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第24話 超級の責務 4/4
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迷宮災害の鎮圧が確認され、信護やテュテレールを始めとした探索者達は地上に戻った。
そんな彼らをいの一番に出迎えたのは、今回の影の功労者であるアリスだった。
「テュテレール! 皆さんも、無事で良かったぁ」
満面の笑顔で駆け寄ってきた少女が、テュテレールに受け止められる。
その微笑ましい光景に、誰もが頬を緩めた。
「天宮アリス、改めて、協力感謝する。君やそのロボット達の協力がなければ、今回の災害は乗り越えられなかっただろう」
それは、嘘偽らざる信護の本心だった。
テュテレールがいたからこそ、四つあるルートの内二つに探索者達の戦力を集中し、余裕を持った戦いを繰り広げることが出来た。
謎のモンスターの出現という不測の事態に、アリスが素早く状況を取り纏めてチームを再編成してくれたからこそ、大きな混乱もなくピンチを切り抜けられた。
そして何より……あの謎のモンスターは、テュテレールの力が無ければとても撃破することは叶わなかっただろう。
下手をすれば、あのまま他のモンスターを吸収し続け、恐るべき脅威となって北海道の地を蹂躙していたかもしれない。
それを防ぎ止め、あまつさえ一人の犠牲もなかったのは、間違いなくアリス達のお陰だった。
「えへへ、ありがとうございます! でも、私とテュテレールだけだったとしても、あのモンスター達を押さえ込むのは無理だったと思います。だから、これはみんなの勝利です! お疲れ様でした!」
「……そうか、君にそう言って貰えると嬉しい」
アリスの無邪気な笑顔を見ていると、なんだか悩みも苦労も全てが洗い流されていくような、そんな不思議な気分を信護は味わった。
その感情の正体を確かめようとしているうちに、アリスは更に声を張り上げる。
「菜乃花さん達が、頑張った皆さんへのご褒美だって、祝勝会の用意をしてくれています! 食べ物も飲み物もたっくさんあるので、皆さん楽しみにしていてください!」
「「「うおぉぉぉぉ!!」」」
“いいなー”
“俺らも参加してー”
“ひでえ飯テロの予感がするw”
アリスの言葉に歓声が上がり、いつの間にか近くにいたDチューブのドローンが、配信コメントを表示している。
あれほどの死闘の後とは思えないほど、平和で、賑やかで、楽しげな光景。
その中心にはアリスがいて、傍にはテュテレールが控えていた。
「あっ!! テュテレール、エネルギー回路が焼き付いちゃってる!」
『ポワンとの合体によって得られる出力に、本体強度が追い付かなかったと推測される。修理すれば問題はない』
「うー、そっかぁ、帰ったらそれも強化しなきゃだね。大丈夫、まだ売ってない素材はたっくさんあるから」
『────』
「あはは、分かってるよ、ポワンのこともちゃんと直してあげるから、心配しないで。とりあえず、応急修理だけでもこの場で済ませちゃおう」
『アリス、私もポワンも、通常の活動に影響はない。せっかくの祝勝会だ、先に楽しんで来てはどうか』
「ダメ! いつまでも痛いのを放っておいたら嫌でしょ? すぐ終わるから、二人ともじっとしてて」
ドライバーらしきものを取り出し、いそいそと修理を始めるアリス。
そんなアリスの足元でポワンが大人しく身を差し出し、テュテレールは仕方ないなと言いたげに破損した腕を差し出していた。
その姿は、まるで訓練で負った小さな傷を見て騒ぐ子供に対し、大袈裟だなと笑う父のようで──その背中に、信護は思い出の中の光景を幻視した。
「……それが、君の守りたかったものか」
ほとんど、独り言のような呟きだった。
しかし、それをしっかりと聞き取ったらしいテュテレールが、信護の方に顔を向ける。
『そうだ。可愛いだろう?』
「くっ、ははは……! そうだな。とても、可愛らしい」
表情のない無機質な機械であるはずのテュテレールが、アリスを自慢するその瞬間だけ、不思議と得意げに、微笑んで見えた。
それが可笑しくて、信護は笑う。
同時に、そんな二人を見て気付かされた。
自分がずっと探していた、守るべきものを。
(そうか、父さんは……この光景を、守ろうとしていたんだな)
アリスは、信護にとっては今日出会ったばかりの、見知らぬ他人だ。
しかし、こうして誰かに愛され、笑顔を見せる幸せそうなその姿は、何物にも替えがたいほどに尊い。
そして、それは何も、彼女だけに限ったことでもないのだろう。
今この時も、この町のどこかで誰かが笑い、大切な誰かと共に時を過ごしている。
父が守ろうとしていたのは、そんな“誰か”の尊い日常だったのだろうと、頭ではなく心で理解した。
「なあ、君の名前を教えて貰ってもいいだろうか?」
テュテレールの名前は、聞かずとも分かっている。
そこにいるアリスが、事あるごとに呼んでいるのだから、覚えるなという方が無理だ。
しかし、信護はあくまで、本人からその名を聞きたいと思った。
たった今感じた想いを、胸に刻み付けるために。
『──我が名は、守護者。アリスと、アリスの笑顔を守る者だ』
「そうか。守護者……君に相応しい名だな」
そう言って、信護は手を伸ばした。
たとえ人でなかろうと関係ない、一人の友として。
「俺は氷室信護。人々の命と、この地の安寧を守る者だ。改めて、よろしく頼む」
『ああ、よろしく頼む』
全てが終わり、より一層深まる男同士の友情。
その狭間で、ただ一人状況の変化について行けなかったアリスが、不満そうに頬を膨らませるのだった。
そんな彼らをいの一番に出迎えたのは、今回の影の功労者であるアリスだった。
「テュテレール! 皆さんも、無事で良かったぁ」
満面の笑顔で駆け寄ってきた少女が、テュテレールに受け止められる。
その微笑ましい光景に、誰もが頬を緩めた。
「天宮アリス、改めて、協力感謝する。君やそのロボット達の協力がなければ、今回の災害は乗り越えられなかっただろう」
それは、嘘偽らざる信護の本心だった。
テュテレールがいたからこそ、四つあるルートの内二つに探索者達の戦力を集中し、余裕を持った戦いを繰り広げることが出来た。
謎のモンスターの出現という不測の事態に、アリスが素早く状況を取り纏めてチームを再編成してくれたからこそ、大きな混乱もなくピンチを切り抜けられた。
そして何より……あの謎のモンスターは、テュテレールの力が無ければとても撃破することは叶わなかっただろう。
下手をすれば、あのまま他のモンスターを吸収し続け、恐るべき脅威となって北海道の地を蹂躙していたかもしれない。
それを防ぎ止め、あまつさえ一人の犠牲もなかったのは、間違いなくアリス達のお陰だった。
「えへへ、ありがとうございます! でも、私とテュテレールだけだったとしても、あのモンスター達を押さえ込むのは無理だったと思います。だから、これはみんなの勝利です! お疲れ様でした!」
「……そうか、君にそう言って貰えると嬉しい」
アリスの無邪気な笑顔を見ていると、なんだか悩みも苦労も全てが洗い流されていくような、そんな不思議な気分を信護は味わった。
その感情の正体を確かめようとしているうちに、アリスは更に声を張り上げる。
「菜乃花さん達が、頑張った皆さんへのご褒美だって、祝勝会の用意をしてくれています! 食べ物も飲み物もたっくさんあるので、皆さん楽しみにしていてください!」
「「「うおぉぉぉぉ!!」」」
“いいなー”
“俺らも参加してー”
“ひでえ飯テロの予感がするw”
アリスの言葉に歓声が上がり、いつの間にか近くにいたDチューブのドローンが、配信コメントを表示している。
あれほどの死闘の後とは思えないほど、平和で、賑やかで、楽しげな光景。
その中心にはアリスがいて、傍にはテュテレールが控えていた。
「あっ!! テュテレール、エネルギー回路が焼き付いちゃってる!」
『ポワンとの合体によって得られる出力に、本体強度が追い付かなかったと推測される。修理すれば問題はない』
「うー、そっかぁ、帰ったらそれも強化しなきゃだね。大丈夫、まだ売ってない素材はたっくさんあるから」
『────』
「あはは、分かってるよ、ポワンのこともちゃんと直してあげるから、心配しないで。とりあえず、応急修理だけでもこの場で済ませちゃおう」
『アリス、私もポワンも、通常の活動に影響はない。せっかくの祝勝会だ、先に楽しんで来てはどうか』
「ダメ! いつまでも痛いのを放っておいたら嫌でしょ? すぐ終わるから、二人ともじっとしてて」
ドライバーらしきものを取り出し、いそいそと修理を始めるアリス。
そんなアリスの足元でポワンが大人しく身を差し出し、テュテレールは仕方ないなと言いたげに破損した腕を差し出していた。
その姿は、まるで訓練で負った小さな傷を見て騒ぐ子供に対し、大袈裟だなと笑う父のようで──その背中に、信護は思い出の中の光景を幻視した。
「……それが、君の守りたかったものか」
ほとんど、独り言のような呟きだった。
しかし、それをしっかりと聞き取ったらしいテュテレールが、信護の方に顔を向ける。
『そうだ。可愛いだろう?』
「くっ、ははは……! そうだな。とても、可愛らしい」
表情のない無機質な機械であるはずのテュテレールが、アリスを自慢するその瞬間だけ、不思議と得意げに、微笑んで見えた。
それが可笑しくて、信護は笑う。
同時に、そんな二人を見て気付かされた。
自分がずっと探していた、守るべきものを。
(そうか、父さんは……この光景を、守ろうとしていたんだな)
アリスは、信護にとっては今日出会ったばかりの、見知らぬ他人だ。
しかし、こうして誰かに愛され、笑顔を見せる幸せそうなその姿は、何物にも替えがたいほどに尊い。
そして、それは何も、彼女だけに限ったことでもないのだろう。
今この時も、この町のどこかで誰かが笑い、大切な誰かと共に時を過ごしている。
父が守ろうとしていたのは、そんな“誰か”の尊い日常だったのだろうと、頭ではなく心で理解した。
「なあ、君の名前を教えて貰ってもいいだろうか?」
テュテレールの名前は、聞かずとも分かっている。
そこにいるアリスが、事あるごとに呼んでいるのだから、覚えるなという方が無理だ。
しかし、信護はあくまで、本人からその名を聞きたいと思った。
たった今感じた想いを、胸に刻み付けるために。
『──我が名は、守護者。アリスと、アリスの笑顔を守る者だ』
「そうか。守護者……君に相応しい名だな」
そう言って、信護は手を伸ばした。
たとえ人でなかろうと関係ない、一人の友として。
「俺は氷室信護。人々の命と、この地の安寧を守る者だ。改めて、よろしく頼む」
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