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#39 罪人の処遇
#39−1
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同じ頃、グスタフはミハイルの部屋にいた。
兄はミズキの見舞いに行っている。病院の消灯は9時。もう時間を過ぎているから、そろそろ帰ってくるかもしれない。
別にやましいことはなにもしていないが、兄の気配が近づいてこないか、神経を尖らせていた。
グスタフは本を探していた。書店や図書館などを探しても良かったが、兄の部屋ならあると思った。
次兄が陰でいろいろ努力している勉強家だ。ただそれを人に見せない。生まれながらの超人というわけではなく、彼の今の地位は、彼の努力なしでは手に入らなかったと、グスタフは思っている。
ミハイルが常に最高の状態で心技体を保つよう努力していたからこそ(と、いうのも気に入らないが)グスタフは今でも連敗記録を更新している。
そんな恐怖の……いや、自慢の兄を培った蔵書類。礼儀礼節から毎日の献立、兵士としてのコアな知識や生活の豆知識まで。ここならグスタフの知りたいことを見つけられるかも。そんなわけでノート片手に調べ物をしている最中だった。
グスタフは、葬儀について調べようとしていた。無論、これはミズキの葬儀だ。
グスタフ自身は兄とミズキの裁判を見ていない。だが伝え聞く噂によれば、運が良ければミズキは終身刑、だがほぼ極刑なのではないかということだった。
時間もあまりないかもしれない。ミズキが死ぬなんて考えたくないが、最悪の事態を想定していた方が、気持ちの整理もつく。外れたらそれで良い。ミズキがいつか刑期を終えるまで、グスタフは待つつもりだ。
ミズキといると楽しかった。
ミズキを騙して、クラリスに連れてくる道中も。最初こそ復讐心が燃え盛っていたから「騙されてんのにバカなやつ」と思っていた。しかし、兵士としての能力始め、徐々にミズキを見る目が変わっていった。
ミズキはとにかくよくころころ笑い、「グスタフあのねー」とよくグスタフになついていた。
なにせミズキとの道中は、グスタフにとっては潜入ミッションでもあったから、あまり目立つ動きはいかがなものかと思ったが、ミズキは危険を察知する能力がとても高く、そのおかげでディスタンシア、クラリス両国の兵の包囲網を掻い潜れ、兄が指定した地点までミズキを連れてこれた。
援軍もなにもない本物の戦慄を味わい、そしてそれをミズキと乗り越えてきたのだ。
ミズキとの思い出はたくさんある。
死んだと思っていたグスタフを見つけたミズキが、無謀にも兄の部屋から飛び降りてしまって、どうやって基地のセキュリティを突破して部屋に戻るか考えていた時も。
ミズキを拉致しに来た、屈強な海軍兵相手に大立ち回りした時も。
友達がいないわけではない。人恋しいわけでもない。
目尻を下げて楽しそうに笑う彼の姿が頭から離れない。目の前に立ち塞がる壁をミズキと超えていくのが本当に楽しかったのだ。
兄二人に頭が上がらない末っ子に、弟ができたーーそんな思いをミズキに感じている。
長兄には申し訳ないが、兄弟にでも友達にでも、なんでもいいからミズキと一緒に死ぬまで暴れ回って笑い転げていたい。
ミズキへの恨みはいつしか消え、心の底からそう思うようになっていた。
とはいえ、現実は残酷だ。ミズキが戦犯である以上、グスタフの理想は来ない。
ミズキが銃殺された後、遺体を引き取ってから葬儀までの間、必要なものは何か、そんなことが知りたかった。
だがもう一つ、グスタフが知りたかったのは、戦犯として処刑されたミズキの遺体の取り扱い方法だった。
ただの犯罪者ではないから、ミズキの遺体は国が処分するかもしれない。どっちにしろ、事は簡単に解決できない気がした。
遺体引き取りを事前に申しこまないとならないのか、当日申し出ればすんなり渡してくれるのか。右も左もわからない。事前であれば、それなりに揃えるものも必要になるから、わかる範囲で調べておきたかった。
豪華に送り出すことはできないけれど、敵ながら自分が唯一認めた相手のことを、せめて忘れないでおきたい。
いない間にコソコソしようと思ったわけではない。訪ねたらミハイルがいなかったので、勝手にいろいろ物色しているところなのだ。
「くそ、整理整頓されてるようで、結構適当に詰めてんなぁ、この本棚」
つい不満が口をつく。
兄はしっかりしている。誰が見ても見目麗しく頭脳明晰、さらに体術や射撃に至るまで、死角のないオールラウンダーと評されているが、こと整理整頓はあまり頓着しないタイプだ。とりあえず棚に入っていればいい。そんな片付け方をしている。
娯楽小説の横に、軍関係のファイルを無造作に突っ込んでいるし、辞書が並ぶ棚の中に、なぜか1冊だけゲームの攻略本とかが入っているという始末。見た目はきちんとしているが、近づいてみれば乱雑極まりないのがよくわかる。
この辺はグスタフの方がきちんとしている。部屋は散らかってるが、収納や整理は自分の方が上手い。そう言える自信もある。
神はやはり、二物も三物も与えてはくれない。兄は兄でやはり欠点はあるのだった。
「くそ、この部屋の本棚、マジで整理してぇ……」
「人の部屋に勝手に入ってなにをしているんです?」
声に驚いて、全身がビクッと弾かれる。振り向けば、そこにはドアにもたれかかり、大変に不機嫌な顔をした次兄が立っていた。
「あ、兄上……」
「とはいえ、物色にしてはあなたらしくないものを探している。本なんか漬物石程度にしか思っていない子が、一体なにを探してるんですか」
顔は不機嫌だが、声は意外だと言った感じだ。
確かにグスタフは昔から勉強嫌いで、長兄次兄に両脇を固められて宿題をした覚えがある。
どちらかが怒ったら、どちらかがフォローに回るなんてことはなく、両方とも詰めに詰めてくるから、大変に息苦しかった。
ミハイルにもその記憶しかないのだろう。本を探しているグスタフを見て、「今頃?」と何か腑に落ちないといった態だ。
「少し遅い気もしますが、今更勉強をする気になったんですか。下衆な興味ではなく、知的好奇心が旺盛なのはいいことです」
「そ、そうなんだ……よ。ちょっと知りたいことが……」
やましくないのに、痛くもない腹を探られたような気になって、言葉が吃ってしまう。
ミハイルがミズキのことをどれだけ心配しているか知っているから、ミズキが死んだ後のことを調べているなんて言えない。
「兄上なら持ってるかな、って思ったんだけど。バラバラに並んでるから探せなくて」
兄上、もっときちんと整理したほうがいいですよと忠告したところ、ミハイルは「ああ」と笑って頷いた。
「犯人はミズキですよ」
「ミズキが? なんで」
「彼はここにいる間、色んな本を読んでいました。もともと知的好奇心の塊みたいなところがあって、知らないことを知るのが楽しかったようです。まるで幼子のようでした」
ミハイルの話によると、あれこれ本を読んでは出して、読めない文字や文章があると、ミハイルに本ごと持ってくるか、辞書を引っ張り出して読んでいたという。
兄もミズキに何も言わなかったので、乱れたままになっているのがことの真相のようだ。
ミハイルと同じで、ミズキもあまり整理整頓に難ありな性格か。グスタフは苦笑する。
ミハイルは本棚に近づくと、腰を折って背表紙をなぞる。
「で、なんの本ですか? 自分で言うのもなんですが、本棚はあなたの言うとおり乱雑です。私も何がどこにあるかわからないから、探すの手伝いますよ」
「グスタフ、探している本のタイトルは?」
「タイトルは……わからないんだ」
「わからない? わからないのに、私の部屋にあると思ったんですか?」
ミハイルが呆れた顔をする。
「グスタフ、せめて読みたい本のタイトルくらい調べてきなさい。そんな感じでは、探せるものも探せない」
「はい……すんません……」
兄の言うことは確かにごもっともだが、別にタイトルを目指して探しているわけではなかった。葬祭関連のジャンルのものであれば、別にどんな本でも良かったのだが、見た感じ、兄の蔵書にグスタフの探しているものはありそうにはない。さらにはミハイルが本格的に探し出せば、夜が明けてしまうかもしれない。この次兄は、加減というものをたまに忘れる傾向にあるのを、グスタフは知っている。
「兄上、もう遅いからいいや。またゆっくり探します」
早々に退散しなくては、探しながらなにを聞かれるかわかったものではない。ミハイルは尋問も得意とするから、相手から情報を引き出すのに、あらゆる手段を用いてくる。それは肉体的に痛みを与えたり、精神的に追い詰めたり様々だが、どっちにしろ秘密を漏らすまいとして防衛線を張って対峙しても、あっさりと崩されてしまう。
そして、グスタフは今、「なぜその本を探しているのか」をミハイルに知られるわけにはいかないのだ。
「夜分に失礼しました」
ミハイルは口の聞き方にもうるさい。なるべく失礼のないよう、丁寧に頭を下げ、踵を返した瞬間。
「待ちなさい」
ミハイルの固く低い声が、グスタフの肩を掴んだ。
「あ、兄上……?」
ゆっくり振り返ると、ミハイルは腕を組んで本棚にもたれかかり、グスタフをじっと見つめている。その視線はまるでグスタフの体をくまなく透視しているようで、心の奥の隠す理由を探っているようだ。
「あなたが探してる本が何かは知りませんが、ミズキに関するものでしょう?」
「……え、あ……」
この眼光と真っ向勝負して、今まで隠し通せたことない。
曖昧に返事をして誤魔化したつもりだったが、ミハイルはすぐに呆れたようなため息をついた。
「ディスタンシアの歴史書なら、私の部屋にはありませんよ。歴史はハノン大将が詳しかったですけど、あの方はここを離れる際に、資料、書類、書籍、紙に記されたもの、一切ここに残さなかった。だからありふれた歴史書なら図書館にはあると思いますよ。でもディスタンシアの歴史書なんかどうするんです? ディスタンシアの話が聞きたければ、ミズキに聞きなさい。その方が多分早い」
「あ、うん、そうですね……」
クラリスの歴史年表すら怪しいのに、ディスタンシアの歴史なんか、それこそ今さら知りたくない。
だがミハイルはなぜか勝手に歴史書だと思い込んでいるようで、ほっとした。
が。
「言っておきますが、歴史書を見ても、ディスタンシアにおける葬式の方法なんか載っていませんからね」
「兄上!?」
半分思惑を言い当てられて驚愕していると、ミハイルはさらにため息をついた。
「ミズキは罪人として断罪されるのです。下された結果が銃殺なら、ミズキの死後、一般的なお葬式はあげられませんよ。彼は罪人としてこの地に名を刻んで、その遺体も何もかもなかったことになるんですから」
「ミズキは……葬式すらできないのか」
「誰が葬儀を出すんですか、ミズキの」
「誰がって……俺が」
「グスタフ、ことは簡単ではないのですよ」
「わかってる………」
兄はミズキのことなどどうでもいいのか? なぜ二つ返事で承諾してくれないんだ?
グスタフは困惑した。クリアするべきものが、お金の面だけなら、ミズキの葬儀くらい自分がしてもいいと、グスタフは思っている。
それなのに、ミハイルは反対するのか。
あれほどミズキを大切にしていたのに。
「兄上はミズキが死んだら、そのまま知らん顔するんですか。あいつの亡骸、どうするつもりですか。そう言えば兄上は捕まえたミズキに俺の処遇を話してましたね。『グスタフを処刑して、遺体を犬の餌にした』って。あれをリアルにやるつもりなんですか」
「まさか」
ミハイルは即座に否定する。
「むしろ私が率先して、彼を見送りたいくらいです」
「それなのに、なんでだよ……」
今までは一応兄とはいえ、軍の大将であり、遥か上の上官だ。それなりに言葉遣いを気をつけてはいたが、煮え切らないミハイルの態度が気に入らない。グスタフの口から不満と怒りがこぼれ出た。
「ミズキはどうなるんだ! あいつ、死んだら野ざらしか? 冗談だろ!」
「本音を言えば処刑された後、ミズキの亡骸を私の手で棺に寝かせてやりたいですよ」
「だったら!」
「先ほども言いましたが、彼はこの国の罪人で、国民にわかる形で戦争の後始末と償いをしなければなりません。その骸は犬の餌以下のひどい扱いを受けます。戦犯とは国に多大な損害を与えた者。しかもミズキにはクラリスの血が半分入っている。やったことは国家反逆罪に等しいのです。銃弾一発で命を奪って罪を濯いで終わりなんて、クラリスが受けた被害を考えれば軽すぎる」
ミハイルの言うことは正論だ。
だがそんな上っ面の常識話を聞きたいんじゃない。
ミズキを自分たちの手で何とかしてやれないか。その方法だ。なのにこの兄は頭が固すぎる。
「兄貴、でも!!」
「処刑が終われば、ミズキはただの人に戻る!!」
グスタフの苛立ちを、悲鳴のようなミハイルが引き裂いた。
見れば彼は全身を震わせて、静かに涙を流していた。自分たちではどうにもならない虚しさと悔しさが、彼の頬を伝う。こんなミハイルをグスタフは見たことがない。
「……死刑執行人の銃弾がミズキの胸に吸い込まれて心臓を引き裂いた瞬間、彼は憎むべきディスタンシアの異色虹彩の狙撃手などではなく、やっとただのミズキに戻れるんです……。なのに彼はその骸を処理されるまで、罪人でいないといけない。遺骨の欠片すらも残さずに」
痛いのかけらすら残さず? 兄の言っていることの意味がわからない。グスタフは驚愕し、ミハイルは部屋を見渡しながら静かに続けた。
「そしてこの部屋にはミズキがいた。ミズキが処刑された後、この部屋はおそらく閉鎖されます。ミズキが触れた物、彼がこの部屋に落とした髪の毛一本まで、徹底的に処分されます。罪人の痕跡を残せないから」
「兄貴……」
「ミズキの生きた証も、私達と一緒に過ごした思い出も、彼の痕跡を何ひとつ手元に残せない。私たちは、消そうとしても絶対に消せない記憶の中に、彼を残したまま……彼を忘れないといけないんです」
ミズキへの思いと無念が鉄の串となって、苦しむミハイルの全身を絶え間なく貫いているようだ。
誰かと心を通わせて、その人が大切な存在になると、人は優しさを知り、そして強くなる。
だが同時にその関係が強制的に断ち切られてしまうことがこんなにも辛く、苦しいものなのか。
グスタフは何も言えず、唇を噛んで俯くしかできなかった。
※※※※※※※※※
こんなにも弱々しくなった兄の姿を見たのは初めてだった。
グスタフはミハイルの部屋を後にし、寮の自室へ向かっていた。右手の腕時計に目をやると、日が変わるにはまだ早い時間だった。宵っぱりのグスタフにとって、寝るにはまだ早いが、なんだか深夜を超えてずっと徹夜したような、そんなひどい疲労感を感じていた。
それは弱い兄を見たせいではない。
自分の大切な人を失うのに、何もしてやれない無力感と、追ってくる時間の焦燥感。
夜もふけ、基地内も静かだ。その静けさがまた、疲れ切った心に余計なーー明らかに悪い方へ舵を切るーー思考の重荷がのしかかる。
ミズキは本当に犬の餌にされるのか?
兄は言った。『犬の餌以下の扱いを受ける』と。
そういえば、兄の渾名は「黒衣の悪魔」だ。敵も味方も容赦なく粛清してきた人だから、罪人の扱いには詳しいはず。あの兄が処刑、それもほぼ独断で私刑した連中を「一般的に」葬るのは考えづらい。
じゃあ、どうなるのか。それを聞いておけばよかったと、グスタフは唇を噛む。
兄が知らないはずはないのだ。今からもう一度戻って詰問してもよかったが、あんな悲痛な思いを言わせた後で、処刑後のミズキの後始末なんて聞けるわけがないし、もし聞いてしまったら、場合によっては兄に殴りかかってしまうかもしれない。
わかっている。わかっているのだ。ミズキが普通の罪人ではないと言うことは。
しかし釈然としない。刑を受ければ、ミズキは責任をとったことになるのに、刑役の義務を終えてもなお、その身はまだ安らかに眠ることなく、刑罰を受け続けるようなものにも思える。
ミズキを処刑台に送るのが兄弟の悲願だった。それが現実になろうとしている。
念願叶ってスッキリするはずなのに、どうしてこうも欝然とするのか。
とはいえ、本当にミズキの亡骸はどうなるのか。犬の餌以下の扱いとはなんだ。
いろんな感情がぐだぐだに渦巻いて、考えが整理できない。
「おい、少尉」
呼び止められて顔を上げると、そこにはヴィルヘルムが立っていた。死んでしまったクラウスの代わりに、最近海軍の上級大将に就任した彼は、小脇に書類の束を抱え、眉間に皺を寄せている。時間もかなり遅いのに、気のせいか目の下にはクマができて疲労の色が濃い。
「少尉、どうした」
「何がだよ」
「怖いのか悲しいのかわからない顔になっているぞ。まるで百面相だ」
「うるせえな、冗談に付き合っている場合じゃないんだよ、こっちは」
「冗談など私が言うと思うか。あと、私は一応君より立場が上になったんだぞ。言葉遣いをー」
「兄貴がヒゲジジイぶっ殺したから、大将に上がっただけだろ。あんたにとってみりゃ、兄貴は昇進の恩人だ。敬えって言う前に、逆に弟の俺に菓子折りくらい持ってきていいんじゃねえの?」
「本当に君はああ言えばこう言うな。悪口は君に勝てない」
ヴィルヘルムは呆れ顔でため息をつく。
「で、本当にどうした、君が情緒不安定なのはいつものことだが、今日は荒れているじゃないか」
情緒不安定ってなんだと、心の中でヴィルヘルムに毒付く。ここでこの男と話している時間なんてない。
しかしーーはたと思いつく。この男はヒゲジジイの側近で、この間まではナンバー2の地位にいた。
もしかしたら。彼ならグスタフの問いに答えを出せるかもしれない。
だとしたら迷う時間が惜しい。
グスタフはヴィルヘルムの両肩をガシリとつかんだ。
「おい、海軍大将様よ。ちょっと話を聞いてくれないか」
「お、おい、どうした」
ヴィルヘルムが目を丸くしている。それもそのはずだ。グスタフからヴィルヘルムに頼み事をするなんて、多分今回が初めてだ。
しかし、あのヒゲジジイも陰で何をしていたかわからない。そして上の人間ほど、自分のケツを他人に拭かせる傾向にあるから、この男ももしかしたら、自らやったことがあるかもしれない。
ーー戦犯の遺体処理とやらを。
「ここじゃ聞けない。ちょっとグロい話かもしれない。ちょっと俺の部屋にこいよ」
「待て少尉、私はまだ仕事中ーー」
「明日できることは無理に今日しなくていいんだぞ。知らねぇのか」
グスタフはヴィルヘルムの腕を引っ張り、自室へ引き摺るように連行する。
グスタフにとってミズキはもう家族のようなものだ。だから、せめてミズキの遺体くらいは、自分が冥府へ送る準備をするーー。
その方法をどうしても聞かなければ。
兄はミズキの見舞いに行っている。病院の消灯は9時。もう時間を過ぎているから、そろそろ帰ってくるかもしれない。
別にやましいことはなにもしていないが、兄の気配が近づいてこないか、神経を尖らせていた。
グスタフは本を探していた。書店や図書館などを探しても良かったが、兄の部屋ならあると思った。
次兄が陰でいろいろ努力している勉強家だ。ただそれを人に見せない。生まれながらの超人というわけではなく、彼の今の地位は、彼の努力なしでは手に入らなかったと、グスタフは思っている。
ミハイルが常に最高の状態で心技体を保つよう努力していたからこそ(と、いうのも気に入らないが)グスタフは今でも連敗記録を更新している。
そんな恐怖の……いや、自慢の兄を培った蔵書類。礼儀礼節から毎日の献立、兵士としてのコアな知識や生活の豆知識まで。ここならグスタフの知りたいことを見つけられるかも。そんなわけでノート片手に調べ物をしている最中だった。
グスタフは、葬儀について調べようとしていた。無論、これはミズキの葬儀だ。
グスタフ自身は兄とミズキの裁判を見ていない。だが伝え聞く噂によれば、運が良ければミズキは終身刑、だがほぼ極刑なのではないかということだった。
時間もあまりないかもしれない。ミズキが死ぬなんて考えたくないが、最悪の事態を想定していた方が、気持ちの整理もつく。外れたらそれで良い。ミズキがいつか刑期を終えるまで、グスタフは待つつもりだ。
ミズキといると楽しかった。
ミズキを騙して、クラリスに連れてくる道中も。最初こそ復讐心が燃え盛っていたから「騙されてんのにバカなやつ」と思っていた。しかし、兵士としての能力始め、徐々にミズキを見る目が変わっていった。
ミズキはとにかくよくころころ笑い、「グスタフあのねー」とよくグスタフになついていた。
なにせミズキとの道中は、グスタフにとっては潜入ミッションでもあったから、あまり目立つ動きはいかがなものかと思ったが、ミズキは危険を察知する能力がとても高く、そのおかげでディスタンシア、クラリス両国の兵の包囲網を掻い潜れ、兄が指定した地点までミズキを連れてこれた。
援軍もなにもない本物の戦慄を味わい、そしてそれをミズキと乗り越えてきたのだ。
ミズキとの思い出はたくさんある。
死んだと思っていたグスタフを見つけたミズキが、無謀にも兄の部屋から飛び降りてしまって、どうやって基地のセキュリティを突破して部屋に戻るか考えていた時も。
ミズキを拉致しに来た、屈強な海軍兵相手に大立ち回りした時も。
友達がいないわけではない。人恋しいわけでもない。
目尻を下げて楽しそうに笑う彼の姿が頭から離れない。目の前に立ち塞がる壁をミズキと超えていくのが本当に楽しかったのだ。
兄二人に頭が上がらない末っ子に、弟ができたーーそんな思いをミズキに感じている。
長兄には申し訳ないが、兄弟にでも友達にでも、なんでもいいからミズキと一緒に死ぬまで暴れ回って笑い転げていたい。
ミズキへの恨みはいつしか消え、心の底からそう思うようになっていた。
とはいえ、現実は残酷だ。ミズキが戦犯である以上、グスタフの理想は来ない。
ミズキが銃殺された後、遺体を引き取ってから葬儀までの間、必要なものは何か、そんなことが知りたかった。
だがもう一つ、グスタフが知りたかったのは、戦犯として処刑されたミズキの遺体の取り扱い方法だった。
ただの犯罪者ではないから、ミズキの遺体は国が処分するかもしれない。どっちにしろ、事は簡単に解決できない気がした。
遺体引き取りを事前に申しこまないとならないのか、当日申し出ればすんなり渡してくれるのか。右も左もわからない。事前であれば、それなりに揃えるものも必要になるから、わかる範囲で調べておきたかった。
豪華に送り出すことはできないけれど、敵ながら自分が唯一認めた相手のことを、せめて忘れないでおきたい。
いない間にコソコソしようと思ったわけではない。訪ねたらミハイルがいなかったので、勝手にいろいろ物色しているところなのだ。
「くそ、整理整頓されてるようで、結構適当に詰めてんなぁ、この本棚」
つい不満が口をつく。
兄はしっかりしている。誰が見ても見目麗しく頭脳明晰、さらに体術や射撃に至るまで、死角のないオールラウンダーと評されているが、こと整理整頓はあまり頓着しないタイプだ。とりあえず棚に入っていればいい。そんな片付け方をしている。
娯楽小説の横に、軍関係のファイルを無造作に突っ込んでいるし、辞書が並ぶ棚の中に、なぜか1冊だけゲームの攻略本とかが入っているという始末。見た目はきちんとしているが、近づいてみれば乱雑極まりないのがよくわかる。
この辺はグスタフの方がきちんとしている。部屋は散らかってるが、収納や整理は自分の方が上手い。そう言える自信もある。
神はやはり、二物も三物も与えてはくれない。兄は兄でやはり欠点はあるのだった。
「くそ、この部屋の本棚、マジで整理してぇ……」
「人の部屋に勝手に入ってなにをしているんです?」
声に驚いて、全身がビクッと弾かれる。振り向けば、そこにはドアにもたれかかり、大変に不機嫌な顔をした次兄が立っていた。
「あ、兄上……」
「とはいえ、物色にしてはあなたらしくないものを探している。本なんか漬物石程度にしか思っていない子が、一体なにを探してるんですか」
顔は不機嫌だが、声は意外だと言った感じだ。
確かにグスタフは昔から勉強嫌いで、長兄次兄に両脇を固められて宿題をした覚えがある。
どちらかが怒ったら、どちらかがフォローに回るなんてことはなく、両方とも詰めに詰めてくるから、大変に息苦しかった。
ミハイルにもその記憶しかないのだろう。本を探しているグスタフを見て、「今頃?」と何か腑に落ちないといった態だ。
「少し遅い気もしますが、今更勉強をする気になったんですか。下衆な興味ではなく、知的好奇心が旺盛なのはいいことです」
「そ、そうなんだ……よ。ちょっと知りたいことが……」
やましくないのに、痛くもない腹を探られたような気になって、言葉が吃ってしまう。
ミハイルがミズキのことをどれだけ心配しているか知っているから、ミズキが死んだ後のことを調べているなんて言えない。
「兄上なら持ってるかな、って思ったんだけど。バラバラに並んでるから探せなくて」
兄上、もっときちんと整理したほうがいいですよと忠告したところ、ミハイルは「ああ」と笑って頷いた。
「犯人はミズキですよ」
「ミズキが? なんで」
「彼はここにいる間、色んな本を読んでいました。もともと知的好奇心の塊みたいなところがあって、知らないことを知るのが楽しかったようです。まるで幼子のようでした」
ミハイルの話によると、あれこれ本を読んでは出して、読めない文字や文章があると、ミハイルに本ごと持ってくるか、辞書を引っ張り出して読んでいたという。
兄もミズキに何も言わなかったので、乱れたままになっているのがことの真相のようだ。
ミハイルと同じで、ミズキもあまり整理整頓に難ありな性格か。グスタフは苦笑する。
ミハイルは本棚に近づくと、腰を折って背表紙をなぞる。
「で、なんの本ですか? 自分で言うのもなんですが、本棚はあなたの言うとおり乱雑です。私も何がどこにあるかわからないから、探すの手伝いますよ」
「グスタフ、探している本のタイトルは?」
「タイトルは……わからないんだ」
「わからない? わからないのに、私の部屋にあると思ったんですか?」
ミハイルが呆れた顔をする。
「グスタフ、せめて読みたい本のタイトルくらい調べてきなさい。そんな感じでは、探せるものも探せない」
「はい……すんません……」
兄の言うことは確かにごもっともだが、別にタイトルを目指して探しているわけではなかった。葬祭関連のジャンルのものであれば、別にどんな本でも良かったのだが、見た感じ、兄の蔵書にグスタフの探しているものはありそうにはない。さらにはミハイルが本格的に探し出せば、夜が明けてしまうかもしれない。この次兄は、加減というものをたまに忘れる傾向にあるのを、グスタフは知っている。
「兄上、もう遅いからいいや。またゆっくり探します」
早々に退散しなくては、探しながらなにを聞かれるかわかったものではない。ミハイルは尋問も得意とするから、相手から情報を引き出すのに、あらゆる手段を用いてくる。それは肉体的に痛みを与えたり、精神的に追い詰めたり様々だが、どっちにしろ秘密を漏らすまいとして防衛線を張って対峙しても、あっさりと崩されてしまう。
そして、グスタフは今、「なぜその本を探しているのか」をミハイルに知られるわけにはいかないのだ。
「夜分に失礼しました」
ミハイルは口の聞き方にもうるさい。なるべく失礼のないよう、丁寧に頭を下げ、踵を返した瞬間。
「待ちなさい」
ミハイルの固く低い声が、グスタフの肩を掴んだ。
「あ、兄上……?」
ゆっくり振り返ると、ミハイルは腕を組んで本棚にもたれかかり、グスタフをじっと見つめている。その視線はまるでグスタフの体をくまなく透視しているようで、心の奥の隠す理由を探っているようだ。
「あなたが探してる本が何かは知りませんが、ミズキに関するものでしょう?」
「……え、あ……」
この眼光と真っ向勝負して、今まで隠し通せたことない。
曖昧に返事をして誤魔化したつもりだったが、ミハイルはすぐに呆れたようなため息をついた。
「ディスタンシアの歴史書なら、私の部屋にはありませんよ。歴史はハノン大将が詳しかったですけど、あの方はここを離れる際に、資料、書類、書籍、紙に記されたもの、一切ここに残さなかった。だからありふれた歴史書なら図書館にはあると思いますよ。でもディスタンシアの歴史書なんかどうするんです? ディスタンシアの話が聞きたければ、ミズキに聞きなさい。その方が多分早い」
「あ、うん、そうですね……」
クラリスの歴史年表すら怪しいのに、ディスタンシアの歴史なんか、それこそ今さら知りたくない。
だがミハイルはなぜか勝手に歴史書だと思い込んでいるようで、ほっとした。
が。
「言っておきますが、歴史書を見ても、ディスタンシアにおける葬式の方法なんか載っていませんからね」
「兄上!?」
半分思惑を言い当てられて驚愕していると、ミハイルはさらにため息をついた。
「ミズキは罪人として断罪されるのです。下された結果が銃殺なら、ミズキの死後、一般的なお葬式はあげられませんよ。彼は罪人としてこの地に名を刻んで、その遺体も何もかもなかったことになるんですから」
「ミズキは……葬式すらできないのか」
「誰が葬儀を出すんですか、ミズキの」
「誰がって……俺が」
「グスタフ、ことは簡単ではないのですよ」
「わかってる………」
兄はミズキのことなどどうでもいいのか? なぜ二つ返事で承諾してくれないんだ?
グスタフは困惑した。クリアするべきものが、お金の面だけなら、ミズキの葬儀くらい自分がしてもいいと、グスタフは思っている。
それなのに、ミハイルは反対するのか。
あれほどミズキを大切にしていたのに。
「兄上はミズキが死んだら、そのまま知らん顔するんですか。あいつの亡骸、どうするつもりですか。そう言えば兄上は捕まえたミズキに俺の処遇を話してましたね。『グスタフを処刑して、遺体を犬の餌にした』って。あれをリアルにやるつもりなんですか」
「まさか」
ミハイルは即座に否定する。
「むしろ私が率先して、彼を見送りたいくらいです」
「それなのに、なんでだよ……」
今までは一応兄とはいえ、軍の大将であり、遥か上の上官だ。それなりに言葉遣いを気をつけてはいたが、煮え切らないミハイルの態度が気に入らない。グスタフの口から不満と怒りがこぼれ出た。
「ミズキはどうなるんだ! あいつ、死んだら野ざらしか? 冗談だろ!」
「本音を言えば処刑された後、ミズキの亡骸を私の手で棺に寝かせてやりたいですよ」
「だったら!」
「先ほども言いましたが、彼はこの国の罪人で、国民にわかる形で戦争の後始末と償いをしなければなりません。その骸は犬の餌以下のひどい扱いを受けます。戦犯とは国に多大な損害を与えた者。しかもミズキにはクラリスの血が半分入っている。やったことは国家反逆罪に等しいのです。銃弾一発で命を奪って罪を濯いで終わりなんて、クラリスが受けた被害を考えれば軽すぎる」
ミハイルの言うことは正論だ。
だがそんな上っ面の常識話を聞きたいんじゃない。
ミズキを自分たちの手で何とかしてやれないか。その方法だ。なのにこの兄は頭が固すぎる。
「兄貴、でも!!」
「処刑が終われば、ミズキはただの人に戻る!!」
グスタフの苛立ちを、悲鳴のようなミハイルが引き裂いた。
見れば彼は全身を震わせて、静かに涙を流していた。自分たちではどうにもならない虚しさと悔しさが、彼の頬を伝う。こんなミハイルをグスタフは見たことがない。
「……死刑執行人の銃弾がミズキの胸に吸い込まれて心臓を引き裂いた瞬間、彼は憎むべきディスタンシアの異色虹彩の狙撃手などではなく、やっとただのミズキに戻れるんです……。なのに彼はその骸を処理されるまで、罪人でいないといけない。遺骨の欠片すらも残さずに」
痛いのかけらすら残さず? 兄の言っていることの意味がわからない。グスタフは驚愕し、ミハイルは部屋を見渡しながら静かに続けた。
「そしてこの部屋にはミズキがいた。ミズキが処刑された後、この部屋はおそらく閉鎖されます。ミズキが触れた物、彼がこの部屋に落とした髪の毛一本まで、徹底的に処分されます。罪人の痕跡を残せないから」
「兄貴……」
「ミズキの生きた証も、私達と一緒に過ごした思い出も、彼の痕跡を何ひとつ手元に残せない。私たちは、消そうとしても絶対に消せない記憶の中に、彼を残したまま……彼を忘れないといけないんです」
ミズキへの思いと無念が鉄の串となって、苦しむミハイルの全身を絶え間なく貫いているようだ。
誰かと心を通わせて、その人が大切な存在になると、人は優しさを知り、そして強くなる。
だが同時にその関係が強制的に断ち切られてしまうことがこんなにも辛く、苦しいものなのか。
グスタフは何も言えず、唇を噛んで俯くしかできなかった。
※※※※※※※※※
こんなにも弱々しくなった兄の姿を見たのは初めてだった。
グスタフはミハイルの部屋を後にし、寮の自室へ向かっていた。右手の腕時計に目をやると、日が変わるにはまだ早い時間だった。宵っぱりのグスタフにとって、寝るにはまだ早いが、なんだか深夜を超えてずっと徹夜したような、そんなひどい疲労感を感じていた。
それは弱い兄を見たせいではない。
自分の大切な人を失うのに、何もしてやれない無力感と、追ってくる時間の焦燥感。
夜もふけ、基地内も静かだ。その静けさがまた、疲れ切った心に余計なーー明らかに悪い方へ舵を切るーー思考の重荷がのしかかる。
ミズキは本当に犬の餌にされるのか?
兄は言った。『犬の餌以下の扱いを受ける』と。
そういえば、兄の渾名は「黒衣の悪魔」だ。敵も味方も容赦なく粛清してきた人だから、罪人の扱いには詳しいはず。あの兄が処刑、それもほぼ独断で私刑した連中を「一般的に」葬るのは考えづらい。
じゃあ、どうなるのか。それを聞いておけばよかったと、グスタフは唇を噛む。
兄が知らないはずはないのだ。今からもう一度戻って詰問してもよかったが、あんな悲痛な思いを言わせた後で、処刑後のミズキの後始末なんて聞けるわけがないし、もし聞いてしまったら、場合によっては兄に殴りかかってしまうかもしれない。
わかっている。わかっているのだ。ミズキが普通の罪人ではないと言うことは。
しかし釈然としない。刑を受ければ、ミズキは責任をとったことになるのに、刑役の義務を終えてもなお、その身はまだ安らかに眠ることなく、刑罰を受け続けるようなものにも思える。
ミズキを処刑台に送るのが兄弟の悲願だった。それが現実になろうとしている。
念願叶ってスッキリするはずなのに、どうしてこうも欝然とするのか。
とはいえ、本当にミズキの亡骸はどうなるのか。犬の餌以下の扱いとはなんだ。
いろんな感情がぐだぐだに渦巻いて、考えが整理できない。
「おい、少尉」
呼び止められて顔を上げると、そこにはヴィルヘルムが立っていた。死んでしまったクラウスの代わりに、最近海軍の上級大将に就任した彼は、小脇に書類の束を抱え、眉間に皺を寄せている。時間もかなり遅いのに、気のせいか目の下にはクマができて疲労の色が濃い。
「少尉、どうした」
「何がだよ」
「怖いのか悲しいのかわからない顔になっているぞ。まるで百面相だ」
「うるせえな、冗談に付き合っている場合じゃないんだよ、こっちは」
「冗談など私が言うと思うか。あと、私は一応君より立場が上になったんだぞ。言葉遣いをー」
「兄貴がヒゲジジイぶっ殺したから、大将に上がっただけだろ。あんたにとってみりゃ、兄貴は昇進の恩人だ。敬えって言う前に、逆に弟の俺に菓子折りくらい持ってきていいんじゃねえの?」
「本当に君はああ言えばこう言うな。悪口は君に勝てない」
ヴィルヘルムは呆れ顔でため息をつく。
「で、本当にどうした、君が情緒不安定なのはいつものことだが、今日は荒れているじゃないか」
情緒不安定ってなんだと、心の中でヴィルヘルムに毒付く。ここでこの男と話している時間なんてない。
しかしーーはたと思いつく。この男はヒゲジジイの側近で、この間まではナンバー2の地位にいた。
もしかしたら。彼ならグスタフの問いに答えを出せるかもしれない。
だとしたら迷う時間が惜しい。
グスタフはヴィルヘルムの両肩をガシリとつかんだ。
「おい、海軍大将様よ。ちょっと話を聞いてくれないか」
「お、おい、どうした」
ヴィルヘルムが目を丸くしている。それもそのはずだ。グスタフからヴィルヘルムに頼み事をするなんて、多分今回が初めてだ。
しかし、あのヒゲジジイも陰で何をしていたかわからない。そして上の人間ほど、自分のケツを他人に拭かせる傾向にあるから、この男ももしかしたら、自らやったことがあるかもしれない。
ーー戦犯の遺体処理とやらを。
「ここじゃ聞けない。ちょっとグロい話かもしれない。ちょっと俺の部屋にこいよ」
「待て少尉、私はまだ仕事中ーー」
「明日できることは無理に今日しなくていいんだぞ。知らねぇのか」
グスタフはヴィルヘルムの腕を引っ張り、自室へ引き摺るように連行する。
グスタフにとってミズキはもう家族のようなものだ。だから、せめてミズキの遺体くらいは、自分が冥府へ送る準備をするーー。
その方法をどうしても聞かなければ。
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