ダンジョン孤児の配信生活~探索者でもないのに知らないうちに全国配信されて有名人になっていました~

ジャジャ丸

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第25話 祝勝会

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「うわぁ~、これが北海道の料理ですか!?」

「うん、ジンギスカンっていうの。後は蟹鍋とー、海鮮丼とー、他にもたっくさんあるよ!」

「ふわわぁ~! いただきます!」

 北海道のダンジョン、《絶氷城》の災害鎮圧成功。
 その勝利を祝して、菜乃花さんや歩実さん、他にも探索者協会の手が空いている人が作ってくれた、ごちそうの数々。

 テュテレールとポワンの応急修理を終えた私は、そんな料理を前にして、もう涎が止まらなかった。

 用意された箸を握り、ジンギスカン? にぶすっと刺して口へと運ぶ。

「んふぅ~~! おいしぃ~~!」

 今まで食べたことのない、変わった味のお肉。だけど、口の中でタレの旨味がじゅわーっと広がって……最高!

"あ~~この圧倒的な飯テロよ"
"ジンギスカン喰いたくなってきた"
"アリスちゃんが食べてるこの光景だけであまりの尊さに胸がいっぱいです"
"いつもの"

 すぐ近くでテュテレールが配信しているからか、流れるコメントを投影してくれてるんだけど……もう、目の前の料理の美味しさを知ってしまった今、それどころじゃない。

 一つでも多く味わってやろうと、もう一度箸を伸ばそうとして……思わぬ人物から声がかけられた。

「おい、天宮」

「……? あ、信護さん!」

 普段名前で呼ばれているから、自分のことだと思わなくて咄嗟に反応出来なかった。
 そんな私に、信護さんはどこか呆れの眼差しを向けている。

「なんだ、その箸の持ち方は。幼児ではないんだ、それくらいしっかりしないと駄目だろう」

「ふえ!?」

 まさかの説教に、私は助けを求めてテュテレールを見る。
 けれど、そんな私の視線にテュテレールが応えてくれるより早く、信護さんの矛先がテュテレールにまで及んだ。

「テュテレール、君も君だ。こういうことは君がきちんと教えてやれ」

『……この手では、そういったことを教えるのは困難だ』

「嘘を吐け。この子が可愛いからと、あまり厳しく教えられなかったんだろう。うちの父さんと同じだ」

『…………』

 テュテレールが、信護さんに言い負かされてる!?
 どうしよう、と更に視線を巡らせれば、今度は茜お姉ちゃんと目が合った。

「アリスちゃん、だからダンジョンでもフォークしか使ってなかったのね。今度からは、サンドバッグを叩く練習の前に箸の持ち方を練習しようか?」

「そんなー!?」

 私、探索者になって、今度こそお姉ちゃんや信護さんみたいに戦いたいのに! むしろどんどん目標から遠ざかっていくんだけど!?

"つまり次の配信はアリスちゃんのお箸の持ち方講座か"
"箸用意して参考にするわ"
"楽しみにしてる"

「楽しみにしないでよ!! これ、ダンジョン配信用のチャンネルなんだよね!?」

 Dチューブって、あくまでダンジョンにおける戦闘とか、探索とか、そういったものを配信して見て貰うためのコンテンツのはずなのに、私だけ箸の持ち方を教えられてるところを期待されるっておかしくない!?

"だってアリスちゃんだしな……"
"まあテュテレールの無双も楽しみではある"
"俺はアリスちゃんの可愛いが摂取出来ればそれでいい"

「むぅぅ~~!!」

 誰一人として私の活躍に期待してない!!
 ふん、いいもんね、いつか絶対に強くなって、みんなをあっと言わせてやるんだから!

「天宮。配信の内容のことはどうでもいいが、今は箸の持ち方の件だ。テュテレールは随分と君を甘やかしていたようだが、こうして俺の前で食事をする以上は、しっかりとした持ち方を指導させて貰う」

「いやーーー!!」

 まずい、まずいよ、このままじゃ私、ご飯を全く食べられないまま餓死しちゃう!

 えっ、ちゃんとした持ち方で食べればいいんじゃないかって?
 出来ないから言ってるの!! だってぐーで握るのが一番持ちやすいんだもん!!

「あははは、なんだか大変なことになってるね、アリスちゃん」

「笑いごとじゃないですよ、菜乃花さん~!」

 死活問題です! と憤慨していると、菜乃花さんは自分の箸でお肉をつかみ、私の口に持ってきてくれた。はむっ。

「箸の持ち方なんて気にしなくても、アリスちゃんならこうやって食べさせて貰うって手もあるよ。可愛いし」

「甘やかすな、暮星」

「信護こそ、自分の子供でもないのに指導はやり過ぎだって。そんなんだから、顔はイケメンなのにモテないんだよ?」

「……余計なお世話だ」

"絶壁、モテないんだ……"
"まあ、尊敬は出来ても恋人にはちょっとってタイプだよな"
"毎日顔を突き合わせると流石に息苦しそうw"

「…………」

 容赦ない視聴者コメントに、信護さんがこめかみに青筋を浮かべてる。
 まずい、話題を変えないと。

「そ、そういえば、菜乃花さんと信護さんって仲良いんですね」

「うーん、仲良しっていうか、ライセンスを取った時期が近いからね。その時は最寄りのダンジョンが同じだったから、顔見知りになれたって感じ」

「そうだな。その時はまさか、暮星が協会の番犬になるとは思わなかったが」

「それはウチもだよ。まあ、今はアリスちゃんの番犬だけどねー?」

「わわっ」

 菜乃花さんが私の体を抱き締めて、テュテレールに──正確には、その先にいる視聴者に向けてピースサインを送る。
 "取締局員の番犬とか最強過ぎるw"なんてコメントが流れていくのを眺めていると、不意に菜乃花さんの体が私から引き剥がされた。

「菜乃花~? 人に働かせておいて、自分だけアリスちゃんを独り占めだなんてズルくないですか~?」

「いや~、ごめんって歩実。ほら、選手交代していいから、機嫌直して?」

「そういう問題じゃないんですが~」

 振り返ると、そこにいたのは歩実さんだった。
 祝勝会が始まってから姿が見えなかったけど、何をしてたんだろう?
 そんな私の疑問を察したのか、歩実さんが口を開く。

「帰り支度を済ませていました~。祝勝会が終わり次第、アリスちゃんも連れて東京に帰りますよ~」

「えっ、もう帰るんですか?」

「はい~、報告もありますからね~」

 どうやら、もう決定事項らしい。
 何なら、菜乃花さんも「せっかくならアリスちゃんをもう少し観光させてあげたかったのに~」とか言ってるけど、あまり強くは反対しなかった。

「そうか……もう数日くらいはゆっくりしていくと思っていたんだが、随分と忙しないな」

「ウチらの立場は少し特殊だからね、色々とあるのよ」

「だろうな。……天宮、そしてテュテレール。こんなご時世だ、次に会えるのがいつになるかも分からないが、俺は今回受けた恩を忘れない。何かあれば、すぐに呼んでくれ。必ず駆け付けよう」

「はい、ありがとうございます、信護さん!」

『感謝する。また会おう』

 そんな私達の別れの挨拶に釣られてか、他の探索者の人達も次々と集まってきて、茜お姉ちゃんも含めた私達に、口々にお礼を言って、別れを惜しんでくれた。

 私に出来たことは、まだほとんどなかったけど……やっぱり、探索者っていいなって、そう思った。
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