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第6話 ちょっとしたトラブル
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「ポワン、いっけー!」
『────』
私の指示を受けたポワンがぐぐっと力を溜め、跳び上がる……と同時に、ブースターが点火。文字通りロケットとなって突っ込んでいく。
その勢いのままポワンに体当たりされた機械バッタは、壁に叩き付けられてその機能を停止させた。
「やった! これで私もテュテレールなしで上層はやっていけるって証明出来たよ!」
『よくやった、アリス。称賛する』
「えへへへ」
“結局アリスちゃん本人は戦ってないけどそれはいいのか?”
“本人達がいいんだからいいんじゃね?”
ポワンを完成させた私は、早速上層のモンスターを相手にその性能を試し、確かな手応えを得た。
流石にポワン一体じゃまだ不安が残るけど、もう何体か同格のロボットを作ったり、私の武器をもう少し見直せば中層モンスターにだって対抗出来るはずだ。
そして……!!
「中層でモンスターを狩って回れるようになれば、堂々と探索者免許を取りに地上に行ける! 二級探索者として正規の価格で素材を売れるようになれば、配信の稼ぎくらい簡単に越えられる! はず!」
正直忘れかけてたけど、私の最終目標はそこだ。
ライセンスを取り、ダンジョンからモンスターの素材を獲って地上にもたらす探索者になり、自立する。
その稼ぎでもって、テュテレールの配信業がなくても生活出来るんだって証明しなきゃならないの!
「行くよテュテレール、私の平穏な日常のために!」
『了解』
“やっぱりロボなし縛りでやろうよアリスちゃん”
“アリスちゃんは日々の癒しなんだ!! 引退しないでくれぇ!!”
“うおぉぉぉ!! 貢げぇぇぇ!! 引退を阻止しろぉぉぉ!!”
なんかコメントが大盛り上がりしてるみたいだけど、私の心は揺らがない。
このまま素材を集めて、探索者街道を爆進してやるもんね!
「……うん?」
『どうした、アリス』
「いや、この先にモンスターがいるんだけど、どうにも変な感じが……」
上層に出没するモンスターは全部把握してるはずなんだけど、そのどれとも違う感じがする。
中層でも見ないし、テュテレールが倒してくる下層のモンスターとも違うような……?
『危険指数急上昇。アリス、伏せろ』
「え?」
私が状況を飲み込むよりも早く、テュテレールが私を庇うように前に出る。
ピカッと、眩い光が瞬いたかと思えば、膨大な熱量を持ったビームがテュテレールに襲い掛かった。
「きゃあっ!?」
『平気か、アリス?』
「う、うん、大丈夫。でも、今のって……」
私が改めて目をこらすと、通路の先に一体のモンスターがいた。
機械の体を持っているのはいつも通りだけど、その姿は上層にいるモンスター達と全然違う。
四足歩行の機械の獣。背中に載せているのは、高密度のエネルギーを収束して放つ、正真正銘のビーム兵器。
深層にしか現れないはずのモンスター、ガイオペラ。
それが、なぜか上層であるはずのここにいた。
“嘘だろ、ガイオペラ!?”
“なんで上層にいるんだよ、深層モンスターだろ!?”
“迷宮災害か!? 協会は何してるんだよ!”
“アリスちゃん逃げて!!”
これはまずいと思ったのか、にわかに緊迫感が増すコメント欄。
けれど、私は心配していなかった。
だってここには、テュテレールがいるから。
『緊急事態と判断、全武装解禁。殲滅モードに移行』
『────』
テュテレールの真っ赤なモノアイが、鮮烈な輝きを放つ。
それとほぼ同時に、ガイオペラは素早い動きでこっちに向かって突撃しながら、背負った砲塔からビームを何度も放つけど……それに対して、テュテレールはただ真っ直ぐ掌を掲げた。
『排除する』
テュテレールの掌から放たれる、ガイオペラよりずっと強大なビームの輝き。
それがガイオペラの放ったビームをいともあっさり飲み込んで、上層の通路を埋め尽くす。
どれだけ速く動いても、こんなに狭い場所じゃあ回避しようがない。あっさりとビームの直撃を受けたガイオペラは、その外装を大きく損傷させながら吹き飛び、機能を停止させた。
『任務完了、警護モードに移行』
「お疲れ様、テュテレール。怪我はない? 大丈夫?」
『損傷軽微、活動に支障はないと判断する』
「もう、軽微ってことはちょっとはダメージがあったってことでしょ。今日はもうおしまいにするから、早く戻って修理するよ」
ほら、とテュテレールを促し、ポワンも連れて帰路に着く。もちろん、修理の材料に使うため、壊れたガイオペラは回収して。
そこでようやく、静かになっていたコメント欄が騒ぎ始めた。
“いや待てーーーい!!”
“一撃!? 深層モンスターが!?”
“テュテレール強すぎワロタ”
“ガイオペラって特級探索者でも油断したら即死するって言われてるはずなんだけど……えぇ……”
“テュテレールが探索者になれたら配信の稼ぎとか秒で越えそう”
“深層モンスター乱獲したら億万長者待ったなしだもんな”
『油断したら破壊されるのは、私も同じだ。故に、深層に潜るのはリスクが高すぎると判断する』
テュテレール曰く、深層は今のガイオペラみたいなモンスターがそれはもううじゃうじゃいて、気付いたら囲まれてるなんてことも珍しくないんだって。
一対一ならともかく、多対一だと勝てる見込みが薄いから、深層にはもう行かないって前に言ってた。
“いやあ、それでも凄すぎるわ”
“アリスちゃん、普通に色んなとこからスカウト来そう”
“テュテレールと同格のロボットが一体いるだけでも全然違うしな”
「あはは、私はテュテレールを強化したりは出来るけど、一から造ることは出来ないよ。テュテレールのコアモジュールを造ったのは、ダンジョンでも私でもなくて、お母さんだから」
ダンジョンの恩恵でスキルを得て、色んな機械を弄れるようになった今でも、私はまだお母さんには及ばない。
他ならぬテュテレールを毎日メンテナンスしてる私だから、余計にそう思う。
“そういうもんなのか”
“スキルを持ってるアリスちゃんより上って、どんだけ天才だったんだよアリスちゃんママ”
“まあロボットのことは門外漢だしよくわからん”
“どっちにしろ、アリスちゃんが無事でよかったよかった”
「えへへ、みんなもありがとう」
本気で心配してくれたみんなの言葉に、心が温かくなる。
……配信なんて、恥ずかしいばっかりだと思ってたけど、ちょっとくらいは悪くないかもって、そう思った。
『────』
私の指示を受けたポワンがぐぐっと力を溜め、跳び上がる……と同時に、ブースターが点火。文字通りロケットとなって突っ込んでいく。
その勢いのままポワンに体当たりされた機械バッタは、壁に叩き付けられてその機能を停止させた。
「やった! これで私もテュテレールなしで上層はやっていけるって証明出来たよ!」
『よくやった、アリス。称賛する』
「えへへへ」
“結局アリスちゃん本人は戦ってないけどそれはいいのか?”
“本人達がいいんだからいいんじゃね?”
ポワンを完成させた私は、早速上層のモンスターを相手にその性能を試し、確かな手応えを得た。
流石にポワン一体じゃまだ不安が残るけど、もう何体か同格のロボットを作ったり、私の武器をもう少し見直せば中層モンスターにだって対抗出来るはずだ。
そして……!!
「中層でモンスターを狩って回れるようになれば、堂々と探索者免許を取りに地上に行ける! 二級探索者として正規の価格で素材を売れるようになれば、配信の稼ぎくらい簡単に越えられる! はず!」
正直忘れかけてたけど、私の最終目標はそこだ。
ライセンスを取り、ダンジョンからモンスターの素材を獲って地上にもたらす探索者になり、自立する。
その稼ぎでもって、テュテレールの配信業がなくても生活出来るんだって証明しなきゃならないの!
「行くよテュテレール、私の平穏な日常のために!」
『了解』
“やっぱりロボなし縛りでやろうよアリスちゃん”
“アリスちゃんは日々の癒しなんだ!! 引退しないでくれぇ!!”
“うおぉぉぉ!! 貢げぇぇぇ!! 引退を阻止しろぉぉぉ!!”
なんかコメントが大盛り上がりしてるみたいだけど、私の心は揺らがない。
このまま素材を集めて、探索者街道を爆進してやるもんね!
「……うん?」
『どうした、アリス』
「いや、この先にモンスターがいるんだけど、どうにも変な感じが……」
上層に出没するモンスターは全部把握してるはずなんだけど、そのどれとも違う感じがする。
中層でも見ないし、テュテレールが倒してくる下層のモンスターとも違うような……?
『危険指数急上昇。アリス、伏せろ』
「え?」
私が状況を飲み込むよりも早く、テュテレールが私を庇うように前に出る。
ピカッと、眩い光が瞬いたかと思えば、膨大な熱量を持ったビームがテュテレールに襲い掛かった。
「きゃあっ!?」
『平気か、アリス?』
「う、うん、大丈夫。でも、今のって……」
私が改めて目をこらすと、通路の先に一体のモンスターがいた。
機械の体を持っているのはいつも通りだけど、その姿は上層にいるモンスター達と全然違う。
四足歩行の機械の獣。背中に載せているのは、高密度のエネルギーを収束して放つ、正真正銘のビーム兵器。
深層にしか現れないはずのモンスター、ガイオペラ。
それが、なぜか上層であるはずのここにいた。
“嘘だろ、ガイオペラ!?”
“なんで上層にいるんだよ、深層モンスターだろ!?”
“迷宮災害か!? 協会は何してるんだよ!”
“アリスちゃん逃げて!!”
これはまずいと思ったのか、にわかに緊迫感が増すコメント欄。
けれど、私は心配していなかった。
だってここには、テュテレールがいるから。
『緊急事態と判断、全武装解禁。殲滅モードに移行』
『────』
テュテレールの真っ赤なモノアイが、鮮烈な輝きを放つ。
それとほぼ同時に、ガイオペラは素早い動きでこっちに向かって突撃しながら、背負った砲塔からビームを何度も放つけど……それに対して、テュテレールはただ真っ直ぐ掌を掲げた。
『排除する』
テュテレールの掌から放たれる、ガイオペラよりずっと強大なビームの輝き。
それがガイオペラの放ったビームをいともあっさり飲み込んで、上層の通路を埋め尽くす。
どれだけ速く動いても、こんなに狭い場所じゃあ回避しようがない。あっさりとビームの直撃を受けたガイオペラは、その外装を大きく損傷させながら吹き飛び、機能を停止させた。
『任務完了、警護モードに移行』
「お疲れ様、テュテレール。怪我はない? 大丈夫?」
『損傷軽微、活動に支障はないと判断する』
「もう、軽微ってことはちょっとはダメージがあったってことでしょ。今日はもうおしまいにするから、早く戻って修理するよ」
ほら、とテュテレールを促し、ポワンも連れて帰路に着く。もちろん、修理の材料に使うため、壊れたガイオペラは回収して。
そこでようやく、静かになっていたコメント欄が騒ぎ始めた。
“いや待てーーーい!!”
“一撃!? 深層モンスターが!?”
“テュテレール強すぎワロタ”
“ガイオペラって特級探索者でも油断したら即死するって言われてるはずなんだけど……えぇ……”
“テュテレールが探索者になれたら配信の稼ぎとか秒で越えそう”
“深層モンスター乱獲したら億万長者待ったなしだもんな”
『油断したら破壊されるのは、私も同じだ。故に、深層に潜るのはリスクが高すぎると判断する』
テュテレール曰く、深層は今のガイオペラみたいなモンスターがそれはもううじゃうじゃいて、気付いたら囲まれてるなんてことも珍しくないんだって。
一対一ならともかく、多対一だと勝てる見込みが薄いから、深層にはもう行かないって前に言ってた。
“いやあ、それでも凄すぎるわ”
“アリスちゃん、普通に色んなとこからスカウト来そう”
“テュテレールと同格のロボットが一体いるだけでも全然違うしな”
「あはは、私はテュテレールを強化したりは出来るけど、一から造ることは出来ないよ。テュテレールのコアモジュールを造ったのは、ダンジョンでも私でもなくて、お母さんだから」
ダンジョンの恩恵でスキルを得て、色んな機械を弄れるようになった今でも、私はまだお母さんには及ばない。
他ならぬテュテレールを毎日メンテナンスしてる私だから、余計にそう思う。
“そういうもんなのか”
“スキルを持ってるアリスちゃんより上って、どんだけ天才だったんだよアリスちゃんママ”
“まあロボットのことは門外漢だしよくわからん”
“どっちにしろ、アリスちゃんが無事でよかったよかった”
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本気で心配してくれたみんなの言葉に、心が温かくなる。
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