4 / 42
第4話 アリスの戦闘力
しおりを挟む
ダンジョンが《上層》《中層》《下層》《深層》と四段階に別れるのと同じように、探索者もまたその強さによって四段階に別れる。
下から、三級探索者。二級、一級と上がり、一番上が特級探索者だ。
これはそのまま、足を踏み入れていい階層の深さを表してもいる。
探索者になりたての三級探索者は、上層までしか潜っちゃいけない決まりなの。
探索者免許には救難信号を送るための機能も備わってるんだけど、これを適性より奥まで持ち込むと、アラームが鳴って探索者協会に通報が行く仕組みになってる。
まあ、探索者じゃない上、そもそも無断でダンジョンに家を作った私には関係ない話だったんだけど……正式に探索者になりたかったら話は別だ。
私は最低限、すぐに二級探索者免許を取れるくらいの力を示さなきゃ、探索者にもなれない。家に帰れなくなっちゃうからね。
「つまり、上層のモンスターくらい余裕だよ。武器がバットっていうのがちょっと締まらないけど、すぐにコテンパンにしてみせるから、見ててね!」
『了解した』
夜が開けた翌朝。ぶんぶん、と軽く素振りしながら、私はテュテレールと一緒に《機械巣窟》上層部を歩く。
この辺りのモンスターは、まだギリギリ普通の銃火器も効果があるレベルの強さだ。
ダンジョンでスキルを得た探索者なら、さほど苦もなく倒せるような相手。直接戦闘向きのスキルを持たないとはいえ、十年間も中層で暮らしてきた私の敵じゃない。
そのはずなんだけど。
“ついにアリスちゃんが戦うのか……”
“怪我しないか心配”
“無理しないでね?”
さっきからずっと、コメントがこの調子である。
みんな、私を子供扱いし過ぎじゃない?
「大丈夫だってば! 見ててよ」
そうして歩いてると、奥に三体のモンスターが見えた。
大型犬くらいの大きさの、機械のバッタ。その丈夫な体と高い跳躍力を活かして体当たりしてくるモンスター、通称《機械バッタ》だ。まんまだね。
「いくよ……! やぁ~~!!」
機械バッタを見るや、私は一目散に飛び掛かる。
このモンスターは、飛び掛かるために一秒以上ぐぐっと前屈みになって力を溜めなきゃいけないから、見つけたら速攻を仕掛けるのが最適解だ。
「とりゃあ!」
確実に獲った、と思いながら、私はバットを横に振り抜き、目の前の機械バッタを吹き飛ばす。……ううん、吹き飛ばそうとした。
だけど、間合いを読み間違えた私は、盛大に空振りした。
「あれ!?」
あるはずの手応えがなかったことで、私の手からバットがすっぽ抜ける。
ぐるぐると回転しながら飛んでいったバットは、そのまま隣にいた別の機械バッタに直撃、その体を粉砕した。
その場に降りる、気まずい沈黙。コメントにも、“…………”という文が一気に流れる。
それと関係なしに動くのが、ただ人を襲うためだけに生まれてきたモンスター達だ。
私が倒そうとして、目の前で盛大に隙を晒してしまったのを好機と見た機械バッタが、私に体当たりをかまそうとして──
『危険指数上昇、排除する』
テュテレールが私の前に手を割り込ませ、それを防いでくれた。
そのままガッシリと機械バッタの体を掴んだテュテレールは、残る一体に向けてそれを投擲。二体纏めて撃破する。
『大丈夫か、アリス』
「う、うん、大丈夫……ありがとう、テュテレール……」
はい、と差し出されたバットを受け取りながら、私は羞恥に震え目を逸らす。
そんな私に構わず、配信コメントは大盛り上がりだった。
“アリスちゃんのフルスイング、思いっきり空振ったなw”
“ウケるw”
“いやー、素晴らしいコントロールのバット投げでしたねー(棒)”
“ただの金属バットで機械バッタを倒す力は凄いんだけどなぁ……w”
“やっぱりアリスちゃんに探索者はまだ早いのでは??”
「い、今のはちょっと失敗しただけだからーー!!」
流石にスルーし続けるのも限界だった私は、力の限りそう叫ぶ。
そして、改めてバットを力強く握り直した。
「次こそは大丈夫だから! 次こそは……!」
そう宣言し、私はすぐに次のモンスターを見付けて走っていく。
私のスキル、《機巧技師》があれば、この機械だらけのダンジョンでモンスターを見付けるのに苦労はない。
ただ、見付けられることとちゃんと戦えることは、全く別の問題みたい。
「やあぁ~~!」
機械バッタ以外にも、ここには色んな機械型モンスターが出没する。
ダンゴムシみたいに丸まった状態で転がってくるやつとか、蜘蛛みたいに天井や壁を這い回ってるやつとか。
そんな、多種多様な虫型機械モンスター達に、挑んで、挑んで、挑んで……。
「…………」
私は、心折れてダンジョンの隅っこに座り込んでいた。
『アリス、落ち込む必要はない。アリスの力は、破壊ではないのだから』
“そうそう、最初は誰だってこんなもんだよ”
“それになんやかんや何体か撃破はしてるしね”
拗ねた私を、テュテレールと視聴者のみんなが慰めようとする。
うん、確かにね、冷静に考えれば最初から上手く行くわけはないんだよ。
でもね、私が倒したのは三体くらいなのに、テュテレールは十体以上倒してるの。私が危なくなった時以外は手を出さないでいてくれたのに、それでも十体以上倒してるの。
つまり私、三体倒す間に十回は死んでたの。
中層でもいけるからって調子に乗ってたちょっと前の自分が恥ずかしい。
『アリスの力は、創造する力。破壊は、私の役目だ』
「うー、そうかもしれないけど、それじゃあいつまで経っても二級探索者になれないよぉ」
テュテレールは、すごく強い。だけど、肝心の私が弱いままじゃ、あまりダンジョンの奥深くへは進めないだろう。
テュテレールが許してくれないし、私だってテュテレールを盾にする前提で戦うなんて嫌だ。
どうしよう、と考えて……テュテレールの言葉に、ヒントを見出だした。
「そうだ! バットじゃダメだったなら、もっと自分に合った武器を自分で作ればいいんだ!」
“果たして武器の問題なのだろうか”
“アリスちゃんの運動神経の問題じゃないかと思うの”
“しっ! 本当のこと言ったらアリスちゃん泣いちゃうでしょ!”
「むぅ~……! 絶対に強くなって見返すんだから……!」
コメントに煽られて元気が出た私は、メラメラと反骨の精神を高めて燃え上がる。
そんな私を、テュテレールは静かに見守ってくれていた。
下から、三級探索者。二級、一級と上がり、一番上が特級探索者だ。
これはそのまま、足を踏み入れていい階層の深さを表してもいる。
探索者になりたての三級探索者は、上層までしか潜っちゃいけない決まりなの。
探索者免許には救難信号を送るための機能も備わってるんだけど、これを適性より奥まで持ち込むと、アラームが鳴って探索者協会に通報が行く仕組みになってる。
まあ、探索者じゃない上、そもそも無断でダンジョンに家を作った私には関係ない話だったんだけど……正式に探索者になりたかったら話は別だ。
私は最低限、すぐに二級探索者免許を取れるくらいの力を示さなきゃ、探索者にもなれない。家に帰れなくなっちゃうからね。
「つまり、上層のモンスターくらい余裕だよ。武器がバットっていうのがちょっと締まらないけど、すぐにコテンパンにしてみせるから、見ててね!」
『了解した』
夜が開けた翌朝。ぶんぶん、と軽く素振りしながら、私はテュテレールと一緒に《機械巣窟》上層部を歩く。
この辺りのモンスターは、まだギリギリ普通の銃火器も効果があるレベルの強さだ。
ダンジョンでスキルを得た探索者なら、さほど苦もなく倒せるような相手。直接戦闘向きのスキルを持たないとはいえ、十年間も中層で暮らしてきた私の敵じゃない。
そのはずなんだけど。
“ついにアリスちゃんが戦うのか……”
“怪我しないか心配”
“無理しないでね?”
さっきからずっと、コメントがこの調子である。
みんな、私を子供扱いし過ぎじゃない?
「大丈夫だってば! 見ててよ」
そうして歩いてると、奥に三体のモンスターが見えた。
大型犬くらいの大きさの、機械のバッタ。その丈夫な体と高い跳躍力を活かして体当たりしてくるモンスター、通称《機械バッタ》だ。まんまだね。
「いくよ……! やぁ~~!!」
機械バッタを見るや、私は一目散に飛び掛かる。
このモンスターは、飛び掛かるために一秒以上ぐぐっと前屈みになって力を溜めなきゃいけないから、見つけたら速攻を仕掛けるのが最適解だ。
「とりゃあ!」
確実に獲った、と思いながら、私はバットを横に振り抜き、目の前の機械バッタを吹き飛ばす。……ううん、吹き飛ばそうとした。
だけど、間合いを読み間違えた私は、盛大に空振りした。
「あれ!?」
あるはずの手応えがなかったことで、私の手からバットがすっぽ抜ける。
ぐるぐると回転しながら飛んでいったバットは、そのまま隣にいた別の機械バッタに直撃、その体を粉砕した。
その場に降りる、気まずい沈黙。コメントにも、“…………”という文が一気に流れる。
それと関係なしに動くのが、ただ人を襲うためだけに生まれてきたモンスター達だ。
私が倒そうとして、目の前で盛大に隙を晒してしまったのを好機と見た機械バッタが、私に体当たりをかまそうとして──
『危険指数上昇、排除する』
テュテレールが私の前に手を割り込ませ、それを防いでくれた。
そのままガッシリと機械バッタの体を掴んだテュテレールは、残る一体に向けてそれを投擲。二体纏めて撃破する。
『大丈夫か、アリス』
「う、うん、大丈夫……ありがとう、テュテレール……」
はい、と差し出されたバットを受け取りながら、私は羞恥に震え目を逸らす。
そんな私に構わず、配信コメントは大盛り上がりだった。
“アリスちゃんのフルスイング、思いっきり空振ったなw”
“ウケるw”
“いやー、素晴らしいコントロールのバット投げでしたねー(棒)”
“ただの金属バットで機械バッタを倒す力は凄いんだけどなぁ……w”
“やっぱりアリスちゃんに探索者はまだ早いのでは??”
「い、今のはちょっと失敗しただけだからーー!!」
流石にスルーし続けるのも限界だった私は、力の限りそう叫ぶ。
そして、改めてバットを力強く握り直した。
「次こそは大丈夫だから! 次こそは……!」
そう宣言し、私はすぐに次のモンスターを見付けて走っていく。
私のスキル、《機巧技師》があれば、この機械だらけのダンジョンでモンスターを見付けるのに苦労はない。
ただ、見付けられることとちゃんと戦えることは、全く別の問題みたい。
「やあぁ~~!」
機械バッタ以外にも、ここには色んな機械型モンスターが出没する。
ダンゴムシみたいに丸まった状態で転がってくるやつとか、蜘蛛みたいに天井や壁を這い回ってるやつとか。
そんな、多種多様な虫型機械モンスター達に、挑んで、挑んで、挑んで……。
「…………」
私は、心折れてダンジョンの隅っこに座り込んでいた。
『アリス、落ち込む必要はない。アリスの力は、破壊ではないのだから』
“そうそう、最初は誰だってこんなもんだよ”
“それになんやかんや何体か撃破はしてるしね”
拗ねた私を、テュテレールと視聴者のみんなが慰めようとする。
うん、確かにね、冷静に考えれば最初から上手く行くわけはないんだよ。
でもね、私が倒したのは三体くらいなのに、テュテレールは十体以上倒してるの。私が危なくなった時以外は手を出さないでいてくれたのに、それでも十体以上倒してるの。
つまり私、三体倒す間に十回は死んでたの。
中層でもいけるからって調子に乗ってたちょっと前の自分が恥ずかしい。
『アリスの力は、創造する力。破壊は、私の役目だ』
「うー、そうかもしれないけど、それじゃあいつまで経っても二級探索者になれないよぉ」
テュテレールは、すごく強い。だけど、肝心の私が弱いままじゃ、あまりダンジョンの奥深くへは進めないだろう。
テュテレールが許してくれないし、私だってテュテレールを盾にする前提で戦うなんて嫌だ。
どうしよう、と考えて……テュテレールの言葉に、ヒントを見出だした。
「そうだ! バットじゃダメだったなら、もっと自分に合った武器を自分で作ればいいんだ!」
“果たして武器の問題なのだろうか”
“アリスちゃんの運動神経の問題じゃないかと思うの”
“しっ! 本当のこと言ったらアリスちゃん泣いちゃうでしょ!”
「むぅ~……! 絶対に強くなって見返すんだから……!」
コメントに煽られて元気が出た私は、メラメラと反骨の精神を高めて燃え上がる。
そんな私を、テュテレールは静かに見守ってくれていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
344
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる