何年経っても、『月がきれいだね』とは言えなくて

Miru

文字の大きさ
1 / 3

第一話

しおりを挟む
『優勝は、青組!』

夏と秋が混ざったような、カラッとした青空に歓声が響く。

奇声にも似たようなそんな声。
笑ってる人、泣いてる人、拍手してる人。
『あぁ、終わったなあ』

僕はそんな思いを抱きながら、『明日から受験勉強が始まる』という少しの焦燥感と、まあでもそんなことは明日から考えればいいや。
という楽観的な気持ちが交錯していた。

これから始まる、10年引きずる物語がスタートすることを知る由もなかった。

----------------------------------------

高校3年になって、塾に通っていた。

家までの帰り道にある塾で、単純に近いから。
一応普通科高校だし、なんとなーく勉強しなきゃと思って。

先生からはできる限り毎日来いと言われていたが、インターハイまでやっていた部活を言い訳にして夏まであんまり行けませんと断り、その後は体育祭が終わるまで準備とかで忙しいと断り。

2ヶ月ぶりくらいに先生に会うの、ちょっと気まずいなーとか考えながら、その日から受験勉強が始まった。

外観が古臭い、安っぽい白壁の建物は最後まで好きになれなかった。

到着するやいなやまずは面談。直近の模試の結果から大まかに半年弱で狙える学校、学部などを話した。

部活に学園祭にと走り回っていて授業なんてまともに聞いてなくて、志望校などてんで頭になかった。

『僕は文武両道を目指すのだ...』

本当は家も貧しかったので家の近くの商業高校に行って高卒で就職しようと思ってたが、そこそこ勉強ができたので親の勧めもあってなんとなく普通科に。

『このままだと受かるとこないから、まじで頑張って』

と入った時から圧が強い先生はより圧が強くなっていた。

今この塾で、成績がビリに近いらしい。さすがにまずい。

何から始めるかもわからないまま、とにかく高校の勉強の復習からスタートすることにした。

塾には、仲良しの南がいた。
南は部活もやってなかったし、学校のイベントも別にそんなに頑張るタイプではなかったので、のらりくらり塾に通ってた。

まあ、頭は中の下くらい。友達がめっちゃ多い、いわゆるクラスに1人はいるコミュニケーションモンスター。
僕はこいつよりも成績が悪いのか...と少し面食らった。

教室に入ると南と見知らぬ塾生。
よく見るとうちの制服とも違うし、見たこともない。

僕『知り合い?』

南『あ、うん!俺と中学一緒だった!今は北高に通ってるんだけど、家この辺で。名前は竹内』

僕『あ、、よろしくです!』

竹内『よろしく。北高いなくて私アウェイだから仲良くしてね!』

そんな感じの出会いだった。

僕『竹内さんは大学どこ志望してるの?』

竹内『まだ決めてない。でも東京あたりに行きたいなーって思ってる。あとね、親からは国立しかダメって言われてる、学費的に。君は?』

僕『一緒だー、国立しかダメって言われてる。志望校はまだ決めてないけど県外には行きたいって感じかなー、でも受かるか不安』

竹内『そうなの?なんかこの塾って国立一本って人あんまいないよね...?一緒に現役合格目指して頑張ろう~!』

彼女はいつもニコニコしてた。屈託なく笑って、この人にはストレスなんてないんじゃないかってくらいいつも笑顔だった。

そして、帰り道が偶然一緒で、その日から一緒に帰る日々が始まった。

そしてもう一つ、彼女には出会った頃からちょっとファンタジーな一面があった。
僕たちが住んでる田舎は、街灯がほぼないに等しく、大通りから一本入ると、星が綺麗だった。

『今日は星が一段と綺麗だ~』
と、自転車を漕ぎながら一緒に空を見上げて帰る日々。

こいつは脳内お花畑だ、だから親から塾に入れられたんだ。
そう最初は思ってた...

-----------------------------------------
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...