を冷やす必要がある。ミズキにまたマウスピースを噛ませて今日の尋問を終えた。
アルベルトがミズキを抱いていた――。
そしてアルベルトと共にいた相手は、ディスタンシア軍において、主に暗殺任務を請け負うサンドストーム隊の隊長・シュトラウス。
ディスタンシアの要人だけでなく、時には地上からコクピットを正確に狙ってパイロットを殺害し、戦闘機を制御不能制御不能に陥らせて撃ち落とす凄腕の狙撃手だ。
その狙撃部隊の隊長とアルベルトは常に一緒にいて、毎日のようにミズキを抱いていたというのだ。
ミズキは男だ。
ほっそりとして色白、優しい顔立ちをしているせいで女の子のように見えるが、尋問開始時にクラウスを睨みつけたあの鋭い視線は、確固たる意志を秘め、クラウスと対峙する軍人そのものだ。
「あいつは私とジュリアを置いていったというのか……?」
しかし、彼の消息がいまだ不明なのも現実だ。アルベルトはミズキに惹かれ、このクラリスを出ていったというのか。
愛娘と友人をおいて――?
あんな子供の身体を抱くために?
「そんなはずあるか!!」
怒りが急激に爆発し、クラウスは持っていたブランデーグラスを床に叩きつけた。
表面に美しい模様の入ったグラスが大きな音を立て、派手に砕け散る。
「アルベルト、なぜだ……?」
机の上の写真立て。そこに映る彼は、クラリスを守るという使命感と自信に満ちた笑みを湛えている。それなのに、彼はどうしてディスタンシアに行った? あんな瓦礫しかないような敗戦濃厚な国に。
尋問の際、ミズキは言っていた。
『縛られて……後ろから……痛くて……イイ、の』
あんな子供に、ジュリアは父親を取られたというのか。
粘性を持ったマグマのように、怒りのボルテージがゆっくりゆっくりと上がっていく。
「あの戦犯……っ!」
確かめる必要がある。
クラウスは席を立ち、ミズキを捕らえている部屋に向かう。
あの戦犯にはマウスピースを噛ませ、24時間体制で椅子に拘束状態だ。
自白剤を大量投与しているから、そう簡単に暴れ出すこともない。
ずんずんと大股で廊下を歩き、地下へと降りる。大きく分厚い鉄の扉を開くと、ミズキは肩の上に首を乗せて、すうすうと静かな寝息を立てていた。
ドアに鍵をかけ、ミズキの拘束をすべて解く。
「戦犯、起きろ」
クラウスは、執務室でブランデーを飲んでいた。そのブランデーは、かつての親友がバースデープレゼントにくれたものだった。
『飲みすぎるなよクラウス。そのブランデーはなかなかの名品だ。ちゃんと味わって飲むんだぞ。おまえには、俺の代わりにジュリアの結婚式に出てもらわなければならないんだからな』
今ここにいない友人の笑顔が脳裏に浮かぶ。
「アルベルト……」
ミズキの尋問で、クラウスは恐ろしい事実を聞いてしまった。
それは自分の聞き違いか、それともそれが現実なのか。頭が混乱してしまっていた。
『アルベルトと貴様は、ディスタンシアで何をしていた?』
『セックス……』
ミズキはそれだけ言うと、クラウスを見てニコッと笑った。その瞬間、薬で朦朧としていたミズキの表情が変わった。
男を誘う、妖艶で美しい二色の瞳。その瞳の奥に揺らめくのは、官能を刺激する淫靡さだ。
自分を見つめる二色の瞳がおぞましい大きな手となって、クラウスの全身を愛撫しているような気にさえなって、身体の中心がふと熱くなる。
(そんな馬鹿な……こいつはただの子供だぞ……)
ふいに想像した不埒な画像を、頭を振って追い出し、もう一度ミズキを見る。
薬物に意識と理性を乗っ取られ、もはや今のミズキは自分の意思では何もできなくなっているはずだ。こちらから投げかける質問にたどたどしく答えているが、舌もうまく回っていない。
最初は薬の作用でなにか聞き違えたのだと思った。ろれつが回っていないから、何か変な言葉に聞こえただけだろうと。
だが違う。ミズキははっきり言ったのだ。
『アルベルトとおじさ、違う、エル……に。縛られて後ろから……痛くて…イイ…の』
ミズキはそこまで言うと辛そうに眉根を寄せた。だが上目遣いでクラウスを見つめ、その赤い唇をぺろりと湿らす舌の動きに絶句した。
自分の頭を冷やす必要がある。ミズキにまたマウスピースを噛ませて今日の尋問を終えた。
アルベルトがミズキを抱いていた――。
そしてアルベルトと共にいた相手は、ディスタンシア軍において、主に暗殺任務を請け負うサンドストーム隊の隊長・シュトラウス。
ディスタンシアの要人だけでなく、時には地上からコクピットを正確に狙ってパイロットを殺害し、戦闘機を制御不能制御不能に陥らせて撃ち落とす凄腕の狙撃手だ。
その狙撃部隊の隊長とアルベルトは常に一緒にいて、毎日のようにミズキを抱いていたというのだ。
ミズキは男だ。
ほっそりとして色白、優しい顔立ちをしているせいで女の子のように見えるが、尋問開始時にクラウスを睨みつけたあの鋭い視線は、確固たる意志を秘め、クラウスと対峙する軍人そのものだ。
「あいつは私とジュリアを置いていったというのか……?」
しかし、彼の消息がいまだ不明なのも現実だ。アルベルトはミズキに惹かれ、このクラリスを出ていったというのか。
愛娘と友人をおいて――?
あんな子供の身体を抱くために?
「そんなはずあるか!!」
怒りが急激に爆発し、クラウスは持っていたブランデーグラスを床に叩きつけた。
表面に美しい模様の入ったグラスが大きな音を立て、派手に砕け散る。
「アルベルト、なぜだ……?」
机の上の写真立て。そこに映る彼は、クラリスを守るという使命感と自信に満ちた笑みを湛えている。それなのに、彼はどうしてディスタンシアに行った? あんな瓦礫しかないような敗戦濃厚な国に。
尋問の際、ミズキは言っていた。
『縛られて……後ろから……痛くて……イイ、の』
あんな子供に、ジュリアは父親を取られたというのか。
粘性を持ったマグマのように、怒りのボルテージがゆっくりゆっくりと上がっていく。
「あの戦犯……っ!」
確かめる必要がある。
クラウスは席を立ち、ミズキを捕らえている部屋に向かう。
あの戦犯にはマウスピースを噛ませ、24時間体制で椅子に拘束状態だ。
自白剤を大量投与しているから、そう簡単に暴れ出すこともない。
ずんずんと大股で廊下を歩き、地下へと降りる。大きく分厚い鉄の扉を開くと、ミズキは肩の上に首を乗せて、すうすうと静かな寝息を立てていた。
ドアに鍵をかけ、ミズキの拘束をすべて解く。
「戦犯、起きろ」
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