4 / 15
終わらせる覚悟
しおりを挟む
翌日、彼はアルバイトが終わり次第連絡する、と送ってきた。
彼はその時、アパートの近所にある “True" という飲食店でアルバイトをしていた。
True といえばT女子大の学生にもよく知られたお店だ。
バス停の向かい側にある小洒落た店で、マスターの焼くお好み焼きがメインだが、喫茶メニューや、ちょっとしたお酒も飲める、と言う。
私は窓ガラスに装飾されたカラフルなネオン管を遠目で見ながら通学してきたが、残念ながら行ったことはない。
・・・「True ? ウチの近所じゃない!」
「そう!行ったことある?」
「まだないのよぉ、でも今度絶対行くよ!」
「来て来て!」 ・・・・
そんなやり取りもあった。
もう行くことはないだろうな、と思いながら、私は 了解、と短く返した。
でも・・
いや待て待て。
矢野弘樹がまともな神経の持ち主ならだが、私がわざわざ True にまで訪ねて行くとしたら、心が痛まないだろうか?
私はO市からおよそ一時間掛けて学校に通っている。
冬休みで学校に用事がないにもかかわらず、わざわざそのために出向くのだ。
これは彼に対する痛烈な嫌味。
会って欲しいと言う要望には敢えて最大限応えてやるのだ。
けれど、毅然とプライドは守る。
弁解は聞かないし、未練も残さない。
冷淡に突き放して、颯爽と去るのみ。
電車に揺られて三十分。
乗り換えのバスに乗り込んだ時には、もうすっかり暗くなっていた。
カラフルなネオン管とその奥の薄暗い空間を連想させる外観は、わがT女子大の女の子には人気があった。
講義を終えたグループが、そのお店を目指して信号を渡るのを私は何度も見てきた。
ただ、私には少しオシャレ過ぎた。
私は自分で言うのもおこがましいが、容姿にはそこそこの自負はある。
でも美醜云々より、洗練度と言う点ではからきし自信がなかった。
手芸なんかやってる地味なサークルの仲間は、そう言うお店に誘ってはくれなかったし、私一人で入る勇気はなかった。
だが、今回はそんな躊躇はない。
バスを降りると、True を睨み、信号が変わるのを待った。
弘樹がバイトをするのも頷ける、その小洒落た店の外観は、今の私には鼻につく。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。そんな心境だったのかも知れない。すべてが軟弱に映った。
初めて触れる木製の大きな取っ手。
少し重いドアを押すと、カランカランとカウベルが鳴った。
「いらっしゃいま・・せ・・」
いきなり目が会った。
もちろん弘樹は動揺している。
外から想像したように、店内はシックな雰囲気を狙って、敢えて明るくしていない。
臆病な私には幹線道路の灯りが安心できる。
ネオン管の色は少し鬱陶しいけれど、窓側に座った。
ソースの香ばしい匂いとコーヒーの香り・・
なんだか変わったお店だ。
大きな鉄板でヘラを操っているのは、お好み焼き屋の大将、と言うより、マスターと言う印象。
デニムのワイシャツに蝶ネクタイ。鼻の下にはよく手入れされた髭。
切り盛り役であろう女性はたぶんマスターの奥さん。
デニムのワイシャツと蝶ネクタイはユニフォームなんだと気がついた。やっぱり小洒落た雰囲気で、キビキビとした物腰。
「わざわざ・・来てくれたんだ?」
神妙かつ痛々しい矢野弘樹が、私の前にお水を差し出す。
「ごめんね、忙しいのに。」
「あ、いや・・今冬休み中だから・・ほら、夜はご覧の通り。ガラガラだよ。」
年の瀬のお店だから大変かも知れないと思ったが、ここは周りの大学生が主な客らしい。
確かに閑散としている。
「えっと、何にする?」
私は紅茶とホットケーキを頼んだ。
「ちょっと待っててね。」
弘樹はオーダーを伝えると同時に、奥さんに何やら相談し始めた。
その奥さんがニヤッとして、マスターに耳打ち、二人で私をチラ見して、弘樹に何か言った。
そして彼はペコペコと頭を下げて店の奥に消えた。
まもなく、着替えた弘樹が紅茶とホットケーキを持ってきた。
「早く上がらせてもらった。」
「そう。」
あの二人に私のことを何と言ったのかわからないが、別れ話をする相手だと認識しているようではなかった。
でも、それもどうでもいい。
私はただ淡々と彼の見え透いた弁解を却下すれば良いだけ。
彼はその時、アパートの近所にある “True" という飲食店でアルバイトをしていた。
True といえばT女子大の学生にもよく知られたお店だ。
バス停の向かい側にある小洒落た店で、マスターの焼くお好み焼きがメインだが、喫茶メニューや、ちょっとしたお酒も飲める、と言う。
私は窓ガラスに装飾されたカラフルなネオン管を遠目で見ながら通学してきたが、残念ながら行ったことはない。
・・・「True ? ウチの近所じゃない!」
「そう!行ったことある?」
「まだないのよぉ、でも今度絶対行くよ!」
「来て来て!」 ・・・・
そんなやり取りもあった。
もう行くことはないだろうな、と思いながら、私は 了解、と短く返した。
でも・・
いや待て待て。
矢野弘樹がまともな神経の持ち主ならだが、私がわざわざ True にまで訪ねて行くとしたら、心が痛まないだろうか?
私はO市からおよそ一時間掛けて学校に通っている。
冬休みで学校に用事がないにもかかわらず、わざわざそのために出向くのだ。
これは彼に対する痛烈な嫌味。
会って欲しいと言う要望には敢えて最大限応えてやるのだ。
けれど、毅然とプライドは守る。
弁解は聞かないし、未練も残さない。
冷淡に突き放して、颯爽と去るのみ。
電車に揺られて三十分。
乗り換えのバスに乗り込んだ時には、もうすっかり暗くなっていた。
カラフルなネオン管とその奥の薄暗い空間を連想させる外観は、わがT女子大の女の子には人気があった。
講義を終えたグループが、そのお店を目指して信号を渡るのを私は何度も見てきた。
ただ、私には少しオシャレ過ぎた。
私は自分で言うのもおこがましいが、容姿にはそこそこの自負はある。
でも美醜云々より、洗練度と言う点ではからきし自信がなかった。
手芸なんかやってる地味なサークルの仲間は、そう言うお店に誘ってはくれなかったし、私一人で入る勇気はなかった。
だが、今回はそんな躊躇はない。
バスを降りると、True を睨み、信号が変わるのを待った。
弘樹がバイトをするのも頷ける、その小洒落た店の外観は、今の私には鼻につく。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。そんな心境だったのかも知れない。すべてが軟弱に映った。
初めて触れる木製の大きな取っ手。
少し重いドアを押すと、カランカランとカウベルが鳴った。
「いらっしゃいま・・せ・・」
いきなり目が会った。
もちろん弘樹は動揺している。
外から想像したように、店内はシックな雰囲気を狙って、敢えて明るくしていない。
臆病な私には幹線道路の灯りが安心できる。
ネオン管の色は少し鬱陶しいけれど、窓側に座った。
ソースの香ばしい匂いとコーヒーの香り・・
なんだか変わったお店だ。
大きな鉄板でヘラを操っているのは、お好み焼き屋の大将、と言うより、マスターと言う印象。
デニムのワイシャツに蝶ネクタイ。鼻の下にはよく手入れされた髭。
切り盛り役であろう女性はたぶんマスターの奥さん。
デニムのワイシャツと蝶ネクタイはユニフォームなんだと気がついた。やっぱり小洒落た雰囲気で、キビキビとした物腰。
「わざわざ・・来てくれたんだ?」
神妙かつ痛々しい矢野弘樹が、私の前にお水を差し出す。
「ごめんね、忙しいのに。」
「あ、いや・・今冬休み中だから・・ほら、夜はご覧の通り。ガラガラだよ。」
年の瀬のお店だから大変かも知れないと思ったが、ここは周りの大学生が主な客らしい。
確かに閑散としている。
「えっと、何にする?」
私は紅茶とホットケーキを頼んだ。
「ちょっと待っててね。」
弘樹はオーダーを伝えると同時に、奥さんに何やら相談し始めた。
その奥さんがニヤッとして、マスターに耳打ち、二人で私をチラ見して、弘樹に何か言った。
そして彼はペコペコと頭を下げて店の奥に消えた。
まもなく、着替えた弘樹が紅茶とホットケーキを持ってきた。
「早く上がらせてもらった。」
「そう。」
あの二人に私のことを何と言ったのかわからないが、別れ話をする相手だと認識しているようではなかった。
でも、それもどうでもいい。
私はただ淡々と彼の見え透いた弁解を却下すれば良いだけ。
0
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
無表情いとこの隠れた欲望
春密まつり
恋愛
大学生で21歳の梓は、6歳年上のいとこの雪哉と一緒に暮らすことになった。
小さい頃よく遊んでくれたお兄さんは社会人になりかっこよく成長していて戸惑いがち。
緊張しながらも仲良く暮らせそうだと思った矢先、転んだ拍子にキスをしてしまう。
それから雪哉の態度が変わり――。
エリート課長の脳内は想像の斜め上をいっていた
ピロ子
恋愛
飲み会に参加した後、酔い潰れていた私を押し倒していたのは社内の女子社員が憧れるエリート課長でした。
普段は冷静沈着な課長の脳内は、私には斜め上過ぎて理解不能です。
※課長の脳内は変態です。
なとみさん主催、「#足フェチ祭り」参加作品です。完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる